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当ホームページは早稲田大学社会科学部の専門演習「政策科学研究」ゼミに所属する三星孝太の研究論文発表用の場所です


研究内容について

テーマ 日本のものづくり産業の根幹である中小企業を支援する政策の必要性を考える

ケース 中小企業に対する公的支援政策の具体的な動きについて


目次

序章 :研究動機

第1章:戦後経済においての、わが国の中小企業の歴史

第2章:戦後経済から見るわが国の中小企業支援政策と、その問題点

第3章:海外事例を参考にした、中小企業支援政策の新しい動き

第4章:現在の公的支援政策、及びその課題

第5章:政策提言


序章 −研究動機−

【私の「中小企業」及び「政策」との出会い】

私はちょうど日本経済がバブル景気から平成不況という状況にいたる時期に子ども時代をすごしたが、この頃の私は新聞やテレビの報道で「不況」という字列を見聞きはしても、その実情についてまで考えることはなかった。そんな私も大学生になり世の中の仕組みを知るようになると、やがて自身が飛び込まねばならない経済社会に興味を持つようになった。日本の経済社会を構成するファクターは多種多様であり、その全ての関連性を学生時代に理解することは到底不可能である。しかし自分が経験しうる範囲においてでの経済のしくみを知ることはできる。このような考えから、私は学生時代に研究する機会があるならば経済社会の分野で何かをやってみたいと思っていた。

そんな折に私は、偶然にも中小企業をクライアント対象とした経営コンサルタントを業務とするアルバイトに従事する事になった。その業務内容の一環でクライアントである中小企業と打ち合わせをするのだが、そこでは中小企業の現状や実態の「生の声」を聞く事ができ非常におもしろいと思った。ならばもっと自分で調べてみようと思い中小企業について調べたところ、私が今までいかに日本の産業構造について無知であったかを思い知らされることとなった。詳しいデータなどは第1章に後述するが、中小企業は日本の産業社会のそのほとんどを占め、所得と雇用と技術の大部分を支えているという「なくてはならない存在」であるということを知ったのである。それなのに多数の中小企業が長期不況の中で疲弊し、倒産の危機に直面している。日本の経済・産業のほとんどを下支えしている中小企業の崩壊は、日本の経済・産業の存続に関わる事態であると私は思った。そして同時に日本政府が中小企業の崩壊を抑止すべく、様々な政策を打ち出してきたことも知った。

【なぜ中小企業公的支援政策を研究対象とするのか】

これもアルバイトでの体験になるが、クライアントである中小企業の社長と打ち合わせをする際によく耳にしたのが「融資を受けられるか?」という質問であった。資金力が無く経営体力の無い中小企業は、資金繰りに余裕が無いため、資金調達の可否は企業存続に関わる重要事項である。もちろん日本政府は、こういった中小企業の資金調達を支援するための政策を昔から多数講じてきた。その支援の歴史は日本産業構造の歴史に関わっており、そして現在、このような公的支援政策は新しい局面を迎えている。私はこの新しい局面とは、まさに日本の中小企業の立場の変化と密接に関わっていると感じており、そして今後の中小企業のあり方を左右することになると思っている。今回の研究で公的支援政策の今昔を明らかにし、そして今後の支援政策のあるべき姿を検証し、提言することを目的としたい。


第1章
戦後経済においての、わが国の中小企業の歴史

【中小企業の定義】

中小企業基本法では、第二条において中小企業者の範囲を次のように定義しており、本論文においても中小企業の定義は以下のものを適用する。詳細は以下のとおりである。

  1. 資本の額又は出資の総額が3億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人で、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種を除く)に属する事業を主たる事業として営むもの。
  2. 資本の額又は出資の総額が1億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人で、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの。
  3. 資本の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人で、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの。
  4. 資本の額又は出資の総額が5000万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人であって、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの。
  5. また、第二条五項で、おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人)以下の事業者。

【中小企業の規模と状況】

わが国には非常に多くの企業が存在し、様々な種類・規模の企業が存在している。その内の99.7%が中小企業とされている。また従業員規模の統計でその内訳を見ると、わが国の企業の約80%が従業員100名未満の小規模企業である事がわかる。さらに中小企業の比率は戦後からあまり変化しておらず大部分を占め続けており、日本の産業・雇用を支える役割が大きい事がわかる。

※産業別民営企業数からみる中小企業の割合
中小企業の規模に関わるデータ 資料:総務省「事業所企業統計調査」

中小企業の規模の変遷グラフ
中小企業庁「産地概況調査」

その数の多さから、日本の経済・産業・雇用を支えている中小企業であるが、日本全土を覆った平成不況の影響を受けて倒産するケースが増えた。2004年にようやく倒産件数が減少したとは言え、日本の企業数は過去10年間で減少傾向が続いている。その倒産件数のうちの99%は中小企業である。

中小企業倒産に関わるデータ
資料:東京商工リサーチ「全国企業倒産白書」

【旧来の中小企業の立場と性質】

中小企業が倒産しやすい原因として挙げられるのが、日本旧来の産業構造における中小企業の立場に原因があると考えられる。日本の産業構造は大企業を頂点にし、その下請として多数の中小零細企業が存在しているという「垂直型産業組織(ピラミッド型)」が中心であった。

※下請中小企業の推移※
下請中企業比率

パワポのピラミッド図

この上意下達組織とも言える垂直型産業組織構造は、下請の中小企業が、頂点である大企業の業績や経営戦略に影響される性格が強い。そのため頂点の企業が倒産した場合、経営資源に乏しい中小企業は一緒に倒産してしまうというケースが多い。
第3章にて詳しく述べるが、現在の産業構造はグローバル化が進行している。大企業は下請構造を、労働力の安い海外へと移転する動きが当たり前となっている。グローバル化の流れから脱落してしまい、大企業依存経営から脱却できなかった中小企業は、真っ先に倒産してしまい、淘汰される時代であると言える。

なにも中小企業の倒産は今に始まった話ではない。経済・産業というものは政治方針や国際情勢の影響を非常に受けるものであり、これらの影響によって景気がよくなる企業もあれば、逆に倒産してしまう企業もある。また下請企業としての性格が強い日本の中小企業は、大企業が倒産してしまった場合に、なし崩し的に倒産してしまうケースもあった。
企業の倒産によって自国の産業が衰退する事態を政府が傍観するはずがなく、中小企業を支援するために日本政府は数多くの支援政策を打ち出してきた。次の第2章では、戦後の日本経済の流れと中小企業との関わり、そして日本政府がどのような政策を行ってきたかを紹介し、中小企業がどうして現在のような大幅減少傾向に陥ったかを検証する。


第2章
戦後経済から見るわが国の中小企業支援政策と、その問題点

【戦後の日本経済の流れと、中小企業への支援政策】

先の敗戦後、日本の産業・経済は荒廃した状態で、ゼロからの建て直しが必要であった。GHQ占領下の元、まず中小企業の設立を公的金融面から手助けする体制を整えるための政策を数多く打ち出し、中小企業の興隆を図ろうとした。
そして「傾斜生産方式の導入」と「特需景気」によりわが国の産業が一定の回復を見せた。このとき世界情勢は東西冷戦が深刻化しており、日本の国際復帰が急がれていた。日本はアメリカの保護体制の下で国際復帰をはたし、国際的に保護・監視を受けながら産業を成長させていくことになる。
以降、中小企業への具体的金融支援は民間金融機関をはじめとした金融機関の手によって行われ(メインバンク制の定着)、国の政策はこれらの金融機関が融資を行うためのルール作りが中心になる。

中小企業関連施策日本経済・社会の動き
1946中小企業対策委員会を設置
商工協同組合法
経済安定本部令
日本国憲法
傾斜生産方式の導入
1947復興金融公庫設立制限付き民間貿易の再開
1948中小企業庁設置GHQ経済安定9原則を発表
1949国民金融公庫法
中小企業協同組合法
ドッジラインを発表
1ドル=360円で民間貿易の再開
1950都市銀行が中小金融特別店舗を設置
商工会議所法
中小企業信用保険法
朝鮮戦争勃発
特需景気
1951相互銀行法
信用金庫法
サンフランシスコ講和条約
1953中小企業金融公庫設立
1954利息制限法神武景気

傾斜生産方式が一定の成功をむすび、日本全国の地域には産業城下町型の産業形態が構築されるようになった。これは一つの産業を中心に企業間の取引構造が構築されることで地域の雇用が活性化し人口が増え、やがて商店街が構築されて「大きな城下町」ができるというものである。一つの産業を中心とした産業構造は、のちに「垂直型産業組織(ピラミッド型)」へと発展し、大企業下請産業構造に発展していく。
このように日本中の地域に産業城下町ができたことで、日本中に中小企業が興隆するようになった。よって日本の政策は、日本全国にわたる中小企業設立のための補助制度やルールを整備する方針が中心であった。この時期から、地方に税金を積極的に投入する動きを見せ始めたとも言える。

1955GATT加盟
経済自立5カ年計画
1956中小企業振興資金助成法
下請代金支払遅延等防止法
国連に加盟
なべ底不況
1958中小企業信用保険公庫設立岩戸景気
1960中小企業業種別振興臨時措置法国民所得倍増計画を発表
1961中小企業振興資金等助成法
産炭地域振興臨時措置法
転型不況
1962中小企業団体法改正(カルテルの容認)
商店街振興組合法
オリンピック景気
1963中小企業近代化促進法
中小企業近代化資金助成法
中小企業基本法

この頃の日本経済は国際競争から庇護されており、「作れば売れる」という競争とかけ離れた成長を見せるようになる。またこの頃から地方の中小企業による下請産業構造が発展するようになる。
政府の方針は、地方への公的資金(公共事業)の連続投入というものが中心となり、国内でも競争とかけ離れた成長が起こる様子を見せるようになった。

1964OECDに加盟
40年不況
1965小規模企業共済法いざなぎ景気
戦後初の赤字国債の発行
1970下請中小企業振興法日本が世界GNP2位に躍進
公害問題が深刻化
1971ニクソンショック
1ドル=308円へ
1972日米繊維政府間協定日本列島改造論を発表
列島改造景気

変動相場制への完全移行により、この頃から日本は国際競争の荒波に巻き込まれることになる。ちょうどオイルショックの発生も重なり、日本産業は急激な成長を見込む事が難しくなった。政府は列島改造に引き続き公的事業を地方に投入し続ける事で、連続的な成長を促す政策を採るようになった。
オイルショック、円高不況を乗り越えるために日銀がとった金融緩和政策は、日本にバブル経済をもたらし、株や土地の経済資産価格がファンダメンタル(経済の基礎的条件)より決まる価値以上に、期待で膨れ上がった。株や土地の価格上昇は中小企業の放漫経営をもたらし、メインバンクも過剰融資を行った。

1973中小企業基本法改正(範囲を拡大)変動相場制に移行
第1次オイルショック
1974緊急中小企業金融対策の閣議決定
1977中小企業倒産防止共済法
1978中小企業円高緊急対策の閣議決定第2次オイルショック
1985労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律円高不況

1990土地関連融資の総量規制バブル崩壊
1997北海道拓殖銀行破綻
1998早期是正処置の運用開始
新規事業創出促進法
中小市街地活性化法
1999中小企業経営革新支援法

【バブル崩壊後、浮き彫りになった問題点】

戦後の日本の中小企業支援政策は、具体的な支援については金融機関(メインバンク)に丸投げ状態であり、税金の使い方はと言うと公的資金を地方に投入し続ける事で地方の発展を維持し続けるものであった。メインバンクは融資先が本来の地力以上に成長を続けていたため、何の信頼の疑いも無く過剰融資を続け、バブル崩壊と共に莫大な不良債権を抱える事態になった。

パワポの図を挿入

1998年の早期是正処置の運用開始以降、中小企業支援政策に新しい動きが見られる。その新しい動きを次の第3章で追っていく事にする。


第3章
海外事例を参考にした、中小企業支援政策の新しい動き

【中小企業支援アプローチの多様性と、公的支援の役割】

官民にかかわらず、中小企業への支援アプローチ方法は大きく2つにわけられる。

(1)金融支援アプローチ

(2)人的支援アプローチ

  • 技術者派遣や高齢者雇用支援
  • 民間会社によるコンサルタント支援など・・・

以上のように、金融面および人材面での支援アプローチがあるが、実際の企業での事業プロセスにおいては金融面での支援が多く望まれる。なぜならば事業活動を行う上で、資金が必要なプロセスの方が多いためである。

パワポの図を挿入

資金繰りの不足を補うために、企業は日頃から取引のあるメインバンクから融資を受けているが、金融機関もあくまで「企業の一つ」であり、産業が回復しなければ企業と金融機関が共倒れになってしまう。そこで自国の産業を守る義務のある国や自治体による支援もあるが、税金の投入枠には限界があり、従来のようにただ事業をばら撒くだけでは企業の地力が育たない。そこで公的支援政策には、法律や公的機関によって窓口を作ることで民間の協力を得やすくし「官民による支援環境」を構築するという役割が求められるというのが私の考えである。

【産業クラスターによる中小企業の活性化】

日本の中小企業の地力を育てるためには、大企業依存である旧来の垂直型産業組織構造から脱却し独自の強みを身につけ、自立して事業を行えるようにしていく必要性がある。そのための枠組み作りの一つに「産業クラスター」が挙げられ、政府も産業クラスター構築による地域産業の活性化を目指す政策を打ち出している。
産業クラスターとは、「特定分野における関連企業、専門性の高い供給業者、サービス提供者、関連業界に属する企業、関連機関(大学、規格団体、業界団体など)が地理的に集中し、競争しつつ同時に協力している状態」を指す。つまり日本旧来の垂直型産業組織(ピラミッド型)の上意下達方式とは違い、各機関が一つの産業を中心に連携をとる産業組織の形である。つまり連携協力が成功すれば、中小企業が独自に事業を展開する事も可能となる。

パワポの図を挿入

【産業クラスターの海外事例と、その変遷】

◆プラート(イタリア、トスカーナ地区)
イタリアに発達した毛織物産業の集積地であり、伝統工芸の工房が集積し下請から独立して、一大産業拠点となったのが成り立ちである。この集積地をただの生産現場であるにとどまらず、企画・販売・インキュベータといった機能をも有し、企業のイノベーションを促してきたため、イタリアの産業成長に大きな役割を果たした。これは、一般に集積の外にある企業(糸メーカー、商社、問屋、アパレル等)が企画・販売のイニシアチブを握っている日本の垂直型産業構造とは異なるものであり、今でも集積が求心力を持ち続ける要因となっている。

◆シリコンバレー(アメリカ、カリフォルニア州)
スタンフォード大学を中心とした元大学研究者たちがこの地方にベンチャー進出し、やがてベンチャーや研究室間の研究開発網が発達し、ハイテク産業の一大拠点まで成長した例がシリコンバレーである。大学の創設者が広大な大学所有地を長期間ベンチャーにリースするという形で多くの研究企業を呼び込み、大学と企業の間の協力体制が構築されていった背景がある。これも垂直型産業組織とは違い、産業を中心に企業と研究機関が連携をとっている。

これらの産業クラスターが成立する背景には歴史と文化の影響が大きく関わっており、一朝一夕に成り立ったわけではない事が伺える。このような伝統的産業クラスターは「独立型産業クラスター」と呼ばれており、その国の産業成長や競争力発展に大いに貢献してきた。
しかしこの独立型産業クラスターも、産業のグローバル化が進行することでイノベーションを余儀なくされている状況にある。特にローテク分野は労働力の安いインドや中国の躍進がめざましく、設備投資が盛んでない分野においては産業クラスターの維持が難しい。
そこで「国際競争戦略を独自に行ってきた大企業」と、「独自の技術力を持つ産業クラスター」が協力し、新たな産業形態を構築するという動きがある。(例としてOEMが当てはまる。)これには新しい技術が欲しい大企業と、新たな販路が欲しい中小企業の利害が一致するという背景がある。そしてこのようなクラスターの形成こそが、政府が方針として打ち出している新たな中小企業支援政策にも挙げられている。

【日本の産業クラスター形成の実践政策】

日本においても国際競争力のある産業クラスターを構築するために、2001年に経済産業省によって「地域再生産業集積計画」(産業クラスター創出計画)が発表され、2002年には文部科学省が「地域確信技術創出事業」(知的クラスター構築計画)を発表した。産業面と研究面の結びつきを協力する政策を打ち出し、現在、日本全国の経済産業局の主導による「産業クラスター計画17プロジェクト」が遂行されている。
この計画は、2001年から2005年までを研究段階から実用化段階への移行期(第T段階)とし、2006年から2010年までを実用化に向けての事業化(第U段階)としており、緩やかにであるが堅実に進行している。


資料:関東経済産業局「産業クラスター計画の概要」

【現在活動している中小企業に向けた支援政策】

産業クラスター17プロジェクトは、地域ごとに新たな産業集積(クラスター)形態を構築する、いわば未来に向けての投資的政策である。成功すれば、地域に今まで存在していなかった新たな産業が芽生える可能性があるが、計画期間が10年と長期間であるため、現在も企業活動を行い、苦境に喘いでいる中小企業に対して有効であるとは考えにくい。では現在苦境にある中小企業を支援するための政策とはどのようなものであるか。実はこの支援政策にも産業クラスターの手法が取り入れられている。
次の第4章では、これを踏まえた日本の現在の公的支援について紹介し、考察する。


第4章
現在の公的支援政策、及びその課題

【日本の最近の中小企業支援政策】

近年の公的支援の方向性は、従来の公的事業ばら撒きによる「指示型支援」ではなく、中小企業が事業化したがっている案件を審査して支援するかどうかを決定する「自立型支援」である。現在の中小企業支援の中心的役割を果たしている政策について紹介する。

(1)中小企業経営革新支援法(平成11年3月成立、7月施行)
中小企業が経済環境の変化に即応して行う、自助努力を基本とした経営革新を支援することを目的とし、具体的には、「新たな取り組み」を経営革新計画として申請し、知事による承認を受けると各関係支援機関からの支援が受けられる。限られた補助枠を争わせることで企業の地力成長支援を図るというもので、従来の支援方針であった指示型ではなく、自立型の支援の性格が強い。イノベーションを推進し独自性を持とうとする中小企業を募る。
ところが支援内容が技術開発に偏っている性格が強く、より市場化に直結する支援、特に市場調査、事業性評価、販路開拓等におけるソフト面での支援を求める声があがった。この意見を反映させるため、既存の支援法律を統合し、現在は「中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律(中小企業新事業活動促進法)」が施行されている。

(2)異分野連携新事業分野開拓補助金
中小企業が事業の分野を異にする事業者(中小企業、大企業、個人、組合、研究機関、NPO等)と有機的に連携し、その経営資源(技術、マーケティング、商品化等)を有効に組み合わせて、新事業活動を行うことにより、新市場創出、製品・サービスの高付加価値化を目指す取り組みを支援することを目的 とする。中小企業が中心となって、独自のクラスター形成を行うことを促すというもので、自立型支援の性格が極めて強い。

これらの支援を申請する際には、数値目標を含めた具体的なビジネスプランを作成する必要がある。つまり「事業化の即効性」を実現するための支援政策であり、アイデアがあっても担保や信用の不十分さによる資金力の問題で事業化が実現できないでいる中小企業を手助けすることが可能となる。

【現段階の支援政策の性質と効果】

第3章および第4章冒頭において挙げた、近年の日本で始まった新しい中小企業支援政策は、「将来性」と「即効性」の2つの種類があると言える。

(1)技術基盤研究(将来性)

(2)事業化(即効性)

新たな産業基盤を作るための支援政策として(1)が、現行の中小企業を支援する施策として(2)の支援が存在している。ところが(1)の支援策は開発基盤の策定から実行に移す実験段階の状態であるのがほとんどで、地域に新たな産業が根付く効果が現れるのは当分先のことである。反対に、(2)の支援策は中小企業側がビジネスプランを提示し認可さえ受ければ、すぐに事業化支援がなされるため、現在の支援政策の中核を担っている。

【産業活性の明暗】

中小企業自立型の支援が根付いてきたことによって、地域内にて、中小企業が独自に専門分野に特化した分業関係を構築する集積構造が各地に見られてくるようになった。集積内の中小企業や協力業者が相互に関連したネットワークによる依存関係が構築されるようになり、新たに「モノづくり」の基盤を形成することで日本の製造業の競争力を担うようになっていると考えられる。
ところが企業集積による産地形成の性格から、新たな問題が浮き彫りとなっている。第3章において、海外の産業集積地形成はその産業が構築される地域性・歴史性の影響が強いことを述べた。産地集積は特定の地域に同一業種に属する企業が集中立地し、その地域内の原材料・労働力・技術力等の経営資源の上に成り立つ。そして回復・成長を続けている地域とそうでない地域の明暗を分けている要素にもなっているのである。
日本の産業が回復傾向にあるが、そのような回復傾向は「特定の大企業の下請企業群が形成されていた地域」において目立っているという状態になってきている。例を挙げると日立市や豊田市のような現在大成功を収めている特定企業の経済地域である。これらの地域の中小企業は、下請時代の技術やネットワーク網を活かしてイノベーションを図ることに成功している。

ところが、全ての企業城下町型が回復傾向にあるかと言うと、そうではない。大企業の撤退と共に城下町構造が崩壊してしまい、産業の空洞化が起きてしまった地域においては新しい企業集積構造が興りにくくなっている。まだ残っている中小企業がイノベーションを図ろうとしても、それを支える下請時代のネットワーク網が無くなっているためである。
つまり「産業のあるところに産業は集まるが、無いところには集まらない」という状態になっており、産業の地域間格差が拡大している傾向にある。この地域格差は、地域の産業状態を知る指標となる地域雇用状態と、製造業の中心となる鉱工業の地域傾向を照らし合わせる事でも確認できる。

鉱工業

※県別有効求人倍率分布図※
雇用格差
中小企業庁「平成19年度中小企業対策関連予算案の概要資料」より

現状の支援政策は、このような地域格差の拡大をさらに加速させ、これがやがて経済社会全体の歪みの原因となる問題をはらんでいると言える。


第5章
政策提言

中小企業自立を目指す「即効性」のある支援は、確かに中小企業のイノベーションを促進し、技術革新や販路整備などに一定の効果をもたらし、景況回復に繋がっていると言える。しかしビジネスプランをあらかじめ求めるという性質上、生産から流通にいたるまで全ての業務要素を欠くことが無い事が必要である。つまり経済が衰退し、要素に一つが満たせない場合は支援を受けることができない。もし中小企業が「これをやりたい」という計画があっても、実現しないまま終わってしまう場合があるのである。もしこのまま地域間格差が拡大していく一方になってしまうのならば、「将来性」を見越し新たな産業つくりを目指す産業クラスター計画を地域に根付かせる前に灰燼に帰してしまうのではないかという危惧を、私は感じているのである。
このような事態を防止するために、次の支援政策は現在の創出から、分散を促すための支援政策が必要であると私は考える。つまり足りない要素があれば、それを埋め合わせる支援を行うことで事業化を実現する、いわば中小企業間の事業マッチングを推進する政策である。


参考資料、文献