早稲田大学社会科学部 政策科学研究 上沼ゼミナール
田中 秀平 Shuhei Tanaka

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■2004年から政策科学ゼミに所属し、神奈川県茅ヶ崎市の海岸侵食問題をテーマに研究を進めました。

■ 茅ケ崎市について ■



■茅ヶ崎市の始まりはまさに「砂」と「松」があるしがない乾田地帯であった。その乾田地帯は、相模川と海(相模湾)の「水」の流れによって出来たものです。その乾田地帯に人は「何」を求め、彷徨いついただろう…その後結核治療院「南湖院(なんごいん)が出来た…そして時は経ち、湘南が「サーフィン」(西海岸スタイル)の発祥地と歌われ…加山雄三氏…「Pacific Hotel」…国道134号線…記憶に新しい所では、2000年に茅ヶ崎市出身の桑田圭祐氏率いるサザンオールスターズが茅ケ崎ライブをした場所です。

■私の母校である茅ヶ崎小学校の校歌に 「松の花咲く 砂の道 」というフレーズがあるように市内には松の木が多く、また海(浜)は市民の憩いの場となっております。また2005年に同じく茅ケ崎市出身の宇宙飛行士野口聡一氏が凱旋パレードを行ったのも同市です。人は何かを求めて海にやってくる。その茅ヶ崎市海岸で今、大変な事態が起きているのです。

 

■ 海岸侵食について 2004夏の研究の走り書き ■


日本の海岸線において海岸が減っている主な海岸の形は、三陸地方や伊勢志摩のリアス式海岸のように複雑に入り組んだ形や、九十九里浜などの砂丘海岸のように弓なりで単調な形など、さまざまです。これらの形は上空から眺めたり地図を用いて確かめることができますが、その形は時間がたっても変わらないのでしょうか?

まず、自然の力によって海岸線が変化します。海岸が変形する原因を考えるためには、海岸が形作られた歴史を知っておく必要があります。海岸は沿岸の地形が海水面と交わるところで、海面の高さは長い時間かけて上がったり下がったりを繰り返しているので、海岸の位置も長い時間が経つと移動します。

現在の海面の高さは、約2万年前に最終氷期が終了して海面が100m程度上昇し、その後数メートル程度下降して、約3000年前に安定したものです。海面が変化する長い時間スケールで考えると、およそ現在の位置に海岸が決まってから3000年しかたってないのです。海岸のおよその位置が海面の高さで決まり、その後海面の高さが変わらなくても、波による激しい浸食作用を受けるため、海岸の地形はそのままの形で安定するわけです。千葉県屏風ヶ浦にある海食崖のように侵食され続ける運命にある海岸、河口部や干潟のように堆積するのが自然な海岸、北海道野付崎の砂嘴のように絶えず土砂の供給を受けて変形しながら成長を続ける海岸など、さまざまな原因で変形します。

次に、人間の活動が原因で変化することもあります。最近では人為的な影響で変形が進んでいる海岸も多く見られます。例えば、ナイル川河口部では、川の上流に建築されたダムが土砂をせき止めたため、海に砂が供給されず、侵食が進んでいます。駿河湾の海岸では、港の防波堤が海岸の砂の流れをせき止めたため、浸食が広がっているところがあります。また、鳥取県の日野川河口周辺の海岸では、砂鉄の採取で流れ出ていた土砂が採取の中止によって急激に減少し、砂浜の侵食が進んでいます。このように川や崖から供給される砂の量が減ったり、海岸の砂の流れを止めたりすると、砂浜海岸は急激に変形してしまうのです。人為的な影響で進む海岸の変形は、自然のものに比べて短時間で進むことが多く、最近問題となっている「海岸侵食」はそのほとんどが人為的な影響によるものです。

では、砂浜の砂はどこから来るのでしょうか。砂浜の砂には、山から運ばれてくる砂と、海岸の丘陵や台地が波に削られてできた砂に2種類の砂があります。日本は1年を通じて雨や雪が多いうえに、時には梅雨や台風などによる集中豪雨もあります。この雨や雪によって山の傾斜が削られ、その削られた土砂は、川に流れ込み、川の水と一緒に海まで運ばれていきます。大雨の時に近くの川の水が濁っているのはこのためです。川の濁った水は、両側を堤防ではさまれた狭い水路を下っていきますが、海に到着するとその両側の堤防がなくなるので解放されて広がっていきます。そのため流れの速さは急速に遅くなり、その結果、砂を運ぶ力も弱くなります。つまり、川の激しい流れによって海まで運ばれてきた土砂は、海に到着すると急激に砂を運ぶ力が弱くなるので、河口近くの海底に溜まります。この砂が、河口近くの砂丘を作るのです。また、海岸近くの台地や丘陵が波の力で削られて砂が作られます。このように、波に力で削られることを「海食」といい、この海食でつくられた崖を「海食崖」といいます。このような砂は波によってつくられた沿岸流(岸に沿った流れ)によって岸に運ばれ、それが堆積して広い砂浜をつくりあげるのです。

このようにできた砂浜を守るためにいろいろな対策がなされています。例えば、「離岸堤」です。これは砂浜が削られるのを防ぐために設置されたものです。江ノ島に向かって海岸線が突き出していますが、この海岸線の形は非常に安定しています。そこで、人工的に沖に島を造って、安定した海岸線が自然に形成されるきっかけを作るっているのです。しかし、「離岸堤」はどうしても海面から出るので、景観を悪くしてしまいます。そこで注目されたのが南の島のリーフです。リーフは島の周りを取り巻くサンゴ礁でできた浅瀬で、ここで波が小さくなり海岸線には大きな波は来なくなります。そこで、沖に人工的に浅瀬を作って波を小さくする施設「人工リーフ」を作るのです。

今まではこのように構造物による対策によって海岸侵食に対処してきましたが、近年は「養浜」が行われています。養浜は人工的に砂を運んできて海岸にいれ、海岸を復元することです。養浜で海岸を復元することができれば、構造物によらずに自然の砂浜にとても近い海岸を復元できます。昔は、砂を海岸に入れてもあっという間に消えてしまうと考えられていましたが、最近では入れた砂がどのような動き方をするのか予測して、入れる量や入れる時期を決めることができるようになったため、世界各地で採用されるようになりました。欧米の多くの国では防災施設を造ることより。養浜により災害を防止する方向に転換しつつあります。養浜に使われる砂は、海底から採取した海砂など使われています。また、砂が溜まりすぎて困っている場所もあるので、そうしたところから砂が少なくて困っている場所に砂を移動させる「サイドバイパス」と言った方法も取られています。

しかしこうした砂も有限な資源の1つですから、大切に使わなくてはいけません。そこで考えられたのが「サンドリサイクル」です。移動してきた砂を採取して元の場所に戻すことのより、何度も使うことができます。毎日のように目にする海も自然の摂理によって少しずつ変化していることを再確認した夏でした。

参考資料:2005年茅ヶ崎市役所にて頂いた資料より 


 

■ 章立て ■

  1. 研究動機
  2. 湘南・茅ケ崎海岸のの海岸侵食問題とは
  3. 現在の環境保全政策の検証
  4. 高知県・高知海岸の事例と湘南・茅ケ崎海岸の事例の比較
  5. 残された研究課題
  6. 環境意識を促す環境教育とは
  7. あとがき   

■ 第1章 研究動機 ■

■なぜ茅ヶ崎市海岸の侵食問題を選んだか、身近な話をすれば幼稚園時代に遠足で行ったのも茅ヶ崎の海でした。
小学校の時に野外活動のごみ拾いや日曜日に父とキャッチボールをしたのも茅ヶ崎の海でした。しかし、中学、高校とあまり海に行くことがなくなりました。そして、大学入学後、久しぶりに海に行った時に海岸の変貌振りに驚きました。
何年か前までは、どの海岸でもバーベキューができたりと水面まで30Mはあったと思います。しかし、応急処置的な砂が数Mの高さに積まれていて、崖になっており、場所によってはその場所から海岸に降りないように立ち入り禁止の札があるところもあります。

私は茅ケ崎海岸で育ち、海岸に深い思い入れがあります。しかし、このようなレベルでしか海岸について語ることができない自分が情けないと思い、人並み以上に海岸について知識を持ち、海岸をどのように取戻すことができるのかを、政策というツールを用いて提言したいと考えております。
季節を問わず、人は何かを求めて海に行きます。そんな海に、自然に人間が手を加えて起きた問題だったら、人は同じ事を繰り返してはいけないはずです。



第2章 湘南・茅ヶ崎海岸の海岸浸食問題とは

■私の住んでいる神奈川県茅ヶ崎市の海岸線について

茅ヶ崎市の海は昔から海水浴場で有名で、多くの観光客が海を求めてやってきます。その海岸には相模川が流れ付き、山から土砂を運んできていました。しかし、昭和22年に相模ダムが、昭和40年には城山ダムができて相模川からの土砂の供給が急激に減ってしまいました。漁港の整備により海流の流れを遮り、特に中海岸地区の砂浜は激しい浸食が起こり1976年から1985年にかけて最大で35m海岸線が後退しました。また、東海岸南地区では昭和46年(1971年)から59年(1984年)までの13年間で最大36mも海岸線が後退しました。また昭和57年(1982年)、平成9年(1997年)の台風による波浪では、海岸線に平行して走るサイクリングロードまで被害が及びました。 そこで、海岸の侵食を防ぐとともに砂浜の復元を図るため、昭和61年(1986年度)から茅ヶ崎市は「ヘッドランド」を造ることにしました。「ヘッドランド」とは、英語で「岬」を意味します。自然の地形で岬に囲まれた海岸は弓状の安定した海岸を維持します。「ヘッドランド」は、こうした自然の摂理を応用したもので、海岸から沖に突き出したもので、岬の効果を発揮します。

茅ケ崎海岸(東海岸、中海岸地区)において、平成7年から(1995年度)から平成10年度(1998年度)までの4年間、神奈川県、(財)土木研究センター及び(財)神奈川県都市整備技術センターが共同して、日本で初めて茅ケ崎海岸の東海岸南、中海岸地区において実証実験(ビーチマネジメントシステム、BMS工法)を行いました。ビーチマネジメントシステム、BMS工法とは昭和56年(1981年)にデンマークで開発されたもので。従来の侵食対策工法のように構造物によって波力や沿岸流を制御するのではなく、海岸の汀線付近の砂浜表層に不飽和域を作り、打ち寄せる波によって運ばれてきた漂砂を不飽和域地表面に取り込むことによって砂浜の侵食防止、あるいは増殖を図る工法です。

参考資料:神奈川県土整備部砂防海岸課防災・海岸班『かながわ県の海岸』



■この章では茅ケ崎市の海岸侵食に対する取り組みを検証したいと思います。そこで、最初に2005年9月18日に茅ケ崎市役所にて服部市長にインタビューを行いました。





その際に提出した質問です。

『茅ヶ崎海岸侵食問題について、どのようなお考えをお持ちになり、今後どのような対策を講じられ、どのような海岸になさるおつもりなのかを国、神奈川県との関係性の中で、具体的にお聞かせください』
  1. ■侵食の原因とは?

    「実際は国レベルでも把握できていない、茅ケ崎市としては@潮流の変化A桂川・相模川から土砂の供給不足B河口付近の構造物の影響であると考えています。」

  2. ■関連団体との関係性における茅ケ崎市の役割とは?

    「やはりこの海岸侵食問題は、国家レベルでの問題のため、私(市長)ができることは、いろいろは場で茅ケ崎海岸の現状を社会全体に訴えかけることであり、湘南(神奈川県)出身の政治家たちや、知事にはもちろん働きかけをしている。」

  3. ■管轄団体(湘南なぎさ事務所)閉鎖の経緯、理由は?

    「湘南なぎさ事務所の設立の目的は湘南海岸、海岸周辺の整備(国道134渋滞解消が主)であるため、その目的が達成され、また県の財政のスリム化を図り、県の事業局にその役割を分割した。私(市長)が県議員の時から閉鎖の動きはあった。」

  4. ■茅ケ崎市長の目指す海岸の未来とは?

    「市民だけではなく、レジャー利用する他の 地域の方々の為にも、茅ケ崎の海という大きな財産を次の時代に残し、海岸周辺に大きな施設を造るようなやり方ではなく、今までの自然そのものを生かした海岸作りを今後も続けたい。」

今回のインタビューの市長のご回答については一語一句同じものではありませんし、市長のご意見を否定的にHPに載せたつもりもありません。やはり、今回のインタビューでは、私の研究不足のせいもあり、思うような質問はできませんでしたが、2005年の前期から研究を進める中で出た疑問等は解消したように感じます。服部市長、並びに市役所の方々、誠にありがとうございました。

そして、2006年1月現在茅ヶ崎海岸では調査が進み、海岸の浸食を改善するため、海水浴客のいないこの時期に工事が行われている。

(茅ケ崎市役所ホームページ)

■ 第3章 現在の環境保全政策の検証 ■

現在あらゆる研究が進む中、海岸侵食に関わる対策として用いられている手法・考慮すべきことを検証していきたいと考えます。

■1,「浚渫」という要因
 

わが国では海岸侵食が急速に進んできています。侵食は様々な要因によって起こりますが、従来あまり正面から取り上げられて来なかった要因に「浚渫(しゅんせつ)」があります。防波堤による波の遮蔽域(防波堤の陰の波が静かな区域)内が漁港や港湾の航路や泊地として使われている場合、そこでは水深を維持するためにしばしば浚渫が行われています。

しかし防波堤や防砂突堤の先端水深(hs)が、波の作用により海底地形変化が起こる限界の水深(hc:一般に外海外洋に面した海岸では10m程度)と比較して小さい場合、海底の浚渫後、防波堤や防砂突堤の先端を回り込んで周辺域から遮蔽域へと砂が再び運び込まれます。これは沿岸方向の砂移動によるもので、一般に沿岸漂砂と呼ばれます。このような砂移動があると周辺域の海浜土砂量が減ることになり、海岸侵食が生じるのです。

同様に、河川にあっても波の作用で河口に砂が過剰に堆積して閉塞することを防止するために河口浚渫が行われてきており、とくに流量規模の小さい都道府県管理の二級河川で多くの事例があります。このように考えると、わが国の多くの海岸では、海岸部から砂を取り去ろうとする営みが長い年月にわたって種々行われてきたことになります。

具体的対応策

ある海岸から沿岸漂砂の作用によって沿岸方向に運ばれ、例えば防波堤による波の遮蔽域内に堆積した土砂や河口堆積土砂は、港湾法・漁港漁場整備法および河川法によれば除去すべきとなっています。一方海岸法では海岸からの土砂採取を禁止しています。

このように海岸から土砂を直接採取するのとは異なるものの、一旦沿岸漂砂の作用で運ばれた瞬間に、土砂に対する考え方がアベコベとなるのです。波による砂の移動は自然現象であり、とくに防波堤のような構造物を造った場合、沿岸漂砂の強い作用が起こることは科学的には十分予見可能です。

このような自然現象に対して、現在の法律とその運用基準が十分ではないのです。この結果、漁港・港湾・河川の基準に従って浚渫を行い、土砂を処分することは、最終的に周辺海岸の侵食をもたらすという結果に至るのです。

しかも、これらはわが国全体で統一的に用いられているので、全く同じ現象が全国各地で見られることになるのです。波の遮蔽域に堆積した土砂は障害物です。しかし、まったく同じ土砂が隣の海岸では貴重な資源です。それは防護機能上のみではなく、健全な沿岸域生態系を維持していく上でもなくてはならぬものです。これら両者を深く考えたとき、浚渫土砂は適切な方式により周辺海岸へ戻す方策を取ること(サンドリサイクル)、それを異なる管理者間で十分な相互理解のもとで進めるよう制度を改めることが是非とも必要です。そうでなければ侵食は益々ひどくなることは間違いありません。

著:宇多高明 海洋政策研究財団発行2005年7月5日『浚渫と海岸侵食』 (海洋政策研究財団ホームページより)

■2、「置き砂」という方法
 

置き砂とはその名の通り、「砂を置く」のですが。どういうことかというと、海岸に流れ着く砂というのはもともと河川の上流から流れつくものはご承知の通りです。基本に帰り、では流された土砂をもう一度、河川の戻せばいいのではないかと発想から生まれた極めて原始的な方法であります。問題はその多くありますが、先にご紹介した所謂「構造物」設置を中心とした侵食防止策とは「景観」的な問題を考慮したものではあります。 そこで、その紹介として「神奈川県建設業界ニュース」で紹介された相模川水系での「置き砂」に関わる記事をご紹介したいと思います。

■ 県が海岸浸食対策で総合土砂管理計画策定へ

県土整備部は、相模湾に面する海岸浸食対策の一環として、ダム直下への置き砂を実施し、この結果を踏まえて、総合土砂管理計画を策定する考え。既に酒匂川水系で土砂の流れの調査などを進めているが、相模川水系でも順次調査を行って、置き砂による効果などを検証し、より効果的な浸食対策をまとめていく方針だ。置き砂には地元の協力が必要なこと、また検証と結果分析に時間がかかることから、5カ年程度をめどに計画を策定する見通し。

 県内では、茅ケ崎海岸や小田原海岸、平塚海岸、二宮海岸など相模湾に面する海岸線の浸食が進んでいる。茅ケ崎海岸柳島地区では、過去20年間の調査で海岸線が60b以上浸食し、砂浜が消失するなど、海岸の早期保全が求められている。  相模湾の浸食は、▽ダムの完成や河床掘削により、河川からの土砂が減少したこと▽防波堤などの構造物による砂の流れの変化▽急峻な相模湾に砂が落ち込みやすい−などが要因と考えられている。

 このうち、河川からの土砂の減少を食い止めるための施策の1つとして、置き砂を行う。ダム湖の浚渫土砂をダム直下に置き、洪水(ダムからの放水)時に土砂を自然に流し、相模湾に土砂が流れ込むようにする。  相模川では、国土交通省や山梨県らと合同で設置した「相模川水系土砂管理懇談会(座長・砂田憲吾山梨大学教授)」が、相模川の健全な土砂環境を実現するための提言として、ダム浚渫土を下流河川の置き砂として活用することなどを提案。▽適切な土砂の量と質の流れを確保できる方策▽ダム浚渫土などを利用した下流河川への置砂対応の実施とモニタリング、対策効果の検証−などを実施するよう求めた。  こうした動きも踏まえ、同部では、酒匂川水系、相模川水系で河川の土砂の流れを調査し、置き砂による効果を踏まえた総合土砂管理計画を策定する方針。境川流域でも上流から下流にかけての土砂の流れ、置き砂の効果などを検討、調査する。

 ダム湖の大量の浚渫土砂への対応としては、排砂管の整備なども考えられているが、多くの事業費がかかることや、管が詰まったり削られることが想定されるため、具体化には至っていない。当面は、中長期的な検証を行いながら、置き砂による対策を進めていく方針。  一方、構造物による土砂の流れの変化についても、新たな離岸堤やヘッドランド、レンズ礁など、新工法を用いた実証実験などを行っている。置き砂による河川からの土砂の流れを増やすことと平行して、構造物の新たな整備手法についても検討を進める。

出典:『建設新聞社ホームページ』 (建設新聞社ホームページより)

■3、「サンドバイパス」という方法
 

サンドバイパス工法とは構造物によって砂の移動が断たれた下手側海岸に、構造物上手側に堆積した土砂を輸送・供給する工法です。 土砂輸送方法としては、陸上運搬、浚渫船等による海上運搬、パイプライン等があります。 河川河口付近に港湾施設等(漁港等)がよく建設されていると思いますが、河川河口付近に構造物が造られると、河川からの砂の流れが大きく変化し、ある箇所では砂が堆積し、他の箇所では海岸侵食が進むケースが多いと思います。そのような場所での施工検討が一般的に多いようです。 日本では静岡県で国内初めてのパイプラインを使ったサンドバイパス工法を導入するようです。 これは既にオーストラリア東海岸やアメリカの方で、実施成功を果たしているようで、自然環境への影響が少なく日本でも注目されている工法です。(出典:ボディボード.com) このように海岸の先行事例を真似てようやく日本でも実施・検討がはじまりました。

このサンドバイパス工法についても日本における現段階での記事を紹介します。

(静岡県庁ホームページより)

(日経BP社の建設・不動産専門情報サイト(ケンプラッツホームページより)

■ 第4章 高知県・高知海岸の事例と湘南・茅ケ崎海岸の事例の比較 ■

■この章では現在、研究の進んでいる海岸計画に沿って、同じように(要因:海砂採取または海岸浚渫に伴う)海岸侵食問題とされる高知県の高知海岸の対策を検証し、茅ヶ崎海岸に生かすべき改善点を見出したいと考えます。

@

■まず、ここではっきり述べておきたいことは、海岸侵食問題を解決するために海岸についてのみの対策を講じるような時代ではありません。(詳しくはAの図を用いて述べる)そこで、@の図において紹介する点として「総合的な」土砂管理政策が求められ、策を打たれています。また、この総合土砂管理政策には行政・市民・企業の枠を超えた連携を重視し、実際に多くの海岸でパートナーシップを結んでいくことが重要です。 もちろん、高知県の海岸でもこのような関係を結んでいます。

A

■では、その総合的な土砂管理政策とはどのような概念であるか。 それはまさに、このAの図が指すものである。特に、茅ケ崎海岸への土砂の供給源は桂川・相模川である。この図のように、川の上流に位置する「山」では、防災機能を確保し、適切に土砂の供給を促すことが求められる。そして、生活水源確保を成すダムの推砂対策を推進し、ダムに貯まった土砂を極めて自然に流すためのバイパストンネルなどがあげられる。そして、河流・海岸では海浜の再生に向けた調整システムの構築に向け、砂防えん提・多目的ダムの堆積土砂を除石・運搬し、海岸の養浜等の活用を行う。先の前章であげたサンドバイパスもその一つである。このような、一箇所、一箇所を分けて別の括りにせず、「水系(流砂系)」の問題として扱うのである。

B

■次に、垣根を越えた関係・パートナーシップの例として「高知海岸パートナーシップ」をご紹介します。「高知海岸パートナーシップ」とは高知海岸南国工区(南国市十市地区)から新居工区(土佐市新居地区)にかけた直轄海岸工事施工区域内において、清掃ボランティア活動により、海岸の散乱ゴミ等を取り除き、美しい海岸環境を創る全国で初めての取り組みです。 これに対して、神奈川県茅ケ崎市においても、「ほのぼのビーチ茅ケ崎」のような市民団体が積極的に海岸への市民だけではなく、県外への情報の発信を行っています。もちろん、茅ケ崎の企業、また学識関係者、神奈川県知事も参加、ようやくこのようなパートナーシップが構築されてきた段階です。しかし、この茅ケ崎の事例では、この活動の中心は市民団体の呼びかけであり、高知海岸の場合では、国土交通省のホームページで、このような活動を公募している点である。

C

■ここで、海岸侵食問題の根幹にあった行政の管轄の問題をあげたい。 長年、行政側では自分の管轄地域だけを守り、他地域にはお構いなしのようなことが多々あった。 例えば、Aという地域でなんらかの要因で起きた侵食を解決するために、隣のBという地域がA地域が講じた策により、それまではなんの影響もなかった管轄海岸で侵食問題が起きたという事例を、この研究を通して多く耳にした。このような問題も、水系という概念ではなく単体の問題、ケースとして扱ったことに起因するものであった。このように広域的・総合的な視点から、この問題を扱うことの重要性が分かる。

D

■Dの図の中で大きな「力」がまさに「市民」からの情報提供とあります。 この「市民からの力」、市民が「この海はおかしい」そう感じること、しかも多く市民が、そしてその子へ、孫へ。 このキーワードとして「市民的自我」があるのではないでしょうか。(7章参照)

■現在、湘南海岸でも、私が研究を始めた頃より盛んにその深刻さを発信していると思います。 しかし、高知県との大きな違いはやはり、その中心が国土交通省の高知県の事務所が牽引役となり、活動を進めたことである。 神奈川県の松沢知事が、湘南海岸の視察を行っていることももちろん承知していますが、やはり茅ケ崎海岸のこの活動の中心は市民グループのあるのではないでしょうか。 情報の発信に市民の力では限界があります。茅ケ崎市長を訪問した際に市長がおっしゃった内容を今、思い返すと。 多くの場で、この問題を発信していくことに尽きるのではないでしょうか。 そのために、情報のネットワークとして、いまや日本全国で起きているこの海岸侵食問題に関して、全国規模・世界規模でのネットワークの構築を目指すことを私は望みます。

参考資料:国土交通省港湾局『海岸侵食に当たっての重要事項(平成16年6月24日)』

(国土交通省高知河川国道事務所ホームページより)

(ほのぼのビーチ茅ケ崎ホームページ)

■ 第5章 残された研究課題 ■

■神奈川県の湘南海岸と高知県の高知海岸の事例を比較研究してみると、私は県における「税金」の使い道、使い方、または建築、土木業者における公共事業に対する依存の違いがあると考えます(仮説) これは同じような「海岸侵食」という問題に対して県のおかれる国土交通省の出張所の取り組み方の違いなど、そう考えされられる点が多くあります。 また、このように県単位においても、ある問題に対する地元国会議員のもつ「力」、その所謂「票集め」に関わる問題(仮説)が残された研究課題としたいと考えます。

■ 第6章 環境意識を促す環境教育とは ■

■世間で自然と言えば、どのようなものを人は指すでしょうか。それは、遠くの山や、海を指し、日常生活の場ではなかなか体験しないものを指すのかもしれません。 しかし、この章で私が述べたい自然とは「内なる自然」というものです。私はたまたま海のある環境に育っただけなのかもしれません。しかし、それは私にとっての自然であります。「内なる自然」とは個々の人間が抱く自分なりの自我であるのです。このような「内なる自然」を育てる環境教育とはどのようなものなのかを、この第6章で検証していきたいと考えます。

■ 21世紀の教育は「知識伝達型」の教育から、子供一人ひとりが自ら課題を見出し、構想を立て、さまざまな探求活動を通してよりよく問題を解決する資質や能力を育成し、自分の考えを表現し、さらに討論を深めていく過程を通して、多様な意見に対して寛容さや価値を認識していくプロセス重視型の学習としての「探求創出表現型」の学習観への変革が求められている。 関心の喚起(気づく)→理解の深化(調べる)→思考力・洞察力(考える)→実践・参加(変える・変わる)といった学習過程を螺旋状敵にたどり、さまざま表現活動を伴う授業づくり(カリキュラムデザイン)が必要である。 つまり子供の「驚き」やなぜ、どうしてという「疑問」に対して、子供と教師または大人が共に探求者となって「調べ」「考え」て「実践・行動」につなげていく学習であり、2002年4月から始まった「総合的な学習の時間」がその理念を実践する学びとして期待されている。この活動を高知県は「自然学校」という形で実践しています。また茅ヶ崎市でも市民団体(ほのぼのビーチ実行委員会等)が中心となって実践してきています。

(国土交通省四国整備局・高知港湾・空港整備事務所ホームページより・高知周辺の自然学校)

■「持続可能性のための教育」の概念からとらえると、環境教育は、自然的、生態学的、経済的、政治的、技術的、文化的、美的、人工的環境を対象とする包括的な概念であり、人間と環境の関係の物理的、知的、精神的特質をホリスティック(全連関的)に探るものである。 「かかわり」「つながり」を重視した体験型・参加型学習で、学際的アプローチやシステム思考により多文化的なパースぺクティブを拓いていくものでなければならない。

■ 子供たちに「場所の対する感覚」(センス・オブ・プレイス)「自分たちで環境や空間を変化させることができる力」「どういう遊びや学びの空間が良いのかイメージする力」「子供たちのアイデアを実現するためのスキル」などをつけさせるために、さまざまな体験を積み重ねながら学ぶ仕掛けは、日本の「総合的な学習の時間」に導入できる実践ではないでしょうか。 このセンス・オブ・プレイス=市民的自我の育成を通して、個人一人ひとりの「自然」を持ってほしいと思います。 私と同じように、湘南海岸に触れることの多い人でも、海岸が侵食されても、何も感じない人もいるでしょう。 逆に、私が感じない問題に対して、今もなお取り組んでおられる方も同じようにいらっしゃると思います。 私は、この湘南海岸の侵食問題に関して「感じる」「感じない」という議論をしたいのではなく、「自分」なりの「自然」を持つことが、今後大きく言えば、地球全体で起きる環境問題に対する一番重要な「感覚」なのではないでしょうか。 その為にも、昔の自然に溢れた地球を知らない「これからの子供」たちにはこの「感覚」を自分なりの尺度で磨いてほしいと考えています。

参考出典:寺西俊一 石弘光 著『岩波講座・環境経済・政策学 第4巻 環境保全と公共政策より』

■ 第7章 あとがき ■

■最後にまとめとして、この海岸侵食問題を研究テーマに選んだのはもう2年以上前になります。 その当時の湘南海岸は、まさに海岸に砂を運んで、なんとか海岸を保っていた時期でした。海岸に大きな工事用の機械が入り、進入禁止区域も多くあり、閑散としたものでした。確か、冬に工事を大掛かりに行っていたと思います。 あの冬に、海岸に行って「おかしい」って思った自分の根幹にあったものを少しずつ、遠回りしながら紐解いていった。 そんな研究でした。自分の問題意識、それを知ろう、探ろうとするものの見方、考え方を知りました。 「自分」という人間を掘り下げた結果がこのゼミの卒業研究です。


2007.2.3 完





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