上沼ゼミナール(政策科学研究)

上沼ゼミV 前田 剛

テーマ:『創造都市 〜クリエイティブシティの創造へ〜』


創造都市(クリエイティブシティ)とは?

人間は衣食住や経済活動のみによって生きられるのではない。日々あらゆる文化活動を通して、 内面的な欲求を満たしているのである。心を躍動させる音楽との出会い、絵画や彫刻から受ける感銘。 このようなことを誰しもが経験しながら、精神的な喜びを得たり創造性を養ったりしているのである。

創造都市(クリエイティブシティ)とはイギリスのチャールズ・ランドリーの提唱された。
「芸術や文化及びクリエイティブ・インダストリーとまちづくりの一体化を志向する、 ヨーロッパを中心に盛んに唱えられている新しい都市創造の概念。」のことである。
例えば、イギリス北東部のニューカッスルとゲーツヘッドという都市でのこと。 かつて栄えた造船業の衰退によって中心部が荒廃してしまった。そこで市は、さびれゆく 造船業の技術を用い、新たな街のシンボルとして巨大なパブリックアート 「エンジェル・オブ・ザ・ノース」を建設する。地元の造船技術を用いたことや、観光地として 大きな話題になったことで、人々は次第に誇りを取り戻していった。
このような文化政策と都市政策の融合がクリエティブシティと呼ばれ、注目されている。

研究動機

クリエイティブシティに関心を持ったのは、自分自身の音楽経験からである。
私は大学の音楽サークルに所属している。ホールやライブハウスなどでの演奏が主であるが、 学校や福祉施設、様々なイベントで演奏する機会もある。アマチュアの演奏ではあるが、 しばしば会場を盛り上げ感謝の言葉をいただき、自分たちが感動することも多い。
また駅前や繁華街などいわゆるストリートライブを経験したこともある。 拍手をもらえる事もあれば、警察や警備員から注意を受けることもある。 熱心に聴いてくれる人がいるかと思えば、冷ややかな視線を送る人も少なくない。 音楽という一つの芸術活動を通して、人々と触れ合い喜びを共有することができた。 しかし受け入れられないことも多かった。
概して日本の都市では、生活空間の中に芸術を取り入れるという感覚が 欠如しているように思える。日々の暮らしの中で芸術を感じられるような社会、 そしてアーティストが広く受け入れられるような社会を創造したい。私にとって クリエイティブシティの理念やそれによって作られる社会が理想的である。 そこでどうすればクリエイティブシティが受け入れられ広がっていくか、そしてその必要性について 検証していく。

1章でそもそもなぜ文化が必要で、文化政策が必要であるかについて論じる。
2章では世界の文化政策、特にフランスの文化政策、文化に対する国民・政府について論じる。 そこから文化政策の理念について重要な要素を掴む。
3章において日本の文化政策の歴史、文化に対する考え方を論じる。そこから日本の文化政策の問題点や 目指すべき方向性についてみる。
4章では、2・3章において国家的なマクロの視点で見てきた文化政策から、よりミクロな視点に着目して 具体的なクリエイティブシティの在り方について考察する。

そして終章に政策提言という形でまとめとしたいと思う。


章立て

1.なぜ文化が重要なのか

2.フランスの文化政策

3.国内の文化政策の歴史と文化に対する意識

4.具体的な創造都市の例

5.政策提言


1.なぜ文化が重要なのか

近年文化政策の必要性が唱えられているが、そもそもなぜ文化が重要で文化政策が必要なのかは、 あまり論じられていない。日本ではまず経済優先、その余剰によって文化政策を行うという風潮が強かった。 特にバブル崩壊以降、日本では一にも二にも景気回復が合言葉であった。これは日本人なら誰しもが疑わず、 当然の思考であったろう。しかしこれはヨーロッパ、特に文化大国フランスでは、この常識はまったく通用しない。 過去四半世紀、ヨーロッパの国々も日本同様に経済再建に追われてきたが、その苦しい中で芸術文化にも配慮し、 文化の地方分権化に努めてきたのである。

文化政策を軽視する主張には一定の正当性がある。政策を講じるわけであるから、税金を用いるわけで、 その使用目的に対し主義主張を展開するのは当然である。とりわけよく主張されるのが、文化に使うのであれば 福祉や経済対策に使うべきという主張や、文化は生き死にの問題ではなくやはり余剰によって支援すべきという 主張である。こういった意見の矛盾をつくことはできない。しかし、それはやはり直ぐそこに迫った経済的な 要請への回答にしかならない。それと並立して重要なことにたいして、文化は大変重要なのである。
地方都市に目を向けたい。多くの都市が空港から市街地にかけて、まったく同じような光景を見せるのである。 郊外に大型ショッピンセンターがあると思えば、中心部はシャッター通りとなり人もまばらである。 地域住民のコミュニケーションの場は失われつつある。どこも画一的な風景を目にすることができるのではないか。 それは我々が物質的な豊かさを求めて突き進んだ末路である。

私が言いたいのは、「文化芸術が地域振興の一環として大変有効で成功の事例もある。経済的価値を呼び戻すために 大変有効であり、文化は福祉や経済政策と同列の価値がある。」ということではない。地方都市の活性化のために 文化芸術が集客効果を発揮するのは事実である。しかし、クリエイティブシティとよばれる都市には、 経済的利益以上に都市に対する深い誇りや、その都市にいることへのアイデンティティを呼び起こすことになる。