井上のゼミホームページ

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研究テーマ

エネルギー問題

ケース:バイオエタノール燃料の普及化

研究動機

エアコンのつけっぱなし。歯を磨く時の水の出しっぱなし。
このような状況を他人に目撃された際、「電気代・水代がもったいない」という言葉とともに、
「地球に悪い」
と言われた事が皆さんにはないだろうか?
私は幼い頃から、このような言葉を父親に言われて育ってきた。そのためだろうか、私は新聞・ニュースで新エネルギーやエコについてのトピックには一際興味をもった。
私が政策科学ゼミでの研究テーマについて思いあぐねている時に、新聞で出会ったバイオエタノールという文字に惹かれたのは、こうした成長過程で育まれた環境への潜在意識によるものなのかもしれない。
私はバイオエタノールが「地球に良い」のかと知りたくなった。良いものならば普及させるべきだと単純に思った。
これが私の研究動機。

それではどういった視点からバイオエタノール燃料を研究していけば良いだろうか。
当初私は、地球全体としてどうすればいいかを考えた。そんな事を到底無理だとすぐに気づいた。そんな事は権威ある学者がやっている。私の出る幕ではない。
それでは日本としてどう取り組むべきか、という日本を中心とした視点を考えた。大学4年の1月までこの視点でいくつもりであったが、いざ本気で考えてみるとそんな事は日本の有識者・行政担当者が既に行っていた。彼らの考えを模倣するだけも面白くない。また、一介の学生が敵うわけがない。何か私の研究だという独自性を出せる視点はないか。思慮を重ねて結果、
経営者としての視点で切り込んでいけば面白いのではないかと辿り着いた。
井上代表取締役として、ビジネスとして、私が経営者だとしたらどうバイオエタノールの普及化を図るかを考えていきたい。


章立て

第1章 バイオエタノールとは何か

第2章 バイオエタノールのCO2削減効果

第3章 バイオエタノール供給ポテンシャル

第4章 政策動向

第5章 日本の現状

第6章 今後の課題

第7章 まとめ

第1章 バイオエタノールとは何か

まず始めに、そもそもバイオエタノールとは何かを説明する。
「バイオエタノール」とは、サトウキビやトウモロコシといった植物資源(バイオマス資源)を発行させ、蒸留して作られるエタノールの事をいう。
一方、石油や天然ガス等の化石資源から作られるものを合成アルコールと呼ぶ。バイオエタノールの大きな特徴として、
「再生可能エネルギー」「カーボンニュートラル」
が挙げられる。「再生可能エネルギー」というのは、バイオエタノールは植物を原料にしているため、原料となるサトウキビやトウモロコシを畑で作り続ける限り、エタノールを生産する事ができる。
一方、合成アルコールは、原料である石油や天然ガス等が枯渇してしまうと、もはや生産する事ができない。つまりは有限エネルギーである。
「カーボンニュートラル」というのは、植物は光合成を行いCO2を取り込むため、植物を燃やした際に大気中に放出されるCO2は、成長過程で吸収したCO2分を放出しているだけなので、地球全体でみればCO2はプラスマイナス・ゼロである。
この事をCO2が中立という意味でカーボンニュートラルという。

このような特徴を持つバイオエタノールをガソリンの代替として使用する事により、ガソリンの消費量を低減する事が可能となる。また、代替した化石燃料分のCO2を排出量を削減する事が可能である。
その事は原油を中東から輸入している現状の依存度を低減することにもつながる。

これまでの説明だけでは、バイオエタノールは良いとこずくめであるが、その生産には化石エネルギーが投入されている。原料が何であれ、植物の栽培には肥料が必要である。サトウキビやトウモロコシをバイオエタノールの原料にする場合でも、それらを効率よく生産するために化学肥料が使われる。その化学肥料は電気や重油で稼動する肥料プラントで生産されているので、肥料を使えば化石エネルギーを間接的に消費していることになる。
つまり、バイオエタノールは再生可能エネルギーであるが、その生産・輸送には化石エネルギーが投入されているので、化石エネルギーの消費を前提とした再生可能エネルギーである。
ということは、バイオエタノールの生産・輸送にかかる化石エネルギーの量を鑑みても、バイオエタノールの使用にメリットがある事が極めて重要である。何故なら、バイオエタノールを輸入すれば日本ではCO2を削減できるが、もしバイオエタノールの輸入元でその生産のために大量のCO2を発生させてしまったら、地球全体としてはCO2が増加してしまう事になるからである。
次で述べよう。

第2章 バイオエタノールのCO2削減効果

ではここで、実際に国内で消費されているガソリンを統計から得て、ガソリンが全てE10になった場合を試算してみる。これは日本でも米国のように、ほとんどのガソリンがE10化された場合に達成できるCO2削減量の目安にもなる。
2001年度の自動車によるガソリン消費量は約5,270万klである。この消費量を満たすE10は約5,470万klとなり、このうち90%はガソリンなので、E10をを導入した場合4,920万klがガソリン量になる。残りの550万klがバイオエタノール消費量となり、CO2排出量はゼロとみなされる。年間5,270万klであったガソリン消費量が、E10を導入する事により、4,920万klに消費が抑えられる。この差、350万klがE10により消費を避けることができるガソリン量である。この350万klにあたるCO2削減量は、830万tと運輸部門CO2排出量の約3%にあたる。
そして次にライフ・サイクル・アセスメント(LCA)によるCO2削減効果を述べる。
ここでいうライフ・サイクル・アセスメントというのは、原料の栽培からエタノールの生産という全てのライフサイクル全体にわたって環境への負荷を分析する手法をいう。

ケース:ブラジルからサトウキビを原料とするバイオエタノールを輸入する場合

サトウキビの生産・エタノールの生産時に排出されるCO2はエタノール1kl当たり212sである。このエタノールを10万tクラスのケミカルタンカーで日本まで輸送すると、1kl当たり56sのCO2が排出される。以上を合計すると268sのCO2がバイオエタノール1klの輸入までに排出されている。
これに対して、1klのバイオエタノールが削減できるCO2はいくらであろうか?熱量ベースで考えれば、1klのバイオエタノールは600lのガソリンを代替することが可能で、そのCO2削減量は1,380sになる。
ブラジルでのバイオエタノールの生産と、ブラジルからの輸入航路上で268sのCO2が排出されるが、日本国内では1,380sのCO2が削減され、差し引きすると1112sのCO2が削減される。
確かに、ブラジル国内とブラジル-日本間の海上でCO2が排出される。しかし、上記の事からそれ以上にバイオエタノールの使用によりCO2を削減する事ができる。
                                          

第3章 バイオエタノール供給ポテンシャル

輸入による供給可能性

バイオエタノールは世界各地で生産され、主に生産国内で消費される、いわゆる「地産地消」のスタイルである。一方、トウモロコシやサトウキビといった原材料栽培面、およびエタノール製造プラント能力から一定の供給余力も認められ、特に当面の供給源としてはこれらをわが国に輸入し国内のバイオエタノール需要に充当する手段が有望と考えられている。
輸入先には、サトウキビ生産国として数百万から1,000万klの輸出余力があるブラジルが候補として挙げられるが、エタノール生産量の不安定性や世界的なバイオエタノール需要増大による輸出余力の減少懸念も指摘されている。
また、海外からバイオエタノールを輸入する際、市場におけるバイオエタノール価格の動向に注意を払う必要がある。既にガソリン代替燃料としての位置づけが確保されている事から、バイオエタノールの価格がガソリン価格に追随している傾向が明確になっている。今後のバイオエタノール価格を見通す際は、一段と上昇しつつあるガソリン価格、原油価格、さらにはバイオエタノールの原料コストの動向に注視する必要がある。

国内資源による供給可能性

国内においても自動車用燃料利用を目的としたバイオエタノール製造プラントの建設が進んできている。
糖蜜やサトウキビ、テンサイ、規格外小麦といった各地域の農産資源を活用したもの、木屑や建設発生木材といった気質系バイオマスを利用したもの、さらには休耕田で栽培する多収量米を利用したものなど、多様な形態のプロジェクトが立ち上がっている。
これらのうち「バイオ燃料地域利用モデル実証事業」(農水省)にて採択され、現在施設整備に向けた取り組みが行われているものとして、北海道清水町では、テンサイ・米を原料として年1.5万klの生産を目標とする実証事業が具体例として挙がる。
しかし、日本では低い食料自給率の観点から、農産物を原料とした燃料用のバイオエタノール生産は可能性が低いといわざる得ない。こうしたことから、食料用途と競合しない、主に廃棄物を原料としたエタノール生産の可能性が注目されている。例えば、建築廃材などの木質系バイオマス資源をエタノール発酵する技術開発が進められている。
環境省による評価では、約200万klの供給可能量が示されており、さらには未利用樹や休耕田、耕作放棄地などでの資源作物栽培の利用を追加検討した三菱総研の試算例では、1,000万klを超えるポテンシャルが確認されている。

国内のセルロース系バイオマス資源の賦存量とエタノール生産可能量
バイオマス種 発生量 {万t/年}利用可能量 {万t/年}エタノール生産可能量 {万kl/年}
林地残材21419654
間伐材32318752
未利用樹12301230341
製材残材46519354
建築廃材47729682
古紙306280140
稲わら1015678188
合計518640581189
                                                     出典:「図解 バイオエタノール最前線」

ただ、いずれの試算についても、実際の利用にあたっては、@木質バイオマス調達コストも加味した製造コストの問題、A発電や熱量利用といった多様な木質バイオマスのエネルギー利用形態との競合が存在し、全てをエタノール生産用に仕向ける事はできないことに留意が必要である。

上記のような状況を踏まえ、ブラジル等からの輸入によるもの、国産資源での生産によるものを適切なバランスにて組み合わせ、安定的な供給の確保を実現する事が必要となる。

第4章 政策動向

バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議

2007年2月、バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議にて、バイオエタノールを中心とする国産バイオ燃料を2030年に向け大幅に生産拡大するためのロードマップが策定された。
この中では、ゲノム情報を利用した多収量品種の開発といった原料面の取り組み、稲わらや隣地残材といった分散資源の効率的な低コスト収集技術といった収集面の取り組み、連続同時糖化発酵といったエタノール製造技術面での取り組み、さらにはバイオ燃料導入促進のための社会インフラ整備に係る取り組みといった総合的な方策を講じ、2030年に向けての供給力拡大、コスト低減を目指すこととしている。
また、農林水産省の独自試算として、主な原料ごとの2030年時点での生産可能量が参考資料に示されており、2030年において600万kl(原油換算360万kl)が達成できる見通し。

 
2030年に向けた生産可能量の推計(農林水産省)
@規格外農産物・農産物副産物(糖・デンプン質)5万kl
A草本系180万kl〜200万kl
B資源作物200万kl〜220万kl
C木質系200万kl〜220万kl
Dバイオディーゼル燃料10万kl〜20万kl
合計600万kl
                           (出典:「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大」バイオマス・ニッポン総合戦略推進会議)

バイオ燃料技術革新協議会

2007年5月、自動車業界、石油業界、経済産業省により「次世代自動車・燃料イニシアチブ」が取りまとめられ、電気自動車、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車とともに、次世代燃料を担う燃料のバイオ燃料が位置づけられた。
要点
・バイオ燃料の導入にあたっては、食料と競合しないセルロース系エタノール製造技術開発が今後の課題。
・「国産バイオ燃料の生産拡大工程表」との整合性を図りつつ、経済的かつ多量にセルロース系原料からバイオ燃料などを効率的に生産する画期的な技術革新の実現を目指す。
・そのため、産学官連携の「バイオ燃料技術革新協議会」を設置し、具体的な目標、技術開発、ロードマップなどを内容とする「バイオ燃料技術革新計画」を策定する。

総務省

バイオエタノールの自動車燃料としての本格導入を控え、平成19年度にETBEの市場原理を念頭においた各種のリスク要因の抽出や安全対策の確立について検討を行っている。

農林水産省

バイオマス・ニッポン総合戦略に基づき、バイオ燃料の利用促進やバイオマスの総合的な利活用を推進することを大目標に掲げ、さまざまな国産資源の利用を念頭においた施策展開を図っている。
平成19年度には、国内3ヶ所(北海道清水町・北海道苫小牧市・新潟県新潟市)での事業を採択しており、合計で3.1kl/年の国産バイオエタノール供給力を確保する事としている。

経済産業省

「バイオ燃料革新技術計画」の策定により、中長期的なバイオエタノール供給力拡大、コスト削減に向けた総合的な施策展開が期待されている。
また、沖縄宮古島で実施されているE3流通実証事業や首都圏において実施されているETBE混合ガソリンの流通実証事業についても引き続き継続実施される事となっている。

環境省

環境省においては、京都議定書目標で定められた温室効果ガス排出抑制対策の重要対策の1つとしてバイオエタノールを位置づけ、さまざまな施策を実施している。
中でも中心的な存在はバイオマスエネルギー導入加速化に向け、「エコ燃料実用化地域システム実証事業」や「エコ燃料利用促進補助事業」などを展開している。こうした施策によって、大都市圏や沖縄県宮古島におけるE3流通・利用実証事業の推進や廃棄物などの資源からバイオエタノール製造に取り組む事業者を支援する事としている。また、環境省ではE10導入のための環境整備にも積極的に取り組んでいる。
また、環境省では京都議定書目標達成計画において2010年度に原油換算50万キロリットルを導入するとの目標が掲げられている。

日本の現状

しかし、上記の政策動向と違い国内のバイオエタノール普及への足並みは揃っていない。
というのは、政府は将来ガソリンへのエタノールの混合率を高める事を見越して、直接混合方式であるE3方式を普及させようとしている。E3は廃木材(いわば不要なゴミ)を材料にしているため、ETBE方式と比べて食料品などの影響が少ないとされている。環境省によると、廃木材から作ったバイオ燃料を商業的に販売するのは世界でも初めて。海外ではアメリカ・タイ・オーストラリア等がE10を導入している。
一方で、ガソリンを扱う石油連盟はETBE方式(エチルターシャリーブチルエーテル)を採用している。素材としてはETBEが既存の農産物エタノールを使用しているため、調達しやすい一方で、現在の食料品の高騰や生態系の変動につながる状況から批判の声も高まっている。海外では、フランス・スペインで利用されている。

現状の試験販売

先手を打ったのが石油業界である。
2007年4月、首都圏50箇所ののガソリンスタンドでETBE方式ガソリンの試験販売を開始した。これは、環境意識の高いユーザーに利用され、月間累計1万キロリットルの販売に成功している。
ETBEをガソリンに混合しても、蒸気圧が上昇せず、ガソリンからの燃料蒸発ガスを増加させないため、光化学スモッグの発生に影響を及ぼさない。また、ETBE混合ガソリンは、水分が混入しても、ETBEが水と混和して分離することがなく、水分を除去することも可能であり、ガソリンの性状は変化しない。このため、金属の腐食やゴムの劣化等が生じず、自動車の安全性や走行性能に問題を生じない。
問題点として、ETBEについて、急性毒性、発癌性などのデータ・情報が十分ではないことから、その人体への影響・毒性評価はまだ十分には明らかになっていない。

後手環境省は10月から大阪府2箇所のガソリンスタンドで直接混合方式による試験販売を開始した。上記でも記したが、ここで販売のガソリンは木材を原料にしており、商業用としては世界初である。
メリットとしては、間伐材なども利用できるため後述するバイオ流用による食品生産への影響が少ないことがあげられる。
しかし、バイオ燃料製造に必要なガソリンの供給について、大手元売り10社に協力を求めたが拒否され、結局ガソリンは元売り業者とは無関係の商社などから、調達することでスタートにこぎつけたのである。また、GS側も元売り各社への配慮から「直接混合方式」の販売を躊躇する店が目立つ 。
以下、E3方式とETBE方式で対立する環境省と石油連盟との状況を読売新聞から抜粋する。

バイオエタノールのガソリンへの混合法は2種類ある。バイオエタノールをガソリンに直接混ぜる「E3方式」と、バイオエタノールを石油ガス(イソブテン)と化学反応させたETBEと呼ばれる液体燃料を、ガソリンに混ぜる「ETBE」方式だ。 導入が決まっているのはこのうち、ETBE方式の21万キロ・リットルのみ。残り29万キロ・リットルをどう達成するのかは道筋さえ見えない。
というのも、国内の8割以上のガソリンスタンドを傘下に置く石連が、環境省が導入を進めるE3方式に反対を表明。E3に混ぜるガソリンを販売しない意向を示しているのだ。

反対する最大の理由は設備費だ。各ガソリンスタンドの直前の段階で混合させるE3を全国に普及させるとなると、施設改造費にETBE方式より数千億円余計にかかる。さらに、E3方式の欠点として、
〈1〉雨水が混ざると品質が低下する
〈2〉E3から蒸発したガスが光化学スモッグを招く恐れがある
〈3〉流通段階で脱税目的で混合される可能性がある
とも指摘している。一方の環境省はE3方式の実用化に向けた実証事業を大阪府で計画しているが、せっかくできたエタノールも混ぜるガソリンがない。苦肉の策として、石連に加盟しない石油元売り会社のガソリンも含め調整中だが、その供給量はごくわずかで目標達成にはほど遠い。
また、当初はE3方式を主張していた農林水産省も、国産バイオエタノールの販売先確保のため、ETBE方式になびいている。ホクレン農業協同組合連合会(北海道)も、製造したバイオエタノールを、ETBE向けとして石連加盟社に販売する方針。「E3方式」包囲網は広がる一方だ。

しかし新聞にはこうとも書いている。

しかし、早稲田大の大聖泰弘教授(環境・エネルギー工学)のように、「ETBE方式だけでは、バイオエタノールの利用を拡大したくても限界がある」と指摘する専門家は多い。
ETBEは、エタノールとともに一定割合のイソブテンを必ず一緒に混ぜなければいけない。エタノールの量を増やしたくても限度があるのだ。仮にガソリンは一切使わず、ETBEだけにしても、実際に混ぜられるエタノール量は50%以下。燃費面からも非現実的だ。 さらに、石油精製時にできるイソブテンの供給量は少なく、「その量から逆算すると40万キロ・リットルが限界」(環境省)。京都議定書の目標達成計画はもとより、松岡農相の進言で安倍首相が導入を指示した600万キロ・リットル達成などは夢のまた夢といったところだ。
海外では、農業振興の意味も大きいこともあって、バイオエタノールを直接混ぜる方式が主流だ。地球温暖化抑制のためにも、混ぜられるエタノール量に限界のあるETBE方式より、直接混合方式の方が可能性は秘めている。最初のE3からつまずいている政府部内ではすでに、目標達成計画の見直し論も出始めているが、環境省は「石油業界との協力を得て普及していきたい」と繰り返すばかりで、双方の協議はいまも実現していない。(2007年4月27日 読売新聞)

石油業界がE3方式に反対する理由として、品質やコストの問題以上にE3方式が普及するとガソリン販売が急減しかねないためだと考えられる。
石油連盟はETBE方式ならば従来の石油精製施設を利用できるが、E3方式だと純粋なエタノール混合のための専用タンクが必要で、流通体制も根本的に見直さなければならない。新たな設備投資が必要なうえ、将来的には新規業者の参入も見込まれることから既得権益を侵されると見ているようだ。このような思惑が見え隠れする。

今後の課題

@供給コスト低減・供給安定性向上

現状の供給コストはガソリン等の既存燃料に比して割高であり、今後のコスト低減が必要とされている。具体例を挙げるならば、原料栽培・調達であれば、サトウキビの栽培技術向上であったり、エタノール製造であれば新規技術の継続的開発等が挙がる。
事実、1970年代から本格的にバイオエタノールを導入してきたブラジルにおいても初期段階でのコストに比し、普及拡大に伴う習熟効果や技術開発の効果などによりきわめて大幅なコスト低減を実現している。
バイオエタノールを全国ベースに展開していくには、その需要に応じた供給力を確保することはきわめて重要な課題となる。そのためには、国産資源を最大限活用できるよう技術開発を着実に推進していくことに加え、海外の調達先をブラジル1カ国に頼らず、複数の供給先に分散し確保することで供給安定性を高めることが不可欠である。

個人的には、「林地残材」と「稲わら」に着目したい。

林地残材
「林地残材」とは、林地に残された材のことを言い、森林の間伐材等は潜在的に大量のバイオマスがある。
しかし問題点として、収集・運搬コストがかかることに加え、日本の山地は傾斜が激しいため、収集作業も難しい。現段階でコスト低減が直近の問題として、農林水産省は今年度から実証事業として32億円の補助金を確保。
また具体的には、
1.木材生産の取組と連携した林地残材の収集・運搬システム
2.効率的に収集する高性能林業機械
この2点の開発を行う必要がある。

稲わら
現在、バイオ燃料の原料として主流のトウモロコシやサトウキビは食用との競合で価格が高騰している。しかし、一方稲わらは、食用にならないため、量が多く、低価格で調達できるメリットがある。おまけに大半が廃棄されている。
中国のコメ生産量は05年で一億八千万d、タイのコメ生産量は二千七百万d。この全ての稲わらを日本の技術を活用してバイオエタノールに転換したと仮定すると、およそ年間一億klが生産可能になる。
これはおよそ日本の年間ガソリン消費量の1,5倍にあたる。
これが意味するところは、廃棄されたものを有効活用し、環境に配慮できることに加え、食用のトウモロコシなどの高騰を抑えることができる。課題としては、稲わらは大半が生産地で廃棄されるため、収集ルートの確立などが挙げられる。利点はごく短期間で再生できる点である。他にも非食用のバイオ燃料としては、建築廃材や家畜の糞尿などを原料にした研究も進んでいる。
低コスト量産2015年目標
企業の取り組みとしては、新日本石油・トヨタ自動車・三菱重工業など国内大手16社は大学や政府機関と共同でバイオエタノールの低コスト量産を開発する。植物廃材を原料に、2015年に1g当たりの生産コストを40円と、国際競争力のある水準まで下げることを目指す。 現在の国内でのバイオエタノールの生産コストは効率の最もよいサトウキビからでも1g140円程度なので、実現すれば3分の1以下の価格になる。世界のバイオ燃料の7割を占める米国やブラジルではトウモロコシやサトウキビを使い同40円程度で量産している。日本と海外の価格の差は、国土の狭い日本では生産規模が小さいため低コストの製造が難しいからだ。

A導入基盤の整備

2010年に向け全国各地で本格導入される状況を想定した、各種の導入基盤整理が必要。
それは安全性などに係る基準の明確化が必要である。E3の給油取扱所での当面の運用指針は定められているものの、E10も含めた技術基準やガイドラインなどの整備、さらに安全性に配慮した上での規制緩和などが必要である。
なお、バイオエタノールをガソリンに混入して利用する際の揮発油税課税については、バイオマス起源燃料については非課税になる方向で議論が進められており、導入促進のための普及基盤が1つずつ揃いつつある状況といえる。

第7章 まとめ

これまで見てきたように、バイオエタノールを本格的に普及させるまで、課題・難題が多い。
しかし私は声を大にして、「国内で何をまごまごしているのか」と言いたい。E3方式・ETBE方式共にメリット・デメリットあるのだから、日本として選択をして決断をしなければいけないと私は考える。
私は、日本はE3方式を採用し、国を挙げて取り組まなければいけないと考える。確かに、水分が含んだ際品質を保証できるのかという疑問や施設改造費にETBE方式より数千億円余計にかかるコスト等が課題として挙がるが、優先すべきは「バイオエタノールを導入してどれだけCO2が減らせるか」が、この問題の一番の目標であるはずである。
その優先順位を考えるならば、将来10%以上を見込める直接混合方式を採るべきではないか。そのためには、環境省と石油連盟は議論を尽くさなければいけない。 政策提言として私の案は、
@今の段階で品質の保証ができない点に関しては、環境省が国民に説明をし、理解を得なければならない。この事業は国策である事を伝える。
A施設改造費に関しては国を保証機関として、石油連盟・商社等企業からの投資を募る。何故なら、この事業は国が成功させたい新規ビジネスである。頓挫の可能性は低く、世界的にも今後成長が望める分野であるため。
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