早稲田大学社会科学部
政策科学研究 上沼ゼミナール
井上 素子 Inoue Motoko
©2009 m-inoue All rights reserved.
|
研究テーマ:育児の社会化を目指して
《女性労働をめぐる問題から》
私は労働問題という講義で、労働に関してこれまで特に労働組合、地域雇用、女性労働といった項目に興味を持ってきた。
女性が働くというと、「家庭」特に「育児」に関わる事が一番の問題点となるのではないだろうか。自分自身が就職活動を経験し、仕事の内容だけでなく、働く環境や制度の大切さを間に当たりにした。
そうした中で、少子化の問題が大きく取り上げられている現在、次世代育成を真に推進するためには、労働環境を整えるべきであると強く思うようになった。
私はこうした考えを持ち、仕事と育児を両立できるような施策を充実させ、活用することはもちろん、その先に男女を問わず、柔軟に働けるような労働環境を目指すことを目標としたいと考えている。
そこで注目し、気になる言葉が”ワークライフバランス”である。仕事と生活の調和を支援するという考えであり、力を入れて取り組んでいる企業を厚生労働省が認定・表彰している。しかし問題と感じる点は、例えば表彰を受けた企業であっても、「男性の育児休暇取得」という条件に対し、(半ば無理やり)1名が取得し、厚生労働省の認定を受けている企業もあることである。
そうした実態を改善し、真のワークライフバランスを推進できるよう、次世代育成支援の観点から考えていきたい。
またそもそも、主に育児を担うとされる女性の待遇改善をするには、男性の働き方も根本から見直していく必要があると思う。それは雇用の問題におけるジェンダーについて学び、問題の根本となっているのは全体の意識であり、最終的には男性の働き方についての考え方や制度を変えていかなければならないということにいきついたからだ。
そうしたことから、女性だけに良い施策ではなく、男性にも良い施策が浸透していくよう社会的に促進する政策について考察したい。そして、育児保険構想についても検討し、介護保険のように利用され、育児を社会的に支援する策を考察していきたい。
- 序章 研究動機
- 第1章 少子化対策の現状と問題点
- 1、少子化の現状
- 2、これまでの政府の動き
- 第2章 仕事と子育ての両立支援政策
- 1、ワークライフバランス
- 2、企業の取り組み事例
- 第3章
-
- 第4章 育児保険の創設
- 1、佐賀県 育児保険構想
- 2、政党の構想(民主党)
- 3、育児保険をめぐる声
- 第5章 諸外国の育児政策、家族政策との比較
- 1、イギリスor韓国orフランス・スウェーデンの子育て支援
- 2、国内の子育て支援
- 終章 政策提言 育児の社会化を目指して
- 参考文献
◆1、少子化の現状
図1 出生数及び合計特殊出生率の年次推移(厚生労働省 平成20年人口動態統計)
○少子化の進行
・日本の年間出生数は1973年以降減少傾向が続いていて、現在は(2008)まで減っています。出生率(合計特殊出生率)でみても、当時最も高かった1971年の2.16から、2003年には4割減の1.29になっています。この数値は人々の1年間の子どもの産み方を示すもので、「生涯の子ども数」とは異なるが、長期的に人口を維持できるといわれる水準の2.07よりかなり低く、こうした少子化の結果、日本の総人口は減少し始め、また人口高齢化が進行しています。
○少子化の要因
・年間の出生数は、親となる世代の人口規模と、彼らの子どもの生み方(出生率)によって決まります。少子化過程の出生数の減少には、この両方、つまり親世代の縮小と、子どもの生み方の変化が同時に影響してきました。このうち、子どもの生み方が変わった最も大きな要因は、結婚のし方が変わったこと(晩婚化・未婚化)です。これに加えて、90年代からは結婚後の出生ペースの低下も見られるようになりました。なぜ、結婚のし方や結婚後の子どもの生み方が変わったのかは、社会・経済の変化全体が関係しています。経済変化による働き方や消費生活の変化、男女、家族など社会関係や価値観の変化・多様化、さらにそうした変化と従来の慣行、制度との齟齬が指摘されています。そして、このような出生率の低下は、おおむね先進国に共通した現象です。社会経済の変化にともなって、もし人々の間に結婚や出産を望んでいるのに、しにくい事情が生じているとすれば、これを取り除く必要があります。
○出生率低下の社会的背景
これまで様々な角度から対策を進めてきたものの、様々な社会の変化に対して、対策が十分に追いついておらず、出生率の低下が進んできた。
@働き方の見直しに関する取組が進んでいない。
・子育て期にある30歳代男性の4人に1人は週60時間以上就業しており、子どもと向き合う時間が奪われている。
・男性の家事・育児に費やす時間は世界的にみても最低の水準であり、その負担は女性に集中。
・このような「職場の雰囲気」から育児休業制度も十分に活用されていない。
A子育て支援サービスがどこでも十分に行き渡っている状況にはなっていない。
・二期にわたるエンゼルプラン、平成14年度からの「待機児童ゼロ作戦」で保育サービスの拡充を図るものの、保育ニーズの増加により、待機児童はまだ多数存在。
・地域協同体の機能が失われていく中で、身近な地域に相談できる相手がいないなど、保育所を利用していない家庭(専業主婦家庭)の子育ての負担感が増大。
B若者が社会的に自立することが難しい社会経済状況。
・若年者の失業率は厳しい状況が続いており、特に24歳以下は、近年急速に上昇。
・雇用の不安定な若者は社会的、経済的に自立できず、家庭を築くことが難しい。
○少子化が進むと…
・日本の人口は減少を始め、労働人口の減少、とりわけ若い労働力の縮小と消費市場の縮小による経済への影響が懸念されます。また高齢化が進むことで年金、医療、介護などの社会保障費が増加して、国民の負担が増大することも懸念されています。ただし、経済や生活は人口だけで決まるものではないので、そうした懸念を実現させないための工夫を国、自治体、企業をはじめ国民全体が協力して築いて行けるかどうかが重要な点だと考えられています。そして一番大きく変わるのは、なにより日本人の生き方だと思われています。「日本の将来推計人口」では、現在20歳前後の女性の6人に1人が生涯結婚せず(現在は20人に1人)、3割以上が子どもを持たないこと(現在は1割)が想定されています(2002年中位推計)。これは歴史的にも例のない社会だと思われます。その他、人口減少、人口高齢化の影響は社会全体に及ぶと思われます。ただし、そうした人口構成の変化は少子化(出生率の低下)だけでなく、寿命の伸びや人口移動によっても大きく影響されます。
◆2、これまでの政府の動き《少子化対策》
「1.57ショック」から「「子どもと家族を応援する日本」重点戦略」まで
・我が国では、1990(平成2)年の「1.57ショック」を契機に、出生率の低下と子どもの数が減少傾向にあることを「問題」として認識し、仕事と子育ての両立支援など子どもを生み育てやすい環境づくりに向けての対策の検討を始めた。1994(平成6)年に「エンゼルプラン」を策定し、1999(平成11)年度を目標年次として保育サービスの充実が図られた。1999年12月、エンゼルプランが見なおされ、保育サービス関係だけでなく、雇用、母子保健・相談、教育等の事業も加えた「新エンゼルプラン」が策定され、2000(平成12)年から2004(平成16)年まで推進された。
・2002(平成14)年9月に厚生労働省においてまとめられた「少子化対策プラスワン」では、従来の取組が、仕事と子育ての両立支援の観点から、特に保育に関する施策を中心としたものであったのに対し、子育てをする家庭を全体として支える視点から、社会全体が一体となって総合的な取組を進めることとされた。その後、2003(平成15)年7月、地方自治体及び企業における10年間の集中的・計画的な取組を促進するため、「次世代育成支援対策推進法」が制定され、2005(平成17)年4月から施行されている。
・2003年7月、議員立法により、「少子化社会対策基本法」が制定され、それを受けて、2004年6月、少子化に対処するための施策の方針として「少子化社会対策大綱」が策定された。大綱では、「3つの視点」と「4つの重点課題」とともに、「28の具体的行動」を掲げ、内閣をあげて取り組むこととしている。
・2004年12月、少子化社会対策会議において、「子ども・子育て応援プラン」が策定された。応援プランは、少子化社会対策大綱の掲げる4つの重点課題に沿って、2005年度から2009(平成21)年度までの5年間に講ずる具体的な施策内容と目標を掲げ、施策の項目数は約130に及ぶ総合的な計画である。国民の目線も取り入れ、おおむね10年後を展望した「目指すべき社会」の姿を提示している。目標値は、全国の市町村計画とリンクしたものにすることにより、応援プランの推進が、全国の市町村行動計画の推進を支援することにもなる。
・予想以上の少子化の進行に対処し、少子化対策の抜本的な拡充、強化、転換を図るため、2006(平成18)年6月、少子化社会対策会議において「新しい少子化対策について」が決定され、@社会全体の意識改革と、A子どもと家族を大切にする観点からの施策の拡充という2点を重視し、40項目にわたる具体的な施策を掲げている。
・少子高齢化についての一層厳しい見通し等を踏まえ、2007(平成19)年12月、少子化社会対策会議において「子どもと家族を応援する日本」重点戦略が策定された。欧州諸国に比べて家族政策全体の財政規模が小さいと指摘されている中、重点戦略においては、結婚や出産・子育てに関する国民の希望と現実のかい離に注目し、就労と結婚・出産・子育ての二者択一構造を解決するためには、「働き方の見直しによる仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現」とともに、その社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」を「車の両輪」として、同時並行的に取り組んでいくことが必要不可欠であるとしている。また、重点戦略では、効果的な財政投入の必要性を「未来への投資」と位置付け、国民が希望する結婚や出産・子育ての実現を支えるための児童・家族関係の給付やサービスについて推計したところ、追加的に必要となる社会的なコストは1.5 〜 2.4兆円になるとしている。
図2 少子化対策の経緯(平成21年版 少子化社会白書)

厚生労働省認定 くるみんマーク
・鈴木眞理子『育児保険構想 社会保障による子育て支援』筒井書房(2002)
・汐見稔幸 監修『子育て支援シリーズ 子育て支援の潮流と課題』ぎょうせい(2008)
・山田昌弘『少子社会日本ーもうひとつの格差のゆくえ』岩波新書(2007)
・杉田あけみ『ダイバーシティ・マネジメントの観点からみた企業におけるジェンダー』学文社(2006)
・厚生労働省ホームページ
・共生社会政策統括官 少子化対策
・国立社会保障・人口問題研究所 少子化情報ホームページ
・株式会社ワークライフバランス HP
Last Update:2009/7/28