【インフラの定義…一般的には「人々に、便利な暮らし、安全、良い環境、活力を提供する施設(ハード)とその建設・運用・維持管理システム(ソフト)」とされる。今回はその中でも、受注競争が活発な発電システムと上下水道の設備に重点を置く。】
第一項 水資源
水は全ての生命に必要不可欠な物質であり、人類にとって生活を支える重要な資源である。地球表面には約13.9億平方キロメートル(一つの水玉に集めたと仮定すると直径が月の約半分に匹敵)の水が存在する。
しかし、そのほとんどは海水や氷河など、人類が使用することが困難な水である。人類が利用可能な淡水源(浅地下水・河川水等)は。0.001億平方キロメートル(全体の0・01%・家庭用お風呂一杯の水のうち大匙一杯強に相当)に過ぎない。
第ニ項 増大する需要
一人当たりの水使用量は、生活水準の向上によって増加する。20世紀は、都市化・工業化がすすんが100年であり、世界の水使用量は、人口増加率をはるかに凌駕する割合で増大してきた。
現在。世界で週取水された水は、およそ農業用7、工業用2、生活用1の割合で使われているが、今後も生活様式の変化や産業の発展に伴い、生活用、工業用の水需要は大きく伸びると考えられる。さらに人口増加により、全世界の取水量は、2025年には2000年と比べて約3割増加すると見込まれている。特に人口増加の著しいアジアは、世界の全取水量の約6割を占める。
我が国では、これまでのところ水不足が顕在化しているとまでは言えないが、世界各地から農産物を輸入することにより、農産物の生産に要した灌漑用水を仮想水(バーチャル・ウォーター)として輸入しているとの指摘もある。その量は年間約800億平方メートル(2005年環境省推計)に達し、日本全体の年間水使用量834億平方メートル(同年国土交通省推計)に匹敵するほどであり、その意味にいいて我が国も世界の水不足と無縁ではない。
第三項 水質の悪化
人口の増加と経済活動の増加に伴い、水質汚染も深刻化しつつあり、『資源」としても清浄な水は減少してきている。
主として発展途上国では、都市化の進展や生活様式の変化により生活用水の使用・排出が増加する一方、下水処理への対応は遅れている。また、農業の近代化や生産量の増加に伴い、水系に流出する肥料由来の栄養塩が増加し、これらが組み合わさって水域の富栄養化も進んでいる。さらに、工業排水の増加も併せて、水質汚染が顕在化・深刻化しつつある。
特に中国における水質汚染の被害は甚大で、第9次五カ年計画において三皮三湖を取り組みの重点地域として指定して以来、その対象は拡大し続けており、河川水量の過半が飲料に適さない水準まで汚染されているとも言われている。
(引用:※1P7)
第一項 日本のインフラ産業の歴史
日本は明治時代以降の近代化は、鉄道(全国網、都市大量輸送機関)、道路、治水、水力発電、土地造成(特に関東大震災を契機)などのインフラの上に成り立ったものである。
日本国内で現在使われているインフラは、明治−戦災復興−高度成長 を経て形成されたものが主役になっている。
明治から第二次世界大戦までに構築されたインフラは現在も活きており、その分野は以下の通り多岐に亘っている。
交通:鉄道在来線、一般道路
エネルギー:水路式発電(琵琶湖疏水、富士川発電所群)
水・河川:治水(基本は江戸から)、港湾・航路
(土木学会会長提言特別委員会 「インフラ国勢調査部会」報告書 2008年5月 より)
高度経済成長期
高度掲示成長を成功させた政府のインフラ計画の主要なものには以下のものがある。(「もはや戦後ではない」という1956年のキャッチフレーズは有名)
水資源開発基本計画(1960):今日の水資源利用システム(ダムなど)はこの計画に基づく
高速道路網計画:ワトキンス調査団報告(1956)を基本として名神、東名などの高速道路が建設され、東京においては首都高速道路が建設されて1964年の東京オリンピックを成功させた
新幹線計画:東海道新幹線1964年完成
エネルギー・電力計画:水主火従から火主水従 さらに原子力主へ
臨界王行地帯の造成計画:京葉を代表として大規模な工業地帯が造成された。
国内のインフラ特徴
高度経済成長を成し遂げたことは評価されるが、環境汚染や公害などのマイナスの経験もしてきた。また、欧米諸国に比べてインフラの蓄積年数は少ないが、台風などの自然災害や急峻な地形など、欧米諸国にはない特徴がある。こうした経験があるからこそ、さらなる技術の発展があった。こうした経験の共有という意味でも、日本はインフラ設備の輸出に注力すべきであると考える。
第二項 国内水ビジネスの課題
日本の水関連産業は、「部材・部品・機器製造分野」、「装置設計・組立・建設分野」、「運営・保守・管理分野」において、多数の企業が存在し、それぞれの分野毎に個別に事業を展開しており、分野の垣根を越えて横断的に事業を展開する企業は少ない。
一方、水メジャーは、装置設計・組立・建設から運営・管理までを自社単独で一貫して元請けするサービスを提供している。こうした水メジャーは、自国における水事業の運営・管理を通じ、安定した財務基盤を有している。その上で、相手国の企画、水源や水利用の実情に応じた最適かつ低コストな技術を利用するとともに、料金体系を構築し、長期にわたる事業を管理・実施する強みを有する。特に、相手国政府が水処理に関するマスタープランを策定する段階から人材を派遣する等により深く関与し、自社に有利な技術の採用や入札条件を設定しているのに対し、日本企業は主として部材・部品・機器の納入や装置設計・組立・建設といったサブ・コンストラクターとしての参画にとどまっている。
海外市場において水ビジネスを展開するためにはこうした相手国が求めるニーズを踏まえた提案力、水源から蛇口までの各プロセスの機器・システムをトータルコーディネートし、マネージする力が求められるが、日本は上下水道施設の運営・管理事業が長らく公営事業として実施されてきたため、その技術やノウハウは地方公共団体に蓄積されている。また、国内水事業については、上下水道設備の改修・更新需要の増加などから、これまで国内水事業を担ってきた地方公共団体の将来的な財政負担の増大が懸念されているものの、民間活力の導入に向けたインセンティブの不足等を背景として、国内水事業の広域連携や包括的民間委託に向けた取り組みは進んでいない。
第三項 世界市場の動向
今後、中国、インドをはじめとした新興国及び東南アジアの国々において、人口の増加や経済発展・工業化の進展に伴い、水処理に対する需要が急速に高まると見込まれている。
次から、現在及び将来の水ビジネス市場の見通しを、「地域別」・「事業分野別」に分析することで、どの「地域」で、どのような「分野」にビジネスチャンスがあるかについて概観する。
地域別
地域別に見ると、南アジア、中東・北アフリカが、年間10%以上の市場の成長が見込まれる。また、市場規模の観点からじゃ、東アジア・太平洋が
北米・西欧の市場を今後20年の間に抜き去り、世界最大になる。
国別には、中国、サウジアラビア、インドが、市場規模及び市場の成長率の両面から見て注目される。
事業分野別・業務分野別
水ビジネス市場は、2007年の約36兆円規模から、2025年には約87兆円に成長すると世予想される。事業分野ごとには、運営・管理サービス業務と素材供給・建設業務はおよそ同程度の市場規模が見込まれる。
得い、市場の大きな部分を占めるのは上下水道分野。この分野は、2007年には市場全体の約90%に当たる32兆円の市場規模であるのに対し、2025年には市場全体の約85%に当たる、74.3兆円の市場が見込まれている。(経済産業省試算)また、規模こそ小さいが、海水淡水化、工業用水・工業下水、再利用水はいずれも今後急速に市場が成長する分野として注目される。
第四項 新興国の台頭
1、シンガポール
1964年、水資源を一括管理する公益事業庁を設立。2004年にウォーターは部を設置し、国内外からの研究機関を集積するとともに、国内の上下水供給施設の運営・管理をハイフラックス社等に委託。同委託事業の事業実績を活かし、近年は、中国や中東・北アフリカ地域でのビジネスを急速に拡大している。(2008年ハイフラックス社売上:約360億円)
2、韓国
2000年代に入り、政府が水分野の長期的な研究開発プロジェクトを集中して実施。主要水関連企業である斗山(Doosan)社は、海水淡水化プラント建設・運営等の造水事業の分野で中東や北アフリカへ積極的に進出している。(2008年売上…斗山社:約27億円)
3、スペイン
スペインは、1995・1996年と続いた干ばつを契機に外国からの投資を促進し、より多くの民間事業者の参加に向けた市場開放を進めるため、1997年から国内の水ビジネス市場の開放を検討」。1999年には、スペイン国会において、水源保護のための立法を実現。これによち、政府が必要なセクターに水を再分配する「ウォーターバンク」の設立や、海水淡水化や再利用水活用に関する新たな規制が設けられた。
水ビジネスへの民間事業者の参加は、フランコ政権下においては規制されていたものの、1976年以降、、民間事業者の参加率はじょじょに高まりを見せるようになった。2010年までには、全供給契約の75パーセントが民間事業者により運営される見込み。
第四章 海外における上下水道官民連携の戦略と動向
第一項 アメリカ
公営水道が主流
アアングロサクソン民族は伝統的に公による管理や介入、公への依存を嫌い、民の自主・自立的傾向が強い。植民地時代から民営水道は主に人口稠密で富裕層の多い都市部に投資・発達し、20世紀初頭、民営水道事業数は90%を超えていた。その後、人口増加や保険・公衆衛生の必要からじょじょに州の監督した、市町村が責任を持つ公営水道に移行し、今日、公営水道は全事業数の85%に達している。その多くは小規模水道である。この国では実務上、水道は家屋の従物として扱われており、建築行政の監督下に置かれている。1970年代以降、効率化を求める規制緩和の動き(レーガノミックス)とともにこの分野への民間参入が増えてきた。さらに、近年まで連邦の補助金支給の条件ろIRS(内国収税庁)による規制が水道事業の民間委託の障害になっていた。つまり、水道事業の建設運営契約は5年が限度だったのだ、これが1997年に20年に延長され、民間の投資回収が容易になったため、民間委託は今後活発化すると期待されている。
第ニ項 イギリス
完全民営化定着
水道は伝統的に都市部を中心に民間企業により普及・発展してきたが、その後、給水は1875年、公衆衛生法が制定され、民が対応しない場合、補完的に市町村の責任とされるようになった。1904年、8民間水道会社が給水していたロンドン首都圏において首都圏水道組合(MWB)に公営化された。さらに、約半年後の1974年、イングランド、ウエールズにおいれ上下水道、河川、灌漑、水質管理など水に関わる全ての行政は全国10水管理公社に(国有)一元化された。その後、サッチャーリズムによる規制緩和推進とともに1989年には上下水道は完全に民間経営(有限会社 PLC)に移された。この国の水道事業の経営形態は時代とともに民→公→国→民と変遷を遂げた。ウエールズ水事業会社(グラス・カムリ)出資携帯の変更は英国に特有な制度によるもの。
第三項 フランス
公設民営の伝統
上下水道、環境など各種の地方的事務は基礎的自治体であるコミューン(市町村、またはその協働処理事務組合)の責任、権限である(1992年水法ではこに責任・権限を公的主体以外に譲渡できないとされる。)
コミューンの数は約3万6000を超え、中でも人口1000人未満が75%を占めるなど小規模なものが圧倒的に多く、行政能力の不足を補うため公衆衛生の見地から専門技術が必要な上下水道分野において、古くは1850年代以降、民間企業(CGE、LDE、SAURなど)により委託処理されるようになった。今日、フランス国内の上下水道の民間会社に対する業務委託(主に賃貸契約)は80%を超えている。
第四項 ドイツ
民営化進む:連邦主義をとるドイツでは、広範な立法権限を連邦が持ち、その行政執行は州が受け持つ構造になっている。自治事務である水道事業は市町村の義務事務とされ、市町村の議会の意志に基づき、行政機関を通じて執行される。
1990年代、ベルリン市は財政難を理由に電力、ガスとともに水道事業を民間売却したが、ベルリン水道(BWB)は1997年以降、ビベンティ(仏水道会社)、RWE(独電力会社)など民間コンソーシアムが49.9%、市が50.1%を所有する持ち株会社の参加に入った。このような動きとともに市町村との契約による民間水道、または事業統合との委託が増えている。(約20%)。その後、RWE社は電力事業に資源を集中するため水事業から撤退した。
第五項 中南米諸国
水道民営化が進んでいる都市、様々な理由から推進者が撤退した都市が混在している。
PPP、定着化へ
1991年以降契約され、2007年現在引き続きPPPが機能しているものは全体の89%で、終了、撤退したものは16%となっているとする世界銀行報告(2009都市水道事業におけるPPP)がある。
第一項 経済産業省の対応
2009年7月に、日本の水関連産業の国際展開を支援するための専属部署として「水ビジネス・国際インフラシステム推進室」を設置し、同年10月に産業界、政府関係機関を識者とした「水ビジネス国際展開研究会」を発足した。今後は経済産業省の行動計画に基づき、戦略国との政策対話の実施に加え、水関連産業が強みを有する革新的な要素技術の開発、これら要素の技術を活用した水循環モデルの実証支援など、国際展開の支援を行う。
また、機器の納入から運転・保守のまで一貫して受注するパッケージ型インフラ海外展開に積極的である。
第ニ項 内閣の対応
昨年6月に閣議決定された新成長戦略において、パッケージ型インフラ海外展開を21の国家プロジェクトの一つとして位置付けた。
パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(9月9日)
・インフラ分野の民間企業の取り組みを支援するため、以下の事項について、国家横断的かつ政治主導で判断を行う。
(1)個別の重点プロジェクトの取り組みの支援
(2)重点分野の戦略策定、横断的・構造的問題の改革
・議長:内閣官房長官
構成員:総務大臣、外務大臣、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、環境大臣及び国家戦略担当大臣
第三項 地方自治体の動き
1、北九州市
水道システムの輸出を目指すべく、企業や金融機関と事業化について話し合う「海外ビジネス推進協議会」を設立。
水不足に悩む国々に、市の管理ノウハウや企業の先端技術を売り込んでいく方針を決めた。
現在の日本が抱える課題は、保守・点検などの運用の面に関する受注が取れないことである。これは、水道事業の管理は地方自治体が行っていることにある。
そこで、電電公社・電力会社同様に水道事業も民営化すべきであると考える。これは、「行政のスリム化」に基づいた考えではなく、インフラの輸出を促進に軸足をおいた政策である。
また、企業は今ある技術を失わないためにも、積極に政府に働き科かけていく必要がある。
インフラの輸出をもって、日本の将来が明るいものになることを願ってやまない。
※1 ・水ビジネス国際研究会,『水ビジネスの国際展開に向けた課題と具体的方策』,平成22年4月
・水道公論,『官民連携・水道界の海外進出を考える』,2010年4月号
・『水道技術を輸出』,朝日新聞 2010年9月1日、朝刊12ページ
・『基礎からわかる水ビジネス』,読売新聞,2010年5月13日、朝刊13ページ
・『水ビジネス海外新戦略』,読売新聞,2010年4月11日
・『下水道分野の国際展開について』,国土交通省下水道部
・『スマートシティ』,日経ビジネス,2010年9月6日
・『世界を潤せ官民合流』,日経産業新聞,2010年11月25日
・『インフラ関連産業の海外展開のための総合戦略〜システムで稼ぐ』,経済産業省,平成22年8月5日
Last update:25/02/2011
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