政策科学研究 上沼ゼミナールV

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--研究テーマ--
日本における環境税の導入について



--研究動機--

近年、地球温暖化などの地球環境問題に他する議論が活発になっています。なかでも、欧州諸国で導入されている環境税について、環境税が環境問題に対して一定の効果を持っているならば、なぜ日本では導入していないのかが気になり調べ始めました。
京都議定書に定められた目標の達成が困難な状況あり、資源にも乏しい日本において、環境税を導入することで環境の改善、省エネルギー化や新エネルギー開発を促進できないか研究していきたいと思います。

--章立て--


第1章: 環境税とは


環境税とは、負荷の抑制を目的とし、かつ、課税標準が環境に負荷を与える物質に置かれている税の事を指します。特に温室効果ガス抑制のために化石燃料に課税をする環境税を「炭素税」といいます。

また環境税には二種類あり、課税そのものによる削減効果を活用した「経済的手法としての環境税」と、財源使途を環境対策にした目的税としての側面を持つ「環境財源としての環境税」があります。

すなわち環境税は、市場のルールに環境利用コストを織り込むことで、そうでない場合に比べ、環境資源の浪費を防ぐことを目的としたものであり、税制のグリーン化を徹底したものと言えるでしょう。


第2章: 世界各国での環境税


世界各国で国家規模で行われている環境税は、炭素税であることが一般的です。欧州ではフィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダ、ドイツ、イギリス、イタリア、デンマーク等ですでに導入されていて、いずれも温室効果ガス排出量削減を実現しています。

また欧州以外の国でも、アメリカのボールダー市やカナダのブリティッシュコロンビア州で導入決定が表明されています。これらの国々の環境税は炭素税が一般的ですが、税率は国ごとによって大きく異なります。

導入方法については @既存のエネルギー税制の引き上げ A既存のエネルギー税制の対象外エネルギーに新税を導入 B既存のエネルギー税制の対象を拡大 C既存のエネルギー税制に上乗せして炭素含有量に応じた新税を導入 などがあり、また、増税だけでなく減税・免税・還付といった軽減方策も同時に行われています。

環境税を講じればそれに比例して削減量を減るのかという問いに対しては、そのまま効果につながるとは一概には言えません。
しかし、実際にEUと日本を比べてみると、EUの京都議定書期間の排出量は1990年比13%減を見込み、目標を上回る予定ですが、日本の2008年度の排出量は1990年比1.9%増という結果で、目標の6%削減は極めて困難な状況であるといえます。

このことからも、環境税は温暖化ガス削減に大なり小なり効果があると考えられます。


第3章: なぜ日本では環境税が導入されていないのか


日本においても、環境省が中心となった環境税の導入への動きが2004年・2005年と見られましたが、導入への批判や石油価格の高騰などを受けて見送られました。また、この時の環境省の環境税案は優遇・免税措置であり、純粋な課税案ではありませんでした。

この時の導入への批判は主に産業界からのものであり、その中でも石油や化学、鉄鋼業界など反発は特に大きく、「環境税が導入されるならば、生産拠点を海外にシフトしていかなければならない」といった趣旨の発言まで残されています。

また、日本商工会議所も「(環境税の導入は)環境と経済の両立を阻害する」という声明を発表し、日本税制改革協議会からも「税で環境を良くすることは出来ない」とされてしまい、日本における環境税導入のハードルの高さを物語っています。

しかし、去年開催されたCOP15の演説の中で鳩山首相が、「2020年までに温暖化ガス排出量を1990年比で25%削減する」と発言したことで、環境税導入の議論が再び沸きあがってきました。
COP15に関しては結果として不発に終わったという評価がなされていますが、今後もこうした流れには注目していかなければならないでしょう。


第4章: 日本での環境税導入は必要か


環境税におけるメリットは @二酸化炭素排出量の削減 A省エネルギー技術開発の誘引等が考えられます。

また、考えられるデメリットとしては @一国のみが導入する場合には、未導入国への生産活動のシフトを促す恐れがある A炭素税の効果は、民生部門(家庭やオフィス)などでは短期的には小さい可能性がある などが挙げられます。

@のような現象を「炭素リーケージ」といいますが、これに対して環境省は「エネルギーコストの上昇だけによって、企業にとって重要な立地に大きな影響が出るとは考えにくい」と反論しています。

またAは、日本では民生・運輸部門でエネルギー消費・CO2排出が大幅に増えている一方、産業部門は横這い状況にあり、炭素税の導入は産業界の競争力を阻害するだけになってしまう可能性がある、という懸念を表しています。これに対しても環境省は「大口排出者が削減努力をした場合には、減税や免税により負担を削減し、経済への影響を緩和する」とし、 環境税の産業に対する悪影響は小さいとしています。

以上のように、環境税の導入については、こうしたメリット・デメリットをしっかりと考慮する必要があります。


第5章: 日本と欧州との環境税の違い


日本で導入が検討されている環境税と、欧州で主に導入されている環境税の大きな違いは、日本の環境税が税収を温暖化対策に充てるのに対して、欧州の環境税は税収を年金保険料や所得税の負担軽減に使うという点です。

つまり、日本では税率が低い代わりに、その税収は直接企業や個人に還元されません。それに対して欧州は、税率が高い代わりに、その税収は個人や企業の負担軽減に使われるのです。

では、なぜこのように税収の使い方に違いが生じるのでしょうか。
まず、日本が税収を温暖化対策に充てる理由としては、市民からの強い要望があるからと考えられています。「温暖化のために徴収する税は、当然、温暖化のために使うべきである」という考え方と、「たとえ社会保障等の面で軽減されたとしても、高い税率負担は避けたい」という考え方が、日本では根強いのです。

そして、欧州において税収を社会保障に充てる理由としては、社会保険料を軽減することで、失業率を低減させるという目的があります。環境税は企業に大きな税負担を与えるため、企業は雇用に対して消極的になりやすいからです。
また、この方法であれば環境税による負担は還元されるため、国際競争力の低下も避けられます。

税負担が小さく一見利点があるように思われる日本の環境税案ですが、こうしてみると、単純に負担額が少なくなれば負担そのものも小さくなるとは限らなくなります。また、額が少ないということは価格効果が低いという欠点も持っています。
環境税について考えるには、こうした使途の違いによるメリット・デメリットも考慮に入れていかなければなりません。


今後の研究については、政策の選択肢としての環境税をなぜ日本は採用していないのか。また、環境税以外であるならば、どの様な方法で環境問題に日本は取り組んでいて、なぜそうしているのかという視点からも研究していきたいです。そして最終的には、環境税を導入すればこうなるという理論モデルを構築していけたら、と思っています。


<参考文献> Last Update:10/08/12
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