そもそも児童虐待とはどのようなものを言うのか。
2000年に成立した児童虐待防止法の第二条では、児童虐待を次のように定義している。
第二条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者。未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)に対し、次に掲げる行為をすることをいう。これをまとめると、
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
厚生労働省の平成20年度社会福祉行政業務報告によると、児童相談所における相談の種類として
平成20年度中に児童相談所が対応した養護相談のうち「児童虐待相談の対応件数」は42,664件で、前年度に比べ2,025件(前年度比5.0%)増加している(表10)。これを相談種別にみると、「身体的虐待」が16,343件と最も多く、次いで「保護の怠慢・拒否(ネグレクト)」が15,905件となっている。
また、主な虐待者別にみると、実母が23,442件(62.8%)と最も多く、次いで実父の8,219件(22%)となっている。
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原因は、しつけと虐待の区別がつかない親が増えた、孤立した専業主婦の不安、不満感などといわれるが、急増の理由は、経済状況の悪化に伴い、子供を邪魔に思う親が多くなっている状況が大きい。できちゃった婚の増大で、心理的・経済的準備のないまま親になるケースが増えていることも一因であろう。(出典:朝日新聞社発行「知恵蔵2008」)と述べている。
@多くの親は子ども時代に大人から愛情を受けていなかったことの四つを要因を挙げている。
A生活にストレス(経済不安や夫婦不安や育児負担など)が積み重なって危機的状況にあること
B社会的に孤立化し、援助者がいないこと
C親にとって意に沿わない子(望まぬ妊娠・愛着形成阻害・育てにくい子など)であること
また,2005年現在,待機児童の4人に1人が東京都に住んでおり,全国の児童相談所に寄せられた児童虐待相談件数も,大阪府に次ぐ全国2番目の多さである。こうした厳しい情勢の背景には,都市化にともなう核家族化,近隣関係の希薄化,就業形態の多様化など子育て家庭を取り巻く環境の変化が挙げられる。2005年の「国勢調査」によると,東京都では6歳未満の子どもを育てる世帯の 92.1%が核家族であり,全国平均の 81.2%より 10ポイント以上も高い。また,ほかの地域から移住してきている子育て世帯が多く,地域コミュニティの援助を得られなかったり,育児の面で祖父母などの協力を得られにくかったりする世帯がほかの都道府県よりも多い。さらに,深夜・休日労働,長時間労働,不規則勤務など就業パターンが多様化しており,従来の平日日中の保育サービスだけでは対応しきれなくなっている。こうした核家族化,地域コミュニティの衰退など現代社会の変容によって,育児ストレスが高まり,相談相手も援助の手も得られない親が,児童虐待に走るという姿が想像できる。実際,2005年度東京都の児童虐待相談件数は,3,221件で,10年前の 7.5倍となっており,相談内容も深刻なものが多くなっている。
(出典:周 燕 飛『保育・子育て支援制度の多様化の現状と少子化対策としての課題ー東京都の取組みを例としてー』)
日本における子ども虐待の防止は法と制度の整備が進んだ現在、その発生予防に力を注ぐべき時代にきている。子ども虐待の要因として、日本では「子育てのストレス」が重積し、結果として「虐待」へと発展するケースが多くを占めるという特徴がある。24)25)吉田ら(1999)は、育児不安の測定尺度の標準化の必要性から、育児不安スクリーニング尺度の試作モデルを報告している。対象は1〜2カ月児を育てている母親 500人に育児不安調査用紙と STAI 各1通を郵送して回答を得た。(略)結果は、育児不安を表す因子は育児満足との間で強い負の相関があり、夫のサポート、子の育てやすさ、相談相手の有無との間に負の有意な相関のあることが認められた。1)宮本ら(2000)は、吉田らの1歳6カ月児スクリーニング尺度を用い、147 名の回答を分析している。結果は、育児不安の強い母親の特性として、夫の帰宅時間が遅く、夫と共に育児をしているという感情が希薄で、気軽に話せる友達が少ない、2 人以上の子どもを持つ,事業主婦である母親が多いことが明らかとなった。さらに育児不安の強さに関係なく、子育て中の母親は専門的知識よりも,むしろ日常の些細なことでも話し会えるような交流の場を希望していることがわかったと報告している。
今回の筆者の意識調査の結果から、子どもへの虐待感は子育てへのネガティブな感情と強い因果関係のあることが認められた。また、子どもへの虐待感を規定する因子は、重回帰分析の結果から、「子育てのために自分のしたいことができず、イライラすることがある。」「子どもの世話をするのが嫌になることがある。」「自分の時間がとれないのは子どものせいだと思う。」「子育てを離れて一人になりたい気持ちになることがある。」の4つ質問項目からなる【子育てへの嫌悪感】と【子育て困難感】であることが明らかになった。
子育てにおけるネガティブな感情を形成する第一の因子は【子育てへの嫌悪感】で表され、また第二の要因として、「誰も自分の子育ての大変さをわかってくれない」「一人で子どもを育てている感じがして落ち込む」「子どもを育てていて自分だけが苦労している」から構成される【周囲の子育てへの無理解】で表される。これは子育ての孤立感を深め、子育て不安に陥る過程を示している。第三の要因として、「何か心が満たされず空虚である」「毎日生活していて心に張りが感じられない」で表される【満たされない心の空虚感】は漠然とした心の空虚な状態を表しており、孤独とストレスに晒されて、心理的に不安状態に陥る過程が読み取れる。
(出典:中村 敬『地域における子育て支援 〜育児ストレスとその生成要因について〜)
虐待予防としての各種の子育て支援事業が準備されているものの,検証委員会第5次報告によると,親の利用状況は,@つどいの広場利用1.4%A一時保育5.5% B保育所9.6%と,実際にはほとんど利用されていない。この数字から,自らが子育て支援事業を利用しうる人は少なく,そういった機会を知らない,利用できない,漏れ落ちていった層が多いことがわかった。
(出典:加 藤 曜 子『児童虐待の防止に向けた地域の取り組みの現状と課題――自治体,NPO等との連携――』)
これらのデータから、
といったことを読み取ることができた。
また、私は、第一章で述べたように、「実母」が虐待者になっているケースが一場多いという統計からも、まず「母親」による虐待を予防するのが、児童虐待を予防・減少するうえで一番重要なのではないかと考えた。
(共生社会制作統括室より)
・乳児家庭全戸訪問事業、養育支援訪問事業等子育て支援事業の法定化、および努力義務化
・要保護児童対策地域協議会の機能強化
・里親制度の改正等家庭的養護の拡充
(問題点)
・虐待をする親の親権行使により、被虐待児の保護が不十分。
平成 22 年7月11日現在で、全国 1,750 市町村のうち、両事業(乳児家庭全戸訪問事業・養育支援訪問事業)を実施している市町村は、(略)、1,001 市町村(57.2%)にとどまっており、560 市町村(32.0%)では乳児家庭全戸訪問事業は実施していても、次のステップである養育支援訪問事業が行われていない、という問題がある。
また、全戸を訪問することが決められている、乳児家庭全戸訪問事業の訪問率については、調査母体の 656 市町村をみると、(略)81 市町村(12.3%)において訪問率が 80%未満となっていた。
(出典: 総務省『児童虐待の防止等に関する政策評価 <評価の結果及び勧告>』)
今回の事業報告から,中高生や赤ちゃん協力者そして職員も,それぞれがこうした場所や環境を求めていたことや同じ児童・生徒が同じ乳幼児と継続的にかかわることで相乗効果がみられ(寺田2004A),継続性が大切であることや思いやりの気持ちが育まれることが,実際の声や感想文(資料3)から明らかになった。赤ちゃんに触れあった瞬間,参加者の表情が皆柔らかく変化していったことも事実である。育児ストレスは、誰しもが感じることだと思うが、私は、事前に子どもの接し方や特徴を知っていることで、そのストレスが軽減されることもあるのではないかと考える。この乳幼児ふれあい事業は、協力施設の確保やスタッフの問題などで、継続的に、また広域で実施することは難しいという側面がある。実施できないような地域でも、学校授業の一環として、育児の映像を通じた学習をすることも可能なのではないかと考える。