これからの二輪業界〜政府の規制とそれに対応するための生産〜
社会科学部4年
政策科学研究ゼミナールV
井澤忠
図はHONDAのCB400SF 出所HONDAホームページ
研究動機
現在の自動二輪業界は、排ガス規制や騒音規制などの影響で、今まで人気だった車種を生産終了せざるを得なかったり、基準値をクリアするためバイクそのものの性能を落として製造しなければならなかったりなど、二輪車を生産するにあたりいろいろ苦労しているようです。そこで、これからの二輪車業界がどのように新たな二輪車を製造していくのか、そして、すでに厳しい規制を課している政府が更なる規制を課すのか、また、課された場合二輪業界はどのように対応していくのかなどの研究をしようと思います。
章立て
- 第一章 排出ガス規制・騒音規制の内容
- 第二章 規制後の国内の流通(逆輸入規制)
- 第三章 海外(欧州)の規制内容及び国内における新たな規制政策
- 第四章 国内4大メーカーにおける技術革新
- 第五章 政策提言
第一章 排ガス規制・騒音規制の内容
- 国土交通省による平成17年に施行された排ガス規制により、平均値で一酸化炭素量(CO)は規制前13.0g/kmから規制後 2.0g/kmになり85%の削減、炭化水素量(HC)は規制前 2.0g から原付一種と原付二種(50〜125cc)は0.5g/km になり75%の削減、それ以上は規制後0.3g/kmになり85%の削減、窒素酸化物量(Nox)は規制前0.3g/kmから規制後0.15g/kmになり50%の削減が、アイドリング時でも一酸化炭素量(CO)は規制前4.5%から規制後3.0%と33%の削減、炭化水素量(HC)は規制前2000ppmから規制後原付一種と原付二種(50〜125CC)は1600ppmと20%の削減、それ以上は1000ppmと50%の削減が義務付けられた。
- 騒音規制は近接排気騒音法の基準値が平成10年規制以前と平成10年規制、平成13年規制、また、最近では平成22年規制と4回変わっており、原付第一種(50CCまで)ではそれぞれ95dB、84dB、84dB、84dB、原付二種(50を超え、125CCまで)では95dB、95dB、90dB、90dB、軽二輪自動車(125を超え、250CCまで)では99dB、94dB、94dB、94dB、小型二輪自動車(250CC以上)では99dB、99dB、94dB、94dB(それぞれ平成10年規制以前、平成10年規制、平成13年規制、平成22年規制の順)となっており、また、平成22年規制では加速時の規制も課され、原付第一種(50CCまで)は71(79)dB、原付二種(50を超え、125CCまで)は71(79)dB、軽二輪自動車(125を超え、250CCまで)は73(82)dB、小型二輪自動車(250CC以上)は73(82)dBとなった。
- ※加速走行騒音においては、()のものは非型式指定車等のものである。個人輸入等により、国内に販売される二輪車(非型式指定車等)については、平成22年3月まで未規制であった。同年4月以降から規制されているものの、メーカー又は正規輸入者が販売する二輪車(型式指定車等)に比べ規制値が緩和されている状況である。
第二章 規制後の国内の流通(逆輸入規制)
- 逆輸入車とは、国外への輸出用に生産されたものを一度輸出し、それを再度輸入したもののことであるが、これまで、ヤマハやスズキ、カワサキ、ホンダといった国内メーカーが製造する二輪車で、大排気量スポーツタイプは、ほとんど一度欧米に輸出したものを再輸入する逆輸入車として販売されていた。国内では1990〜2007年まで、最高出力100PSを超えるバイクは生産・販売できないという規制が行われてきたため、大排気量の高出力のバイクはそのままでは販売できなかった。しかし輸入車はこの規制を受けないため、このようなバイクに合法的に乗る手段として、逆輸入車が人気を集めた。 人気車種は最高出力規制がなくなった後も逆輸入され続けたが、これは特に騒音規制について輸入車は2010年まで加速走行騒音及び定常走行排気騒音の適用が免除され、近接排気騒音のみの適用となっていたことから、フルパワー車両の逆輸入が行いやすかったため、協議仕様モトクロッサーなどに乗るための逆輸入が広く行われた。しかし、2008年9月から自動車排出ガス規制が輸入車においても適用されることとなり、欧州EURO-Vや台湾第5期規制などの国内規制値対応していない2サイクルエンジン搭載車やキャブレター仕様車などの輸入は非常に困難になった。また騒音規制においても2010年からは欧州基準が適用されたため、フルパワー仕様車を販売することが難しくなっている。
- ※欧州EURO-V 欧州における排ガス規制の事。現在、T〜Vまであり、2014年1月よりEURO-W、2017年1月よりEURO-X、2020年1月よりEURO-Yが適用される。
- ※台湾第5期規制 台湾における排ガス、燃費規制の事。現在、第1期〜第5期まである。

- ↑図は2サイクルエンジンと4サイクルエンジンの行程
- ↑図はキャブレターの構造
第三章 海外(欧州)の規制内容及び国内における新たな規制政策
- 欧州における排ガス規制値は2007年7月に適用されたEURO-Vでは130cc未満ではCOは2.62g/km、HCは0.75g/km、NOxは0.17g/km、130cc以上では、COが2.62g/km、HCが0.33g/km、NOxが0.22g/kmとなっている。2014年1月に適用されるEURO-Wでは、130cc未満はCOが1.97g/km、HCが0.56g/km、NOxが0.13g/km、130cc以上はCOが1.97g/km,HCが0.25g/km、NOxが0.17g/kmとなっている。2017年1月に適用されるEURO-Xでは、130cc未満はCOが1.14g/km、HCが0.38g/km、NOxが0.07g/km、130cc以上では、COが1.14g/km、HCが0.17g/km、NOxが0.09g/kmとなっている。2020年1月に適用されるEURO-Yでは、COが1g/km、HCが0.1g/km、NMHC(非メタン炭化水素)が0.068g/km、NOxが0.06g/km、PM(粒子状物質)が0.045g/kmとなっている。
- ※EURO-Yは、2016年1月までに環境への評価を実施し、必要に応じて規制値・適用時期を見直し
- 欧州における騒音規制値は、加速走行騒音において、80cc未満は75dB、81〜175ccは77dB、176cc以上は80dBとなっている。
- 国内における新たな規制政策として、加速走行騒音規制の見直しが行われた。その背景として、二輪車の加速走行騒音規制開始からおよそ40年が経過しているが、車両の性能等の向上により、現在では加速走行騒音試験条件は実際の市街地走行で使用される加速状態とは離れている事や、エンジンの電子制御化により、現行加速試験法に対し、その試験条件のみ加速を抑える事、または騒音レベルを下げる事により許容限度を満足し、試験条件以外では不適当に騒音レベルが大きくなる事が有り得るとして、ECE R41-04を2014年より適用する予定である。ECE R41-04とは、交通流において恒常的に発生する騒音への対策のため、エンジン技術の発達に対応するとともに市街地走行で使用頻度の高い走行状態をより反映する新加速試験法の事であり、現行試験法(TRIAS)との比較として、騒音値の評価対象となる速度は使用頻度が高い、国内使用実態において、Clss2.3(51cc以上)の車両では、現行試験法の全開加速は実走行での走行状態とはかけ離れている一方、新試験法による目標加速度は、実走行で使用される加速度域の上限として適切である事、MT車においては、新加速試験法の参照加速度により、実走行で使用されるギヤの中でも、低めのものが選定されている事、加速度と騒音値の間には高い線形相関が確認された事から、新加速法における全開加速走行時の騒音値と定常走行時の騒音値からの線形補間による、規制値の算出をしている
等が挙げられる。規制値については、50cc未満は73dB、51〜125ccは74dB、126cc以上は77dBとなっている。
- R41-04において、突出する騒音への対策が検討されている。これは、51cc以上の二輪車では、市街地走行における全開加速の使用頻度は低いと考えられるものの、使用されうる走行状態であり、その際の騒音値は他の交通騒音に比べ突出しうる。新加速試験法では、全開加速時の騒音値と、定常走行時の騒音値から線形補間により規制値を算出するため、定常走行時の騒音値が低い車両は、全開加速時の騒音値が大きい車両でも規制値の許容限度を満足しうる事から、突出する騒音に対して、規制値+5dBの上限を設けている。
- R41-04において、追加騒音規定(ASPE)の必要性が検討されている。これは、エンジンの電子制御化により、加速試験法の試験条件のみ騒音レベルを下げる事が可能にになり、試験条件を上回るまたは下回るエンジン回転数では不適当に騒音レベルが大きくなることが起こり得るという事で、126cc以上の車両に対し、新加速試験法の条件とは異なる回転数での騒音レベルが極端に大きくなる車両を排除する事を目的に、追加騒音規定(Additional Sound Emission Provision)を導入、25台の車両実測データを元に、上限値を設定。
- R41-04において、新加速試験法による騒音規制により、定常走行騒音に対しても騒音低減効果が期待出来るのであれば、規制重複解消の観点から、我が国独自の規制である定常走行騒音規制について、廃止の検討を行う。また、タイヤ検討会において、二輪車用タイヤ騒音は道路沿道騒音への影響は小さいと考え、現時点では二輪車用タイヤに対するタイヤ単体騒音規制は必要ないという結論を出している。尚、四輪自動車については、タイヤ騒音に対する規制を設ける。
- 環境省が、排ガス低減対策として、排気管排出ガス許容限度目標値を現行規制より3〜6割低減するとともに、排出ガス試験サイクルを世界統一試験サイクル(WMTC)に変更するとした。また、駐車時に燃料タンクから排出される燃料蒸発ガスへの規制を導入し、排出ガス低減装置の機能不良を監視する車載式故障診断(OBD)システムの装備を義務づける事を平成28年に開始する方針。
第四章 各メーカーの技術革新
- HONDA、KAWASAKI、SUZUKI,YAMAHAの国内4大メーカーにおける技術革新について、いくつか採り上げようと思う。
- 国内4大メーカーの中でも最大手であるHONDAでは、ニューミッドコンセプトシリーズと、125ccスクーター用グローバルエンジンを開発した。ニューミッドコンセプトシリーズとは、低・中速域で力強いトルク性能と、優れた環境性能を両立させたものであり、 NC700S、NC700X、INTEGRAの3モデルに搭載されている。これを搭載した車体の燃費は、同クラスのスポーツモデルと比較して、40%以上も向上している。125cc用グローバルエンジンとは、アイドリングストップ・システムを搭載したもので、セルフスターターとダイナモ兼用のモーターによる滑らかで静かな始動と、知能化された発電制御による発電時のフリクション低減、また、エンジン各部の低フリクション化により、同排気量のスクーター用エンジンと比較して、約25%の燃費向上を実現した。

- 上図は、左がニューミッドコンセプトシリーズで、右が125ccスクーター用グローバルエンジン 出所HOMDAホームページより
- KAWASAKIでは、 メタルハニカム触媒を開発した。これは、波形ステンレス薄膜を積層したハニカム材に触媒をコーティングさせたもので、これにより、エンジン性能を損なわず、クリーンな排ガス性能を両立させている。

- 上図は、メタルハニカム触媒 出所KAWASAKIホームページより
- SUZUKIでは、燃料電池スクーターを開発した。燃料電池はCO2排出量をガソリン車の半分以下にする事が出来る(燃料電池はCO2を排出しないが、水素を取り出す段階でCO2を排出する場合がある)。また、水素は色々な物質から取り出す事が出来、石油に依存しない社会の実現に貢献する。

- 上図は、左が燃料電池スクーターの構造、右が燃料電池の構造 出所SUZUKIホームページより
- YAMAHAでは、DMFCシステムと、PEFCシステムを開発した。これらはどちらも燃料電池の事であるがDMFCシステム搭載車は、ナンバープレートを付け、公道を走行する事が許可されている数少ない燃料電池二輪車の一つである。
第五章 政策提言
最後に政策提言となるが、政府は、事業仕分けにて、メーカーに電動及び燃料電池二輪車以外の技術開発(ex,ニューミッドコンセプトシリーズやメタルハニカム触媒)への資金援助をし、各メーカーへの技術革新への後押しをするべきであると思う。また、不正改造車に対する取り締まりの強化をするべきであると思う。
参考文献
Last Update:2013/02/01
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