産業の競争力と空洞化
-自動車産業と政策について-
社会科学部3年
政策科学ゼミナール
宇野 和樹
研究動機
私の両親は2人とも車が好きで、生まれたときからF-1を見ているような家庭環境で育ったため、幼い頃から自動車に興味があった。しかし、そんな自動車産業にも危機が訪れている。
2008年のアメリカのリーマンショックの影響で、日本にも不景気の波が襲った。今日の日本国内の失業率は5.1%とかなり深刻である。第二次世界大戦後、何もない状態から日本の経済を底支えしてきたのは自動車産業と家電産業である。これらが衰退してしまえば、日本は本当に国際競争力を失いかねない。更には自動車メーカーを含む製造メーカーは徹底的なコストダウンを目指して次々と海外の工場へ移転を始めている。このままでは産業の空洞化は避けられず、日本の不景気の加速を止めることはできない。
そこで私は、政府がどのような政策を採れば、日本の産業が国内に留まり、一刻も早くこの不景気から脱することができるのかを考えたい。今回は特に私の興味のある自動車産業にスポットを当てていく。
章立て
- 第一章-自動車産業の現状
- 第二章-今後予想されうる自動車産業の世界
- 第三章-政府の打つべき政策
- 第四章-海外での競争力を高めていくには
- 第一章-自動車産業の現状
まずは自動車産業の現状についての説明する。2009年4月から新グリーン税制が適用となり、一定の基準を満たした環境配慮自動車は自動車税・自動車取得税・自動車重量税が減税(いわゆるエコカー減税)となり、更に購入補助金として普通乗用車は10万円、軽自動車は5万円が支給された(補助金は2010年9月をもっと終了)。更に高速道路は土日祝が大都市圏を除く高速道路が一律1000円となった。その経済効果はかなり大きく、トヨタ自動車の場合2009年3月期は営業利益が4,610億円の赤字であったのに対し、2010年3月期の営業利益は1,475億円の黒字となった。他のメーカーも同様前年度よりかなりの売り上げを伸ばすことはできたが、購入補助金が終了し、売り上げも落ち着いてきてしまっている。
しかし、注目すべきは次の内容である。少し前の話では、2009年4月にタイヤメーカーのブリジストンが中国の工場での乗用車向けタイヤの増産を発表、更に2010年3月にはトラック・バス向けタイヤの生産について日本の工場での生産を減産し、タイ工場で増産させると発表した。また日産自動車から昨年発売されたマーチはタイ、中国、インド、メキシコで生産され、もはや国産車ではなくなってしまっている。
以上のように現在行われている政府の政策によって自動車メーカーの収益は確かに増加したが、生産工場の海外移転によって今後も国内の雇用は減少する恐れがある。

現在タイで生産されている(日本仕様はタイ生産)日産マーチ(出所:日産・マーチ - Wikipedia)
- 第二章-今後予想されうる自動車産業の世界
第一章で述べた内容の通り、このままでは自動車メーカーは増収を見込めず、国内の雇用も確保も困難になってくる。更にもう1つ重要な事がある。それは電気自動車の登場。これは日本の自動車産業が自ら首を絞めていると言っても過言ではない。
日本の自動車メーカーの強みはなんと言ってもエンジンである。耐久性に優れ、燃費も良く、かつ低価格なエンジンが作れるのは日本の高い技術ならでは。しかし電気自動車に搭載されているのはエンジンではなくモーターである。構造はラジコンのモーターなどと大して変わらず、エンジン以外のボディや内装などはエンジンほど製造が難しくない。つまりエンジンを搭載しない車を作ってしまうと、自動車メーカーが何十年と培ってきたエンジンの技術・ノウハウがまったく活かされなくなってしまうのである。現在日本のメーカーで電気自動車を販売しているのは三菱と日産、またモーターとエンジンを併用したハイブリッド車を製造しているのはトヨタとホンダである。私が推測するに、自動車メーカーは決して電気自動車を作りたいとは思っていない。しかし時代の流れ、世界のニーズから作らざるを得ない状況になっているのが事実である。最大の強みであったエンジンを失ってしまうと、自動車メーカーは新たな強みを生み出さなければならない。これが、これからの自動車メーカーにとって重要な課題になると考える。
だが、悪いことばかりではない。自動車用モーターを製造するのは電気メーカーであり、そうすると今度は電気メーカーにビジネスチャンスが訪れる。実際、東芝は2011年度にはドイツのフォルクスワーゲンに搭載されるモーターの供給対応のため現在の生産数を2倍に増産すると発表した。また、2012年にもアメリカのフォード自動車にハイブリッド用モーターを供給することが確定している。このように電気自動車が主流となるとモーターの需要が増加し、他の産業に新たな市場を生むことになる。

ボンネットの下にもはやエンジンはない(出所:日産・リーフ - Wikipedia)
- 第三章-政府の打つべき政策
電気自動車の登場により、モーターを製造する電気メーカーは需要が増え、メリットがあるかもしれない。だが、本題である自動車産業にとっては大きな問題である。なぜならエンジンを設計・開発していた人たちが失業してしまうからである。それだけではなく、第一章で述べたような工場の海外移転の問題もある。そこで政府はどのような政策を考えれば良いのだろうか。以下に、私なりに考えた案を紹介していく。(案は随時変化されることもある)
①海外輸出向けに購入補助制度を設ける
今や自動車メーカーの主力マーケットは国内から国外に移行している。しかし昨今の円高傾向によって、海外輸出による利益は下がる一方である。為替レートが1円変わるだけで、トヨタは300億円、ホンダは150億円の損失が生まれる。
そこで提案するのが、海外輸出向け車種に購入補助制度を設けることである。2009年に日本で実施されたエコカー減税や購入補助金を、海外購入者向けに導入する。ただ、減税については企業や日本政府が介入できないので、ここでは購入補助金制度について詳しく述べたい。
2009年に実施された購入補助金制度は、ある一定の環境基準を満たした新車を購入することで、納車後普通車は10万円、軽自動車は5万円の補助金が支払われるというものであった。この政策でも同様のシステムを利用し、現地通貨での補助金を支給する。そうすることで海外市場での需要拡大を目指す。だが、この政策は税金の負担の問題から、導入できる期間はせいぜい2年くらいだと考えられる。
- 第四章-海外での競争力を高めていくには
日本は資源の乏しい国である。原料を海外から輸入し、それを加工・製造して輸出している。日本経済は国際関係なくして成長することは不可能である。つまり海外での競争力が弱まってしまえば、それは日本経済の衰退を意味する。自動車産業が世界で勝ち抜いていくためにはどうすれば良いのだろうか?
日本で製造した商品を海外で販売しようとすると、人件費の高さの問題や、昨今の円高の影響で、どうしても高価格になってしまう。価格の面では発展途上国には勝てない。なので日本企業は価格以外の面で勝負をかけるべきである。そのためにも徹底した商品の差別化を行い、オンリーワンの商品を作る必要がある。他社にない魅力を持っていれば、たとえ価格が高くとも購入を希望する人は現れるだろう。
価格競争も重要な要素ではあるが、日本の自動車産業はそれ以外の面で競争に挑むべきである。そのためにも政府が政策を通してしっかりとバックアップし、産業を活性化させていかなければならない。
参考文献
画像出典
Last Update:2011/8/7
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