地方自治体における市民参加について

早稲田大学 社会科学部
政策科学研究ゼミ 4年
川畑 美咲


研究動機

私は政治というものに対して興味・関心をずっと持っていたが、報道などを見聞きしていると、同時に政治に対する良くない印象を抱いてしまうこともあった。 そんなとき、大阪都知事であった橋下徹氏、名古屋市長の河村たかし氏といった革新的な地方自治体の動きが大きく取り上げられたことをきっかけに、“ポピュリズム”という言葉を知った。 それまでなんとなく抱いていた良くない印象がこの言葉と関係しているように感じ、まずはポピュリズムについて調べ始めた、いうのが研究のはじめである。 しかし、ポピュリズム研究の行き着く先は制度論である。最終的に政策提言という形にまとめるのは難しいと指摘を頂いたため、フィードバックを踏まえ“市民の政治参加”へ視点を変えて考えていくことにした。


章立てと概要

第一章 現状と問題点
    日本における市民参加の現状と参加意識について調べる。

第二章 ケース:武蔵野市
    自治先進都市と呼ばれる武蔵野市の取り組みについて考察する。

第三章 ケース:三鷹市
    武蔵野と同じく自治先進都市である三鷹市の取り組みについて考察する。

第四章 まとめと政策提言
    地方自治体において市民参加を促進する政策を考える。


第一章 現状と問題点

一般に、投票率の低下などから政治に対する参加意識は薄れているといわれるが、実際はどうなっているのだろうか。


  1. 右上のグラフは、「政治に対する関心度」を示している。

    これを見ると、青年の政治に対する関心は高まっている傾向にあることがわかる。

    (この調査は5年ごとに行われており、第6回は1999年、第7回は2004年、第8回は2009年である。)

    出典:第8回世界青年意識調査(内閣府政策統括官)



  2. 右下のグラフは、「政治的有効性感覚」を示している。

    これを見ると、
     ・「十分/かなり反映している」は減少傾向にある
     ・「少しは反映している」はあまり変化がない
     ・「全く反映していない」は増加傾向にある
    と読み取れることから、政治的有効性感覚は弱まっていると考えられる。





    以上のことから、
    【政治に対する関心はあるが、それが反映されない】

    という状況を仮定することができる。このことを前提に、市民の関心を政治に反映させる方法を考えていきたい。
    NHK放送文化研究所「第8回 日本人の意識・2008」調査より作成


  3. ゼミ内のグループディスカッションより
      ・市がどんな仕事をしているのかよくわからない。
      ・参加意識以前の問題として、関心・問題意識が薄い(特に都市部において)。
      ・参加の仕組みには、有効性・透明性が必要。
      ・市長や職員などと直接意見交換をしたい。


第二章 ケース:武蔵野市

武蔵野市は自治先進都市といわれ、自治体運営において活発な市民参加が行われている。 その取り組みが、昭和46年度から約10年ごとに作成されている「長期計画」と呼ばれるものだ。 「長期計画」は“市政運営の指針となる市の最上位計画”と位置づけられており、簡単にいうと、市政の目標や力を入れる分野を示す文書である。 各分野個別の計画は、この「長期計画」に従ってつくられる。 ポイントは、「長期計画」の策定過程において、市民が大きく関わっていることである。

右の図は、長期計画の策定スケジュールを示したものである。

公募市民会議・ワークショップ・パブリックコメントなど、多くの市民参加の機会が設けられていることがわかるが、今回はこの策定過程の中の「無作為抽出ワークショップ」について調べてみた。
「無作為抽出ワークショップ」は、住民基本台帳から無作為に抽出した18歳以上の市民1000名を対象として行われており、その目的は“参加機会・参加層の拡大”であるとされている。公募市民議会やパブリックコメントのような完全な任意による参加とは異なり、自主的に参加することのなかった市民が参加の機会を得ることができるのである。

−具体的な進行は以下のとおりである。
(1)予め決められたテーマについて、4〜5人のグループで自由討議を行う。
(2)メンバーを入れ替えて再び自由討議を行う。
(3)元のグループに戻って意見をまとめ、発表する。
(4)投票と順位づけを行うこともある。
 ※ 参加者には謝礼が支払われる。

−第五期長期計画の策定に向けて開催された無作為抽出ワークショップとそのテーマ
 ・2010/11/06,13 「武蔵野市の将来像」
 ・2011/03/05,06 討議要項(計画策定にあたり議論すべき課題をまとめたもの)を読んで自由討論
 ・2011/10/16,17 計画案の各分野(健康・福祉、子ども・教育、文化・市民生活、緑・環境、都市基盤、行・財政)について
出典:武蔵野市公式ウェブサイト

図からわかるとおり、このワークショップは長期計画1期に対して3回行われる。 参加者の抽出は各回ごとに行われるのだが、2回目・3回目に関しては前回の参加者にも案内が届くようになっており、継続的に参加する市民も多い。第五期長期計画のワークショップについていえば、1回目の参加者81名のうち、52名が2回目にも参加している。これは非常に注目すべき点だ。なぜなら、参加を経験した市民において、参加意識が高く保たれていることの表れと考えられるためである。また、参加の継続はそれ自体の意義に加え、話し合いをリードする存在としてワークショップの運営面にも役立つ。


第三章 ケース:三鷹市

三鷹市では、2006年から「まちづくりディスカッション」という市民討議会が行われている。 武蔵野市のワークショップと同様、無作為に抽出した18歳以上の市民に対して参加を依頼し、それを承諾した市民が参加する。目的は“これまで市民参加の機会や経験のなかった市民を含め、より広く多く率直な意見を聴取する”ことである。


−具体的な進行は以下のとおりである。
(1)情報提供を受ける。(30〜60分)
(2)話し合いを行う。(60分)
(3)グループごとにまとめた意見を発表し、全員で投票を行う。(25分)
 休憩をはさみつつ、2日間で(1)〜(3)を5セット行う。
 ディスカッションでまとめられた意見は、報告書として市長に提出される。
 ※ 参加者には謝礼が支払われる。

−これまでに開催されたまちづくりディスカッションとそのテーマ
 ・2006/08/26,27 「安全安心のまちづくり 子どもの安全安心」
 ・2007/10/20,21 「三鷹の魅力」「災害に強いまち」「高齢者にも暮らしやすいまち」
 ・2008/08/23,24 「第1回外環中央ジャンクション三鷹地区検討会」
 ・2008/09/27,28 「第2回外環中央ジャンクション三鷹地区検討会」
 ・2011/10/29,30 「ともに支え合うまち」「災害に強いまち」「活気と魅力のあるまち」「環境にやさしいまち」

まちづくりディスカッションは、ドイツの「プラーヌンクスツェレ」という手法を参考にしている。 “三鷹式プラーヌンクスツェレ”と呼んでも良いかもしれない。 プラーヌンクスツェレ(Planungszelle:計画細胞)とは、地域から無作為抽出された市民による話し合いである。 専門家等から情報提供を受けた上で少人数のグループ(5人×5)で話し合い、グループごとの結論に全員で投票を行う。 話し合いは1回あたり90分×1日あたり4回×4日間である。 こうしてまとまった結果は市民答申として公表され、参加した市民には謝礼が支払われることになっている。


第四章 考察と政策提言

武蔵野市・三鷹市(・ドイツ)の取り組みに共通する特長を挙げると、以下のようになる。

・ 地域から無作為抽出 であるために、
  →参加者は地域の人口構成の相似形となり、市民の意見分布をより正確に反映できる
  →テーマに関して当事者ではない一般市民が参加でき、利権誘導が起こりにくい

・ 参加者に謝礼が支払われる ために、
  →“仕事として”責任感を持って取り組んでもらえる

・ 参加した市民、またその周辺の人びとの地域社会に対する参画意識が高まる


以上のことを踏まえ、政策提言をしたいと思う。


【1】市民討議会の設置

事例として取り上げた武蔵野市・三鷹市のように、無作為抽出による市民討議会を設置。進行は基本的に事例に準ずるが、私はここに2点加えたい。1点目は“議題設定の段階から”意見聴取の機会を設けることである。アンケートの実施や、討議会前に話し合いを行うことで、議題設定にも市民の意向をより強く反映させる。これにより、さらに参加の度合いを高めることができると考えられる。2点目は、討議会に参加する市民が、家族や友人を誘える制度をつくることである。1人では参加しにくいと感じる人のハードルを下げられるほか、参加の裾野を広げることにもつながるだろう。


【2】日常的な話し合いの場を設ける

仕事や学校の帰り・休日などに気軽に参加できる話し合いの場をつくる。公民館や学校に地域住民が集まるようなイメージだ。市民討議会を設置したとしても、手間やコストを考えると、その開催は年に数回が限界であろう。非日常性はどうしても残ってしまう。そこで、もっと日常的に市民の話し合いや意見聴取ができる場を設け、参加を身近なものにしたい。これは、問題意識の低さに対しても有効だと考えられる。日頃から地域のことについて話し合い考える機会があれば、【1】の討議会でもより深く議論することができるのではないだろうか。


【3】市報など広報物の工夫

広報物を、若者をはじめ多くの人に興味を持ってもらえるようなデザイン・媒体にする。各家庭に届いており、市政を知る最も手軽な手段であるにもかかわらず、市報をしっかりと読んだことがある人は少ないのではないだろうか。その理由のひとつとして考えられるのは、堅苦しくつまらないものいう印象だと思う。市報が思わず手に取ってしまうようなデザインだったり、おもしろそうな記事が載ったりしているものであれば、もっと多くの人が読み市政について知ることができるはずである。単なる伝達手段ではなく、コンテンツとして魅力のあるものにすることを提案したい。また、媒体ついてはSNSを利用するなどの工夫が考えられる。


参考資料


Last Update: 2014/01/30
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