PISA調査から教育政策について考察する

社会科学部四年
政策科学ゼミナール
黒岩幸代


研究動機

 私がこのテーマを研究しようと思ったきっかけは、日頃のニュースや大学の講義などで、フィンランドは新聞や資料を用いた調べ学習が多いなどヨーロッパを中心とする諸外国の教育が日本と違うことをを知り、興味を持ったからである。
 世界各国は今、PISA型学力調査(Programme for International Student Assesment)の結果に着目し、教育に対する関心を高めている。一方、日本では、「ゆとり教育からの脱却」を目指した学力向上などに対する動きが急であるが、PISA型学力調査の結果などを見ると、その内容にはまだまだ課題があるようだ。
 学力向上など目先の結果だけに注目が集まり政策が進められているようだが、果たしてそれでよいのだろうか。今日の社会にはさまざまな文化を持つ人々が国境を越えて共存しており、課題も複雑化している。その中で社会に対応し、共存するとともに、自分を高めていくことができるような視点を持つことが大切である。子どもたちが今日のグローバルな世界に臆することなく、そして多様な文化の中で強くしなやかに生きていけるような教育政策を目指して考察したいと思う。

章立て

第一章 日本の教育の問題点

 日本の教育の問題点について、私はPISA調査の結果を基に考察したいと考えている。
 PISA調査は15歳を対象とした国際学力調査で、2000年から3年ごとに行われ、2012年には65か国・地域が参加した。そしてその内容はOECDのプロジェクトDeSeCo(Definition and Selection of Comepetencies)が提案する「主要能力(キーコンピテシー)」を実際に国際学力調査として具体化したものである。
DeSeCoには
という、今後向上させるべきと考える三点の能力モデルがあり、それに基づく調査や分析を行っている。
 私が今回、この調査を取り上げたのは、テストやアンケート調査の結果から全世界の子どもたちと比較し、
日本の子どもの教育に対する問題点を挙げることでその改善点を考察したいと考えたからだ。
 日本の子どもは、知識・理解の観点で優れた成績を収めているが、それを表現することが苦手な傾向がある。また、他国に比べて学ぶ意欲が低く、現在の勉強と将来の生活を結びつけて考えることができないということも指摘された。子どもたちが学びたいと思うためにするべきこと、教科教育や総合学習などの学習が将来の生活に役立つこと、そして子どもたちが自分の考えをきちんと論理的に表現できるようにすべきこととはどういうことかを考え、そのために地域がどのような役割を担えるか考察する。

TPISA調査の結果

 日本の得点結果は以下のとおりである。

表1 日本のPISA調査における読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの平均得点

2000年2003年2006年2009年2012年
読解力522点498点498点520点538点
数学的リテラシー
534点523点529点536点
科学的リテラシー

531点539点547点
出典OECD生徒の学習到達度調査〜2012年調査国際結果の要約〜

 能力面と意欲面の二点について、それぞれの課題を考察した。
まず、能力面については2009年の調査結果における文部科学省の分析から考察する。

出典PISA2009年調査分析集

 日本では調査が始まった年から2009年まで無答率がOECD平均を上回っている。とくに読解力や記述式の問題において多く見られるとのことだった。
 この結果から、能力面において子どもたちが自分の考えを表現することが課題と考えられる。

 次に、意欲面については2012年に行われた数学に対する生徒質問紙(アンケート調査)の調査結果から分析する。
 生徒質問紙では、「数学における興味・関心や楽しみ」、「数学における道具的動機付け」、「数学における自己効力感」、「数学における自己概念」、「数学に対する不安」の5つの要点について質問している。

出典PISA2012調査分析結果資料集

 上の表から全ての項目においてOECD平均を下回っている。(ただし2003年度に行われた結果よりはほとんどの項目で望ましい方向に変化している)
 私はこの中で、特に「数学における道具的動機付け」と「数学における自己効力感」について注目した。前者では数学が将来の仕事に必要か、数学がこれからのために必要だと思うかといった内容についての質問である。後者は数学で学んだことを、どれくらい実際に活用できると思うかの質問である。この項目で、日本の子どもは「3x+5=17という等式を解く」や「2(x+3)=(x+3)(x-3)という等式を解く」という質問に対しては8割以上の生徒が「かなり自信がある」「自信がある」と答え、OECD平均を上回ったが、「床にタイルを張るには、何平方メートル分のタイルが必要かを計算する」や「自動車のガソリンの燃費を計算する」という質問に対して「かなり自信がある」「自信がある」と答えたのは5割未満であり、OECD平均を下回った。「床に〜」などの問題は教科書のままではない応用で、日常生活に結びつく事である。
 これらの結果から、意欲面において日本の子どもたちが勉強と日常生活・将来を結びつけるようにすることを課題と考えられる。

U中央教育審議会による報告

 教育政策を考えていく上で、まずは政府の政策について考察する。中央教育審議会で21世紀は「知識基盤社会」であり、知識に国境がなく、グローバル化が進行する中で競争と技術改革が絶え間なく進み、性別や年齢を問わず社会に参画することが促進されるとしている。その中で必要となるのが「生きる力」であり、知・徳・体バランスのとれた力が備わるように教育していくべきだと報告している。
 中央教育審議会では、PISA調査の結果から次のような課題が見られると報告している。
 これらのことから学習意欲や粘り強く課題に取り組む態度自体に個人差が広がっているといえる。
 また生活状況に関するアンケートより、生活習慣の確立や自分への自信、体力などについても個人差が広がっていると報告された。

表2 読解力(2009年)における観点別平均得点の国際比較

総合読解力「情報へのアクセス・取り出し」「総合・解釈」「熟考・評価」
日本の得点520点530点520点521点
OECD平均493点495点493点494点
全参加国中の順位8位4位7位9位
出典文部科学省「OECD生徒の学習到達度調査(Programme for International Student Assessment)〜2009年調査国際結果の要約〜

 報告よりこれらの課題の背景は次の三点が挙げられるとのことだった。

  1. 社会全体や地域・家庭の変化
  2. 学習指導要領の理念を実施する具体的な手立てが十分でなかった
  3. 教師が子どもたちと向き合う時間の確保や効果的・効率的な指導のための条件整備が不十分
これらの調査結果に対して中央教育審議会は以下のような政策を行った。

V「学びのすすめ」(平成14(2002)年1月)

「確かな学力」向上のために下記の5つの方針を示した。
  1. きめ細やかな指導で、基礎・基本や自ら学び自ら考える力を身に付ける
    少人数指導・習熟度別指導など
  2. 発展的な学習で一人一人の個性等に応じて子どもの力をより伸ばす
  3. 学ぶことの楽しさを体験させ、学習意欲を高める
    総合的な学習の時間の活用
  4. 学びの機会を充実し、学ぶ習慣を身に付ける
    放課後の補充的な学習、朝読書の推進、宿題を出すなど家庭学習の充実
  5. 確かな学力の向上のための特徴ある学校づくりを推進する

W「読解力向上プログラム」(平成17(2005)年)

 今までの「読解力」は文学的な文章の読解に偏りがちだったが、ここでいう「読解力」とは自分の考えを持って論理的に意見を述べる能力、目的や場面などに応じて適切に読み取ったり表現する能力といったPISA型「読解力」のことを指し、その育成を目指す。
課題について、下のグラフはPISA調査による日本の子どもの観点別正答率がOECD平均より5%以上低い問題数の割合を示している。

 これらのことから熟考・評価と解釈に課題がある。
 また、問題の形式別にみた無答率がOECD平均より5%以上高い割合は次のとおりである。

 このグラフから無答率が圧倒的に高いことが分かる。
 これら二つのグラフをまとめると、熟考評価・解釈を問う問題は自由記述の解答が多くなっている。そのためPISA型「読解力」の課題が単に「読む力」ではなく、自由記述である「書く力」、熟考評価・解釈を必要とする「考える力」と関連しており、特に「考える力」を中核として「読む力」「書く力」を総合的に高めることが大切だという見解を中央教育審議会は示している。

 以上の課題を解決するため3つの重点目標と5つの重点戦略をこのプログラムでは立てている。
 各学校で求められる改善の具体的な方向〜3つの重点目標〜

  1. テキストを理解・評価しながら読む力を高める取組の充実
  2. テキストに基づいて自分の考えを書く力を高める充実
  3. 様々な文章や資料を読む機会や、自分の意見を述べたり書いたりする機会の充実

 文部科学省や教育委員会の取組〜5つの重点戦略〜

  1. 学習指導要領の見直し
  2. 授業の改善・教員研修の充実
  3. 学力調査の活用・改善等
  4. 読書活動の支援充実
  5. 読解力向上委員会の設置

X学習指導要領改訂

 小学校では平成23(2011)年から、中学校では平成24(2012)年から実施されている。
 以前はゆとりか詰め込みかによって議論されていたが、この指導要領では、「生きる力」という能力の質についてより一層育むことを理念とし、学校で学ぶ内容を以下のように充実させている。
 基礎・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成をどちらかに偏ることなく、バランス良く伸ばし、学習意欲を高めることを目指しており、そのための授業時間確保として時間数が増加している。

 また、この指導要領では学校・家庭・地域の連携・協力が重要としており具体的な取り組みが示されている。
 まず、家庭についてだが、家庭での習慣を通して子どもに基本的な生活習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るなど「生きる力」の基礎的な資質や能力を培うことを目標とし、以下の活動や支援を行っている。

〜家庭教育支援〜
 子育て経験者やPTA、保健師やNPOなど身近な地域の人による家庭教育支援チームが悩みや不安を抱える保護者や家庭を地域で支援
[主な活動内容]

 次に地域についてだが、地域ぐるみで子どもの教育に取り組む環境づくりを進めることを目指し、次のような活動を行っている。

〜学校支援地域本部〜
 地域住民や保護者など様々な立場の人がボランティアとして教育活動を支援
[主な活動内容]

〜放課後子ども教室〜
 学校の余裕教室や校庭などを活用し、放課後等に子どもの居場所を設け、地域の大人の協力を得ながら、学習や体験活動や地域住民との交流の機会を提供
[主な活動内容]

〜その他〜
 地域住民だけでなく、公共機関、企業、NPOなど地域を構成する様々な団体との積極的な連携により、子どもたちに多様な社会体験・自然体験等を提供することが大切

Y安部政権の取り組み

 安部政権では教育を重要課題としており、教育再生会議においていじめ問題の解決や教育委員会、大学教育などについて提言を行っている。
ここでは第四次提言の「高等学校教育と大学教育の接続・大学入学者選抜の在り方について」を取り上げる。

 「高等学校教育と大学教育の接続・大学入学者選抜の在り方について」平成25年10月31
 この会議では、グローバル化や少子・高齢化の進展に伴い、主体性、創造性を持った多様な人材が求められ、かつ、その人材の質を飛躍的に高めていく必要があると考えられた。また、このような人材を育成するためには、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の在り方について一体的な改革を行うことが大切という観点から次の3点が定められた。

  1. 高等学校教育の質の向上
  2. 大学の人材育成機能の強化
  3. 能力・意欲・適性を多面的・総合的に評価・判定する大学入学者選抜への転換・高等学校教育と大学教育の連携強化 (上記全て「人づくりは、国づくり。教育再生への取組み始まる〜教育再生実行会議」HPより引用)

    第二章 日本各地での取り組み

     前章の最後に、改訂された学習指導要領では学校・家庭・地域が一体となって教育を行う必要があるとのことだったが、この章では地域と教育について具体的な事例を取り上げながら考察する。

    T学校支援地域本部事業(平成20〜23年)

    UNGO法人キーパーソン21の取り組み

     2000年神奈川県川崎市に設立
    小中高校生を中心としたキャリア教育を会員・企業・諸団体の協力支援によって実施

     活動目的
    「ひとりでも多くのこどもたちに自分の将来について考えるきっかけを持たせ、視野を広げ社会へ旅立つことの自覚と自立心を促し、夢と勇気をもって、生き生きと自己実現に向かってすすめる喜びを知ってもらいたい」

      事業内容
    1. キャリア教育プログラムの開発
    2. ファシリテーター養成
    3. 学校等におけるキャリア教育プログラムの実施
    4. パートナーシップ提携による全国各地への普及
    5. 講演・執筆
    6. キャリア教育などに関する調査・研究

     1、キャリア教育プログラムの開発
    「夢発見プログラム」と名付けられている。
    講演・ワークショップ・個別サポートを通じて子ども達が将来のことや仕事について考えるためのキャリア教育プログラム

     2、ファシリテーター養成
    集会・会議などで、テーマ・議題に沿って発言内容を整理し、発言者が偏らないよう、順調に進行するように口添えする役。議長と違い、決定権を持たない。
    会議やミーティング、住民参加型のまちづくり会議やシンポジウム、ワークショップなどにおいて、議論に対して中立な立場を保ちながら話し合いに介入し、議論をスムーズに調 整しながら合意形成や相互理解に向けて深い議論がなされるよう調整する役割を負った人。 支えていく大人も研修する。

     3、学校等におけるキャリア教育プログラムの実施
    1で考えられたキャリア教育の一部を実際に学校の授業として実施する。

     4、パートナーシップ提携による全国各地への普及
    キャリア教育プログラム「夢発見プログラム」を運営側と一緒にサポートする人

    キーパーソン21の取り組みについて私は以下の二点について考えた。
    一点目は学校の授業として実施するため、全ての子どもが対象となり、格差を生まないことが評価できる。
    二点目は上記のプログラムをすべてではなく、一部のみを一回限りの実施であるため本当に効果があるのかという疑問である。 職業に興味を持つという点ではよいのかもしれないが、能力を身につけるためには継続して行う必要があると思う。


    第三章 カナダでの取り組み

     PISAに参加している諸外国の結果と取り組みとして、ここではカナダの教育政策を考察する。
    カナダはPISA調査で毎回、安定した高得点を収めている。

    表3 カナダのPISA調査における読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの平均得点
    2000年2003年2006年2009年2012年
    読解力534点528点527点524点523点
    数学的リテラシー532点527点527点518点
    科学的リテラシー534点529点525点
    出典OECD生徒の学習到達度調査〜2012年調査国際結果の要約〜

     カナダは日本と比べて様々な人種、社会的経済階層となっているが、その格差が少なく、平均点が高いことが評価されている。
    そして私が一番注目したいのは意欲面の高さだ。生徒質問紙で「数学における興味・関心や楽しみ」、「数学における道具的動機付け」、「数学における自己効力感」、「数学における自己概念」、「数学に対する不安」の5つの要点について質問した結果が以下の通りである。

    出典OECD生徒の学習到達度調査〜2012年調査国際結果の要約〜

     成績上位国の中で5つの要点が比較的に高く、またそれが文化や民族、経済状況に関わらないことが広く評価されている。
    そのため、カナダの教育システムについて研究し、何か日本でも活かせることはないか考えたい。

    T教育政策の内容〜州による独自の教育システム〜

     カナダのPISAにおける好成績の要因には文化的要因や国家体制も挙げられるそうだが、ここでは教育政策に着目して考察する。
    カナダでは各州ごとに教育機関が設置される。分権制度をとっており、政府は教育における部署を持っていない。州では州政府と地域の教育委員会の責任が明確に分けられている一方で、学校の権限も大きくなっている。そして各州の教育省が教育目標を定め、カリキュラム設定を行うことも特徴の一つである。
    義務教育は6,7歳〜16,17歳までの12年間で間の区切りは州によって異なる。また、教員は労働組合に加入し、教員の自治が進んでおり、権限も大きい。
     政策などは州ごとに行われているが、その内容は似ている。それは各州の教育大臣が集う教育大臣協議会(CMEC)があり、情報の共有を行い、州の枠を超えて互いに発展していることからも考えられる。
     私が読んだ文献(『PISAから見る、できる国・頑張る国1』)では、カナダの教育面における成功の政治的要因は次の三点だと記されている。
    1. 高質な教育カリキュラムの設定
    2. 教員の採用水準の高さ
    3. 財政の平等
     1について、教育カリキュラムは各教育大臣が教員や専門家と相談しながら開発をしている。例として、オンタリオ州では批判的思考を発達させるカリキュラムをとったり、高校2,3年を対象に高度技能専門職専攻プログラムを設定し、教育プログラムを生徒が選べるようにするなどの特徴がある。

     2について、カナダで教員は人気のある職業であり、学生の中の「上位30%」しか就くことができないと言われている。
    そのため教員個人の能力が他国に比べて高く、生徒は高質な指導を受けることができると考えられているそうだ。
     また、教員養成機関もカナダ全土で約50か所であり、教員養成の質も維持できることも要因の一つともされているが、これについては懐疑的という意見もある。
    そして教員に大きな裁量権が与えられていることから、授業内容は教員によって様々であり、教科書も日本のように一冊ではない。

     3について、財政はほぼ完全に州に移譲されているが、州から地域への財政支援は3種類ある。
    1つ目は生徒数に基づいて支給されるブロック補助金、2つ目は分類別の補助金(特別支援教育など特別プログラムのための財政支援金や遠隔地域への交通費支援など基本的なサービス提供に問題がある地域への補助金)、3つ目は財源の貧しい地域を支援する平等のための財政支援であり、州はこれらの支援金を状況に合わせて配分することができる。
    (1〜3『PISAから見る、できる国・頑張る国1』より参照)

     私がここで注目したいのは、3の財政の平等である。研究を進めると財政に関わらず、カナダでは平等を大事にしていると感じた。
    それは、成績下位の地域や生徒を見捨てないということである。例としてオンタリオ州では、州内統一テストを実施しているが、成績の悪い学校や地域に対して、州の介入と財政支援を行った。移民が多いため、英語を母国語としない人も多いが、そのような場合には特別プログラムを用意するなど、一人一人に目を向け、脱落者を出さないようにしているとのことだった。
     これには人口密度や出生率が低く、労働力の多くを移民に頼るカナダでは、「全ての子どもが好成績を収めなければ国の将来は確約されない」(『PISAから見る、できる国・頑張る国1』より)という考えがあるからだそうだ。
    低評価の人々を批判したり、責任を追及するのではなく、一定の水準になるよう支援するという政策が生徒の意欲を高め、能力面においても向上させることに成功したと考えられる。

    U学校運営における保護者や地域の積極的な参加

     カナダでは20年以上にわたって保護者諮問委員会が存在したが、いくつかの州で委員会の改訂がされ、保護者の諮問・監督機能を強化した。
    各州にある保護者諮問委員会は学校審議会などと呼ばれ、保護者や地域の代表などから構成されており、その内容は学校や教育委員会との討議、助言等を行っている。

    V授業内容の魅力

     カナダでは教員に大きな裁量権が与えられており、授業内容は学校、教員によって多種多様である。私は1ヶ月間カナダに短期留学していたことがある。
    その時は外国人を対象とした語学プログラムであり、大学が行っているもののため、州の義務教育の授業風景とは少し異なるかもしれないが、授業から感じた日本との違いをここであげたいと思う。

     ここまでカナダについて考察してきたが、国土や人口、文化の違いなどが多くあり、必ずしも全てを日本で活かせるわけではない。
    しかし、カリキュラム設定や授業内容など、日本にも取り入れられることは多くあると思う。
    このように日本と違う教育の仕組みがあることを知り、選択できる状態にすることが大切なのではないかと考えている。


    第五章 政策提言

     私は子どもたちが、能力面における自分の考えを表現すること、意欲面における勉強と将来を結びつけ、学習意欲を高めることという課題を克服するために
    次の二点を提案したいと考えている。
    1. 課外学習を日常的に行う
    2. 地域が教育に関わることができる機関を発展させる
     1,学校の中で教科書を開くだけの授業ではなく、地域に根差した教材をつくり、体験することが重要だと私は思う。
    カナダで行われている授業の日常的な野外学習・フィールドトリップから日本のキーパーソン21で行われているキャリア教育まで様々な段階や規模で課外学習を実施することが大切だ。
     日本では近年、中学生や高校生の職場体験を充実させ、キャリア教育に力を入れたり、理科の授業では観察や実験の時間を増やすなど、自分で考える機会を多く設けている。 しかし、まだまだ外での学習は多くはないと思う。
    日常的に課外学習を学校側が行うことで、今後何か課題があった時に、生徒自らが博物館へ足を運んだり、生物の観察をすることにも繋がるのではないか。
     私は生徒が学習意欲を高め、自発的に行動し、知識を深めるために課外学習の機会を増やしていくことが必要だと考えている。

     2,これまでの研究で、先進地域では教育委員会と学校の他に地域や保護者が学校運営やカリキュラムに関わる機関があることが分かった。
    1の課外学習を行うためには地域の理解や協力が必須である。
    そのために地域や保護者による機関が必要であることはもちろん、群馬県の地域コーディネーターのような学校と地域を結ぶ人の役割が重要だと考えている。
    保護者や住民の中には、キャリア教育や課外学習の意義を理解しておらず、教室の中で読み書きをすることが効果的だと考えている人も中にはいるかもしれない。 また子どもがいない人は教育に対して無関心かもしれない。
     そのような人達に地域全体で教育をしていく必要性を訴え、一人一人と教育が関係のあるものだと認識してもらうためにも地域機関の発展は重要だと考えている。


    おわりに

     この研究を通して感じた事は、問題は国ごと地域ごとに多種多様で同じものは一つとしてなく、また教育政策も様々だということだ。
    同じ政策でもある地域では成功し、他の地域ではあまり効果がないということもある。
    また経済状況や文化が全く異なる場合でも、教育に対する考え方は似ていて、成功しているということもある。
    そのような難しい状況の中で大切なことは、地域を一番良く知っている私達住民が学校での教育状況を理解し、関わることだと思う。
    これは全員が地域コーディネーターになることや地域機関に参加するという意味ではない。
    関わり方は様々で、例えば子どもたちが地元の調査をしているときにアンケートに回答することや、アルバイト先へ職場体験に来た子どもたちに仕事の楽しさを教えることも良いと思う。
     今、日本では地域の参加を促すため、文部科学省、各自治体で機関づくりを行っている。
    このような行動を多くの人が知り、一人一人が教育に参加することで、子どもたちの成長を支えていけたらと私は考えている。


    参考文献


    Last Update:2014/2/7
    ©2012 Sachiyo Kuroiwa.All rights reserved.