『静岡空港』の活用策を 考える

社会科学部4年
大池宏明
上沼ゼミナールII・III(政策科学研究)



静岡県全景 マピオンHPより


研究動機

 現在、「地方の活性化」が盛んに叫ばれている。地方の現状をめぐってのキーワードは、「人口減少」「少子化・高齢化」「過疎」「限界集落」など、一様に暗いものであろう。昨年に民間シンクタンクが発表した「消滅可能性自治体」というワードは、センセーショナルな印象を国民に与えると同時に地方に迫る危機の影をはっきりと示したものとなった。そして、それらの脅威は残念ながら私の出身地である静岡県にも迫っているといえる。それらの危機を食い止めるための方策を考えるときに、私の地元である静岡県が持つ有力なインフラである「静岡空港」をいかに活用していくか、という視点に興味を持った。現状として、静岡空港は利用者数の伸び悩みやインフラ整備の不充分などでその運用・稼働能力をすべて発揮しているとは言い難い面があることは事実だ。だがそれは、370万人という人口を持つ静岡県の中心に位置するこの空港の持つポテンシャルを踏まえれば、大いなる伸びしろの裏返しとも考えられるのではないだろうか。そして、それを存分に発揮することを通じて地域の魅力を磨いてアピールしていくことは、もとからその地域に住んでいた人達に対してもその地域のブランド力の向上・雇用の創出と若年層の流出の防止という利点があるだろうし、「地方創生」が叫ばれる昨今の時勢においてその旗印としての役割さえ担えるものとなるだろう。
 静岡空港の活用策を考えるにあたっては、当然行政のバックアップによる活用という視点が最も重要になると考える。そこで、前述のように静岡・ひいては日本全体を活性化させるため、「静岡空港」の秘めるパワーを行政の立場から引き出すような政策提言を考えていきたい。

概要

 「最後の地方空港」として整備された静岡空港(静岡県牧之原市)は、2014年6月で開港5年を迎えた。しかし利用者は予測の3分の1程度にとどまり、毎年十数億円の赤字を計上する文字通りの“低空飛行”が続く。それに対応するために静岡県は大幅な施設拡充に着手し収支改善をもくろむんでいるが、そもそも県民に静岡空港という存在が根付いていない以上は有効な手立てには見えない。そこで、本論では静岡県が静岡空港に対してどのような政策をとっているのかを取り上げ課題や問題点を考える。さらにその上で、静岡空港の利用促進・活性化につながる政策を考察していきたい。



章立て




第一章 「静岡空港」を取り巻く現状・課題


☆交通の要衝「静岡」


☆「静岡空港」の利用状況




☆他空港とのアクセスの比較(車での所要時間)


☆静岡空港に就航している路線





第二章 利用方法としての三本の柱

☆人口・産業・観光などの各方面で静岡県に潜在的な魅力があるとしても、それらだけに頼った「正攻法」ではやはり限界があると言わざるを得ない。
→では第二・第三の使用法とは?この章では、それを具体的に提案していきたい。


Ⅰ「防災拠点」としての役割


Ⅱ他空港の輸送力を補完する役割


Ⅲ貨物輸送の新拠点としての役割


☆「東海道新幹線・静岡空港新駅構想」は、国交省の答申会においても提示された案である。


☆新幹線新駅のメリット


☆新幹線新駅へ向けての課題






第四章 政策提言

第二章において、静岡空港のメリットを鑑みたうえで、以下の三つの活用策を提案した。 そして、第三章においてこれらの活用策の効果を最大限に引き出すために、JR東海の運営する東海道新幹線・静岡空港新駅の新設を提案した。


本研究において示してきた以上のようなアイディアを踏まえて、今後のさらなる発展のための政策提言を以下に示す。

  • 防災拠点としての静岡空港
    静岡県は、東日本大震災後に静岡空港で自衛隊や米軍などと訓練を実施し、日本の安全保障の観点から見ての防災拠点としての位置づけを進める姿勢を示している。この流れを加速させねばならない。具体的には、行政として南海トラフ巨大地震の際は国や自治体の合同対策本部が置かれる「基幹的広域防災拠点」に位置づけるよう国に求めていくことが必要ではないか。地震や津波、火山の噴火などの緊急時において、静岡県内における救援や復興の拠点となるにとどまらず、首都圏空港の一員として関東における災害時のセーフティーネットとして位置づけられるべきだ。

  • 外国人観光客の受け入れ増加へ向けて
    現在、円安やビザ支給要件の緩和などが重なり外国人観光客の訪日需要は爆発的に伸びている。さらに、その傾向は中長期的な視点から見ても変わることはないだろう。現状の日本の主な玄関口である成田・羽田空港の受け入れ態勢が限界に達しつつあるうえに、政府の進める外国人観光客の地方への均等な観光という政策を鑑みると、東京や名古屋といった大都市に近く、豊かな観光資源を有する静岡空港に対して、外国人観光客受け入れのバイパス機能を担わせることは合理的な選択だ。よって、まずハード面においては公衆無線LANの設置、多言語の看板の掲出、特定の信仰に対してのきめ細かい対応(礼拝室の設置や特別食の提供)を行う必要がある。また、ソフト面においては、静岡から東京・名古屋へと観光をしていってもらう過程のプランニングを手伝うような窓口が必要だろう。また、東海・北陸の県が協力して観光客の誘致を目指す取り組みである「昇龍道プロジェクト」と連携し、その中に静岡空港を使うプランを組みこんでいく事も即効性が高い施策であろう。

  • 貨物輸送の新拠点としてのインフラ整備
    現在の貨物輸送の一大拠点である成田空港と比べてのメリットとして、荷物が少ないために通関に要する時間が短く済むことが挙げられる。よって、輸送において迅速さを求められる生鮮食品や農作物の輸出入における拠点として静岡空港を位置づける。行政としては、それを今以上にアピールしていくために倉庫や冷蔵庫・冷凍庫の設営といった、設備投資をするべきだ。トラック等の陸上輸送を今以上に容易にするために、道路整備を行うことも必要だ。また、空港自体の運用時間を延長することで貨物運輸に大きなメリットが出ることが予想される。全体の利用者増にもつながり、新規路線の誘致や現路線の増便を航空会社に働きかける交渉がしやすくなる。地元への理解を深め、その実現を目指すべきだ。

  • 東海道新幹線静岡空港新駅の実現に向けて
    以上のようなメリットを最大化するための手段として、東海道新幹線の静岡空港新駅構想を実現させることが非常に重要だ。これは実現可能性からいえば充分にあると言え、行政としては事業主であるJR東海や国、国土交通省に対して働き掛けていかねばならない。その駅舎建設においては、静岡県が投資するという形で営利目的であるJR東海に対して負担をかけさせず、それを通じて迅速な構想の実現を目指すべきだ。その過程においては、たとえば2020年の東京オリンピックまでに仮駅舎を完成させて羽田・成田の輸送力のバイパスとして使い、その後休眠状態とするも2027年のリニア開通に合わせて本格営業を開始するといったような柔軟な対応も検討に値する。


    参考文献・WEBサイト



    Last Update:2015/1/26
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