呉服産業の復興に向けて
早稲田大学社会科学部4年
政策科学研究ゼミナールV
高部将徳
研究動機
実家が呉服屋で、昔から着物がなかなか売れない状況を見てきた。着物は日本を代表する文化の一つであるが、その日本の文化が日本人から遠い存在になっていると感じたので、着物について研究してみたいと思った。
研究概要
日本の呉服産業の現状、人々の着物に対する考え方、現在不況の中でも成功している呉服店の策略などを分析し停滞している呉服産業の復興につながりる政策を考える。
章立て
- 第一章 着物の歴史
- 第二章 着物に対する人々の声と着物の課題
- 第三章 課題解決型の新しい呉服屋
- 第四章 新たな着物需要
- 第五章 政府の政策
- 第六章 着物と海外
- 第七章 政策提言
第一章 着物の歴史
着物は縄文、飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町、安土・桃山、江戸時代と時代ごとに変化し、江戸時代に現在の和装スタイルの基盤ができる。しかし、日本は明治維新(1868)で西欧化、第二次世界大戦後(1945)に欧米化し着物の文化が薄れていく。
*戦争中は着物は贅沢品とされ1941年に商うことを禁止される
→これらにより日本では洋服化が進む
しかし、その後着物の流行がやってくる
明治維新や第二次世界大戦の影響で着物市場は衰退するが、1959年、皇太子妃美智子様の結婚をきっかけに着物もブームが起こる。
*結婚式に美智子様が着物姿で登場したことにより日本に「和服熱」がおこる。
当時、多くの日本人は着物を戦争で焼かれたり失ったりしておりと、着物を新たに買う必要があった。
→この頃から日本社会の和服文化は全盛期に入り、1975年には着物市場は2兆円に達する。
この1975年をピークに、その後徐々に着物産業は衰退し始める。2012年には約3110万円程の市場規模にまで縮小した。これは40年前の15%ほどで、著しい衰退がわかる。
このように、着物産業は現在では衰退した産業となってしまった。

出典:2013-2014年版着物産業年間(矢野経済研究所)
第二章 着物に対する人々の声と着物の課題
平成21年3月、経済産業省の近畿経済産業局により平成21年に調査が行われた。
調査結果のポイントをまとめると、以下のようになる。
- きものの着用経験率は約9割と非常に高い
- 過去も着たことがなく、これからもきものを着ない3大理由は、
- 着るのが大変だから
- 着る機会が少ないから
- 費用がかかりそうだから
- 着用意向者がきものを着てみたいシーンは儀式(結婚式、葬式、お宮参りなど)、パーティなどの晴れやかな場
- きものを着るにあたって分からないこと、困っていることの3大ポイント
- 着付けができない
- 手入れの仕方がわからない
- 着こなし方が分からない
この結果から見ると世間の人は着物に対し、着方、保管の方法など着物購入後の手間に対する悩みを抱えている人が多いことがわかる。
以上のことから着物には多くの課題が存在することがわかる。
値段が高い、着付けができない、手入れの仕方がわからない、呉服屋は敷居が高く入りづらい、コーディネートの仕方がわからない、など多岐にわたる。
これらの課題によって世の中の着物離れが進んだのだ。
第三章 課題解決型の新しい呉服屋
二章で着物が抱える課題について述べたが、この着物の課題を解決し商売をする呉服が存在する。東京山喜株式会社の「たんす屋」とうい呉服屋だ。従来の着物販売を専門とする呉服屋と異なり、このたんす屋は着物ユーザーの悩みを解決することを中心に呉服屋を営む着物ソリューショビジネス型の呉服屋といえる。
このたんす屋は他の呉服屋と異なる特徴が多い。
- @手入れ、買い取り、コーディネート、保管などの着物に関する悩みを解決するソリューションビジネスを展開
- Aリサイクル品の着物をメインに取り扱う
- B若者向けの呉服屋の展開(Tokyo135°)
これらの特徴があり着物業界で独特の存在感を放っている。
Aのリサイクル品については、たんす屋の売り上げのシェアの約半分以上を占める。Bも重要なポイントであるため次章で詳しく説明する。
第四章 新たな着物需要
ファッションの聖地である原宿。ここに近年若者向けの着物を売る呉服屋が増えてきている。
三章のBは若者の着物需要にうまくマッチさせたものだといえる。
原宿・表参道の若者向けの着物屋の増加:
- Tokyo135°
- キモノモード
- くるり
- JIKAN STYLE
- agaru
- SHITO HISAYO
- 大江戸和子
- むす美
- CHICAGO
- 壱の蔵
これらは原宿・表参道にある呉服屋の一部で、年々若者向けの呉服屋の数は増加している。
この現象は若者の間での着物需要が高まりつつあることを示している。なぜ若者向けの着物需要が高まりつつあるのか。
それには次の理由が考えられる。
- リサイクル品・アンティーク系の物が多い
→リサイクルにより価格が安く購入者の増加につながる
普通に呉服屋で着物を買うと数十万円かかるが、リサイクルだと安いもので数千から三万円程度で購入することも可能になる。
- 時代による着物の変化
→従来の着物は絹などの高価な素材だが最近ではポリエステルなどの生地の着物がある
- 他にもジーンズ生地の着物などがありバラエティに富んだ品種が増えている。
- 着物の着方の進化
→洋服ミックスという着物と洋服を上手くミックスさせて着るファッションが進んでいる
このように着物は時代や現代の人のセンスに合うように変化しており、時代のニーズに適応している。
第五章 政府の政策
着物産業を支援する政府の政策として挙げあれるのはクールジャパン戦略だ。クールジャパンというとくくりが大きくなるが
現在では着物産業をピンポイントで支援する政策は少ない。そこで着物産業を支援する代表的な政策としてクールジャパンの内容を見てみたい。
「クールジャパン戦略」:
- 狙い→自動車、家電、電子機器等の従来型産業に加えて、「衣」「食」「住」やコンテンツ(アニメ、ドラマ、音楽等)をはじめ
日本の文化やライフスタイルの魅力を付加価値に変える(「日本の魅力」の事業展開)。
新興国等の旺盛な海外需要を獲得し、日本の経済成長(企業の活躍や雇用創出)につなげる。
*経済産業省はクールジャパン政策を民間ビジネスへつなげ、世界へ広げる役割をする。
具体的な支援内容
- 新興国におけるテストマーケティング等支援事業
→アニメ、ファッション、食、地域産品の生活文化の特色を生かした魅力ある商品やサービスを新興国市場に展開すべく
その担い手である地域の中小企業等が、現地で販路開拓できる企業と組み、販路構築等に向けたテストマーケティング等に対する支援事業。
- 海外での販路開拓支援
→アニメ、ファッション、食、地域産品の生活文化の特色を生かした魅力ある商品やサービスを海外市場に展開すべく
その担い手である地域の中小企業等が、現地で販路開拓できる企業と組み、販路構築等に向けたテストマーケティング等に対する支援事業。
- 日本公庫による資金供給
クールジャパン戦略の課題:
- コンテンツや地域産品の海外展開に対して様々な支援を講じ、成果が出ているものがある一方で、継続的なビジネス展開をしているケースが少ない
- クリエイターやデザイナー等や中小企業の中には、海外拠点や海外連携先がない金融機関からの資金調達が困難等の理由により、海外展開することが困難な企業が多い。
クールジャパン戦略も外国へ進出するにはよい政策ではあるが、このような課題を解決しつつ政策の質の向上に努めなければならないと思う。
第六章 着物と海外
この章では着物と外国との関わりを見ていきたい。
- 2014キワニス年次総会
長瀞静着物学院による着物ショーが外国人に向けて東京と千葉で開催された。内容は以下のとおりである。
- 外国人に着物の着用を体験
- 着物ショー
- 着付け公開など
- Kimono Projekut FURIKURU
使われなくった着物を買い取り、外国で低価格で販売する。日本には使われなくなってしまい、家庭のタンスに眠っている着物が8億枚あるといわれている。それを回収し、リサイクル着物として販売される。
- イボンヌチャカチャカさんの来日
アフリカの歌姫として知られている南アフリカの歌手イボンヌチャカチャカさん財務省に来日した。イボンヌさんはGAVIアライアンスの大使として世界の子供たちへのワクチンの普及啓発活動、結核などの感染症対策の重要性を訴えるために来日した。その時に艶やかな着物を着て訪問された。
このイボンヌさんの着物姿はメディアへ大きな反響を呼んだ。外務省ホームページ、山本ひろし議員のブログ、あきの公造議員のブログ、NGO日本リザルツ公式ブログ、読売新聞など多数のメディアに取り上げられた。
これは外国人と着物というミスマッチだと思われていたものが、マッチした結果ではないかと思う。外国人が着物を着てこれだけの反響があるということは、外国と着物の組み合わせに大きな魅力が生まれるということだと思う。日本文化である着物は国内だけでなく、外国にも進出していくとよいのではないだろうか。
このように多くはないが着物と外国の関わりが存在する。今後は着物と外国の関係を少しずつでも大きくしていける政策や活動を増やしていくと、着物産業の拡大にもつながるのではないだろうか。
第七章 政策提言
ここまで着物歴史や着物そのものの移り変わり、外国との関わりなどを見てきた。それらをふまえ、着物産業を活性化させる政策提言をする。私の政策提言は以下のことだ。
- 安価でカジュアルをコンセプトに着物を製造と販売をする
着物を日常の生活で着れるようにしていくためには、消費者が買いやすい値段で普段の生活で着れる手軽さが必要だと考えられる。たとえばデパートの婦人服コーナーや紳士服コーナーに、周りの服の値段と大差なくカジュアルな着物が並んでいるのが当たり前になれば理想である。安く手に入るリサイクル品の着物需要が増加している現状を考慮すると、着物も安価にするのがやはり売れる秘訣だと思う。若者向けの着物もリサイクル品が多く安価でカジュアルなものが多い。
安価でカジュアルな着物を、ファッションに敏感な若者の間で流行させれば他の世代にも安価でカジュアルな着物を着る習慣が広まっていくのではないかと思う。
- 日本人だけではなく外国人をターゲットにした着物の販売戦略を繰り広げていく。
イボンヌチャカチャカさんの例にあるように外国人が着物を着ることには大きな反響が生まれる。またクールジャパン戦略を利用し、より多くの呉服屋を海外に進出させて海外での販路開拓をしていく必要がある。2013年の来日観光者数が1000万人を超えたこと考えると、日本の文化を広めていくチャンスは大きい。この現状を利用して外国人向けの着物販売を強化すれば新たな着物需要の創造と着物市場の拡大につながると考える。
- 呉服屋を支援する政策を増やし呉服屋の着物販売力を高める
政府の着物産業を支援する政策を調査したが、目立つものがほとんどなく、しいて言えばクールジャパン戦略くらいであった。これは着物産業が支援される政策が乏しいということではないだろうか。特に呉服屋は中小企業の規模のものが多い。資金が乏しく販売力が低いお店が多いのだ。大きな呉服屋はクールジャパンなどのでかい支援政策に乗れるが、そうではない中小の呉服屋でも気軽に利用できる呉服屋の支援政策を増やしていく必要がある。
参考文献
- 経済産業省最終アクセス 2015/1/27)
- 矢野経済研究所(最終アクセス 2015/1/27)
- 矢野経済研究所『きもの産業年間』
- 中村健一『たんす屋でござる』商業界
Last Update:2015/1/27
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