※テニスナビ ツアーの仕組みより
そして、先程軽く触れたが、「ソフトテニス」の存在が日本国内では大きな障害となっているのは間違いないだろう。ソフトテニスは日本で普及発展したスポーツで、少しずつ欧州にも広がっているが主に日本とアジアでプレーされている。日本では中学校、高校で部活動などで実施されていることが多く、幼少期からテニスをしてきた子供がソフトテニスに転向するケースなども多くみられる。実際に私も小学校時代かからテニスを習っていたのだが中学校にテニス部がなっかったため、ソフトテニス部を選択せざるおえなかった経験がある。下に中学校・高校の男子の部活数を現した表がある。中学校ではテニス部がランク外なのに対しソフトテニスが活発に行われている一方で、高校からはテニス部が急激に増えていることがわかる。
平田竹男(2012)『スポーツビジネス最強の教科書』より
また世界との比較をする時に注目されるのがお金である。テニスのトッププレイヤーの中には年間何十億も(スポンサー料などコート外の収入も含め)稼ぎだす者もいる。日本でもその名を知られているロジャー・フェデラーは全アスリートの中でベスト5に入ったこともあり60億近く稼ぎ出している。2014年の全米オープンの賞金が総額約40億円、優勝者は約3億1900万円獲得できるようになっていたことからもビジネスの側面が強いことが想像できる。 これまで挙げたものは本当にごく一部である。他にも大会数やそのグレードの問題、メディアでの取り上げられ方、育成システムなど多くの点で日本は遅れを取っていることが世界と比較することでわかってくる。
国際テニス連盟(ITF)が推奨する普及プログラムである。
概要を要約すると、テニスの楽しみは、「サーブし、ラリーして、得点する」ことにあるとして、年齢と体力に応じて3種類のボール、ラケット、コートを使用し、小さな子どもでも、高齢者でも、そして一般の初心者でも、ラケットを持ったその日からテニスをゲームとして楽しむことを可能とさせるテニスプログラムである。なぜこのようなプログラムが実施されているのかというと、テニスを始めても続けないですぐにやめてしまう人が非常に多いという問題を抱えているからである。である。次のような例もある。
(例)オランダでは、毎年9万人がテニスを始め、9万人がテニスをやめている。テニスを始めた5〜12歳の子どもの34%が、テニスが楽しくないという理由でやめている。
[それぞれのニーズにあったプログラムが存在]
PLAY+STAYイベントは様々なところで開催されてる。例えばテニスの日である9月23日や、ニッケ全日本選手権におけるPLAY+STAYテニスフェスタなどがある。しかし、認知度はまだまだ低いので、今後の活動が重要である。
中学都道府県体育連盟への加盟が認められていない都道府県は、全国中学校総合体育大会の種目として採用されない。そのため公立の中学校の部活動に硬式テニス部が設置されていないというケースが多くみられる。小学生時代もしくはそれ以前からにテニスをしていていも、テニス部が存在しないため他の部活動を選ばざるを得ない(もしくは部活動に所属せずスクールに通う。この決断は中々友人関係などを考えると難しい)≪「空白の三年」≫という事態が避けられない。このような背景が歴史的に中学校ではソフトテニスが盛んな理由の一因となっている。
こういった状況を打破するため2009年に普及・指導本部内に中体連対策委員会を設置し加盟運動を推進。その結果、2007年には47都道府県中、加盟16、準加盟1、未加盟30であったが、努力が実を結び2013年1月末には加盟20、準加盟9、未加盟18へと大きく前進した。
しかし、テニスの実施率が4位の千葉県、5位の愛知県は未だに準加盟。2位の神奈川県にいたっては未加盟のままという現実がある。第二章で述べたが、中学校のテニス部の数は少なすぎると言える状況にある。今後より一層取り組みを深化させ「空白の3年」の解消をめざしていく必要がある。一方で普及が遅れたことにより既にソフトテニスとの共存が困難などの理由から、テニス部の新設は難しくなっているという現実的な問題にも直面している。
テニスに限った話ではなく日本の大学はまだまだアスリート養成機関としての機能が海外に比べ希薄である。基本的には学生アスリートの育成強化の場としての存在価値を問われているが、大学が直接大会の運営に関わるという形での試みがいくつかの大学で行われている。
(例)早稲田大学による大会開催
その他にも慶応、筑波、亜細亜大学などで学生テニス界の発展に寄与すべく大会が運営されている。
総合型地域スポーツクラブ(以降、”総合型クラブ”とする)とは公益性を有しているヨーロッパのスポーツクラブをモデルにしたものであり、従来のスポーツクラブとは異なる。我が国は学校や企業を中心にスポーツが発展・実施されてきたため、学校等を卒業すると同時にスポーツと関わる機会が減少してしまう傾向にあった。しかし、総合型スポーツクラブのモデルともなったヨーロッパでは地域のスポーツクラブを中心にスポーツ活動が行われいるため日本のような事態が発生しにくくなっており、スポーツ実施率を高めることができている。
総合型とは3つの多様性を包含している。種目の多様性・世代や年齢の多様性・技術レベルの多様性である。以下のものがその概要である。
「総合型クラブは、地域住民が自主的・主体的に運営し、身近な学校・公共施設等で日常的に活動する地域密着型のスポーツ拠点として、生涯スポーツ社会の実現に寄与するほか、地域の子どものスポーツ活動の受け皿、家族のふれあい、世代間交流による青少年の健全育成、地域住民の健康維持・増進などの効果も期待されます。」(平成21年度文部科学白書より)
こうした多様性を持ち、日常的に活動の拠点となる施設を中心に、会員である地域住民個々人のニーズに応じた活動が質の高い指導者のもとに行えるスポーツクラブであり、クラブマネージャーが存在するものが総合型クラブなのである。
テニスは元々生涯スポーツとしての側面を強く持ち合わせているため、国の進めるスポーツ振興政策に合致し、この総合型クラブを利用していくことが求められている。
テニスはサッカーや野球などと異なり、「場所」つまりテニスコートがないとほとんどのことができないスポーツである。テニスコートの面数に限ってみてみると、1996年には38,423面あったものが2008年には28,398面と29.1%も減少している。コートの減少=テニスをする機会の減少と捉えることができる。
また世界で戦う選手を育成するという視点で考えるとコートの種類も重要になってくるだろう。プロが利用するコートの種類は主にクレーコート(土や砂)とハードコート(セメントの上に合成樹脂などでコーティングしたもの)の二種類とウィンブルドンが開催されるシーズンに利用される芝のコートである。コートにはそれぞれ全く異なる特徴があり、その特徴に適応していくことが世界で活躍するための鍵となる。スペインなどはジュニア時代からクレーのコートで練習を積むため、プロになってからもクレーコートで圧倒的戦績を残している。
一方日本はどうなっているのか。次のデータのコートの割合に注目して少しイメージして頂きたい。
≪コート数は8105面であった。コート種類別にみると、「砂入り人工芝コート」(3216面)が最も多く、次いで「ハードコート」(2440面)、「クレーコート」(1436面)の順となっている。
コート数種類別構成比をみると、水捌けのよいコートの構成比が高く、その中でも「砂入り人工芝コート」が構成比39.7%と主流となっている。【U.テニス場(テニス練習場を含む)の概況より】≫
このように日本で利用されているコートは選手が利用するクレーでもハードでもないく砂入り人工芝のコート(通称オムニコート)なのである。確かに維持管理の事や水捌けのよさなどを考えるとオムニという選択は理解できるが、選手の育成などを考えると別の答えが出てくると思う。
調査を進める中で日本ではどのようなスポーツ政策が実際に行われているか、どのような目標を持っているのかをしっかりと知る必要があると感じた。そうすることで国のスポーツ政策の目標が最近になり策定されていることや法整備が進んでいることがわかってきた。
『スポーツは、世界共通の人類の文化である。
スポーツは、心身の健全な発達、健康及び体力の保持増進、精神的な充足感の獲得、自律心その他の精神の涵(かん)養等のために個人又は集団で行われる運動競技その他の身体活動であり、今日、国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む上で不可欠のものとなっている。スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない。
スポーツは、次代を担う青少年の体力を向上させるとともに、他者を尊重しこれと協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度や克己心を培い、実践的な思考力や判断力を育む等人格の形成に大きな影響を及ぼすものである。
また、スポーツは、人と人との交流及び地域と地域との交流を促進し、地域の一体感や活力を醸成するものであり、人間関係の希薄化等の問題を抱える地域社会の再生に寄与するものである。さらに、スポーツは、心身の健康の保持増進にも重要な役割を果たすものであり、健康で活力に満ちた長寿社会の実現に不可欠である。
……(省略) このような国民生活における多面にわたるスポーツの果たす役割の重要性に鑑み、スポーツ立国を実現することは、二十一世紀の我が国の発展のために不可欠な重要課題である。
ここに、スポーツ立国の実現を目指し、国家戦略として、スポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。』
⇒マクロな日本のスポーツ政策を調べ、「生涯スポーツ」に力を注いでいることを確認することができた。
法整備等の努力も実ってか、スポーツ実施率は年々高まってきている。
四章で日本のスポーツ政策を俯瞰したところ「生涯スポーツ」が一つの重要なキーワードであると感じた。また、その生涯スポーツをテニスの振興策に結び付けていくことが解決策につながると考えた。ここでは生涯スポーツについてまとめたい。
対象は子供からお年寄りまで幅広いが、ターゲットは主に高齢者並びに運動から離れている人々である。生涯スポーツという言葉から、身体にいいからスポーツを生涯続けようという意味でのみ捉えられてしまうが決してそれだけではない。生涯スポーツは競技スポーツとは身体等への負荷の面で異なり区別する必要があるが、競技スポーツも生涯スポーツの一種である。
ライフスタイルに応じたスポーツ活動をまとめたものが下の図1である。
図2:笹川スポーツ財団:政策提言P6より
図3:笹川スポーツ財団:政策提言P15より
図3の種目別スポーツ実施率を見てみると週一回以上、月二回以上運動をする習慣がある人がテニスは多いスポーツである。国の成人の週1回以上の運動実施率の50%という目標の達成を目指すうえでもふさわしい競技だ。
また、テニスは実施率も高いうえに、二章の図1からも読み取ることができるようにように様々な年齢層が取り組んでおり、競技者が多く人気も高い野球・サッカーと比較しても成人の実施率の割合は非常に高いものとなっている点で、生涯スポーツに適した競技であると言えるだろう。
ここで生涯スポーツと密接な関係がある総合型クラブを改めて考えてみたい。概要は三章の実例Cを見て頂きたい
⇒主役は地域の住民!各地域でそれぞれ育み、発展させていく!
日本体育協会では総合型クラブの設立を促進するための映像やガイド本もつくられている。
設立のメリットはこれまでのものと重複する点もあるがいくつも挙げることができる。
総合型クラブ実践事例
三つの団体の取り組みは主な対象とする人々の年齢や最終的な目的が全く異なっている。これが総合型クラブの特徴であることが理解していただけると思う。次章でさらに総合型クラブに関して詳しく調べていきたい。
兵庫県の総合型クラブの例
これまでいくつかの観点から日本のテニスの振興策について考えてきた。日本では現在、野球・サッカーという二つのスポーツには多くの競技者がいて、人気を集めている。これらのスポーツと同じ取り組みをしていては現状を変えることができない。現在錦織圭の大活躍によりテニスの注目度は格段に高まっている。また、テニスは漫画等のメディアの効果で定期的に恩恵を受けているスポーツである。しかし、スター選手が登場するのを待っているだけというのも、根本的な変化を引き起せない。「みる」スポーツとしてのテニスの人気を高めるためには「する」スポーツとしてのテニスの充実をはかる必要が出てくる。
高まった人気を一過性のものにしないためには、根本的な部分の取り組みが必要だ。
そこで私は以下のことを提案したい。
―――総合型地域スポーツクラブでのテニスの実施の強化―――
総合型クラブの普及は国が力をいれている計画であり、東京五輪が開催されるということを考えると今後より一層進展していくことが予想される。
そこで、日本テニス協会等で実施されている普及活動の普及の対象を人ではなく、総合型クラブに向けることで今まで獲得することができなった新規の競技者や人気の向上つなげることができるだろう。
また、テニスはスポーツとしては珍しいかもしれないが、学生がバイトとしてスクールの授業を受け持っているケースが多く見られる。ボランティアの報酬としてお金ではなく、コートの無料開放などを行うなどして学生を有効利用することによって、総合型クラブにとってネックの一つである「支える」人材を見つけ出すことができるではないだろうか。
総合型クラブでのテニスの実施率は現在高いとも低いともいえない状態にあるが、ソフトテニスと合わせるとかなり高い数値を誇ることから、実施する環境は比較的整っていると考えることができる。今後日本テニス協会などが中心となり設置を呼び掛け、支援することが重要となる。
また、鈍りつつある総合型クラブの普及を今後も伸ばし続けるために、国としても推奨する競技群を作成し、ある程度の明確な育成ビジョンを持つ必要があると感じた。あくまで「多種目・多世代・多志向」という基礎にあるものを失わないようにしなくてはならない。そういった前提を踏まえながらも、国にテニスの総合型クラブでの普及に力をいれるということを提案したい。なぜなら、総合型クラブの普及の目的は運動の実施率を高めることであり、生涯スポーツを促進させることにある。テニスが生涯スポーツに適しているという話はした。テニスの総合型クラブでの実施率を高めることにより、クラブ間での交流も活発になり、クラブの育成・運営の安定化にもつなげることが予想できる。
テニスを生涯スポーツの旗頭のような立ち位置に据えることによって、政府の力を利用したテニス振興の実現を目指す。