外国人労働者受け入れに関する政策提言-技能実習制度見直しの視点から-

社会科学部4年
政策科学ゼミナールV
仲田 萌

研究動機

 近年、日本での外国人労働者数が増加傾向にある。実際、街で外国人労働者を見かけることが非常に多くなった。そして、今後その数はますます増加していくと予測されている。それは、外国人労働者が「これからの日本産業の担い手」として注目されているからである。

出典:国立社会保険・人口問題研究所

 上記のグラフから分かるように、日本では少子高齢化が進んでおり、2013年には、生産人口年齢(15〜64歳)が32年ぶりに8000万人を下回った。このように、現在日本は、深刻な労働力不足に見舞われており、それを補うための新たな労働力として、外国人労働者の需要が高まっているのである。

 実際、2014年6月に発表された安倍政権の成長戦略には、「外国人労働者の積極的な受け入れの拡大」が盛り込まれており、今後国としても外国人労働者受け入れに向けて動く始めることが予測される。

 しかし、すでに日本で就労している外国人労働者の労働環境・労働条件は非常に劣悪であるというのが現状だ。実際、2013年には、広島県江田島市で、中国人労働者が労働環境や労働条件への不満を動機として、雇用先の経営者ら計8人を殺傷する事件が起きている。
 このような現状のまま、外国人労働者の受け入れを促進していったらどうなるのだろうか。受け入れに対する是非などの問題もあるが、今早急に必要とされているのは、外国人労働者の現行の受け入れ制度の見直し・労働環境の整備なのではないか。
 このような思いから、私は外国人労働者問題を研究テーマとした。よって、当研究では、技能実習制度を始めとする日本の現行の外国人受け入れ制度の見直しによる、外国人労働者の労働環境改善を研究の軸にしつつ、今後高まるであろう外国人労働者需要にどう向き合っていくのかも考えていきたい。


章立て


第一章 日本における外国人労働者受け入れの現状

 日本における外国人労働者受け入れに関しては、出入国管理及び難民認定法(入管法)において、基本的考え方が規定されている。それは、

「日本では、基本的に観光目的以外の外国人の長期滞在(就労・定住目的)を認めていない」

 というもので、外国人労働者受け入れには比較的消極的なスタンスをとってきた。このようなスタンスをとっているのには、主に以下のような要因が考えられる。

 2007年の厚生労働省の雇用政策研究会が発表した文書には、外国人受け入れに関して、「外国人労働者の受け入れについては労働市場などへの影響や治安も含め、広範な国民生活全体に関する問題として、引き続き幅広い見地から総合的に検討されるべき」記載されており、慎重な姿勢がうかがわれる。

(参考)2010年6月11日朝日新聞世論調査「いまとこれから」における「将来、少子化が続いて人口が減り、経済の規模を維持できなくなった場合、外国からの移民を幅広く受け入れることに賛成ですか。反対ですか。」という質問に対して

 このように、基本的には外国人労働者は受け入れない、としている日本だが、以下の人々には「在留資格」というものが与えられており、日本での就労が認められている。

出典:厚生労働省HP

 このように特別な事情をもつか、特別な技能を持つ人々に限られており、特に技能を持たない単純労働者は一切受け入れないということになっている。


第二章 日本における外国人労働者の受け入れの問題点ー外国人技能実習制度

 前章で、日本では一部の限られた人を除く、一般的な単純労働者は基本的に受け入れないとしているが、実際には、工場の生産ラインなどの単純労働の場で、外国人労働者がなくてはならない存在となっている。

出典:厚生労働省HP

 この「単純労働者は基本的に受け入れていないはずなのに、実際には多くの外国人労働者が就労している」という矛盾には、主に以下の2点の要因が大きく関係していると考えられる。

 一点目として挙げられている「不法滞在者」とは、前述した在留資格を与えられる4つの属性の当てはまらない単純労働者の人々のことで、法に違反して日本で就労する形をとっている。しかし、下記のグラフから分かるように、近年、大幅に減少している。

出典:pedia.org/wiki/不法滞在

 そこで注目すべきもう1つの要因が、技能実習生の実質単純労働化である。これは、在留資格をもつ4つの属性の内の1つである技能実習生が、研修という名の低賃金労働を強いられるということである。これがどういう事態であるかを理解するために、以下では外国人技能実習制度を掘り下げる。

出典:中国経済交流協同組合HP

 外国人技能実習制度とは、「開発途上国への国際貢献と国際協力を目的として、日本の技術・技能・知識の修得を支援する制度」である。つまり、外国人を日本の技術や知識を学ぶ研修生として扱い、一定期間実習として労働現場で働き、それを母国に持ち帰るのである。

 あくまでも技術移転が目的であるため、@最長3年A再入国不可というルールがある。また、その受け入れ分野としては、農業関係・漁業関係・建築関係・食品製造関係・繊維衣服関係など合計62種114作業となっている。現在は約15万人にものぼる実習生が活動している。

 この外国人技能実習制度は、近年における建設分野の人手不足(震災復興・2020年東京オリンピック開催の影響に依る)解消を目的として、制度拡充が図られている。2014年4月には、政府が「建設分野における外国人人材の活用に係る緊急措置」を発表し、その中では@滞在期間延長(3年→5年)A再入国可という制度改正を図った。
 このように、人材確保のために規制緩和を行ったわけであるが、そもそも拡充の以前に、この制度には問題があり、このまま拡大すると大変な事態になるのではないかという懸念がある。

 ではその問題とは何なのか。それは、「技能実習制度を行っている内の約80%の企業が、賃金の不払い、違法な長時間労働などの法令違反をしている」という外国人技能実習制度の劣悪な実態である。以下が具体的な事例である。

 米国は「人身売買報告書」において、このような外国人労働者の劣悪な労働環境について、「強制労働が存在する」とし、制度の廃案を求めた。それほどに、外国人実習生の処遇は悲惨なのである。

 つまり、外国人技能実習制度は本来の「途上国への貢献」という目的から逸脱し、実際には「安価な労働力の確保」のための手段と化してしまっている。これは本音と建て前が乖離している状況である。

 また、このことは、日本は単純労働者を受け入れはしない(建前)としているにも関わらず、実際には、「外国人技能実習制度」を利用して、研修生とは名ばかりの「実質単純労働者」を大量に受け入れている(本音)という意味での本音と建て前の乖離ともいえる。

 このように、実際に単純労働者のような人々が存在しているのに、国はそもそも受け入れてないからそのような人々は存在しないはず、というスタンスをとっている。この摩擦のせいで、どんどんその数は増加していくにも関わらず、外国人労働者の劣悪な労働環境はいつまでも改善されない。まずは、「実質単純労働者」の存在を認めることから始めていくべきではないか。

 このような分析・考察をもって、当研究では、「外国人労働者問題」の中でも、「国の制度と実情の乖離」による外国人労働者の無計画な増加の食い止め、それに追随して起こっている外国人労働者の劣悪な労働環境の改善を課題設定とする。


第三章 事例研究@−外国人受け入れの影響

前章で、日本の現行の外国人労働者受け入れ制度の問題点を整理し、

 という方向性を見出した。

 ただここで、何の配慮もせずに単純労働者を正式に受け入れると、様々な問題が出てくると考えられる。単純労働者を受け入れるとどのような事態が起きるのか理解した上で、それに配慮した政策を考える必要があるため、単純労働者受け入れによる影響を過去の事例から研究し、政策の方向性を考えたい。その事例として、当章では、国内から愛知県豊田市、海外からはドイツの事例を研究対象とする。

(1)外国人労働者増加による影響ー愛知県豊田市の例
 愛知県豊田市は昔から自動車産業などの製造業が盛んであり、製造業の人手不足に外国人労働者活用をつなげてきたという歴史がある。下の図からも分かるように、その数は、平成20年の時点で16,800人に上り、全人口の4パーセントを占めている。

 その豊田市の中でも「保見ヶ岳」という地には、「外国人集住地区」なるものが存在する。豊田市で暮らす外国人労働者の多くがここの集合住宅や団地に集まっている。

保見ヶ岳全景(自治体から発信する平和・人権・共生のまちづくりレポートより)

 このように、日本の中でも有数の外国人率を誇る保見ヶ岳区であるが、その歴史は今から約20年前のバブル期までさかのぼる。1990年のバブル期末期、「出入国管理及び難民認定法」の改定がなされ、日系人に対して「定住者」資格が与えられるようになった。これを機に、外国から移住してきた日系人の日本国内での求職・就労・転職が自由になり、その数は一機に増加し、集住も始めた。しかし、その後バブル崩壊もあいまって、様々な問題が出てきた。                                =「労働面」での問題                                =「社会生活面」での問題

 これに対して、行政・企業・地域・NPOが対策を行っているが、各々に課題がある。

【行政】外国人向け相談サービス

 ⇔ 行政サービスを受ける時間を割けない、転居が多く居住と生活の実態がつかめない

【企業】直接雇用増加(×派遣)、日本人と同じ待遇にする努力

 ⇔ 外国人のニーズにマッチしていない(早く母国に帰りたい人が多い)

【地域】ボランティアによる日本語教室・不就学児のための教室、住民間での夏祭りやサッカ教室

⇔ 外国人住民の生活実態にあった拠点づくりをどのように進めるかが当面の課題

【NPO】「特定非営利活動法人保見ヶ丘ラテンアメリカセンター」(愛知県豊田市)・・・パウロ・フレイレ地域学校(ブラジル人・ペルー人向けの学校)、日本人向けのポルトガル語教室

「豊橋ブラジル協会」(愛知県豊橋市)・・・ブラジル人によって結成された。日本語教室やふれあいイベント等を開催

⇔ 資金面・人材面・社会への認知

 これらの問題とその対策における課題を@社会生活面 A労働面に分けて考察すると、今後の外国人受け入れ制度に必要な要素が浮き上がってくる。

@現在の対策に対する課題(社会生活面)
居住と生活の実態が掴めない(行政)、外国人労働者の生活実態にあった拠点作り(地域)、活動の認知度・資金面(NPO)

⇒行政・地域・NPO・企業の横のつながりが必要 =自治体同士の連携システム?

A現在の対策に対する課題(労働面)
外国人労働者のニーズに応えられていない、低賃金等の条件は仕方ないといった風潮

⇒外国人労働者の人権を守れるような組織作りが必要 =外国人労働者の組織化

 

(2)外国人労働者増加による影響ードイツの例
 これまでは主に日本での外国人労働者政策を扱ってきたが、ここで海外にも視野を広げる。というもの、海外の国々は日本に先駆けて、様々な外国人労働者政策を行っており、先行事例としては非常に参考になるのである。

 下の表は、世界の外国人労働者政策であるが、表を見る通り、欧米諸国においても、日本と同じように、原則として単純労働者の受け入れは行っていない。現在も積極的に外国人労働者を受け入れている国はシンガポールなどがあげられるが、非常に少数派であるのが現状である。


厚生労働省職業安定局レポートより抜粋

 ただし、日本と欧米の大きく違うところは、今回事例としてあげるドイツをはじめとした欧州は現在、「単純労働者受け入れない+社会統合政策」を行っているということである。これは、過去に旧植民地や近隣国から大量に外国人労働者を受け入れて、多大なコストと社会不安を生み出したという経緯があるためであり、これからそのような局面を迎える事態が起こる可能性の高い日本とって、欧米諸国の事例は非常に参考になるものなのである。今回はその中でも、過去に大量に外国人労働者を受け入れ、様々な問題が発生し、混乱状態に陥った経緯をもつドイツにスポットを当てる。

 まず、ドイツにおける外国人労働者受け入れ政策の経緯であるが、ドイツの外国人労働者受け入れ政策の歴史は第二次世界大戦後までさかのぼる。

◆戦後〜高度成長期・・・人手不足解消のため、二国間協定により、トルコから年間約100万人もの単純労働者を大量に受け入れる

政府:出稼ぎが終了したら外国人労働者を帰国させる方針で、家族の呼び寄せも制限 →就労・滞在が長期化、出稼ぎ期間延長・家族呼び寄せの規制も緩和

◆1973年 第一次オイルショック・・・外国人失業者が大量発生。外国人労働者の受け入れを原則停止するなど政策を一転させた

しかし・・・
・外国人の定住化が進行(社会の階層化、低賃金の固定化等の問題) ・家族の呼び寄せ等により外国人の流入は止まらない

◆2004〜・・・外国人労働者の受け入れ厳格化+定住した外国人に向けて社会統合政策

◆2008年 リーマンショック・・・外国人受け入れにさらなる厳格化

⇒このような歴史を歩み、現在ドイツでは人口の7%を外国人が占め、そのうち36%がトルコ人(トルコから来た人+ドイツ生まれのトルコ人)となっている。
その中で、多くの問題が起き、政府はその対策に追われた。

・ドイツ人の失業問題も深刻になり、ネオナチ(自国の労働者の雇用拡大を掲げて外国人労働者の排斥を訴える集団)のトルコ人襲撃が相次ぎ、社会問題となった
→外国人労働者受け入れ厳格化

・社会的・文化的統合も進まず、ドイツ語が話せない2世、3世によるトルコ人社会がドイツ国内に形成されてしまった
→移民統合政策(移民に対して、ドイツ語の習得を義務)

 このように一度大量の単純労働者を受け入れ、それを受けて国内で深刻な問題が発生し、その問題に対応した結果が現在の「単純労働者受け入れない+社会統合政策」というスタンスなのである。

 これらの問題を考察すると、

国民の雇用が外国人によって奪われるかもしれないという人々の不安、もしくはその可能性
⇒受け入れ時に数を調節したり、国民の雇用状況に応じてその都度受け入れるようなシステムが必要!

ということが考えられる。


第四章 考察と政策の方向性

 以上の2つの事例(愛知県豊田市・ドイツ)から考察できることを改めて整理すると、以下のような今後の方向性が導きだされる。

@愛知県豊田市の事例
⇒行政・地域・NPO・企業の連携・外国人労働者の組織化

=受け入れ後に必要な政策 事例:静岡県西部地域の事例

Aドイツの事例
⇒受け入れ時に外国人労働者の数、労働条件等を管理するシステム

=受け入れ時に必要な政策 事例:韓国の技能実習生受け入れ制度

 このように、受け入れ時に、外国人労働者の数などをコントロールできるようなシステムと、受け入れ後にしっかりケアできるようなシステムを組み合わせることで、

という目標を実現することをこの研究の方向性=ゴールとしたい。

第五章 事例研究A‐韓国における外国人労働者受け入れ政策

 第四章で示した通り、当研究では、@受け入れ時A受け入れ後の二つの軸で政策提言を行っていく。第五章では、@受け入れ時の政策(受け入れ時に外国人労働者の数、労働条件等を管理するシステム)を提言していくための事例研究として、韓国における外国人労働者受け入れ政策(雇用許可制度)を取り上げる。事例研究として韓国の雇用許可制度を取り上げた理由だが、

などを挙げることができる。雇用許可制度が韓国に及ぼした効果や影響を考察したうえで、日本の特質や状況にあった政策提言につなげていきたい。

 第一に「雇用許可制度」とは、「国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可書を受給し,合法的に外国人労働者を雇用できる制度」である。中長期的な労働力人口の減少・中小企業などの労働力不足・深刻な研修就業制度の問題を背景として、2004年8月に制定された。企業側が各地にある雇用センターを訪れ、雇いたい労働者の出身国や性別をリクエストしたのち、国側が労働者を選定し、派遣するという形をとっている。以下の図は、日本の技能実習制度と雇用許可制度の内容を比較したものである。


 両者の決定的な違いはその「主体者」である。技能実習制度の主体者は「民間」であるのに対し、雇用許可制度は「政府」である。送り出し国と受け入れ国による二国間協定によって労働者が行き来するため、そのプロセスは以前よりも透明化された。この点は、非常に重要なポイントであるといえる。

 また、雇用許可制度には、この原則を含めたいくつかの基本的な考え方、コンセプトがある。

 これらの原則、そしてそれが意図する目的は果たされているのだろうか。次に、雇用許可制度による影響やそれに対する評価について考えていく。効果としては、雇用許可制度の施行後、不法滞在率は80%超から16.3%にまで下がり、失踪率は30%から10%にまで下がった。この結果から、外国人労働者の存在自体を管理、調整することは可能になったと考えられ、一定の効果をあげたとすることができるであろう。しかし、改善すべき点も散見できる。短期循環型のシステム(=使い捨て労働)、職業選択・事業所の移動の自由の確保、効果的な権利救済措置の体制確保などである。つまり、法的に外国人単純労働者を認識する段階までは改善できたが、受け入れ後のフォローや人権保護の点では問題解決に至っていないと考えることができる。政策提言につなげる際は、これらの評価できる点・改善点を踏まえていきたい。


第六章 事例研究B‐静岡県西部地域における外国人労働者組織化の政策

 当研究では@受け入れ時A受け入れ後の二つの軸で政策提言を行っていく。第六章では、A受け入れ後の政策(行政・地域・NPO・企業の連携・外国人労働者の組織化)を提言していくための事例研究として、静岡県西部地域の事例を取り上げる。

 当事例研究は主に外国人労働者の組織化に関するものである。外国人単純労働者に対して受け入れ時だけでなく、受け入れ後にも継続して労働面・社会生活面での支援をしていくのは、最低限の生活や人権を保障するのに必須である。その中でも、日本で長く暮らしていく外国人労働者がただ一方的に支援をうけるだけでなく、自らも主体的に活動することができるような環境を提供することは、今後ますます外国人労働者が増加していく上で、非常に重要なことである。

 そこで取り上げたいのが「JMIU静岡西部地域支部」という組織である。JMIU静岡西部地域支部とは浜松周辺の外国人労働者を中心にして2003年に発足された労働組合である。結成時10名程度であったのが、4年後には380名を超える大規模な組織になった。構成員のほとんどが日系ブラジル人を中心とする外国人労働者である。外国人組合員を対象とした月1回の定例学習会の開催や、ポルトガル語によるパンフレットの作成、外国人活動家の育成など、主体的な取り組みを行っている。

 同組織の組織化成功の要因は、大きく2つ考えられる。1点目は、@コミュニティユニオンの形式をとったことである。コミュニティユニオンとは、企業や職場別の労働組合とは異なり、一人からでも入ることのできる労働組合であり、比較的小規模なことが多い。また、地域別・国籍別などで自然発生的に誕生していくのも特徴的である。コミュニティユニオンのこれらの特性は「去る者を追わず、常に新しい相談者・事例に取り組む」という活動形態になりやすく、帰国などによる入れ替わりが激しい外国人労働者にも利用しやすいというメリットがある。2点目は、AバックのJIMUは産業別組織の形式であるという点である。産業別組織というのは、企業・職場ごと等で組織される労働組合で、比較的大規模なことが多い。このようなぢ規模かつ安定した組織を後ろ盾にすることで、コミュニティユニオンが陥りやすい「小さなまま定常化・もしくは自然消滅」という事態を回避することができたと考えられる。以上2点の組織化成功の要因を今後の政策提言に活かしていきたい。


第七章 政策提言

前章までの事例研究の内容を踏まえて、@受け入れ時A受け入れ後の2つの政策を提言する。

(1)受け入れ時の政策(受け入れ時に外国人労働者の数、労働条件等を管理するシステム)=現行の技能実習制度の見直し

 政策提言をする前に、当研究で特に解決を目指す技能実習制度の問題点を今一度整理する。

 これらの問題に対して以下の政策を提言する。

 5つの政策提言を実際の政策の流れに沿って説明する。

 まず、政策@Aの受け入れ時の主体機関・受け入れ後の管理監視機関の役割であるが、韓国の雇用許可制度の事例研究の結果から、その役割は政府管轄機関が行い、プロセスの透明化を図ることが必要であると考えた。そこでその役割を担うことができるのがJITCOであると考える。JITCOとは現在日本に実在する国際研修協力機構のことである。法務・外務・厚労・経産・国交の五省共管により1991年に設立された公益財団法人であり、現在外国人技能実習制度を支援する機構である。0から政府機関を設立するにはコストや時間を要するため、すでに技能実習生制度に関してノウハウや経験のあるJITCOにさらに強い権限を与え、政府機関として活動してもらう。これにより、よりスムーズな政策転換は図れると考える。詳しい役割については以下の図を参照してほしい。


 現在はあくまで民間の受け入れ機関を第三者的な立場で指導すつ立場であるが、今後はJITCOが第一次受け入れ機関として、送り出し機関と直接協定を結び、そのプロセスを透明化する。その後、民間企業・機関を第二次受け入れ機関として外国人労働者を派遣する。また、その後のステップも図による解説とする。


 これらの政策により見込める効果は以下である。

(2)受け入れ後の政策(継続的な支援)=@行政・地域・NPO・企業の連携支援 A外国人労働者の組織化

@行政・地域・NPO・企業の連携支援

 第三章での事例研究から、現在、行政・地域・NPO・企業それぞれの支援はバラバラに行われており、非効率的である。横のつながりがなく、情報共有が進まないため、外国人労働者に十分な支援ができていない。そこで必要なのは、地域コミュ二ティの情報共有・連携であり、それを可能とするのはICTであると考える。現在、地域をICTで結ぶ(行政と医療の情報共有システム)などが進んでおり、横の連携をつくることは容易である。私自身、就職先がICTシステムを取り扱っているため、今後深く携わっていきたい。

A外国人労働者の組織化

 第六章の事例研究から判明した@組織化が成功したのは「ユニオン形式」(地域別)または「エス二シティ形式」(国籍別)の組合が多いが、自己完結していて、広がりをみせないAバックに産業別組織の形式(職場ごとの労働組合)の組合がいる組織は大きな組織になりやすい、という現状を踏まえて以下の政策提言をする。


 これまで散在していた大小さまざまのコミュニティユニオンを統括する支部を設置し、どの組織も産業別組織とのつながりをもつことのできる体制をつくる。これによって、規模の大小などに関わらず平等に情報共有などが進み、組織の安定化につながると考える。「個々の状況に合った組合に気軽に入ることができる」というユニオン形式や小さな組織のメリットと、「外に開き、様々な情報を得ることができる」「自然消滅の心配がない」という産能別組織や大きな組織のメリットの双方をうまく生かすことができ、より多くの人にそれぞれに合った組織化の機会を与えられると考える。


参考文献


Last Update:2016/02/05
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