未来の交通手段〜高齢化社会の公共交通〜

上沼ゼミV
4年
杉崎裕一


研究動機

 自分が早稲田大学自動車部に所属していることもあって、そこで学んだ知識や経験を活かせる研究をしたかった。その上で、今後日本が高齢化社会に突入するにあたり、自力移動困難な人々の「移動手段」を確保することによって、少子高齢化・過疎化の進む日本の社会を活性化させたいと考えた。その中でも過疎地域などにおいて日常の移動手段として活用される路線バスに着目し、赤字に苦しむ日本の路線バス事業を改革するための政策提言をしていきたい。

章立て


高齢化社会が「移動手段」に与えうる影響

 これから到来する高齢化社会において、「移動手段」のあるべき姿は現在の日本社会のそれからは変わる可能性が極めて高い

 これからの社会で発生すると思われる影響には、過疎化によるもののと高齢化によるものの二つが考えられる。

 過疎化によるものによる影響としては、以下のものが考えられる。


出典:トレンドマガジントピックスより抜粋
 また、高齢化による影響としては次の二つが挙げられる。

出典:読売新聞より抜粋

このことからも従来の「移動手段」では、将来の社会に対応できないことは明白である。


国内路線バスの現状

路線バス事業の難しさ

 高齢化社会において考えられる路線バス事業の難しさは@利用者の減少を食い止め、さらに増やすことA路線バス事業自体の生産性を向上させることの二つであると考えられる。
 次の章ではこれらの課題を解決する取り組みを紹介し、自らの政策提言につなげたいと思う。


収支改善に向けた取り組み@〜ハブ&スポーク方式〜

【埼玉県ときがわ町(イーグルバス)】

 町営バスが唯一の公共交通である埼玉県ときがわ町では、かねてからその不便さから利用者が減り続け赤字が拡大していた。そこでときがわ町は民間事業者として革新的な取り組みを行っていた「イーグルバス」に支援を要請した。

 ときがわ町の課題は@利用実態をだれも把握していないA路線が長大で二時間に一便しかなく極めて不便B街は予算不足であり増便のための大幅な増車は不可能、の三点である。

 そこでイーグルバスは次のような改革を行った。@利用実態の把握については、全車にGPSや赤外線センサーを装備しただけではなく、そのデータを解析して実態を明確にした。
 さらにA運行本数の不足を補うため、その主因となっていた長大な路線を改善する必要が生じた。そこでハブとなるバスセンターを設置し、ハブ&スポーク方式の路線図を採用した。一路線毎の距離を短縮することで台数を増やすことなく便数を増加させた。またハブ間などの大きな需要がある路線は集中的に増便をするなどダイヤを最適化し、利便性を向上させた。さらに老人など歩行困難な人々に向けて、自宅近くからハブまでを送迎するデマンドバスの運行サービスを実施し、幅広い需要に対応する取り組みを行った。
 同時にB予算不足という課題も解決し、最終的に初年度で利用者は25%増加、区間によっては最大三倍の増発に成功した。


出典:TV東京「カンブリア宮殿」より出典


収支改善に向けた取り組みA〜小さな拠点構想〜

【埼玉県東秩父村(イーグルバス)】

 前章ではハブ&スポーク方式を採用したイーグルバスの改革について取り上げたが、本章ではその取り組みをさらに発展させた改革について紹介する。

 元々東秩父村では村営バスとイーグルバスが別個のダイヤ・運賃系統を使用し公共交通網を形成していた。しかし、重複する区間やわかりにくい運賃体系が利用者にとっては不便であり、経営を統合してイーグルバスが運営を一手に担うことになった。

そこでイーグルバスはときがわ町と同様、東秩父村でもハブ&スポーク方式を取り入れた改革を導入し、ハブとなるバスセンターを道の駅「和紙の里」に設置し路線を効率化した。また運賃形態をゾーン別運賃としてわかりやすくした。

 さらにイーグルバスは改革を一歩進め、「小さな拠点構想」として和紙の里にターミナルだけではなく直売所や観光案内所を設置し、人々の生活拠点として活用することを目指した。このようにハブターミナルそのものを「村の賑わい拠点」にすることによって、バスによる地域の活性化をすすめようとしている。


出典:イーグルバスより出典


出典:イーグルバスHPより出典


収支改善に向けた取り組みB〜貨客混載〜

【岩手県盛岡市(岩手県北バス)】

 岩手県北バスでは、路線バスの利用客減少による生産性低下が問題になっていた。その一方、ヤマト運輸では配達ドライバー不足が深刻化しサービスの質の低下が課題となっていた。
 そこで両社の利害が一致し、路線バスの後部を貨物室として改造し、宅配便の荷物をバスによって代行輸送を行う「貨客混載」を実施した。これによって路線バスの生産性は向上し、宅配ドライバー不足というヤマト運輸の課題も解決することに成功した。

 従来は道路運送法により「旅客輸送」と「貨物輸送」は明確に区別されており、「貨客混載」は一定の条件下においてのみ認められていた。
しかし少子高齢化・過疎化の進行により国土交通省は方針を転換し、改正地域公共交通活性化再生法等により「異業種による有償旅客輸送、有償貨物輸送を可能とするべき」として推進の立場に立っている。


出典:ヤマト運輸より出典


【3つの着目点】
 

 これまで紹介してきた三つの取り組みを踏まえ、政策提言に有効と思われる要素を整理する。@ハブ&スポーク方式の路線A様々な拠点も集約したターミナルB貨客混載、の三点である。

   これらの要素を盛りこみ、全国各地に展開可能な次の章で政策を提言したいと考える。


政策提言

 これらを踏まえて私が提言する政策は「道の駅などを活用した整備が容易な路線バスのハブターミナル設置の推進」である。

 これにより@ハブ&スポーク方式の路線の採用を可能とし、Aそのハブターミナルの周囲に生活拠点や行政施設・観光施設、さらにB貨客混載によって需要が見込まれる物流拠点も併設して、地域の中心的な拠点とすることを目指す。

 そして最終的には「公共交通によるコンパクトシティ化」と「地域の活性化」を推し進める。
  


出典:国土交通省より出典

 ターミナル周囲に公共施設や他の生活インフラ(コンビニや銀行・郵便局等)などの様々な施設を設置することで人々の交流や移動を創出し、地域経済を循環することが期待できる。さらに物流拠点を置くことによって再配達の必要性を減少することも可能になり、物流事業者にとっても人材不足を解消することが見込まれる。
 また高齢者など長距離の移動が困難な人々にとっても、ターミナルまで行くだけで様々な需要を満たすことが可能となり、利便性を高めることになる。

 ハブバスターミナルは少子高齢化、過疎化の進んだ地域を再活性化させる重要なカギとなるのである。


 

参考文献・リンク


Last Update:2017/02/06
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