都市の環境政策

ーエコシティの推進ー

政策科学ゼミナール
社会科学部 4年
  緑川菜月


研究動機

 私の出身小学校では私が卒業してすぐ校庭が緑化政策により天然芝となった。私は学校などの公共施設においても緑化の政策が行われることをより身近なところで知った。これは、東京都が推進する政策の一つであり、都市部における環境政策のひとつである。また、東京都ではヒートアイランド現象などによりこのような緑化などの環境政策に力を入れていることを知った。
 さらに持続可能な経済社会システムを実現するには環境政策は必要不可欠である。また、私たちが住んでいる身近なところに環境を守るシステムがあったとしても私たちがそのシステムが利用されており効果があることを知らなければ、更なる環境問題への取り組みを促すことは見込めない。それゆえ、私たちが暮らしているまちから環境を守る取り組みを住民に広めながら都市の環境政策を進めていくことが重要なのではないかと考えた。

章立て

概要


第一章 エコシティを含めた環境政策の過程

 エコシティとして取り組みは地球サミットが始まりである。平成4(1992)年6月の地球サミット、平成5(1993)年の環境基本法の国会審議などを発端として、環境問題に対する関心は内外ともに高まった。そして環境に対する関心が高まるにつれて進められてきた各分野の行政も、政策の転換を迫られた。
 また、「健全で恵み豊かな環境は、人間活動の基盤として欠くことのできないものであり、限りある地球資源としての環境を将来にわたって維持しながら持続可能な経済と社会システムを構築していくことの重要性」が、人類共通の認識として定着したのである。

 そうした中で、平成6(1994)年1月に建設省(当時)が発表した「環境政策大綱」においてエコシティという言葉が使われた。

環境と共生した都市づくりを推進するため、モデル都市を選定し、環境負荷 の軽減、自然との共生及びアメニティの創出を図った質の高い都市環境の形成を目指した都市環境計画を策定し、それに基づき、省エネルギー、リサイクル、適切な水循環等各種の先導的な環境保全・創造施策や技術を導入しつつ、モデル的、先導的に都市環境整備を推進する。

 その内容は環境に対する整備の効果を視覚的に示すことで国民の理解を促すことを目的として、質の高い都市環境を維持し、都市環境計画に基づいた省エネルギー、リサイクル、適切な水循環等を整備するものとしている。

 環境基本法6〜9条では国、地方公共団体、事業者、国民の責務を定めている。そうした点では、環境政策の対象は様々な分野にまたがっているため,その主体も多様な省庁や各レベルの地方自治体に及んでいるということができる。
 環境政策では個別の問題に対して具体的な対策をとることが必要であり、多様な問題の関連性を考慮した連携が不可欠である。こうした観点からすると,エコシティは環境政策を具体化するための一つの例であり、都市における総合的な施策であるということができる。

 またこうした環境基本法を元に環境基本法を元に平成6(1994)年に環境基本計画が閣議決定された。環境基本法の制定以前にも、国レベルにおける環境行政の総合化のための枠組として、環境庁(当時)が単独で定めた「環境保全長期計画」及び「環境保全長期構想」があったが、環境基本法の制定によりはじめて、政府全体の環境の保全に関する施策の基本的方向を示す計画が定められることとなった。先述したように日本における環境政策の担い手は多様であるので、この環境基本計画には、政府の取組の方向を示すのみならず、地方公共団体、事業者、国民のあらゆる主体の自主的、積極的取組を効果的に全体として促す役割も期待されている。

 この環境基本計画は現在も続いていて第一次環境基本計画が平成6(1994)年に制定されてから、6年おきに第二次、第三次と策定されていて、今現在は第四次環境基本計画が策定されている。この環境基本計画の性質が変化したのは第三次環境基本計画からである。第二次環境計画の課題として、少子高齢化や環境技術の進歩,NPO法人の増加や企業の社会的責任を意識した経営への取組など社会全般の価値観の変化,「三位一体改革」や市町村合併の進展など行政を取り巻く状況の変化などの国内の社会の変化に対応しきれないことが挙げられた。また開発途上国の経済成長とエネルギー消費の増加、化石燃料を始めとする資源の枯渇や自然環境の破壊など、現在の社会経済システムが今後更に厳しい環境上の制約に突き当たる可能性や、国際社会の動きに対応できないという課題があった。こういう変化や今後生じるかもしれない深刻な問題に的確に対応するために、第三次環境基本計画では環境と経済の好循環を提示し、さらに社会的な側面も一体的な向上を目指す「環境的側面、経済的側面、社会的側面の統合的な向上」などを提示した。これには「環境から拓く 新たなゆたかさへの道」という副題が付けられており、この副題からは環境を保全する基盤を重視ている、と感じられる。第四次環境基本計画でもその視点は貫かれており、基盤を作って将来に引き継いだり、環境保護の地域づくりにはノウハウを持った人材が欠かせないという点で、担い手の育成等が重視され始めている。

 そして国としてこの環境基本法と環境基本計画に基づいて平成20(2008)年に福田康夫内閣総理大臣の施政方針演説で低炭素社会の転換についての姿勢が示された。ライフスタイル、都市や交通のあり方など社会の仕組みを根本から変えていく必要があるとして、自治体と連携し、温室効果ガスの大幅な削減など、高い目標を掲げ、先駆的な取組にチャレンジする「環境モデル都市」の選定について記者発表が行われた。そして基準を満たしている大都市では横浜市、北九州市、地方中心都市では帯広市、富山市、小規模市町村では水俣市、そして上記で紹介した下川町の6団体が選ばれた。さらに平成25年(2013年)には「環境モデル都市」からより高いレベルの持続可能な社会を目指す「環境未来都市」が選ばれた。

平成20年度選定都市
 下川町(北海道)、帯広市(北海道)、千代田区(東京都)、横浜市(神奈川県)、飯田市(長野県)、富山市(富山県)、豊田市(愛知県)、京都市(京都府)、堺市(大阪府)、梼原町(高知県)、北九州市(福岡県)、水俣市(熊本県)、宮古島市(沖縄県)

平成24年度選定都市
 新潟市(新潟県)、つくば市(茨城県)、御嵩町(岐阜県)、尼崎市(兵庫県)、神戸市(兵庫県)、西粟倉村(岡山県)、松山市(愛媛県)

平成25年度選定都市
 ニセコ町(北海道)、生駒市(奈良県)、小国町(熊本県)


出典:首相官邸地域活性化統合本部会合ホームページ
環境モデル都市・環境未来都市制度概要

 自治体としてエコシティ政策の一環としてコンパクトシティを推進する場合も多く、環境モデル都市に選ばれた富山市、北九州市、神戸市ではコンパクトシティを推進することで環境に配慮した都市を実現するとしている。
 ここで示している「コンパクトシティ」とは、「都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に中心市街地の活性化が図られた、生活に必要な諸機能が近接した効率的で持続可能な都市、もしくはそれを目指した都市政策」のことである。こうしたまちづくり支援のため、国土交通省では都市機能の近接化による歩いて暮らせる集約型まちづくりの実現に向け、拡散した都市機能を集約させて、生活圏の再構築を進めていくことを目指している。また、医療施設、社会福祉施設、教育文化施設等の都市の核となる施設の集約地域への移転や、移転跡地の都市的土地利用からの転換を促進する支援制度を平成25(2013)年度に創設し、平成26(2014)年8月の改正都市再生特別措置法の施行に合わせて、立地適正化計画制度を支援の対象に追加している。
 このように、コンパクトシティを推進して移動そのものの需要抑制や自動車依存からの脱却、土地利用の効率化を図ることにより、環境負荷の低い都市の実現が望まれる。さらに、豊かな自然や農地との共存、エネルギー効率のよい都市構造を目指して、環境に配慮した都市を目指している。


第二章 主要都市におけるエコシティ政策

・富山市の事例

 富山市は「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」を軸として、人と地球環境に優しいまちづくりを進めている。「鉄軌道をはじめとする公共交通が活性化され、その沿線に居住・商業文化等の諸機能を集積することにより公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトシティ」を目指す政策を行っている。こうした事業が認められ、平成20年度に、全国で13の「環境モデル都市」の1都市に選定され、さらに平成23年度には、全国で11の「環境未来都市」の1都市に選定されている。

 富山市の特徴は公共交通機関の活性化を図ることにより公共交通の利用促進を推進し、家庭用の自動車などから排出される温室効果ガスの削減に取り組んでいるということである。

 富山市内には富山都心線と呼ばれる市内を一周する環状線の路面電車が走行している。この路面電車はまた、自動車から排出される二酸化炭素の量の削減を図るために、公共交通そのものの魅力を高めることと、公共交通沿線に居住地と目的地を配置することを目的として平成21年12月に開業した。平成30年までには駅北側にある富山ライトレールの軌道を南側の市内路面電車軌道に接続し、路面電車の南北一体化を図って目的地と居住地を結び、さらなる路面電車のネットワークを構築を目指すとしている。
 富山国際会議場、富山市民プラザ等の交流施設へのアクセス、富山城址公園や大手モールや集客施設へのアクセス性を考え、分かりやすいように反時計回りの片方向循環運行として約20分間隔、日中は約10分間隔としている。

 路面電車だけではなく、自転車市民共同利用システム、通称「アヴィレ」も市民の足として利用されている。これは民間事業者が運営しているものだが、中心市街地エリア内での短時間の利用を想定したレンタルサイクル事業である。現在、富山市内電車環状線の沿線付近などの中心市街地に、15箇所の専用ステーションと135台の専用自転車が設置されている。何回レンタルしても最初の30分は利用料は無料である。
 また、富山ライトレールのパスカと呼ばれるICカードも利用できるシステムにより、公共交通機関とレンタルサイクルシステムを組み合わせて相互利用できるなど、中心市街地での移動が便利であり、近距離を移動する際に自動車を利用する人が減ることで、二酸化炭素排出量の削減も目指している。
 このような取り組みにより、路面電車で遠距離の移動、レンタルサイクルで近距離の移動が可能になり、この二つを相互利用して利用者が増えることで、さらなる家庭用自動車による二酸化炭素排出量削減が見込まれる。

一方で、主要都市におけるコンパクト・シティ政策は環境面以外で以下のようなデメリットも考えられている。

以上のようなデメリットもはらんでいて、日本のコンパクトシティ推進には課題があると言える。

・横浜市の事例

 横浜市も富山市と同じく「環境未来都市」に選定された都市であり、「ひと・もの・ことがつながり、うごき、時代に先駆ける価値を生み出す『みなと』」をテーマにエコシティ推進に取り組んでいる。
 横浜市も富山市と同じように環境に配慮した公共交通機関が発達しており、横浜市と日産自動車が協力して電気自動車のカーシェアリング、コミュニティサイクルのレンタルやセグウェイ等の導入が見込まれて、実証実験などが行われている。

 横浜市は大都市であるが、横浜市の水源林である山梨県南都留郡道志村と友好・交流協定が結ばれており、道志村の未利用エネルギーを横浜市で活用するという取り組みが行われている。脱温暖化地域モデルの構築を目指して、「大都市・農山村連携モデル」としている。道志村からの未利用エネルギーとして、建築材料や暖房用燃料等を横浜市で利用しようという取り組みも行われている。さらに、地域を限定せず、国内の森林の管理をする際に発生する枝葉や木質ペレット・チップや間伐材の燃料としての利用などバイオマス資源としての活用を検討している。
 また、環境モデル都市に選定された長野県飯田市との連携も強化し、太陽光発電の普及方策の情報共有、共同制作提案を行っているところである。「おひさま進歩エネルギー」という事業者を通じて交流を行い、再生エネルギーのさらなる活用を目指している。
 脱温暖化連合の結成をめざして全国50自治体との連携拡大を見込んでおり、さらなる再生可能エネルギーの活用が望まれるところである。


第三章 地方におけるエコシティ政策

・熊本県小国町の事例

 熊本県阿蘇郡小国町は人口7,724人(2014年12月1日現在)の小さな町であるが、平成25年度に環境モデル都市に選定された。

 小国町では熊本県の自治体ではじめて急速充電と普通充電の両方を備えた電気自動車の充電ステーションを道の駅「ゆうステーション」に整備しており、平成24年度は一か月平均60台が利用しており、さらに行楽シーズンにおいては100台超の利用となっている。
 また、平成22年度から乗合タクシーが開始された。この乗合タクシーにより更なる低炭素社会の実現が可能となる。また、この乗合タクシーによって、高齢化率が高くなっている小集落と市街地を結び、一日に主要幹線のみの数本程度の運行にとどまっている路線バスを補う新たな交通として町民に利用されてきている。利用者は運行開始の平成22年から平成24年までの間に一か月211人の利用から5,353人と大きく増加している。

 今後は町内の充電ステーションを活かしてタクシーに電気自動車を用いるなどして二酸化炭素排出量を削減しようとしている。

 小国町では同じ環境モデル都市である福岡県北九州市と連携をして、地球温暖化対策のための「CO2削減キャンペーン」を平成27年3月31日までの期間限定で実施している。この事業は「地球温暖化対策として北九州市が実施する対象事業に参加した北九州市民や市内事業所に勤めている人」(小国町HPより)を対象として、小国町にエコ活動をしに来てもらおうという取り組みである。北九州市で実施した「省エネ王コンテスト」や「まちなか避暑地」等の事業に参加するとエコマネーが入手でき、このエコマネーを利用すると小国町で宿泊料の割引が受けられるという仕組みである。
 また、北九州市の子供にも都会では体験できない小国杉伐採見学や木工体験地熱乾燥施設見学や製材所見学枝打ち体験等が提供されており、このように地方と主要都市の連携も進んできている。

・北海道下川町の事例


右画像出典:北海道白地図より

 北海道上川郡下川町(かみかわぐんしもかわちょう)は環境モデル都市に指定されており、「次世代型『北の森林共生低炭素モデル社会』創造」を目指してエコシティを推進している。町の面積の約90%が森林であり、森林を継続的に整備しながら資源をリサイクルさせながら、持続可能な森林経営のために雇用の確保と木材等の林産物の供給も行っている。
 下川町では廃棄物を出さないゼロエミッションの木材利用システムを取り入れている。木材を加工する際に出る副産物は木質バイオマスとして町内の施設のエネルギーに利用されている。

 平成16(2004)年度に、町内の温泉施設に木質バイオマスボイラーが北海道で初めて導入され、その後幼児センター、農業施設などにも導入された。さきほども既述したように、原料は町内の木材加工工場で排出される副産物を使用している。
 さらに製材工場等における木材の乾燥や暖房、農業用ハウス等における民間事業者への木質バイオマスボイラーの導入を促進し、二酸化炭素の削減を目的として、地域暖房の利用が難しい小規模の公共施設や住宅等にもペレットストーブの普及を促している。

 役場周辺の消防所、公民館、福祉センターの3つの公共施設と役場を一つの森林バイオマスボイラーでつないで、地域で一貫した暖房用の熱を供給している。
 また、施設に必要な原料確保に向け、木質原料の製造・保管施設を整備し、原料には、木質バイオマスに加えて林地に放置されるような枝葉や流木などの利用されていない資源を活用している。さらに町の高齢者複合施設であるあけぼの園には森林バイオマスボイラーを設置して施設内の暖房用の熱を供給している。

 積雪が多く、寒さの厳しい北海道では、暖房に使用する際におけるエネルギーとして化石燃料に依存する傾向が強いために、二酸化炭素排出量が多く、家庭部門における二酸化炭素の排出割合は、全国と比較しても非常に高い数値である。
 そうした中で、大幅な二酸化炭素を削減するため、地球温暖化対策として効果のある木質バイオマス燃料による地域熱供給システム(地域暖房)の整備を実施している。また、木質バイオマスの集積基地として、木質原料製造施設を設置しておりさらなるエコシティ政策の推進が見込まれる。

 この下川町内にある一の橋地区というところは林業の衰退と鉄道廃線で人口は約140人になり、高齢化が進む限界集落である。そこで集落再生のためにバイオビレッジ構想が打ち出された。それは間伐材の切れ端など町内で発生した未利用のバイオマス燃料でわかした熱湯を、集落内に循環させながら暖房や給湯を自給しながら同時に散らばった住宅の集約化をはかっていく計画である。集合住宅が作られそこには2013年から26世帯、約40人が暮らしている。下川町においては化石燃料よりバイオマス燃料の方が冬の暖房費が抑えられるという意味で、もちろん環境という観点からもメリットはあるが、ここではソフト面でのメリットも大きい。この集合住宅では玄関は屋根でつながっており、また話し合いができる共有スペースも用意されており、住民間のコミュニケーションも活発になった。さらに雇用も創出されており、集落内につくられたシイタケ栽培施設や、薬用植物の研究施設などにも熱は供給され、住民の3分の1が働いている。総務省の地域おこし協力隊制度で、都会からやって来た若者もハーブ栽培の事業化を目指していたいて、高齢化率はやや緩和されつつある。さらに、北海道下川町では高知県梼原町と先述した熊本県小国町と課題や取り組みを共有する「持続可能な小規模自治体アライアンス(同盟)」を結び、ここでも自治体間の環境知識の共有が進んでいる。
 こうした衰退する集落は全国にあるが、ここでの取り組みがそうした地域に応用できるかもしれない。


出典: 環境モデル都市下川町の取り組みについて

・高知県梼原町の事例

 高知県梼原町は愛媛県との県境に位置しており、町の面積の91パーセントが森林が占めている緑豊かな町である。しかし、2000年に4,860人いた人口も2015年9月の時点で3,676人であり、高齢化率は41パーセントにもなる。さらに2040年までに2,250人まで人口が減少することが予想されており、いわゆる限界集落と呼ばれる町でもある。
 こうした人口減少に伴う町の衰退に歯止めをかけるために梼原町はいくつかの取り組みを行った。

 まず、太陽光発電設備の設置に、1kw当たり20万円の補助やペレットストーブの設置に対して設置費用の4分の1の金額を補助をしている。北海道下川町の事例でもペレットストーブ設置の補助は出てきたとおり、ペレットストーブ設置に対する補助は山間部のエコシティの取り組みの典型例だと見ることが出来る。
 梼原町において、この取り組みの成果として数値的にどのように表れているかというと、1990年から2012年までに温室効果ガスの排出量は単純計算すると増加している。しかしながら、毎年変動する排出係数というものが存在し、その気温変化等の外部要因を排除して再度温室効果ガスの排出量を計算するとは排出量は減少している。特に家庭部門は住宅用太陽光発電施設導入支援による電力消費量の減少やペレットストーブ購入支援による化石燃料使用量の減少によって排出量も減っていることがうかがえる。よって、環境面への影響は確かに大きいと考えることができる。

外部要因を取り除いた場合の温室効果ガス排出量


単位:万t−CO2

出典:環境モデル都市の平成24 年度温室効果ガス排出量等報告書

   一方で梼原町自身の評価として、このが排出係数を取り除いた温室効果ガスの排出量の減少を景気低迷の影響もあると評価している。そこで、この事例では環境面での取り組みをもとにした多角的な視点からの活性化を紹介する。梼原町が衰退に歯止めをかけるために何をしたかというと子育てや教育環境の整備、移住者支援への取り組みに力を入れた。その移住者支援の一環としてこのように空き家とかをリフォームしてそこにペレットストーブを設置しておりここで環境面と移住者支援の両方からのアプローチが見て取れる。北海道下川町では集合住宅の事例も上げたが、こういったペレットストーブを設置した空き家への移住者支援を行う。
 もう一度こういった移住者支援の取り組みを環境面から見てみると、取り組み他の市町村に先駆けて取り組んできた「再生可能エネルギー」への取り組みが、小さな規模ではあるが、NHKでも全国放送にて取り上げられ、地域の再生可能エネルギーの取り組みに対する視察、マスコミ報道等が増加し、視察した後体験型移住をするため、「生き物に優しい低炭素なまちづくり」についての他府県の移住希望者の関心が高まり成果につながっている、のではないか、と思われる。さらにこの支援について詳しく紹介しているホームページ(高知県「梼原町」移住応援サイトしあわせ田舎移住計画「ゆすはら暮らふと」)を作成して、広報活動にも力を入れている。ホームページでは移住してきた人のモデルケースを紹介していたり、ここにリフォームした空き家が紹介されている。また、このホームページでは求人情報が一覧で紹介されている。

 こうした取り組みの成果が高知新聞に記事として載せられており、過去10年は年間50〜90人程度減っていたが、移住者支援策が功を奏して去年と比べると1人しか減少しなかった、ということが取り上げられている。この記事の中で町長は「移住者に“選ばれる町”を目指す。健康や教育、環境をキーワードに、ソフトとハード両面がそろった受け入れ態勢をつくり、人口減少に立ち向かっていく」と話している。こういったように人口の増加とはいかないまでも減少には一応の歯止めはかかっており、また、移住希望者の関心の高まりにともなってホテル宿泊者数もほぼ倍の増加している。

 以上から考察すると、人口はあくまでとどまるにすぎないものの、日本全体として都市部に流出していることを考慮に入れると、それなりの効果があって、さらに観光客は増加している。さらに経済効果のことを考えると生活の質を維持していくことはそれなりに可能なのではないか、さらに環境配慮の設備を設置する仕組み作りは可能と考える。もちろん、こういった取り組みにおいては好循環を生み出すことが必要であり、この梼原町ももちろん環境だけではなくて教育や子育て支援にも力を入れていて単に環境整備のおかげということは一概に言うことはできない。ただ、町長もおっしゃっているように、選ばれるまち、さらには住みたいまちとして環境の整備とかは重要なのではないかと考える。


第四章 海外のエコシティ政策

 日本よりエコシティ制度が進んでる地域として北欧があげられる。その中でも先進的な取り組みを行っているのがスウェーデンのストックホルム市である。

 ハード面の取り組みとしてストックホルム市では排水、家庭廃棄物から消費エネルギーの 50%を賄うシステムが導入されていて、キッチンで使用される燃料として、下水汚泥や生ごみから発生させたバイオガス(96〜98%がメタンガス)が都市ガス、天然ガスとともに使用されている。また、バイオガスの一部は車や燃料電池の燃料としても活用されている。そして、マンションや道路に取り付けられたカラフルな円筒形の分別用ゴミ箱は地下に繋がっており、分別されたゴミはコンピュータ制御によって、地下に設置されたパイプラインを通して、圧力で時速70km で処理場に運搬され、生ゴミはバイオガス生産用燃料としてされます。またスウェーデンに於いて初めて燃料電池が住宅用に使用されていたり、敷地・建物の60%はグリーンでおおわれていないといけないという独自のルールを作っている。このように環境に配慮されたシステムが町全体に整備されている。

 さらに、ソフト面の取り組みとして、スウェーデンでは「森のムッレ」と呼ばれる野外で保育や教育をするカリキュラムが組まれている。これは国民の5人に1人がこの教室を経験したことがあるほど、 スウェーデンでは一般的な教育の一環となっている。例えば、コンポストと呼ばれる生ごみ処理機を全ての保育園や小中学校に設置しており、生ごみの分解過程をこれを通じて学んでいくことができる。また、各自治体のスクールプランは、政治家がそこの自治体で環境に関して特に力を入れて学習して欲しいものを決め、行政はそれをブレイクダウンして行政のプランを立て、子どもと青少年の委員会に市会議員も入って、自治体の教育のガイドラインを決めている。つまり、シラバスと国のカリキュラムを見て、次に各学校がどのようにそれを実践していくかを考えていき、自治体は環境マネジメントシステムを導入しており、環境教育もその一環となっている。また、学校の地域にある企業にスポンサーになってもらい、無料で全国に環境教育の教科書を提供したり、NPOは「環境冊子」を全家庭と学校に送っている。そして、保育園や小学校の幼い頃の教育だけではなくて、全学年を通した環境教育が整っており、2年間の講座で、保育園の先生から成人を対象とする生涯教育の先生たちが受講できる講座があり、教員は大学からの出講で、理論と教育方法論の両方を学ぶことができる。そのうえで、教育方法は各教師のバックグランドに合わされ、学んだことはすぐに自分のクラスに導入できる仕組みになっている。また、環境データベースを自治体が作っているが、保育園の先生からすべての先生がツールとして使え、学校のコンピュータが自治体のデータベースにアクセスでき、生徒も使えるようになっている。

  また、デンマークでも「森の幼稚園」と呼ばれる取り組みがあり、学生が大学生グループがハイブリッドバイクといった環境配慮型の電気自転車を開発して200台をコペンハーゲンに設置し、この自転車は現在販売され、学生の発想がエコビジネスにつながりました。そして先ほどの自転車の普及を見ても小学校で自転車に乗るための交通ルールや手信号を習い、しっかりとそれが根付いていることも、自転車に乗りたくなるという意識を高めることに大いに貢献している。

 北欧では以上のようにハード面からのまちづくりとともに、暮らす人々にたいしての啓発活動を行うことで環境への意識を高め、


第五章 エコシティ推進の課題

 第四章まで日本や海外の事例を中心に研究を進めてきて、先進的な政策を行っている地域があることが分かった。しかしながら、これらの政策を日本のすべての地域で行えるか、と言えばそうではなく、日本でエコシティ政策を進めるうえでの課題もある。

   まず、1つ目は地域によって資金力や地形の違いが政策の導入の差となってしまうことである。資金力の差というのは、第一章で挙げた「環境モデル都市」に選定された都市であれば補助金等によって住宅や交通、エネルギー循環の整備に予算をまわすことができる。しかしながら、すべての自治体が環境に配慮したまちづくりに予算をまわせるわけではない。また、インフラ等のハード面における政策は地形によって選ぶ政策もさまざまであり、全地域的にあてはめられるわけではない。例えば、第四章であげたストックホルム市のシステムはオリンピック誘致を目的とした新都市開発プロジェクトを起点として行っているため、まっさらな状態から新システムを取り入れた街並みを作ることができる。一方、日本国内でインフラを大きく整備しようと思うとかなりの費用が掛かることが予想される。さらに大都市であっても初期投資に見合うだけの効果が生まれるとは考えにくい。また、第二章で挙げたエコシティの一環として挙げたコンパクトシティのデメリットもインフラを整備する上で考慮していかなければいけない。

 2つ目は担い手の育成である。第一章でも述べたが、基盤を作って将来に引き継いだり、環境保護の地域づくりにはノウハウを持った人材が欠かせないという点で、担い手の育成等が重視され始めている。一方で、日本のエコシティ政策は国レベルでは国土交通省、環境省、文部科学省、経済産業省などさまざまな官庁が関わっていると研究をしていく中でわかってきた。もちろん、各自治体も地域に応じた政策を進めている。こうした中で、環境に配慮したまちづくりを進めていくには国や各自治体はもちろんのこと、インフラをうまく利用するための基盤となる住民や国民の意識を高めることが重要であると考える。


出典: 環境省 「平成27年度環境にやさしいライフスタイル実態調査」より 作成

 上記のグラフは、環境省による環境にやさしいライフスタイル実態についての国民調査の結果である。このグラフより日本人は環境保全の取り組みに参加したり、環境学習活動に自ら参加するという意識が低いと考えられるが、一方で、教育等を含めた分野に日本の環境政策の潜在性が見込めるのではないかと私は考える。第三章の小国町と北九州市の連携の事例や第四章で検討した北欧の事例をもとに意識を高めるにはどうしたらよいか考え、第六章の政策提言につなげる。


第六章 政策提言

 第一章から第五章までの事例研究や日本の課題を踏まえた上で、研究に対して私は「ESD環境教育プログラムの地域的な推進」を提言したい。そもそもESDとは、「持続可能な開発のための教育」(Education for Sustainable Development)の略である。このはじまりは2002年のヨハネスブルグサミットにおいて、持続可能な未来や社会づくりのために行動できる人の育成を目的とした教育を日本が提案したことにある。ESDの教育分野を環境分野だけでなく、人権や福祉など様々な分野において人を育てることを目的としている。

 具体的にESD環境プログラムとはどのようなものかというと、どのような人材を育成したいかをまず考え、ごみ・資源・エネルギー・温暖化など地域における環境に関する課題を設定しながら、グループ討論や発表等のアクティブラーニングを通じて人材を育成しようとするものである。日本におけるESD環境教育は平成25〜27年まで文部科学省協力のもと環境省で学校をモデル化し、現在事業の検証が行われている。この事業実施においては学校の教員だけでなくNPOなど地域関係者にも参画を促した。

 しかし、私は環境教育は学校教育だけで終わらせるべきではなく、生涯を通して学んでいくものだと考える。現在、環境保全活動や環境教育などの活動を行っている企業、NPO法人、その他民間団体等の方々を主体としたプロジェクト化が行われているが、その主体に所属する個々人に対しても学校教育の現場と協力した活動に力を入れるべきだと考える。また、地域関係者は学校とともにアクティブラーニングの段階から積極的に参加し、共に地域としてどういう人材を育成したいのか、ということを議論することも有益である。こうすることで、地域内での双方向性が生まれるだけでなく、日本の弱点である環境保全活動や環境教育などの活動が、広く周知され、活動の活性化が図れてコミュニティやネットワークが広がるのではないだろうか。また、次世代の育成という観点からも、学校教育の現場にさまざまな団体が関わることで、環境教育の資源を学校だけに依存するのではなく、地域全体として蓄えることが可能である。

 一方で課題として、現在の教職課程では環境教育に関する知識が十分に得られず、教員にとっては負担となる。さらに、地域関係者も知識が不足している点や民間企業にとっては教育への参加は負担があることは否めないため、国や地方自治体の支援も必要となってくる。そのため、初期段階においてはパブリックセクターが支援しながら協力体制を築いていくことが望ましいと考える。


参考文献


Last Update:2017/2/6
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