生物多様性農業の推進

〜佐渡の事例から〜

政策科学ゼミU
社会科学部3年
稲垣里帆


研究動機

 現在,私は環境ボランティアサークルに所属し、環境問題に貢献することを目標に活動しています。サークル活動の一環として、佐渡にしばしば訪れる機会があり、佐渡独特の農業を知りました。佐渡の稲作農業では、野生絶滅したトキを保護する目的で減農薬・低農薬を目指しており、田んぼのなかの生物多様性が高いレベルで維持されています。定期的に生き物調査を、島全体で行うことを義務付けられており、生き物と稲作のつながりを強く意識している地域です。お米作りをする際に、お米の品質だけでなく、田んぼの役割も考えているということに驚きました。



佐渡の棚田(撮影:稲垣)
 

 また、その田んぼで作られたお米の味は、私がいままで食べたごはんの中で、格別においしく、食への興味を強く持つようになったきっかけにもなっています。生き物にやさしい農業が、同時に人間にも豊かな恵みをもたらしてくれる。このように、農業には作物を生産するという価値だけでなく、生物多様性や私たちの、より豊かな生活とも密接に関係しています。よって、生物多様性に貢献するため、佐渡のようなの農業を全国的に広げるための政策を考えていきます。

 生物多様性の問題は、近年、深刻化・加速化しています。哺乳類の2割、鳥類の1割、両生類の3割、がそれぞれ絶滅危惧種となっています。さらに、たとえば、陸生哺乳類、維管束植物の約4割、爬虫類の約6割、両生類の約8割が、日本のみに生息する生物(日本固有種)であり、その割合が大変高い。というのも、日本には四季があり多様な環境が存在するからです。その中でも田んぼというのは、特に多様な生物がいる場所です。従って、田んぼの生物多様性を守ることが、生物多様性の推進にかなり有効的です。

概要

水田の生物多様性農法を促進する方法を考えます。

章立て:

第一章 生物多様性と水田

  1. 日本農業の現状
  2. 水田の効用
  3. 水田保護に関する国際動向

第二章 事例〜佐渡〜

第一節 朱鷺と暮らす郷づくり認証制度
  1. 制度概要 
  2. 基準
  3. 取組状況と効果
  4. 生き物マーク米
第二節 環境保全型農業の経緯
  1. 黎明期 
  2. 発展
  3. 課題と対策(新潟県)
  4. まとめ

第三章 稲作に関する政策

  1. 農林水産省生物多様性政策
  2. 食料・農業・農村基本法
  3. その他

第一章 生物多様性と水田

1.日本農業の現状

 全国の有機農家数は一万二千戸あり、全農家数の0.5%を占めている。面積は1万6千ヘクタールで、農業全体の栽培面積0.4%を占めている。また、有機農業数は年々増加しており、平成18年から22年までの間で35%の増加となっている。さらに、有機農業を行っている農家の年齢は観光農業を行っている農家に比べて若年化している。稲作農家は1336千戸で、販売農家全体の81.9%を占めている。稲作農家は、5年前よりも19.4%減少し、10年前より33.1%減少していて、その減少速度は加速している(2012現在)。また、日本の作付面積は零細なのが特徴である。

2.水田の効用

   水田には多数の両生類が生息しており、その多くは固有種である。また、農業環境技術研究所の研究によると、カエルやアシナガクモ類が慣行農法から有機農業に変えることで増えたことが科学的に研究されている。

3.水田保護に関する国際動向



愛知ターゲット
 出所:国際自然保護連合日本委員会

   愛知で2010年にCOP10が開かれ、20個の目標が定められた。これを愛知ターゲットといい、ターゲット7において農業・漁業・養殖業の持続的管理が取り決められた。これより、締約国は農業生産の維持、生産基盤の管理、生物多様性との両立をおこなわなければならない。このことにより、日本の方針として生物多様性に配慮した農業を促進することが決められた。
 さらに、愛知ターゲットの他に水田決議というものがなされた。内容は農業の生物多様性において、特に水田の重要性を認識し、ラムサール条約の「水田決議」を歓迎し、締約国に実施を求めることが決定。水田決議というのは、湿地システムとしての水田における生物多様性の向上を目指す決議である。


第二章 事例〜佐渡〜

第一節 朱鷺と暮らす郷づくり認証制度

第二節 環境保全型農業の経緯

第三章 稲作に関する政策

1.農林水産省生物多様性政策

 基本方針は@生物多様性をより重視した農林水産施策の推進 A国民に農林水産業及び生物多様性への理解の促進 B多様な主体による地域の創意工夫を活かした取組の促進C農林水産業を通じた地球環境の保全への貢献
 具体的な施策として、「農業生産工程管理」「生き物マーク米」の普及・推進がある。

2.食料・農業・農村基本法

 平成27年に改定された。基本理念は食料の安定供給の確保と多面的機能の発揮。基本方針には、食料の安定供給、消費者視点に立脚した施策、農業の担い手活躍、持続可能な農業・農村の実現、技術革新・農業者所得向上と農村のにぎわい創出がある。
 食料安定供給と持続可能性向上の両方を目指していることが注目すべき点である。具体的施策として、地域資源の保全管理、技術の次世代への継承がある。しかし、これら施策は未整備で不十分である。

3.その他の施策

 主食米生産コストを低減のための農地集約化・直播栽培・作期分散、ホームページやメーリングリストを使用した情報の提供の充実化、米の生産調整や価格防止を目的に行われてる減反政策がある。減反政策に関しては、2013年に5年後(2018年)に廃止されることが決まっている。

4.まとめ

 農水省の政策では生産量の拡大やコスト削減を中心としている。一方で生物多様性戦略も存在はしている。しかし、生物多様性農業を推進する具体的かつ効果的な施策は打ち出せていない。ただし直接支払制度については、その効果が注目されており、より詳しく調べていく必要がある。TPPは世界の動向が大きく変化しているので、今後の状況をおいつつどうなるかをしらべていく。


参考文献


Last Update:2017/02/06
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