日本におけるサッカーを利用した地域振興策
−地域クラブの事例から−
ゼミV
社会科学部4年
木村 巧

明治安田生命J1リーグ所属・FC東京のゴール裏の様子
出所:味の素スタジアムにて筆者撮影(撮影日:2015年4月18日)
研究動機
私は東京都出身でありながら、父親の実家に頻繁に行く機会があったために自然に囲まれて育ってきた。夏季休暇になれば、花火大会を目当てに多くの人が集まり賑わっていた。しかし、最近は人の賑わいが年を経るごとに少なくなり、活気が失われてきていることを強く実感している。少子高齢化等といった、日本の社会問題を肌で感じたのは、この時が最初であった。
また、私はこれまで様々な形で野球をはじめ様々な形でスポーツに触れ、まさに「スポーツと共にある人生」を送ってきたと自負している。サッカー観戦の為にアジアを旅行した際には、現地の人とサッカーの話をしたことがあった。会話として全てを理解することは難しかったものの、共通の話題としてコミュニケーションを取る事ができた事に感動した。国内にいても、サッカーを通じて多くの人との繋がりを持つ事ができ、このことは私の大学生活においての財産となったと言っても過言ではない。
オリンピックやサッカーのワールドカップといった国際的な大会は近年日本でも2020年に東京オリンピックを開催するという形で一層注目を集めている。そこで特に期待されているのは、オリンピックが齎す経済効果だ。スポーツは健康の増進やコミュニティ形成による人々の交流といった力は勿論のこと、ビジネスの観点からも注目を浴びるようになった。そうしたスポーツの持つ魅力をもって地域社会の問題を解決する策はないだろうかと考えに至り、この研究テーマとした。
研究概要
テーマにもあるように、本研究ではサッカーに焦点を据えることとする。スポーツの振興を担う文部科学省では、「多世代・多種目・多志向」を実現する「総合型スポーツクラブ」の育成・推進に注力しており、裾野の拡大に取り組んでいる。このような総合型スポーツクラブはヨーロッパのサッカークラブを中心に、世界各地で見られる他、日本でも1993年のJリーグ開幕より全国にクラブが広がり、総合型スポーツクラブとして活動するクラブの例が多いことから、この土壌を発展させる為の研究に取り組むことがよいと考えた。
また、文部科学省では、2016年4月より、「大学スポーツの振興に関する検討会議」を行っている。そこで、大学が持つインフラ、土着性などを十分に生かすことでも、地域活性化に貢献することの出来る策があるのではないかと考える。
そのため、日本サッカーの歴史・現状を総合型スポーツクラブの事例から捉えた上で、大学スポーツも同様に分析する。その過程で海外の事例や企業の取り組みに関しても着目し、サッカーを中心とした大学スポーツの発展による地域振興策を結論として提言していきたい。
章立て
- 第1章 日本サッカーの歴史
- 第2章 課題・目標設定
- 第3章 スタジアム改革の例
- 第4章 ハイブリッド型サッカークラブの育成・促進
- 具体例
- 政策提言
第1章 日本サッカーの歴史
まずはじめに、読者に本研究をより理解してもらうために概略として日本サッカーの歴史について述べる。
日本にサッカーが伝わったのはサッカーの母国、イギリスで1863年にThe Football Association(英国サッカー協会)が設立されてから10年後の1873年とされている。英国海軍により訓練の余暇として伝わった。これ以後、主に教育の場である学校で行われた。1919年、イングランドよりFAシルバーカップが寄贈され、これを契機に1921年に現在の日本サッカー協会である大日本蹴球協会が設立されることとなった。第二次世界大戦終了後は、大学や実業団を中心に日本サッカーは発展していく。1968年にはメキシコで行われたオリンピックで銅メダルを獲得する快挙を成し遂げ、脚光を浴びた。
日本サッカーの大きな転機は1993年、それまで日本サッカーの中心を担ってきた企業スポーツや教育としてのサッカーからの脱却を図りプロリーグであるJリーグが開幕したことにある。世界のサッカー界では常識である地域密着の概念は、日本のスポーツに大きな衝撃を与えた。3年後の1996年には「Jリーグ百年構想」が掲げられ、スポーツ文化の定着による観戦やスポーツを実際にしてみるといった様々なスタイルを通して国民の心身の健康と充実を図る理念が提唱された。「Jリーグ百年構想」の実現を目指し、これまでの日本のスポーツ界には存在しなかった新たな概念を次々と導入していった。本来日本のサッカーは学校教育のための体育として普及していった側面があり、「Jリーグ百年構想」においてもその系譜が受け継がれていった。また「スポーツを生み出した欧米では、早くからスポーツは公共的な存在であると認識され、世界的にもその考え方が主流である」(広瀬,2004 p.79)とあるように、スポーツクラブは本来地域社会と不可分な存在である。プロ野球が人気を得ている日本においてサッカーの普及を図るためには、「地域振興」というキーワードにおいて幅広く支持を集める目的も存在した。以上からJリーグではクラブチームの地域密着化の為に企業名ではなく地域の名前を冠したチーム名にする必要があった。これらは非営利団体もしくは株式会社化し、スポンサー料や入場料収入を基盤に経営していくシステムとなっている。当時は世界から有名な選手を多数招聘したことで、急速な競技レベルの発展に多くの外国人選手が貢献した。1998年には初のワールドカップ出場を成し遂げ、2002年には自国でのW杯開催を果たした。2011年の女子ワールドカップ優勝を代表とした快挙を始め、現在の日本サッカーは世界的に見ても驚異的な躍進を続けているといってよい。
第2章 課題・目標設定
この章では、地域社会の問題点から取り組むべき課題を示す事で、本研究での目標設定を行うこととする。
2-1. 地域社会の課題
少子高齢化問題の解決なしに、地方のあらゆる課題を解消することはできない。
内閣府によれば、我が国の人口は、2008年を境に減少傾向になっている。また、高齢者の人口は総人口の27.3%と世界に類を見ない程の速さで進行している。年間出生数も平成28年には初めて100万人を割り込み、人口の減少並びに少子高齢化は今後も進行していくものと思われる。

出典:内閣府
以上のように、国内全体では人口の減少・少子高齢化が進行している一方で、東京圏における一極集中化が継続していることも見逃せない。平成28年の東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)は11万8千人の転出超過を記録し、人口は3629万4千人となった。これは全人口の25%以上の数値であり、集積のメリット以上に今後進展していく高齢化に伴う医療や介護の問題、通勤時間や地価の上昇による生活環境面での問題や災害時の危険性を増大させることとなり、是正が求められている。
人口減少が今後も進行すれば、これまで得られていた医療や教育・生活面におけるサービスが縮小し、雇用の減少や地域コミュニティ機能の低下など地域経済の衰退を招き、さらなる人口減少と負の連鎖となる可能性がある。このことは地域社会がもつ特有の魅力を低下させ、いずれは大都市の衰退にも繋がっていく。
2-2. 政府の対応
こうした問題に対し、政府は2014年12月27日、今後目指していくべき将来の指標となる「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」および「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を閣議決定した。以下、内容を示す。
長期ビジョン:@50年後(2060年)に1億人程度の人口の維持を目指す
→人口減少の食い止めと東京一極集中の是正
A成長力の確保
→2050年代に実質GDP成長率1.5〜2%程度の維持
まち・ひと・しごと創生総合戦略(2016年改訂版)
- しごとの創生
若い世代が地方で働く事が出来るように、相応の賃金、安定した雇用形態、やりがいのある仕事の提供ができるように整備する。その為には、地域経済の核となる企業や事業の育成、都市部の企業の地方移転などによる安定的な雇用の確保を目指す。また、このような付加価値の高いサービスや製品の市場を生み出す為には、女性の活躍の場を創出する等、多様な価値観を取り込む必要がある。
【具体的目標】若者雇用創出数を2020年までに30万人(現状:18.4万人)、女性の就業率を77%(2016年:72.7%)に
- ひとの創生
地方への「ひと」の流れを作る為に、「しごと」の創生を図るとともに、地方への移住や定着を促進する仕組みを整備する。また、若者を中心に暮らしの環境を心配することがないよう、結婚から妊娠、子育てまで切れ目のない支援を実現する。
【具体的目標】
地方・東京圏の転出入均衡…現状:12万人の転入超過(2016年)
- まちの創生
「しごと」「ひと」の好循環を支える為に、「まち」の集約・活性化に取り組むとともに、地域の暮らしの基盤維持・再生を行っていく必要がある。このため地方都市の活性化に向けた都市のコンパクト化と公共交通網の再構築をはじめとする生活サービスの確保やコミュニティの維持・再生、データを活用したまちづくりなど、それぞれの地域の特性に即した地域の課題解決と活性化に取り組む。
【具体的目標】
・安心して結婚・妊娠・出産・子育て出来る社会を達成していると考える人の割合40%以上(2017年度:42.6%)
・第一子出産前後の女性継続就業率55%(2015年:53.1%)
2-3. 目標設定
上記の施策を推進するにあたり、サッカーが果たすことのできる役割はどのような点にあるだろうか。掲げられている主要施策を抜粋しながら実現可能な政策目標を考える。
- サービス生産性の高いまちづくり
スポーツ資源を核とした産業の集積によってローカルサービスの生産性向上を実現し、「しごと」づくりを行う。具体的には、スタジアム改革(後述)を実行し、地域交流拠点の創出を図る。単に住民のスポーツを行う機会を創出するというだけでなく、企業の地方拠点や医療・育児になりうる機能を整備することで地域の拠点となり、都市のコンパクト化や雇用数増加、安心できる生活環境の実現を目指す。またこれにより、地域資源として観光業の強化に貢献し、地域の未来への投資の一部となる。
- 大学改革による地方への移住促進
地方振興における大学の果たす役割は非常に大きい。その地域で生活することで魅力を感じ就業や定住に繋がるきっかけとなりうるためである。しかし、大学自身の特色作りが十分でなかったり、地域の産業構造に対応できていない現状である。そのため、大学には産官学連携による人材育成や産業の振興に貢献する取り組みが求められている。そのため、大学改革においてサッカーを通じてこの取り組みに寄与できる施策を上記の目標と絡めて検討したい。
これらの目標を、地方の都市部で実施されることを想定に考えていくこととする。なぜなら、地方に移住を考えている若い世代は地方への都市部を希望しているためである。

(図2) 出典:平成26年度 国土交通白書第2章第1節より筆者加筆
図2によると、特に地方出身でその土地に馴染みのある者が移住したいと考えている。また、そうした者は移住にあたって交通・日用品の買い物環境などの生活インフラや現在の生活基準を保つ収入の確保を重要視していることから、このテーマではスタジアム改革、特に複合施設化によるインフラ整備を行うための最適解を探っていくことで政策提案に繋げていくこととする。
第3章 スタジアム改革の例
3-1. スイス・バーゼルの例
スイス第3の都市であるバーゼルは、フランス・ドイツと国境を接したスイス北部の都市である。ライン川の最上流の港を持ち、古くから商業が発展した。また、スイス最古のバーゼル大学が存在し、芸術都市としてスイスの文化の中心となっている。この都市のクラブであるFCバーゼルのホームスタジアム「Sankt Jakob-Park」は、2001年に会場し、当時約180億円かけて建設された。最大で6万人を収容することができ、スタジアム内には会員制のフィットネスクラブやショッピングモール、オフィスといった生活の拠点となる商業施設がスタジアム収益の3割を占めているほか、高齢者向けの居住施設やアパートメントを整備(全体収益の約2割)し、試合のない日でも施設を活用している。
FCバーゼルのホームスタジアム 「Sankt Jakob-Park(ザンクト・ヤコブ・パルク)」
写真右に商業施設や住居が併設されていることがわかる。
出典:WORLD超サッカー「ザンクト・ヤコブ・パルク〜スタジアム編〜」
スタジアムが市の運動公園内にあることから、他種目の施設も連接している。(スタジアムは民間が所有)試合日には臨時電車が運行されることで、アクセスをスムーズにしている。
3-2. 福岡県北九州市の例
九州第2の都市、人口約95万人の北九州市は福岡県北部に位置する政令指定都市である。かつての八幡製鉄所を中心としたら日本屈指の工業地帯であったが、現在は製造業の衰退によりサービス業の割合が増加している。北九州市はJ3ギラヴァンツ北九州のホームタウンであり、クラブの要請などによってJR小倉駅徒歩7分の場所に建設された。収容人数は15000人と小規模で、サッカーだけでなくラグビーなどの他球技も開催することができる。デッキや快適に観戦できる設備を設けており、イベント時以外もデッキ部分を開放したり、客席からは関門海峡を臨めるように設計されており、試合以外でも楽しめる工夫が施されている。
このスタジアムは、日本初のPFI手法によって整備された。PFIとは、「PFI(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ)とは、公共施設等の設計、建設、維持管理及び運営に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サービスの提供を図るという考え方です。
サッチャー政権以降の英国で『小さな政府』の取り組みの中から、公共サービスの提供に民間の資金やノウハウを活用しようとする考え方として、PFIは1992年に導入されました。」(注1)と説明される方法で、行政の負担を削減しつつ、ノウハウを持つ民間が運営を担うことで効率的な運営を可能とする。
建設費用は約100億円で、事業者が設計・建設を行い、完成後は市に所有権を移転した後に維持管理・運営を事業者が行うBTO(Build Transfer and Operate)方式が採用されている。行政財産となるため、自治体の独占的な利用を可能とし、行政・民間共にコストを削減することができる。
しかし、2017年は本拠地として使用しているギラヴァンツ北九州がリーグ9位に終わり、昇格を逃したことなどにより約1億円の赤字となった。つまり、スタジアムの活用についての方法を模索するだけでなく、そこを本拠地として使用するクラブがどうあるべきかを考えることも非常に重要と言える。
(注1)
出典:http://www.pfikyokai.or.jp/about/
日本PFI・PPP協会ホームページより引用(最終アクセス:2018/1/29)
第4章 ハイブリッド型サッカークラブの育成・促進
前章で地域振興を目的としたスタジアム改革を実施する上でのクラブ運営の重要性について述べた。この章では、政策提言の一部となる地方にとっての理想のクラブ像を検討したい。
4-1. 地域型クラブの現状
日本のプロサッカーリーグであるJリーグには全国各地から現在54クラブが加盟している他、将来のJリーグ参入を目指して日本フットボールリーグ(JFL)などで活動するJリーグ百年構想クラブが6クラブ存在する。
これらのクラブは大別して2つの種類に分けることができる。1つは、全身が企業のサッカー部であった親企業型クラブ(図4参照)、もう一つは母体が企業ではない地域型クラブである(図5参照)。
(図4) 親企業型クラブ一覧
(図5)地域型クラブ一覧
出典:スポーツビジネス 最強の教科書、「Jリーグ 2016年度J1クラブ決算一覧」より筆者作成
2つの図を見ると、所属するカテゴリーにおいて地域型クラブはJ2.J3であることが多い。また、営業収益でも苦戦を強いられているクラブは多く、資金力がないことによって充実した戦力を整えることが難しくなり、魅力に欠ける悪循環となっている。このような差を埋めようと、アルビレックス新潟では総合型スポーツクラブとして地域に根ざした経営を行っている。
4-1-1. アルビレックス新潟
新潟県新潟市・北蒲原郡聖籠町をホームタウンとするアルビレックス新潟は新潟明訓高校OBが主体となって設立した新潟イレブンサッカークラブを母体として結成され、1999年に創設されたJ2リーグにFC東京ら10クラブとともに参入した。2003年にリーグ優勝を飾りJ1リーグに昇格、昨年2017年に降格するまで14シーズン一度も降格することなくJ1で戦い続けた。現在ではシンガポール・スペイン・カンボジアにサッカークラブを保有している他、野球やバスケットボールチームなどとチーム名を共有するなど総合型スポーツクラブとして発展している。
新潟市においては1950年代からJR新潟駅を中心に地域開発を推し進めており、その一環として鳥屋野潟の干拓・宅地化も行い、市街地が外延化した。しかし高齢化や人口の減少が進むにつれ新潟市内における小売販売額が低下し、経済が停滞していた。
そこで、地域経済振興の為に当時開催が決定されていたFIFAワールドカップ日韓大会の開催地に立候補することを決定し、ワールドカップ終了後も大会のために用意したスタジアムの活用と経済効果を見込んでプロサッカークラブの誘致を検討した。
ところが当時新潟県にはプロサッカークラブが存在しなかったため、県内のクラブを統合してアルビレックス新潟を結成した。ワールドカップの誘致という共通の目的のために県協会と自治体の協力の下、地域に密着した経営を可能とさせた。当時の新潟県にはスポーツ文化がなく、サッカー不毛の地と呼ばれた過去があったことから、無料券を配布することで、スタジアム来場のきっかけとしてまず無料で体感してもらい選手のプレーやサッカー観戦というものを体感してもらう施策を実行した。地域クラブの場合、損失の補填を行う親企業が存在しないため、安定した経営を進める必要がある。そのためには、入場料収入やスポンサー収入が非常に重要である。アルビレックス新潟の場合、無料券の配布を普及策として行う傍らで観客層を分析・ターゲット層を絞ることで徐々に収益を上げることに成功した。
(図6) 出典:FootballGEIST 「アルビレックス新潟財務データ 営業収入推移グラフ」
しかし、図6を見ると、営業収入は毎年赤字となっている。アルビレックス新潟は2017年の平均入場者数が22034人で全体の6位と高い順位ではあるが、スタジアム収容率が約52パーセントとスタジアムとクラブの規模が適切でないこと、結果が毎年あまり変化していないことなどが原因と考えられる。
4-2. ハイブリッド型サッカークラブの例
アルビレックス新潟で運営されている総合型スポーツクラブとは、多種目・多志向に渡ってスポーツの機会を提供していくクラブのことで、第2期スポーツ基本計画(2017年4月〜2022年3月)においては、スポーツ立国の実現を目指す具体的施策の一部と捉えられている。スポーツ庁によれば、
- 成人の週一回以上のスポーツ実施率 42.5%→65%
- スポーツをしたい生徒 58.7%→80% (スポーツをしたくない生徒の半減も目指す)
- 健康寿命の促進
などを目標としており、総合型スポーツクラブの整備はそれを支える屋台骨である。加えて資金的な援助も計画されていることから資金面で課題のある地方クラブがこの計画に沿ってクラブ運営を行っていくことは問題解決の手段として有用であると考えられる。しかし、多角的な経営に迫られる為、多くの資金を必要とすることから、行政からの支援のみで総合型スポーツクラブを運営できるかどうかは定かではない。
そこで、従来株式会社であるサッカークラブに於いては、プロサッカー部門のみを株式会社とし、その他の部門を非営利組織化することで、非営利組織のみ受けられる税制優遇やスポーツ振興くじの助成金を得ることを可能にし、多方面から多額の収入を確保することができる。
ドイツでは、すでにこの取り組みが行われており、都市のブランドイメージ向上や市民へのスポーツ機会の提供をするなどクラブが都市の福祉的機能を果たす代わりに、都市の支援を受けることができており両者にとって良い関係が築けている。
ハイブリッド型サッカークラブとは、文部科学省によって定められたスポーツ基本計画に盛り込まれた「総合型スポーツクラブ」をさらに発展させたクラブの概念である。
3-1 Eintracht Frankfurt e.V.の例
ドイツ・ヘッセン州のフランクフルトに本拠地を置く総合型スポーツクラブであるEintracht Frankfurt e.V.(アイントラハト・フランクフルト)(以下「フランクフルト」という。)は、ハイブリッド型スポーツクラブの一例として挙げられる。フランクフルトでは組織を株式会社と社団法人に分割し、前者がプロサッカークラブの運営、後者がアマチュア部門を含めた50種類以上のスポーツ協議部門を保有、数万人の会員を集めた運営を行うという形で住み分けがなされている(図3参照)。プロサッカー部門であげた収益を社団法人に分配することで社団法人の活動資金の一部となり、市民にスポーツ機会の提供を行うことで地域に貢献している。行政はインフラの供給や財政面でそれぞれの団体の形式に合わせた支援をしている。
(図3)
出所:筆者作成
以下は編集中です。再度提出しますので、何卒よろしくお願いいたします。
1 スポーツの商業主義化
近年、スポーツは単に身体の健康を目的として行われているだけではない。プロスポーツの観点に立てば、オリンピック等を中心にビジネスとしての側面からも注目を集めている。図1は、オリンピック開催都市のGDP成長率を年ごとに他国と比較したものである。表が示す通り、オリンピック開催都市の成長率は高く、スポーツによる経済効果が内在していると考えられる。
(図1)
出所:三菱東京UFJ銀行「これまでの開催国経済にとってのオリンピック」
2 日本サッカー界の現状
日本サッカーの発展の契機となったのは1993年のJリーグ開幕という大きな出来事であった。
Jリーグの開幕から3年後の1996年には「Jリーグ100年構想」が掲げられ、スポーツ文化の定着による観戦やスポーツを実際にしてみるといった様々なスタイルを通して国民の心身の健康と充実を図る理念が提唱された。「Jリーグ100年構想」の実現を目指し、これまでの日本のスポーツ界には存在しなかった新たな概念を次々と導入していった。本来日本のサッカーは学校教育のための体育として普及していった側面があり、「Jリーグ百年構想」においてもその系譜が受け継がれていった。また「スポーツを生み出した欧米では、早くからスポーツは公共的な存在であると認識され、世界的にもその考え方が主流である」(広瀬,2004 p.79)とあるように、スポーツクラブは本来地域社会と不可分な存在である。プロ野球が人気を得ている日本においてサッカーの普及を図るためには、「地域振興」というキーワードにおいて幅広く支持を集める目的も存在した。以上からJリーグではクラブチームの地域密着化の為に企業名ではなく地域の名前を冠したチーム名にする必要があった。これらは非営利団体もしくは株式会社化し、スポンサー料や入場料収入を基盤に経営していくシステムとなっている。地域社会の振興とサッカークラブが結びついた事例として、新潟市等をホームタウンとするアルビレックス新潟を紹介する。
3-2 ワセダクラブの取り組み
特定非営利法人WASEDA CLUB(通称:ワセダクラブ)は東京都杉並区上井草を拠点に、市民を対象とした各種スポーツの普及・振興事業を通じ広く公益に貢献することを目的に設立された。設立背景には国内スポーツ環境の変化によって企業スポーツの衰退や財源の確保が困難であるという状況に従来の組織や団体では対処しきれない点にあった。そこで、施設、指導ノウハウといったスポーツ資源をもつ大学組織が外部団体と協力しながら市民に開放していく為に特定非営利活動法人として独立し、問題解消の一翼を担う。
ワセダクラブは早稲田大学によるスポーツ振興事業の一部となっている。大学が統括する体育各部より人材が供給され、その下で市民と大学を結びつける。資金面では大学が持つブランド・ライセンスビジネスによって全国のファンや協賛企業から集め、経営支援を行う図式である。大学とクラブとのビジョンが明確に共有される組織体制を形成し、大学が持つ人材的・インフラ的資源の供給をもって会費を集め、本来の目的を達成しながら大学の体育部の強化にも貢献している。成果として2015年7月時点では会員数が当初の2倍の2000名に増加し、17種目と大学だからこそ可能なより多種目での総合型スポーツクラブとなっている。
しかしスクール事業の需要増加による施設やスタッフ確保のための資金確保が課題となっている。現在は主に企業との組織的連携や健康増進サービスの提供と資金獲得の為の裾野を拡大する施策を採っている。
4 今後の課題
プロクラブだけではなく、大学などの教育機関による部活動での地域振興策に関しても研究を深めていくことによって、日本の中学校や高校で起こっている教員の部活動の指導に関する諸問題に対しても地域振興策とともに政策提案につながる可能性がある。そこで、今後は両者を並行して研究を進め、両者が相互作用によりさらなる効果を生み出せるモデルの検討をしていきたい。
参考文献