循環型社会への転換

―ストックとしての土地開発―

早稲田大学社会科学部4年 上沼ゼミナールU
斎藤康輝



マニラ郊外、撮影者:本人

章立て

  1. 研究の目的
  2. 問題の発見
  3. 日本の住宅問題
  4. フロー型の日本とストック型のヨーロッパの住宅
  5. 先行研究-北九州-
  6. 長期優良住宅
  7. 今後の方針
  8. 参考文献

1.研究の目的

 今日、日本には多くの社会問題が存在する。その1つに、少子高齢社会は今後我々が生活していく中で、切っても切り離せないものである。 また乱開発されてしまっている住宅を、どうにか改善する必要があるとも考えた。
 そこで、この2つの問題というのは、密接に関わっているものであり、逆行しているものであろうから、課題として取り上げた。

 住宅開発の問題も様々あるが、私は研究の精度を高めるため、今日行われている大量生産・大量消費を変更し、循環型の社会構造にしていくのはどうかと考えた。
 住宅問題において、今の日本の開発形態は”スクラップ・アンド・ビルド”と呼ばれ、作りは壊し、壊しは作りと、持続可能な開発を行い得ていない。そこでストック型社会というものを考えたい。


2.問題の発見

1) 日本の少子高齢化の傾向は、今後も継続し、このままでは国としての生産活力の低下は避けられない。さらに、日本のフロー型社会構造を基とする経済活力の凋落も起きてしまっている。(下図「ストック社会と生涯収支比較」参照)
 このフロー型のたい肥として、先に挙げたストック型社会というものがある。世界大百科事典によれば、
住宅や、橋・道路などの社会インフラを長持ちさせることにより、持続可能で豊かな社会が実現できるという考え方。価値ある社会資産が長期的に蓄積(ストック)され、何度も作り直す無駄が省かれる結果、経済的なゆとりが生まれ、環境に対する負荷も少なくなるとされる。大量生産・大量消費を特徴とするフロー型社会と対比される。
とされ、現在の日本はストック型社会への転換が求められている。



ストック社会と生涯収支比較、次世代システム研究会より

2)住宅政策の歴史  地代家賃統制令:戦中期より、日本の持ち家率の高さが発生してくる。日中戦争が始まる と地代家賃の高騰が始まった。この高騰を抑制するために政府より、地代家賃統制令が公 布され、施行された。また41年には借地法(問題点として半永久的な契約を行えてしまう )と借家法の改正が行われ、地主や家主の解約権に制限がかかった。これらは戦時体制を 整えるため、特に世帯主が応召された家族を保護するために実施されたと考えられている が、これを契機に借家人に対する払い下げが進み一気に持ち家率が上昇した。また宅地建 物等価格統制令(1940年11月21日勅令781号)による規制で賃貸不動産市場の価格規制は 行われた。(周藤 利一 2015)
 1950年:住宅金融公庫法→個人がみずから居住するための住宅の建設・購入(住宅の用に供 する土地の購入も含む),増改築に必要な資金の貸付け,分譲住宅,賃貸住宅の建設,宅地 造成に必要な資金の民間事業者,地方住宅供給公社等に対する貸付けのほか,住宅団地・ 宅地造成に必要な関連公共・利便施設整備のための資金を地方住宅供給公社等に対して貸 し付けている。 (平凡社 2007)
 税制面の優遇:住宅を購入するために10年以上のローンを組んだ場合、所得額から一定額を控除する住宅ローン減税のような制度や、固定資産税・都市計画税といった地方税の一部減免がある。しかし中古住宅では、このような優遇が新築と比べて限られてきた。また、中古住宅が価値ある「商品」として需要されるためには、住宅の所有者が価値を維持するようなリフォームを行い、その投資をが中古住宅の価格に反映されることも必要だが、そのような建物部分へのリフォーム投資が評価される事は少ない。(砂原庸介 2018)

3)日本は空き家率の高さも目立つ。
 日本と経済レベルの近しいドイツは1%、イギリスは2.5%と、街を歩いて空き家を見つけるのが難しそうだが、対して日本は13.5%(2013)にも上り、7軒に1軒は空き家という計算になる。さらに、人口が1億1千万人ほでになる2030年代には、3割に達するという。このことも勿論、ストック型社会への以降の一因となり、これ以上必要以上の開発は資源の無駄と言えるだろう。


3.日本の住宅の問題

 具体的に、フロー型社会の日本は以下のような問題を持っている。
  1. 地球環境の劣化、資源・エネルギーの枯渇
  2. 高賃金にもかかわらず生活支出が高いことによる欧州先進国に比べた生活の質の低さ
  3. 高賃金に起因する高生産コストによる日本産業の国際競争力の低下
 この1から3は、総じて大量消費/生産の結果で生じたものである。勿論、日本は、資源大国ではないから、1という要因は大きくないし、改善していくのは少々難しい。しかし、日本において、2と3の要因はとても大きく、解決されるべき問題であり、解決可能な問題である。図を通して、具体的に問題点を洗い出していく。

4.フロー型の日本とストック型のヨーロッパの住宅



家屋の寿命、45分でわかる未来へのシナリオ

 上図「家屋の寿命」は、1つの住宅に対して、どれほどの年数使用するかを表しています。図のようにアメリカ・イギリスの住宅寿命は100年を超えている。図以外のヨーロッパの例をあげると、ドイツやフランスは80年ほどの寿命がある。一方、日本の住宅はご覧の通りとても短命である。3〜4倍の差が先進国とあるのだ。これは日本の住宅の耐久性の問題ではなく、日本人には新築偏重の傾向があるため、短い年月で使い捨ててしまうのだ  ヨーロッパでは、前世代からの住宅ストックを引き継ぐため、その分コストを抑えることが可能で、その分の支出をゆとりとして、貯蓄や自らの人生の幅を広げることなどができるのだ。ヨーロッパ人というのは日本人よりも生涯収入は低い。7割程度の差があるのだが、前世代からの住宅ストックにより抑えたコストで、自分自身にお金を使えたり、次世代へのストックに回せる。

 日本人の多くは新築信仰をしているという。そんな日本に比べると、欧米では中古住宅の割合が8割となっている。また、イギリス・アメリカでは中古住宅売買戸数が9割にもなり、中古住宅の再利用が充実している。また欧米の住宅の資産価値は投資の価格から、60年間以上ほとんど乖離していないが、日本の住宅は1980年代を境目に、半分程度の価値に落ち込んでしまう。さらに、日本の住宅市場にも問題が存在していると分かる。日本はそもそも中古住宅の流通が他の先進国が60%であるのに比べ、20%以下である。買い手にも売り手にも問題があるのだ。  そもそも何故日本は他の先進国と比べて住宅寿命が短いのか →これは財務省令で、木造住宅の耐用年数を 22年と定めていることが大きく影響したと言われています。 耐用年数は単に企業会計上の償却年数にすぎませんが、使用限界と誤解されることが多く、築 20 年程度で無価値と査定 する業界慣行につながったようです。また、高度経済成長期に人口増加も合間って、都市開発が進んで行き、古い家を壊し新しい家をどんどん建てることが、推奨されたという。 戦後復興期や高度成長期に建った住宅の多くは性能が低く、「築20年で無価値」でも バブル崩壊までは宅地価格の上昇でカバーされたため、問題になりませんでした。でもその後、建物の質や耐久性が大幅 に向上しているのに、評価方法は変わらず、資産価値が築年数に応じて一律に下落する状況が続いています。


5.先行研究-北九州-

 このストック型社会への転換を研究しているのが北九州だ。地球環境問題、市民生活や地域経済の課題を同時に解決するストック型社会への転換の意義を市民に向け訴え、理解を得てきた。人口が半分になり、高齢者が全体の40%となる2050年に向けて計画がされている。このモデルには大きく2つの計画がある。
ハード設計:有形要素
 土地利用計画などの考え方→2050年の世界(資源収支など)と地域の条件(超少子高齢化社会など)を前提に既存市街地を再設計する。その基本は、長寿命型街区とそのコンパクト化、およびそれによる発生余剰地活用である。街区は、時代の変化において不易な部分(長寿命型資産にする部分)とフレキシブルに変化する部分を分けて設計する「スケルトン&バッファー」という概念をつくった。発生余剰地は、各種自然資源の地産地消や生物多様性 保全等、フレキシブルに利用できる部分である。長寿命型コンパクト街区の位置を選択する「アロケーション」という手法を開発した。活断層、ハザードマップ、地形・地質等のデータを重ね合わせて、いつまでも安全安心な街区の位置を客観的に選択できる。


アロケーション、官学連携ジャーナル

ソフト設計:無形要素
 地域ポテンシャルと実現手法→世代を超えた個人資産や社会資本の蓄積から、市民や自治体の生涯収支(世代収支)に「ゆとり」つまり「生活の豊かさ」を創出できることや、資源消費や CO2排出量削減から低炭素社会が実現できることを検証してきた。 経済面では、海外で運用されている多額の日本の金融資産の投資先を、長寿命型資産形成を軸にして国内に向けるモデルの 研究をしてきた。金融資産を価値劣化なき実物資産に換えるのである。地域ファンドなどこの金融モデルができれば、健全な内需拡大につながり、 ストック型社会への転換過程が経済効果を生むことになる。

 以上の2つの計画がによって、ストック型社会の利便性や経済力の提起ができ、北九州でのモデルは立ち上がった。


6.先行研究ー長期優良住宅ー

  「長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するための措置がその構造及び設備に講じられた優良な住宅のことです。長期優良住宅の建築および維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請することで、基準に適合する場合には認定を受けることができます。」と国土交通省によって説明されています。この長期優良住宅の認定をもらうには、@長期に使用するための構造及び設備を有しているA居住環境などへの配慮を行なっているB一定面積以上の住戸面積を有しているC維持保全の期間、方法を定めている の以上4点の全ての措置を講じ、必要書類を添えて所管行政庁に申請することが必要です。認定後、工事が完了すると維持保全計画に基づく点検などが求められます。長期優良住宅の主な「認定基準」、国交相


7.今後の展望


8.参考文献


Last Update:2019/10/15
© 2017 Koki Saito. All rights reserved.