浅間温泉の観光まちづくりを考える

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上沼ゼミⅡ
社学3年 篠崎桃子


「温泉街入口の看板も北アルプスの形をしている浅間温泉」
出所:藤田 聡、All About 旅行「北アルプスの展望に優れる浅間温泉」より

はじめに-研究動機-

 出身地である長野県松本市は、豊かな観光資源に恵まれているのにも関わらず、少子高齢化が進み、活気が失われていると感じることがしばしばあった。そこで、地域資源の価値化や市民の連携により、観光をさらに盛り上げ、かつ、地域活性化に繋げることができるのではないかと考えた。そのなかでも、松本市には、「松本の奥座敷」と呼ばれる歴史ある温泉地が存在するが、近年、大きく廃れている。 浅間温泉の観光まちづくり政策について考えることで、松本市の更なる発展を目指す。

章立て

  1. 松本市の現状
  2. 観光まちづくりとその成功事例
  3. 松本市浅間温泉の取り組み
  4. 目標とする浅間温泉のビジョン
  5. 現在行われている取り組み
  6. 外湯の有効活用
  7. 入湯税の有効活用
  8. 食の魅力づくり
  9. 参考文献

1.松本市の現状

1-1.少子高齢化の現状

 近年、出生率が死亡率を下回っている。

「松本市の出生・死亡率の推移」
出典:松本市「超少子高齢型人口減少社会における松本市の人口推計」より

1-2.社会動態

 転出入者の総数は大きく減少しているが、これは、松本市に限らず県全体や国でも同様の傾向が見られる。転入出の詳細を見ると、10 代の若者が多く転入している一方、 20 代前半では多くの者が転出しており、進学で転入してきた若者が、就職において市内に定着していないことが考えられる。これが市内の出生率の一因となっていると考えられる。したがって、就職の受け皿となるような雇用の創出や、住みたいと思えるまちづくりの必要性がある。

「松本市の年齢階級別人口移動の推移」
出典:松本市「超少子高齢型人口減少社会における松本市の人口推計」より

1-3.観光入込客数

 市内観光入込客数は、減少傾向。松本城の入場者数は、増加し、松本を代表する観光地として定着しているが、それ以外の観光地の入込客数は、ほぼ横ばいか減少傾向。特に、美ヶ原高原や上高地での減少が著しい。理由としては、不景気などから全国的に観光入込客数が減少しており、その傾向のなかで、観光資源をアピールしきれていない、上田市などの周辺都市と観光のストロングポイントが似通っている、松本市が他の代表的な地域に観光客を取られていることが考えられる。

1-4.松本市が提唱するスローガンや政策

 少子高齢化は、日本全国規模で起こっている現象なので、無理に是正しようとはせず、量から質へと発想を転換し、市民一人ひとりの「いのち」と「暮らし」を大切に考え、誰もがいきいきと暮らせるまちづくりに向け「健康寿命」の延伸を目指していく「健康寿命延伸都市・松本」を将来の都市像としている。しかし、これを目標にすることで、転入者の増加・転出者の減少に繋がると考える。

1-5.現在の観光面での課題

 現在、松本市が抱えている課題として、少子高齢化によって跡継ぎが見つからず放置された店の存在、多様化する観光者ニーズへの対応ができていないこと、ツアーなどではない、街そのものを「体験する」観光への需要の高まりによる従来の観光体制の限界、などがある。

2.観光まちづくりとその成功例

2-1.観光まちづくりとは

 地域の持続的発展に向けて、観光地づくりとまちづくりを一体的に行う考え方である。大切なのは、住民参加のもと、地域が主体となってこのような取り組みを行うことである。住民自らが、誇りをもってまちづくりをすることで、そこを訪れる来訪者の満足度も高い状態が維持される。

2-2.観光まちづくりの成功例

 歴史的観光資源を活用した観光まちづくりとして、「兵庫県篠山市」の空き家活用と地域再生の取り組みがある。一般社団法人「ノオト」が、地域経済活性化支援機構等が設立した観光マザーファンドや但馬銀行との協調支援により、(株)NOTEリノベーション&デザインを設立し、篠山地区の古民家を一体的に改修するとともに、起業家や事業者を誘致し、多くのホテル、レストラン、カフェ、工房などが立ち並ぶ魅力的な城下町等の街並みを実現。20名以上の移住者、50名近くの雇用を創出。

出典:内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり成功事例集」より

3.松本市浅間温泉の取り組み

3-1.浅間温泉とその現状


出典:浅間温泉観光協会「浅間温泉散策マップ」
 浅間温泉とは、松本市の中心部から少し離れ、駅から出ているバスで約20分ほどで着く昔ながらの温泉地である。「松本の奥座敷」と呼ばれ、1300年の歴史を持ち、日本書紀にも登場している。湯の質も良く、正岡子規や与謝野晶子など、明治以降の文人が多く訪れた。以前は下駄の音が響いていたが、現在は少子高齢化による跡継ぎ不足で大きく衰退している。しかし市内に温泉街があるというのは非常に大きなストロングポイントであり、浅間温泉が栄えれば松本市の観光も活性化するのではないかと考える。

3-2.浅間温泉の特徴とそれに似た温泉地の例

 梅川智也、ほかの先行研究によれば、他の温泉街と大きく違う点は、地域内に温泉旅館だけがあるのではなく、民家や農家と旅館が共に存在しているところである。そのため、地域住民の文化と融合させ、地域住民と交流するような形での街づくりが望ましい。
 浅間温泉に似た有名な温泉地として、「湯布院温泉」が挙げられる。湯布院温泉は、もともと農業が基幹産業であり、地域住民と観光産業従業者が、お互いを尊重して湯布院の文化を生かした温泉地づくりが行われてきた。具体的には、農民側が農地で「あられ」を焼いて宿に提供する、イベント開催場所を提供するなどし観光を支援したり、観光関連事業者が「観光のためのまちづくりではなく、まちづくりの一翼を担う観光」の意識に立ち、住民とともにまちの将来を考えるシンポジウムを開催する、などの取り組みを行っている。また、住民が観光客と一緒になって楽しめるイベント「湯布院映画祭」「ゆふいん文化・記録文化祭」「牛喰い絶叫大会」を行ってきた。
 浅間温泉も、このような方向性でのまちづくりを進めていくことが得策であると考える。
(出典:梅川智也、ほか「温泉地における住民意識等に関する基礎的研究」より)

4.目標とする浅間温泉のビジョン

 昔のように、浴衣でそぞろ歩きする観光客が増えること、 お土産屋や飲食店が賑わい、街中に下駄の音が聞こえるような温泉街にすること、松本市に観光に来た人が、宿泊施設として街中のビジネスホテルではなく浅間温泉の旅館に魅力を感じ選んでくれること、松本市やその周辺に住む人が、日帰り旅行のコンテンツとして浅間温泉を選んでくれること、地元のコミュニティーに観光客が入り込める仕組みがあること。

5.現在行われてる取り組み

5-1.そら屋

 「そら屋」とは、ホームページによれば、長野県松本市で空き家の利活用に取り組む、設計士と商店主のチームである。空き家やリノベ物件の見学を含む街歩き企画、空き家情報をシェアして活用方法などを語り合う、ラフな交流会を開催しており、実際に、この取り組みによって再活用が実現した空き家もある。最近は、浅間温泉にフォーカスし、不定期で活動している。お土産屋さんの半分をカフェにするなどの、リノベーションにも活きるのではないか。

出典:「そら屋」

5-2.外国人向け素泊まり施設 HOSTEL&SPA FA(U)N!MATSUMOTO

 ホームページによれば、従来は、歴史ある旅館だったが、跡継ぎがいなくなったことをきっかけに、温泉はそのままにリノベーション。宿泊施設と和食バルが併設する形で、宿泊施設は1泊/1980~宿泊可能。和食バルは宿泊者以外も利用でき、「高くて食事付き」という従来の旅館のイメージを払拭し、気軽に泊まることができるのが特徴である。



出典:「FAN!MATSUMOTOホームページ」

5-3.浅間温泉わいわい広場

 ホームページによれば、「浅間温泉わいわい広場」は、浅間温泉のコミュニティと観光客が交流できる広場。軽食や買い物を楽しめたり、いちご狩りができる場があるほか、地元の人々のイベントの開催の場にもなっている。

出典:「まつもとあそび」

6.外湯の有効活用

 浅間温泉には、温泉地の空間構成上最も大切とされる「中心核」がない。ここでいう中心核とは、草津の湯畑・城崎温泉の川などのシンボルのことである。 中心核がないと、温泉地の領域や境界を認識できず、日常に温泉地が溶け込みすぎてしまう。 そこで、浅間温泉にもともと存在している外湯の活用を行う。現在の浅間温泉には外湯コミュニティが点在しているが、コミュニティ同士が 関わることなく個々で完結している。そこで、それぞれの外湯が連携し湯めぐりマップを作成し、パスを販売することで観光客を 旅館の外に出し、温泉街を歩いてもらうシステムを確立するのがよい。現在、浅間温泉観光協会において、外湯の会員は2施設のみである。それ以外の外湯に関しては、何軒かの人が権利を買い、湯主になっている。売り上げは湯主達の利益で、浅間温泉の利益にはならない。湯主同士が連携することによって外湯めぐりの体系が作られれば外湯の利益の底上げに繋がるので必要だが、外湯の宣伝をするのに外湯コミュニティのみで行うのは限界があるので、観光協会の歩み寄りが必要である。

6-1.成功例1:黒川温泉

 黒川温泉は単独の旅館が栄えても温泉街の発展にはつながらないと考え、温泉街一体となって協力する策としてすべての旅館の露天風呂に自由に入ることのできる「湯めぐり手形」開始。1300円で24軒すべての旅館の中から3か所の露天風呂を選んで入れる。手形は可愛らしい木のストラップになっており、温泉街にあるパワースポットに奉納する人も多く、温泉を巡ったあと奉納するまでが一つのエンターテイメントとなっている。また、湯めぐり手形には「手形deまちめぐり」という特典がついている。協賛する宿や店で入湯手形を提示すると食べ物や雑貨、さらにはガソリンスタンドの洗車代の割引といったサービスを受けることができる。このような取り組みから観光客が増加し、温泉地の領域を意識させることにも成功した。



出典:「ぐるたび」

6-2.成功例2:城崎温泉

 町全体を一つの宿としてとらえ、駅は玄関、道路が廊下で客室が旅館といったように、街全体を一つの旅館として考えて街づくりをしている。事業者も住民もそのパーツに徹し協力することを指針としている。その中で大浴場の役割を果たしているのが外湯めぐりである。7つの外湯と5つの足湯を楽しめる。城崎温泉は街歩きスポットが充実しているため、外湯巡りをさせることで街に出てもらい、お金を落としてもらう。

7.入湯税の有効活用


「4平成28年度入湯税の充当状況」松本市『松本市の財政事情』p.65
 松本市によれば、温泉地の魅力を感じてもらうため、雇用創出などの経済効果を生むためには資金が必要である。そこで、現在温泉地に還元されていない入湯税の活用を行う。
 入湯税とは、鉱泉浴場の入場に対し、入湯客に課す目的税のことである。
 浅間温泉では150円の入湯税を徴収しているが、その使い道は、環境衛生施設の整備・観光施設の整備・消防施設の整備と、温泉とは関係のないところに入湯税が流れている。
 税負担者である入湯客に対して魅力ある温泉地を実現することで還元することが必要であると考える。
 そこで、温泉街が地域経済へ与える貢献度具合を伝え、温泉地振興の財源を入湯税から多く配分してもらうように市に要望する。 下呂温泉では、観光客の減少・景気衰退を受けて危機感を持った各種団体や市民が、行政・市議会と協力し、2010年から入湯税の全額を観光関連事業に充当することが決定した。 そののち、入湯税の値上げも検討する。値上げに関しては、そのぶんお土産の購入や飲食を抑えるようになる危険性があるので、意識調査を行うなど慎重に市民の意見に耳を傾けながら 進める必要がある。

8.食の魅力づくり

 松本大学総合経営学部の山根宏文、鈴木尚通の先行研究「浅間温泉活性化に向けて 住民意識調査と課題」によれば、同大学主催のアンケートによると、浅間温泉に新たに欲しいと思われるもの、整備したほうがいいものの第2位に飲食店があげられる。浅間温泉の飲食店は蕎麦屋、居酒屋、大衆食堂など、 決して少なくはないが十分に知られていない。食の魅力づくりを行うことは、地元食材の調達や料理人の雇用など、地域経済への貢献度も高く、 食育の面でも重要である。

8-1.案1:宿泊と滞在時間の延長を目指す朝食の魅力づくり

 現在、人手不足の関係からか朝食を給食センターのような外部から発注している旅館が多く、朝食に魅力がない。朝食の時間を魅力的にし、宿泊客を増やすように活動を行う。旅館以外の飲食店の紹介をしつつ、旅館にメリットがあるような企画をする。 地元の飲食店の協力で朝食を提供してもらいその際にレストラン案内をして飲食店のPRをする、連泊客や登山客を対象に温泉街の飲食店で弁当手配ができるように メニュー開発に取り組み旅館で宣伝する等。松本を訪れる人々の目的の上位に登山があるので、朝早く出発する人向けに弁当などを提供するサービスがあると良い。

8-2.案2:地域を挙げた食の魅力づくり

 松本市の高校・大学の食物栄養科のアイデアを募集し、地元食への誇りの醸成を狙ったり、松本市で有名な工芸品屋と浅間温泉の旅館が 共同で食べ物に合うお皿を開発し、実際に料理を提供する際に使用し、相互宣伝を行う。

参考文献


Last Update:2020/01/30
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