日本人の仕事満足度向上に向けて
-キャリア教育の観点から問題を解決する?
上沼ゼミV
社学4年 二宮穂乃佳
出典:「仕事をする人」出所:クリエイターのための総合情報サイト CREATIVE VILLAGE https://www.creativevillage.ne.jp/wp-content/uploads/2018/10/proofreading_main.jpgより
はじめに−研究動機−
自身の経験を通して、働くことに対してネガティブに考える人の多さに違和感を感じたことが研究動機だ。キャリア支援の会社でインターン生として、22卒や23卒の学生約400人と就活相談の面談をしたが、「就活なんてできればしたくない」とマイナスに考える人が多いと感じた。仕事というのは、多くの人が大学を卒業してから50年近く続けていくものであるし、特に日本の場合は世界と比較しても労働時間が長いため、多くの人は人生のほとんどの時間を仕事に費やすと考えられる。そんな大事なものに対してネガティブなイメージを持つことは、人生に対してネガティブなイメージを持つことにも繋がり兼ねず悲しいことだと感じた。これが研究の動機である。この違和感を検証し、社会の活性化に寄与する新たな政策提言を目指す。
章立て
日本人の仕事満足度の現状
低い仕事満足度による社会への影響
仕事満足度が低い原因
仕事満足度を高めるには
やりたいことを見つけるには
日本のキャリア教育の現状
海外のキャリア教育の事例
先行研究の課題
政策提言
参考文献
1.日本人の仕事満足度の現状
仕事経験のない就活生が仕事に対してマイナスなイメージを持つのは、周囲の社会人が辛そうに見えるからだと考える。実際の就活生の意見からも、「やりたいことがなくモチベーションもないから」「本当は働きたくないけど、生活するためには働かないといけないから働いているだけ」など、「仕事=楽しくないもの」と考えている人が多く見られた。
そして実際、日本人の仕事満足度は非常に低いというデータが存在する。2016年の世界35カ国を対象としたアンケートをもとにしたランキングでは、最下位であり、2019年での仕事に満足している人の数も半数以下という結果だった。
2.低い仕事満足度による社会への影響
次に低い仕事満足度が日本経済に与える影響について言及する。仮説としては、労働生産性の低下、それによる経済発展の阻害といった悪影響であると考える。楽しくもない仕事を続けていれば、生産性が低下し、経済成長は非効率になっていく。実際、仕事満足度と労働生産性には相関関係があることを示した研究結果もあった。この研究では、従業員の平均満足度を0.1ポイント高めると、企業の1人あたり営業利益を148万円増加できるという結果がでた。
ここで、日本の経済状況について少し詳しく見てみると、その深刻さがわかる。「失われた30年」と言われるように、平成の約30年の間に日本は大きく衰退している。国際競争力ランキングでは、1位から30位に下落し、グローバル企業の収益ランキングでは500社中111社ランクインしていたものが半数の52社に減少した。また、労働生産性に関してもG7の中で約50年間最下位という結果が出ている。この現状からも、労働生産性向上の側面から日本経済の発展につながる政策提言をすることの重要性が感じられる。
3.仕事満足度が低い原因
仕事満足度に話を戻し、その低さの原因を見ると、次のようなアンケート結果があった。まずは、給与額に対する不満、次に成長しづらい環境があること、そして人間関係の悪さという順で結果が出ている。給与の低さに対して不満を持つということは、労働時間や労力に見合った給料ではないと感じているということだ。そしてそれは、自分に適さない仕事をしていることで非効率になっていることや、働く目的がお金を稼ぐことのみになっており、そもそもやりがいや成長を求めていないことが考えられる。また、仕事の満足度について調べた259のメタ分析から明らかになったという「仕事の満足度を決める7要素」にも、成長実感や目指すビジョンが明確であることの重要性が示されている。まとめると、仕事満足度が低い原因は成長環境がないことだと言える。自分に適した仕事、つまり自分の強みを活かせる仕事や、ビジョンを達成するために必要となる仕事が現状できていないことによって成長を実感できず働きがいを感じられないのだと考えられる。
4.仕事満足度を高めるには
4-1.仕事満足度を高めるには@
では、仕事満足度を高めるためにはどうすれば良いのかを考える。まず、仕事満足度が高いかどうかは働きがいを感じるかどうかであり、働きがいを感じるためには、仕事量とそれに見合った報酬があることが重要だとわかった。先出のアンケート結果からも分かるように現状は、仕事量が多く、天秤が傾いていると感じる人が多い状況である。この天秤を平行に、つまりイコールにするためには、給与や仕事のやりがいの量を増やす必要がある。ただ今回は政策提言をするために、給与面ではなくやりがいの部分を大きくすることに焦点を当てて話を進めたい。
4-2.社員の仕事満足度が高い企業の特徴
では現状すでに仕事満足度が高い社員が多い企業の特徴は何か。ここでは、Great Place to Work Institute Japanが実施する働きがいのある企業ランキング上位の企業を、社員の仕事満足度が高い企業として考える。そして2021年版のランキング結果トップ10は、1位から順にシスコシステムズ合同会社、株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ディスコ、プルデンシャル生命保険株式会社、モルガン・スタンレー、株式会社アメリカン・エキスプレス、レバレジーズグループ、株式会社Works Human Intelligence、DHLジャパン株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社という結果だった。
では、ランキング上位の10社にはどのような共通点・特徴があるのか以下に考察する。ランキング上位となった評価ポイントとしては、「事業を通じて社会に貢献することを目指した会社であり、従業員は自社のカルチャーや商品に強い愛着をもっている。」(株式会社セールスフォース・ドットコム)や「従業員は深い理念への共感によって、相互に信頼しあい強い絆で結ばれている。」(プルデンシャル生命保険株式会社)、「働く従業員は事業に誇りを感じられており、仕事に行くことを楽しみだと感じられている。」(シスコシステムズ合同会社)などが挙げられていた。特徴をまとめると、社員が会社や社会に貢献するという目的を明確に持っていることが共通点と言える。入社するまでに、自己分析を深め自分が目指す将来を発見し、その上でその将来像を実現できる会社に入社し働けているからこそのことだと考える。社員の仕事満足度が高い企業の社員は、目指す将来像を明確に持っているのだ。
4-3.仕事満足度を高めるにはA
上記の考察を踏まえ改めてこの問いを考えると、仕事満足度を高めるには人生の中で自分が働く目的を明確にすることが重要であると言える。
5.やりたいことを見つけるには
5-1.現状と問題
現状、やりたいことが見つからない、わからない若者は非常に多いと感じる。冒頭でも述べたとおり、これまでに約400人の就活生から面談を通して就活における悩みを聞いてきたが、その8割が「将来やりたいことが見つからない」という内容のものだった。「自分は何がしたいのかわからないし、何が得意なのかもわからない。だから就活の軸が定まらず、志望企業どころか志望業界すらも絞ることができない。」と話す就活生が非常に多い。実際、大学生を対象とした就活の不安に関するアンケートでは全体の約7割が、「向いている仕事が分からない」と回答した。好きな仕事、会社を選べる上にその選択肢が膨大であることの弊害だと感じた。この現状は、自分がやりたいことが見つかりさえすれば自由に求めるキャリアを選択できる天国と言えるからだ。
5-2.原因
ではなぜやりたいことが見つからないのか、自分の得意や好きが分からないのか、その原因を考察する。原因としてまず挙げられるのは、全員に同じ能力を求める日本の教育制度だ。全教科の成績が満遍なく良い生徒が優秀とされ評価される制度がある。さらにその優秀な状態が当たり前とされ、バランスが悪かったりできない部分があると、その弱みにばかり注目され指導を受けることになる。学校では全員が同じ優秀な人を目指すようになっているのだ。それによって、自分の強みには目を向けず弱みの克服に注力し、自分の個性を見失ってしまう。
5-3.解決策
この問題を解決するためには、教育制度を改変することがである重要と考える。生徒一人ひとりの可能性を引き出し、個性を伸ばすような教育を推進するべきだ。日本では、就職活動の際に学歴で評価を受けることが多いという認識がある。これが事実かどうかは別として、高学歴の方が志望企業に就職しやすいと考える人が多いのは事実だろう。この認識によって、学生自身もその親も先生も、言葉にはしなくとも有名な大学に進学することを最終目標に小さい頃から勉強を続けているのだと思う。だから、小学校でも中学校でも高校でも全教科で100点を目指し完璧な優秀を目指す。そして有名な大学に進学し、就活をはじめようとなった時に初めて自分の将来を考え夢がないことに気づく。優秀だからどの企業も自分を求めてくれる、しかし自分がどの企業を選ぶべきなのか分からない。その結果、今までと同じようにとりあえず有名な企業に入れば安心だろうと考え始め業界や業務内容など関係なくとにかく自分が知っている企業を特別な動機などなしに志望するようになる。この状況に陥る学生が非常に多いのだ。そうならないためにも、自分の将来を真剣に考え「強みや好き」に気づき伸ばすことができるキャリアの教育が必要だと考える。
6.日本のキャリア教育の現状
では実際の日本の教育現場でのキャリア教育はどのように行われているのかを考察する。まずキャリア教育とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と中央教育審議会によって定義されているものだ。これは平成23年に提唱されたものであり、キャリア教育の歴史は約20年と浅い。提唱のきっかけは、学校教育と職業生活との接続不足が問題視されたことだった。そのため「小学校段階から発達の段階に応じてキャリア教育を実施する必要がある」と提言されたのだ。ここからキャリア教育は国が主導し進められてきたが、問題は多い現状だと感じる。例えば、体験活動がキャリア教育に最も効果的だと考えられていることだ。数日間の職場体験のみで十分なキャリア教育をしたと考えることには疑問を感じる。私自身、職場体験で業務の一部を体験し、その感想を提出するだけではただの思い出になってしまい、自身のキャリアを考えるきっかけとはならなかったからだ。まとめると、日本の一般的な学校教育には将来のキャリアを考える機会が少ないという問題があると考える。
7.海外のキャリア教育の事例
7-1.海外の教育制度
海外では、生徒一人ひとりの個性や才能に重点をおいた教育をする国が多い。できないことを叱って弱みを克服することよりも、できることを褒め強みを伸ばすことを重要視しているのだ。それによって生徒は自分の強みや個性を自覚するとともに自信を持つようになると考えられる。18歳を対象に実施した「将来の夢を持っているか」のアンケートで「持っている」と回答した割合に関して、日本の60.1%という結果に対し、インドネシアは97.0%、中国は96.0%、インドは95.8%という結果だった。この違いの原因について、キャリア教育の観点から海外と日本を比較する。今回の先行事例としては、先進的なキャリア教育が進められているフィンランド、アメリカ、オランダ、そして日本と同じアジア圏の中国、韓国の5カ国を取り上げる。上記の調査で上位に挙がったインドネシアやインドは、子供たちの職業選択の自由が日本ほどないという現状から今回は比較対象としない。
7-2.フィンランド
まずは、世界トップクラスの教育レベルを誇り国民幸福度も高いフィンランドのキャリア教育の事例を考察する。フィンランドのキャリア教育では、「自分が何をして生きたいのか・選択肢の多い社会の中での自己決定力・自尊心と自己肯定感」の3つを重視している。小学校4年から選択学習が始まり、好きなことを学ぶ時間を通して、興味関心を深め広げることが期待できる。また75%の小学6年生が参加する「Me & My City」という学校と外部の教育機関が共同で行う教育が特徴的だ。学習内容としては、教師との共同学習と職業体験が含まれている。生徒は、自分で選んだ企業で会社の一員として働き、対価として給与を受け取り、税金を支払い残ったお金で商品と交換する。このミニチュア都市での職業体験のシステムは、日本の「キッザニア」に似ていると感じた。そして、フィンランドと日本の大きな違いが出るのが中学卒業後の進路だ。日本ではほとんどの中学生が普通科の高校を志望するのに対し、フィンランドでは普通科の高校を志望する割合と専門学校を志望する割合が半分ずつになる。その違いが生じる原因と言えるのが、中学3年間のキャリアガイダンスだ。フィンランドの中学生は、このキャリアガイダンスでの自己分析、自己理解、社会理解、職業体験を通して自分の将来を真剣に考える機会を与えられている。職場体験の際は、生徒自身で企業にアポイントをとり、2週間の勤務を通して自己理解を深めていく。そして高校に進学すると、それぞれ個人のキャリアにさらに寄り添った教育を受ける。日本の大学のように個人個人でカリキュラムは異なる。さらに進路指導担当の先生が、担任とは別にいるため日常的に進路の相談ができる環境が整っている。またフィンランドの高校ではアルバイトが認められており、社会勉強の一環として推奨されている。ここまでは普通科の高校の特徴をまとめたので、専門学校の特徴についても比較する。フィンランドの専門学校では、入学後でも自由にコースを変更することができる。そのため自分が将来やりたいことを実践しながら考えることができるのだ。そして生徒は多くの時間を学校外の実習にあて、実践的に学びを深める。入社する前に実習を通して自分の将来と選択する企業を見極めることができるため入社後にミスマッチが起きることも少ない。そして普通科の高校に進学した学生が大学に進学する際、入学前に「ギャップイヤー」という猶予期間を設ける学生が多いという。形としては日本の浪人と同じだが、偏差値を上げるための期間ではなく自分の将来を自己分析する期間であり中身は全く違う。ここで日本と異なるフィンランドのキャリア教育の特徴をまとめると、フィンランドでは長い時間をかけて丁寧にキャリア教育を行うことで個人個人の自己理解を深める機会が非常に多いことだと言える。
7-2.アメリカ
次に、アメリカと日本のキャリア教育を比較する。まず日本との大きな違いとしては、学校にキャリアカウンセラーがいることだ。これはアメリカに限らず世界の多くの国の特徴であり、キャリアカウンセラーがいない場合が多い日本が珍しい。2018年にOECDが79か国・地域を対象に調査した結果、アメリカの82.3%の高校にキャリアカウンセラーがいるのに対し、日本では4.4%の高校にしかいない。そしてこの割合は、対象となった79か国・地域のなかで最低という結果だった。アメリカでは、学力向上とコミュニティを支える人材の育成がキャリア教育の目的とされている。さらに現在ではキャリア・テクニカル教育と表現され、専門性を重視した教育が進んでいるという。生徒は実践的な職場体験を通してどの専門性を身につけたいのか自己分析を深める。また、新卒に求められるレベルも日本とは全く異なる。日本では、新卒入社の社員に能力やスキルを求める場合は少なく、採用面接では過去の経験や価値観を聞き出し生まれつきもしくは幼い頃から持ち合わせているポテンシャルを評価する。しかしアメリカでは新卒入社の社員に対しても一般の労働者と同様の即戦力が求められる。そのため大学生活中にインターンシップ等の経験を通して経験を積みスキルを身につけることが重要になる。日本のような就活生が企業を選ぶ構図ではなく、企業に選んでもらうために就活生が努力するという構図になっている点が日本とは逆だと言える。このように日本とアメリカのキャリア教育を比較すると、キャリアカウンセラーの存在と新卒入社社員に求められる力の2点に大きな違いがあることがわかる。
7-3.オランダ
次に、子供の幸福度ランキング1位の実績を持つオランダのキャリア教育について考察する。オランダでは、「子供が人生の楽しみを見つけること」を教育の目的としている。その特徴的な方針は、自由であることだ。国は各学校に対して教育方法に関する口出しは基本的にしないため、学校ごとで自由に教育を進めることができる。そして教育を受ける子供やその両親は希望の学校を自由に選べるという。他の国と比較して特徴的な教育は、「イエナプラン教育」と「ポートフォリオ作成」だ。まずイエナプラン教育とは、個性を大切にしながら自発的に学ぶ姿勢を身につけるための教育である。オランダでの義務教育を受ける年齢は、4歳?12歳だが生徒は4‐6歳児、6‐9歳児、9‐12歳児というように3学年が混在したグループに分けられ、そのグループで3年間を過ごす。このグループで、会話、遊び、仕事(学習)、催しの4活動を行う。年齢の異なるメンバーと様々な活動を通してコミュニケーションを図ることによって、お互いの違いや価値観を受け入れ自分と相手を尊重する力を自然と学ぶことができる機会となっている。次に、ポートフォリオ作成についてだ。オランダでは義務教育が始まる4歳から、生徒が作成したものや行ったことなどの実績、積極性や傾聴力の評価をまとめたポートフォリオが作成される。オランダの学校では、生徒は自分がやりたいことを中心に取り組み教師はそれを後押しする役割となる。その活動をまとめたものがポートフォリオであるため、義務教育を終える12歳になる頃には、自分の強みや個性を理解し、そのもとで将来の選択ができる状態になっているという。つまり、日本の就活生のように就活のタイミングで初めて自分の強みを探すということはないのだ。小さい頃から常に自分自身の個性や価値観を発見し尊重する機会が多いという点が日本との大きな違いであると考える。
7-4.中国
次に、上記の「将来の夢を持つ割合」の調査結果で高い割合が出ていた中国のキャリア教育についてだ。この調査結果のみを見ると、子供が自己理解を深めることができるキャリア教育が充実しているように感じるが、実際の就活生の問題から考察すると日本と似た状況に陥っているとわかる。それは、就活生を対象としたアンケートで就活中に苦労したことを調査した結果、「自己認識と自信の不足」を挙げた割合が多かったことからわかる。まさ日本の就活生と同じ悩みを抱えていると言える。また中国でも、日本と同じように良い大学に進学しお金を稼げる職業に就かないといけないという考えを持つ子供は多い。子供を対象に将来の夢を調査したアンケート結果の両国の比較から、日本より思いが強いとも言える。日本では、「パティシエ」や「警察官」のような純粋な興味や憧れによる回答が多いが、中国では「経営者」や「国のリーダー」などとにかく1番であることや将来性を重視した回答が多く見られたと言う。この違いは、家庭での教育方針の違いから表出したと考えられる。中国では常に1番を目指すように教えられ、良い成績を残し良い大学に進学し良い企業に就職することが幸せであるという職業感が幼い頃から植え付けられていることが多い。日本と中国のキャリア教育の比較をまとめると、日本はとりあえず上を目指し、中国ではとにかく上を目指す、というように共通の思考の中に違いがあると言える。
7-5.韓国
最後に、日本や中国と同様にアジア圏かつ学歴が重要な意味を持つ韓国でのキャリア教育を考察する。韓国では、将来を決めると言われるほど重要度の高い「修能(スヌン)」と呼ばれる年に一度の全国共通試験がある。この試験で良い成績を出すために、それまでの学生生活では勉強に力を入れているといっても過言ではないほどだという。つまり、日本のように学歴社会であり勉強の目的は楽しく生きることではなく良い大学に進学することということだ。やはり韓国でもキャリア教育は課題として重要視され始めていて、2016年からはすべての中学校に「自由学期」という職場体験を含む様々な体験学習を中心に学ぶ学期が取り入れられている。この制度の目的は、生徒が自身の適性や未来を探索し設計する経験を通して、自らの夢と才能を見出し持続的な自己省察及び発展の契機を提供することだ。内容としては日本の職場体験を長期間化したイメージだ。生徒からも好評であり、この経験の会話をすることで生徒のキャリア教育に役立っているという。さらに今後は1学期間のみでなく1年間と時間を伸ばすことで生徒が自身の将来と真剣に向き合う機会として質を上げていく方針であるという。まとめると、日本と似た学歴重視の社会ではあるがキャリア教育に力を入れ制度として広く取り入れられているものがある点では日本よりキャリア教育が進んでいると言える。
7-6.まとめ
以上の5カ国のキャリア教育と日本の現状との比較から改めて人生の満足度を高め生産性を向上させるキャリア教育に重要なことを考察する。まずは、早くからキャリア教育を開始することだ。就職の数年前ではなく、生まれてからすぐにキャリア教育として自己を探索し理解を深める機会を積み重ねていくことが重要である。そして2点目は、職場体験等の経験を長く多く重ねることだ。数日間や数週間という短期間では自分と向き合う機会としては不十分であるため、なるべく長期間で機会を作ることが必要である。そして3点目は、深めた考えをアウトプットできる機会や相談できる場所を増やすことだ。様々な経験や自己分析を通してインプットをするだけでなく、その得たものを誰かに共有しアウトプットすることでさらに自信になり次のステップにつながると考える。そのためにキャリア教育専門の指導者が子供に寄り添うことは重要である。
8.政策提言
日本の生産性を向上するためには義務教育が開始する小学1年時から自分と向き合い自分の強みや価値観を理解するための体験活動を重視したキャリア教育を推進する政策を提言する。以上の考察から、生産性を向上するためには、働く目的を明確に持って仕事をする必要があり、そのためには子供の頃から自己理解を深める機会が多く必要であると言えるからだ。また海外の多くの国と同じように、キャリア教育専門の指導者がすべての学校に常駐し、キャリアを一緒に考えてくれる身近な存在を作るべきだと考える。ただ日本では学歴を重視する人が多く、突然その思考を転換することは難しいため、今すぐに長期間の体験学習を組み込むことはほぼ不可能だ。そのためまずは学校の普通教育に影響が出ない程度の範囲からはじめ、段階的にキャリア教育の割合を高めながらその重要性を認知させていく必要がある。例えば、毎日朝の10分を使って楽しかったことや辛かったことなどの感情と向き合うなど自己理解を深める時間と機会を増やすことから始めるイメージだ。さらに職場体験は中学生からではなく小学校の低学年から導入し、成長と共に期間を伸ばしていくことが有効ではないかと考える。学年を重ねるほど自己理解が深まっていくため、思考し行動し思考するサイクルのための期間が長く必要だと考えるからだ。このような政策を進めることで、良い企業に就職するために勉強するという思考から人生を充実させるために勉強するという思考に転換し、それによって日本の労働生産性が向上していくのではないかと考える。
9.参考文献
内閣府「国民生活に関する世論調査 2 調査結果の概要 3 - 内閣府」
https://survey.gov-online.go.jp?? h26-life(最終アクセス日:2021/7/12)
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016〜2019」
https://www.works-i.com/column/teiten/detail022002.html#:~:text=%E3%83%AA%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%82%B9%E7%A0%94%E7%A9%B6%E6%89%80%E3%80%8C%E5%85%A8%E5%9B%BD,%E5%A4%89%E3%82%8F%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%EF%BC%88%E5%9B%B31%EF%BC%89%E3%80%82(最終アクセス日:2021/7/12)
経営行動科学第20巻第1号「仕事満足度の及ぼす企業業績への影響」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaas1986/20/1/20_1_85/_pdf(最終アクセス日:2021/7/12)
公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2019」
https://www.jpc-net.jp/research/detail/002731.html(最終アクセス日:2021/7/12)
キャリア教育コラム「大学におけるキャリア教育の在り方と取り組み」
https://career-ed-lab.mynavi.jp/career-column/469/(最終アクセス日:2021/7/12)
FNNプライムオンライン「企業に求める軸に関する意識調査」
https://www.fnn.jp/articles/-/196326(最終アクセス日:2022/1/24)
日本財団「日本財団『18歳意識調査』第20回テーマ:『国や社会に対する意識』(9カ国調査)」
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20191130-38555.html(最終アクセス日:2022/1/24)
にほんご日和「日本と海外での教育の違いとは?」
https://haa.athuman.com/media/japanese/world/2891/#:~:text=%E3%81%84%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%89%B9%E5%BE%B4,%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82(最終アクセス日:2022/1/24)
文部科学省「キャリア教育とは何か」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/06/16/1306818_04.pdf(最終アクセス日:2022/1/25)
Hatena Blog「『幸せに生きる』フィンランドのキャリア教育」
https://educationxfinland.hatenablog.com/entry/2019/10/21/%E3%80%8C%E5%B9%B8%E3%81%9B%E3%81%AB%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%95%99%E8%82%B2(最終アクセス日:2022/1/25)
ニューズウィーク日本版「教師がキャリア教育まで担当する、日本の学校は世界でも特殊」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-93829.php(最終アクセス日:2022/1/25)
河合塾わくわくキャッチ!「アメリカのキャリア教育の先進事例から学ぶ」
http://career-article.wakuwaku-catch.jp/2012/03/01-01.html(最終アクセス日:2022/1/25)
独立行政法人労働政策研究・研修機構「アメリカの学校制度と職業教育」
https://www.jil.go.jp/foreign/labor_system/2004_6/america_01.html(最終アクセス日:2022/1/27)
一般社団法人こたえのない学校「子供の幸福度No.1オランダの教育から学ぶことは何?」
https://kotaenonai.org/blog/satolog/800/(最終アクセス日:2022/1/27)
リクルートワークス研究所「第2回 多様な人を育むオランダの教育の本質」
https://www.works-i.com/works/series/hr_cocreation/detail002.html(最終アクセス日:2022/1/27)
九門大士「中国人大学生のキャリア意識と中国の大学に求められるキャリア教育ー大連外国語大学との日中共同アンケート調査の分析ー」
https://www.asia-u.ac.jp/uploads/files/20200807160337.pdf(最終アクセス日:2022/1/28)
DIAMONDonline「中国版『ゆとり教育』は日本が来た道をたどるのか、運用1ヶ月の反応は?」
https://diamond.jp/articles/-/284772?page=2(最終アクセス日:2022/1/28)
KONEST「大学進学を左右する、年に一度の全国共通試験」
https://www.konest.com/contents/korean_life_detail.html?id=568(最終アクセス日:2022/1/28)
先端教育「一学期館の集中的な体験学習から未来を探索する韓国のキャリア教育」
https://www.sentankyo.jp/articles/11af2972-d519-417f-a5e5-8eefe7486069(最終アクセス日:2022/1/28)
Last Update:2022/1/28
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