コンパクトシティの実現に向けて
−より効率的な都市の在り方とは−
上沼ゼミU
社学4年 片野雄太

「フライブルク」:出所:https://doitsu-kanko.com/.jpg
章立て
- はじめに(研究動機)
- 人口減少の問題点
- 人口減少によって生じる問題点を解決するために
- コンパクトシティのメリット
- コンパクトシティの実例
- コンパクトシティの課題
- 海外の事例
- 研究方針について
第1章 はじめに(研究動機)
まず最初に、自分がこのテーマを設定した理由について説明していきたい。当初、自分は地方創生というテーマに着目していた。なぜかというと自分自身が地方出身であるということや、上京してから東京の一極集中を
直接感じてきたためである。しかし、「地方創生」というテーマは2014年に比べると注目されることや話題に上がる機会が減ったのも事実である。そしてこれは地方創生だけが例外というわけではないと感じた。
なぜかというと、そもそも、人口減少や過疎化というテーマが問題となり始めたのは「地方創生」という言葉が出てくるよりもずっと前のことであり、それまで度々、人口の減少による過疎化に対応するための政策が打ち出されてきた。
例えば、1980年代に地域振興を目的として行われたふるさと創生事業などである。しかし、どの政策も一時的な話題にはなるものの、長期的に見て
どれもあまり大きな成果が出ることはなかった。その理由や原因について調べていく中で、一つ疑問に感じたことがあった。
本稿筆者自身、地方創生についての研究を進めていく中で、当初は地方移住者を増加させるためにはどうすればよいかということや、出生率の向上に注目していた。しかししばらくそのテーマについて考えていく中で、一つ考えたことがあった。
地方創生を行っていく上で、人口の減少は本当にそこまで大きな課題なのかということである。なぜ自分がこのように思ったのかというと、
当然のことながら、少子高齢化という現象は日本においてのみ起こっている現象ではなく、多くの先進国において総じて観察されている現象である。このことから、少子高齢化は先進国である以上必然的に起こることであり
仕方のないことであると言えるのではないだろうか。
そして、二つ目に、仮にどんな政策を打ったところで、人口の減少は避けられないと思われるためである。
地方創生の定義はというと、「少子高齢化の進展に的確に対応し、人口減少に歯止めをかけるとともに、東京一極集中を是正する」というものであるが、たとえどんな政策をとったところで人口を減らさずに維持していくというのは非常に難しいことであり、あまり現実的ではないと思われる。
というのも、2020年時点での全国での合計特殊出生率は1.34、全国でずば抜けて出生率の高い沖縄ですら1.93である。
この事実からも、人口の減少をある程度緩やかにすることは可能であるとしても、人口の減少を止める、というのは非常に難しいということが分かるだろう。
しかし、これらはそこまで悲観するような内容ではないと思われる。なぜかというと、先進国の中でも日本よりずっと人口が少ない国も多く存在しているわけであり、人口が減少したからといって国を維持することができなくなるとは
到底言えないのではないだろうか。
これらのことから、地方創生のために最も大切なことは、地方の人口減少や少子高齢化ある程度仕方のないことであると受け止め、そのうえで、それに対応できるようなまちづくり及び都市計画を実現していくこと
なのではないかと考えた次第である。
第2章 人口減少は何が問題なのか
1節 行政サービス、生活関連サービスの維持の困難
地方の少子高齢化の進行により、人口が減少することで地方公共団体の税収入は減少し、その一方で、高齢化の進行により社会保障費はさらなる増加が予想されるため、地方財政はどんどん厳しくなっていくと思われる。
このような状況が続くと、結果としてそれまでの行政サービス、また一定の人口規模のもとで成り立っている生活関連サービスを維持することが困難となり、生活の利便性などの低下につながることが予想される。
2節 交通問題
地域によっては路線バスやコミュニティバスなどの維持が難しくなっており、高齢化によって免許を返納し車を使えない人々も増えている。さらに、上で述べた通り、過疎地域は
生活関連サービスの場所も多くはないため、これらの移動手段が限られることは非常に大きな問題であると言える。
第3章 上記の問題を解消するために
第2章では、過疎化によって引き起こされる社会保障制度の機能不全や、行政サービスおよび生活関連サービスの維持が困難となることが問題であると述べた。しかし、この事実を逆にとらえると、過疎化自体が問題で
あるというよりもそれに付随して引き起こされる問題のほうが大きく、それらを解消することができれば
過疎化や人口減少は大きな問題ではなくなる、と捉えることもできるかもしれない。
本稿筆者は、これらを解消する手段としてまちづくりや都市計画に注目しており、それについて調べを進めていく中で興味深い内容があった。
それが、「コンパクトシティ」である。
まず最初に、これらがどのようなものかということについて説明していきたい。
コンパクトシティについて説明すると、都市的土地利用の郊外への拡大を抑制すると同時に中心市街地の活性化が図られた、生活に必要な諸機能が近接した
効率的な都市、およびそれを目指した都市計画のことをさす。
本稿筆者はこのコンパクトシティの形成への取り組みが、地方都市の抱える多くの問題点を解決するための糸口になりうると考えている。ここからはなぜそう感じたかという理由について説明していきたい。
第4章 コンパクトシティのメリット
1節 生活の利便性の向上
例えば多くの人々が東京に集まる理由としては、必需品を入手するためのスーパーや、病院といった生活に欠かすことのできない施設にすぐにアクセスできる利便性の高さが魅力的であるという点があげられる。
一方で地方ではそういった施設が徒歩や公共交通によって気軽にアクセスできる位置にはないことも多く、通勤や通院、買い物などのために不便を強いられるケースも珍しくない。
しかしコンパクトシティ政策によって人々の生活圏内に生活に必要な施設が集約されることで、交通の面や買い物の面で苦労する人々を減少させるという効果が期待できる。
2節 行政サービスの充実
広大な地域全体にインフラをまんべんなく整備するためには莫大な費用が掛かるため、税収の少ない自治体などにとっては非常に大きな負担となる。しかしコンパクトシティ形成の過程で郊外から街の中心部へと人口が移転することで、
インフラを整備する必要のある面積が小さくなることで、インフラ整備にかかるコストを大幅に抑えることができるというメリットがある。
さらに減少した分のコストに加えて単位面積当たりの税収も増加するため、その分の税収を利用して行政サービスなどを充実させることで地域の暮らしをさらに豊かにすることができると思われる。
第5章 コンパクトシティの実例
国内においてコンパクトシティの成功例として挙げられるのが、富山市の事例である。当時の富山市は、市街地の拡大による低密度化や、自動車交通に完全に依存していて、公共交通も衰退傾向にあったというような問題を抱えていた。
そこで、富山市の森雅志市長は、そのような状況を改善するため2007年にコンパクトなまちづくりの形成に向けた政策を打ち出した。次に政策の具体的な内容について説明していきたい。まずコンパクトシティの形成に向けて、富山市は政策実現に向けた三本柱を立てることとなった。
まず1つ目がLRTの本格的な導入などによる公共交通の活性化、2つ目が公共交通沿線地区への居住促進、3つ目が中心市街地の活性化である。
以上のような取り組みが評価されて、富山県はOECDによって選定される世界のコンパクトシティ先進モデル5都市のうちの一つにパリやメルボルンなどに並んで選定されたり、また日本の自治体として初めて国連のエネルギー効率改善都市に選定されるなど、
富山市はコンパクトシティ政策を通じて国内外から評価される都市となった。
そして富山市の政策が一定の成功とみなされた要因の一つとしては、決して郊外での暮らしを完全に否定するものではなかったという点が大きいと考える。富山市の政策としてはあくまでも郊外が無秩序に拡大していくことを抑制することで、中心街に活気を生むと同時に公共交通機関を活性化させ、
そういったものを軸として街に人や企業が集まる流れを作るということを目標としていた。そのような点が、富山市の政策が一定の成功を収めた理由であると捉えている。
人々が自治体の都合よりも自らの生活を優先するのは当たり前のことであり、街中に住むことに対してメリットや合理性が見いだせない限りは、多くの人々は家賃や物価が安く住みやすい郊外に向かうことが予想される。しかしコンパクトシティの実現のために求められる姿勢としては決して市民に
移住を強制したりすることなく、あくまで市民の判断にゆだねることによって長期的かつ現実的な視点をもって進めていくことであると考える。
第6章 コンパクトシティの失敗例
ここまではコンパクトシティの成功例について紹介してきたが失敗に終わったと言われている例も多くある。
その代表的な例としては青森県などがあげられる。青森県では中心市街地を活性化させることを目的として2001年に再開発ビルの「アウガ」がオープンした。アウガはオープンした当初は若者を中心ににぎわっており、コンパクトシティ政策の象徴として自治体関係者や研究者などから称賛された。
しかしその裏では開業当初から大幅な赤字が続いており、2008年には第三セクターの青森駅前再開発ビルが巨額の債務を抱えていることが明らかになった。そして2017年にはアウガ内の商業施設はほぼすべて撤退し、アウガを運営していた第三セクターの青森駅前再開発ビルも経営破綻した。
このように、最終的にアウガ自体は失敗に終わったものの、ノウハウを持たない行政が商業施設の運営に乗り出したということや、第三セクターが不明朗な経営を行っていたことも失敗の要因として大きいと思われるため、アウガの失敗をコンパクトシティ自体の失敗と結びつけることはできないのではないかという声もある。
第7章 海外の事例
フランスの事例
次に、フランスのストラスブールの事例について説明していきたい。ストラスブールでは、過度に車に依存した社会生活からの脱却を目指して、トラムを利用したコンパクトシティ政策を打ち出した。
当初は街の景観を損ねるといった理由から住民からの反対の声などが多かったものの、トラムのデザインに最大限こだわったうえで、トラムの軌道周辺を緑化するなどの工夫をすることによって町の景観が損なわれることがないように
最大限の配慮を行った。さらに市民に対して丁寧かつ根気強く合意の形成を行うことよって政策が実現したという背景がある。コンパクトシティの形成にあたって住民からの理解や同意は重要であり困難な過程でもあるため、
このストラスブールの事例は参考にできると思われる。
ドイツの事例
実はドイツにはコンパクトシティという概念はなく、似たような意味合いの言葉としてショートウェイシティという概念が存在している。似ているとは言っても日本とはかなり異なっており、
まず日本のコンパクトシティ政策においては、都市計画の線引きがなされるのみであり、人口密度の管理や家屋の建設についての明確な取り決めがない。一方でドイツではそれらの総量規制が具体的に定められており、また
単位面積当たりの人口密度までが細かく管理されているという点でかなり大きな違いがある。
第8章 今後の研究方針について
今後に関しては、コンパクトシティの成功例として紹介した富山市のその後についてより詳しく調べ、生じた課題等について考察していきたい。
また、極端な過疎地域などにおいてもコンパクトシティ政策を実現できるか否かという実現可能性や、それにあたって生じる障害などについても調べていきたい。
参考文献
Last Update:2022/07/31
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