発達障害のある生徒の教育

−自分らしく成長し、社会との関わりを持てる人間に−

上沼ゼミV
社会科学部4年 西山 綾乃


「学校教室(窓側)」 出所:pixiv


はじめに

 幼少期、私は注意欠陥多動性障害(ADHD)を疑われた。診断の結果該当しなかったが、家族がショックを受けたという話を聞いてから、「障害者」というレッテルを貼られることで他人からの目が大きく変わるのだと驚き、無意識の偏見を感じた。しかし差別しないように意識することは簡単でも、実際に付き合っていくことはとても大変だと感じている。学童保育のアルバイトで発達障害のある児童の見守りをする中で、こだわりが強い、切り替えが苦手でスケジュール通りに行動することが苦手、暴力や暴言が出てしまうなど、人によって程度や特性が異なる。そのため“マニュアル”が通用せず、指導はもちろん、コミュニケーションや距離の取り方に苦戦している。児童本人も人間関係の構築に苦戦しているため孤立するケースもある。そんな児童たちを見ていて、今後社会の一員として自立して生きていくためにどのように成長していくのだろうか、教育に携わる者だけでなく同じ社会に生きる私たちは彼らとどのように向き合っていくべきなのだろうかと考えるようになった。本研究では、「社会の縮図」と言われており、倫理観や価値観を形成する上で大きな役割を果たす学校での教育の観点からアプローチしたい。「障害者」と一口に言っても特徴は様々だ。視覚障害・聴覚障害、重度の障害は点字や手話など、指導教員の専門的な知識や技術が必要になるため通常学級での教育が難しい。しかし発達障害の生徒の受け入れは普通学校でも行われており、実現が可能なのではないかと考えている。発達障害の生徒にとって必要かつ最適な支援が提供されたら、社会との関わりを持ち貢献できる人間へと成長し、さらには個々のニーズや個性など互いの違いを尊重できる社会を実現することができるのではないか。本研究では発達障害のある生徒が社会に出て自立した人間に成長できる教育について考える。


章立て

  1. 発達障害とは
  2. 日本の発達障害のある生徒に対する教育の現状とこれからの教育が目指すところ
  3. インクルーシブ教育の定義
  4. イギリスにおけるパーシャル・インクルージョンの事例
  5. 滋賀県湖南市における特別支援教育の事例
  6. まとめ
  7. 参考文献

第1章 発達障害とは

 発達障害は、広汎性発達障害、注意欠陥多動性障害、学習障害など、脳機能の発達に関係する障害である。広汎性発達障害は3 歳までに現れ、@対人関係を構築し持続することが困難、Aことばの発達の遅れ、B興味や関心が狭く特定のものにこだわる、という特徴がある。知的発達に遅れを伴わない自閉傾向を有するものを高機能自閉症という。アスペルガー症候群は、知的発達の遅れを伴わず、ことばの発達に顕著な遅れはない自閉傾向を有するものを指す。中枢神経系に何らかの機能不全が推定される。注意欠陥多動性障害(AD/HD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)はその年齢あるいは発達に不釣合いな注意力や行動の障害で、社会的活動や学業の機能に支障をきたすもの。7 歳以前に現れ、その状態が持続し、中枢神経系になんらかの要因による機能不全が推定される。学習障害(LD:Learning DisordersまたはLearning Disabilities)は、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する・推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な障害を示すものをいう。原因に中枢神経系の機能障害が推定される。器質的障害(視覚・聴覚・知能)や情緒障害・環境要因が直接の原因ではないと推定される。発達障害のある人は、他人との関係づくりやコミュニケーションなどが苦手だが、優れた能力が発揮されている場合もあり、周りから見てアンバランスな様子が理解されにくい。また、発達障害があるといっても、障害の種類や程度によっても違い、年齢や性格などによっても一人一人現れ方は違う。また、生活の中で困難なことや苦手なこともさまざまであるため、一人一人の特徴に応じた配慮や環境の整備が重要である。発達障害は短期的の面接で治癒することは少なく、障害を通しての療育や支援が求められる。


第2章 日本の発達障害のある生徒に対する教育の現状とこれからの教育が目指すところ

 平成26〜27年度東京都教育委員会実施調査によると、発達障害と考えられる幼児・児童生徒の通常の学級での在籍率は幼稚園・保育所等で5.1%、小学校で6.1%、中学校で5.0%、高等学校で2.2%となり、カテゴリーが上がるにつれて障害のある生徒の在籍率が低くなっていることが分かった。また、図1からは発達障害の児童・生徒への対処に戸惑う教員が多いことも明らかになっている。どのカテゴリーにおいても、知識はあるが、具体的にどう対処すればいいか分からない教員が全体の約半数もいる。専門職や人的支援の不足、そもそもの問題である教員不足により発達障害の子どもを通常学級では受け入れられず、効果的な支援方法が提供されていない現実を映し出している。個別の教育支援計画、個別指導計画等の書類の作成は進んでいるが、活用が十分ではないと言えない状況である。さらに、障害の有無で切り離されているもう一つ原因は「みんな同じ、みんな一緒の教育」を重視しているからだ。発達障害は周囲からなかなか理解を得られないため、人間関係を築けなかったり、教師からは「こんなこともできないなんてダメな子だ」などと否定されたりする経験を多く持つ。そのため通常学級では自己肯定感を育ちにくく精神疾患などの二次障害を引き起こしたり、不登校やひきこもりに発展したりすることもある。二次障害として反抗挑戦性障害や行為障害を起こしたり、対人関係や社会生活上の失敗体験による不安障害、気分障害、適応障害が並存していることが多い。こうした障害の重度化、重複化、多様化が進んでいる背景から、より一層個人の障害に応じたきめ細かな指導が求められている。


図1:平成28年東京都教育委員会 「東京都教育委員会推進計画」

 障害の有無にかかわらず、私たちは社会の中で助け合いながら生きている。排除するのではなく、互いの違いを認めともに生きていける共生社会になっていく必要がある。また、障害者は「助けられる」存在ではなく、社会参加・貢献する存在になることで初めて対等な関係が成立すると考える。障害がある子どもの個々のニーズや特徴を尊重する教育や価値観が浸透していけば、将来的に障害者の社会参加や社会貢献を実現しやすい社会になっていくのではないだろうか。第3章では、障害のある生徒を教育する上で欠かせない考えやシステムであるインクルーシブ教育について記述する。


第3章 インクルーシブ教育の定義

 インクルーシブ教育は2006年12月の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」で示された。条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みである。障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。合理的配慮とは一人一人になくてはならない配慮であり、インクルーシブ教育においては必須である。合理的配慮の事例として考えられるのは、教員の確保、設備の整備、個別の教育支援計画や指導計画に対応した柔軟な教育などだ。同じ場所で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズに的確に応えた指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みが求められる。この教育システムの最終目標は、障害児の自立と社会参加を見据えることだ。

第4章 イギリスにおけるパーシャル・インクルージョンの事例

 国家としての教育事業を考える際、その国の人口、面積は、その実施を特徴づけるものの1つと思われる。また、国の経済指標と、教育予算の占める割合を知ることも重要だ。これらを調査した国立特別支援教育総合研究所の報告において、日本はインクルーシブが進んでおり教育先進国と呼ばれているイギリスとそれぞれのデータに大きな差がないことが分かった。(図2)本章ではイギリスにおける通常学級での取り組みと特別支援学校のスイス・コテージ・スクールの実践について紹介する。なお本章のイギリスの事例は、全ての子どもを通常教育の流れにのせようとする考え方である「フル・インクルージョン」ではなく、障害を考慮した上で,様々な形態で可能な限り通常教育の流れにのせようとする考え方である「パーシャル・インクルージョン」だ。


図2:国立特別支援教育総合研究所ジャーナル 「諸外国における障害のある子どもの教育」

4-1 通常学級での取り組み

 1981年の教育法により、障害カテゴリーを基にしたものから学習において特別な教育的ニーズを基にした教育への変更が決定された。目的は、障害のラベリングの回避、従来の障害カテゴリーの概念では支援されにくい学習遅滞の子どもの教育、障害が複数ある子どもの教育の充実である。特別な教育的ニーズはSEN(Special Educational Needs)と呼ばれ、これは障害の有無ではなく「学習における困難さ」を基本とし、法定評価によってステートメントを得ることで認定される。ステートメントには「特別な教育的ニーズがどのようなものなのか」「必要な教育的手立て」などについて記述されている。学習の困難さが大きい子どもについてステートメントが発行されたら、地方行政当局や学校には必要な教育手立てを用意する義務が課せられている。
 原則的に子どもは学区内の小学校に入学することになっており、24〜25人のクラスに振り分けられる。ただし、ステートメントがある子どもや保護者が希望した場合・効果的な教育の提供と矛盾する場合は特別学校に入学するという選択も用意されている。通常の学校の中でステートメントはないが、特別な教育的ニーズのある子供には個々のニーズに応じた合理的配慮がある。SENコーディネーター、スクールアクション、スクールアクションプラスという支援教員が特別なニーズを必要とする子どもを支援している。SENコーディネーターは、校内のSENのある子どもを拾い出し、担任とともに個別的教育計画を立て教育の評価を行う。スクールアクションは、SENのあると認められた子どもに対して行う支援の一番目の役割であり、授業の工夫や配置された補助教員が積極的に関わることで支援を行う。スクールアクションプラスはスクールアクションの段階で十分なニーズを受けられなかった子どもたちに支援を行う。地方行政当局が学校に対して資金を提供し教材を工夫したり、新たに補助教員の配置、もしくは地方行政当局から派遣された専門的な教員を活用した個別指導を行ったりする。スクールアクションでも改善が見られない場合は、通級指導教室に通うことになっている。ただし、いずれも子どもたちは国家基準の教育課程を受ける。

4-2 特別支援学級での取り組み

 特別支援学校のスイス・コテージ・スクールについて紹介する。2〜19歳までの学習障害、行動・コミュニケーション障害、自閉症スペクトラム障害のある子どもを受け入れている。最重度の障害のある生徒に対しては、個々のニーズに合わせた特別なプログラム、重度の障害があれば生活に必要なスキルを身に着けさせるための準正規プログラム、軽度の障害であれば国家基準の教育課程と、障害の重さに合わせた3つのカリキュラムが用意されている。特にコミュニケーション能力、認識力、自立、身体発達などの生活スキルの発達を重視している。スイス・コテージ・スクールでは遊び場と教室において環境整備がされている。遊び場には子どもの動きの導線を考えた細かな配慮がされており、自閉スペクトラム症児の特性に合わせて精神的に落ち着く雰囲気の竹製の柵が用意されている。また、外界からの余分な刺激が緩和できるような対策もされている。教室の各クラスには電動子黒板や連動するパソコンが常備されており、各クラスに簡単な調理ができるキッチンもある。また、子どもが混乱した際に休める個室(1対1ルーム)があり、子どもの理解を促すための視覚的な提示物もある。このように子どもの社会性の育成を視野に入れた教育がされている。


第5章 滋賀県湖南市における特別支援教育の事例

 特別支援教育が発達している滋賀県湖南市の例を参考にする。湖南市発達支援システムは、支援の必要な人に対し乳幼児から学齢期、就労期まで保健、福祉、医療、教育及び就労の関係機関の横の連携による支援と、個別の指導計画による立ての連携による支援を提供するシステムだ。発達支援室は個別の指導計画に基づく機関内のコーディネイトを担い、個のニーズに応じて長期にわたって一貫した支援を統括する部署だ。一方、発達支援センターは、親子教室・療育教室・ことばの教室を包括する組織で、子どもの発達支援を行う業務と、乳幼児健診から何らかの支援が必要かどうかなどの相談を行う発達相談業務、保育所等訪問支援事業を行っている。発達支援システムは、個別の調整会議とも連動し、就労や家庭生活を支援している。(図3参照)


図3:2016年湖南市教育委員会 「湖南市特別支援教育ハンドブック」

本人や保護者が医療機関で診断、相談を申し込むと、医療機関が要望に合った市教育委員会の機関を紹介する。学校では校内関係者や保護者を交え対象児童にとって必要な支援を検討するケース会議を開いたり、特別支援教育コーディネーターがアセスメントや個別の指導計画の支援と指導を行ったりしている。はっきりとした障害だと診断されていなくても、障害の傾向があったりまたは日常生活で大きな困難があれば、通級に通ったりすることもできる。市教育委員会では発達障害を含む障害に関する専門的な知識を持つ巡回相談員が、通常学級や特別支援学級に巡回相談をする。この巡回相談員は、学校教員に、発達障害を含む障害のある児童生徒に対する指導内容や方法に関するアドバイスを行う。

5-1 湖南市専門家チーム会議・巡回相談・特別支援教育コーディネーター連絡会

 湖南市専門家チーム会議は、学校教育課が年間6回開いている。メンバーは、学校教育課長、学校教育課指導主事、発達支援室長、発達支援室保健師、小児精神科医、巡回相談員、通級指導教室教諭、特別支援学校地域コーディネーターだ。この会議で、湖南市としての特別支援教育全体の推進についての検討や医療に関わる事例検討等を実施している。湖南市の巡回相談は、保育園・幼稚園・認定こども園・小学校・中学校を対象に実施している。校内(園)委員会で支援が必要と判断された子どもについての、支援や指導のあり方の相談、心理検査の実施に合わせて相談員が訪問する。学校の特別支援教育コーディネーターが巡回相談の窓口だ。小学校・中学校は教育委員会の委嘱による巡回相談員等が担当する。また、小中学校の特別支援学級は、地域の特別支援学校のセンター的機能による巡回相談を受けることができる。特別支援教育コーディネーターは、各校園で指名される。学校のコーディネーター連絡会は年間4回開催し、特別支援教育の推進について話し合い、進捗状況の確認や各校の情報交換を実施している。

5-2 ことばの教室

 ことばの教室とは、言語の通級指導教室で、ことばやコミュニケーション、学習面にいろいろな課題を持つ幼児・児童及び生徒に対し、幼児期から学齢期終了まで、保険・福祉・医療・就労との連携を図りながら、一人ひとりに合わせた継続的な特別支援教育などのサービスを実施する教室である。個別の指導計画をもとに、子どもが通っている小中学校の担任の先生と連携を取りながら、教育的支援、教育相談を行っている。

 ことばの教室には次のような子どもに対して、個別または小グループでの指導を行う教室である。

@発音が不明瞭である
A耳の聞こえが悪いため、ことばの発達に課題がある
Bことばを聞いて理解する力や自分の思いを話す力など、ことばの発達に課題がある
C話ことばのリズムが乱れる(どもる)
D不注意や多動の傾向があり、集団活動につまずきがある
E周りの状況をうまく読み取れないために、対人関係や集団活動につまずきがある
F一方的な話をしたり特定のことにこだわったりして、コミュニケーションがうまく取れない
G聞く・話す・読む・書く・計算する・考える能力にかたよりがあり、対人関係や学習につまずきがある

 これまで「ちょっとかわった子」「自己中心的なわがままな子」「落ち着きのない子」「家庭でのしつけができていない子」と誤解されたり、見過ごされたりしていた子どもの行動の原因を本人や家族の努力不足とせずに、子どもの特徴を理解し、その子どもに応じた教育的支援を保護者、学校、関係機関等と連携して取り組んでいる。学齢期では小中学生を対象に、教育相談を受けたり、個別またはグループでの指導を行ったりしている。学習や遊び、または検査を実施しながら子どもの特性を見極め、効果的な支援方法を探る。個別の指導計画に基づき、週1〜月1回通級して指導を受けることもできる。子どもや保護者が安心して通い、活力や自信をつけられる環境を整えている。また、年2回の学校訪問を中心に、日ごろから学校や関係機関と密に連携し、ことばの教室での指導が生活全般に活かされるようにしている。

5-3 KIDS(湖南市発達支援ITネットワーク)

 湖南市では、発達支援に必要な情報のためにKIDS(Konan-city IT-network for Developmental Supportの頭文字)を運用している。KIDSは、市内公立保育園、幼稚園、認定こども園、小学校、中学校、発達支援室、学校教育課、保健センター、ぞうさん教室(心身の発達に遅れや障害がある、あるいはその傾向がある子どもたちが通う場所)、ことばの教室、ふれあい教育相談室(不登校機関が長くなり、教室になかなか戻れない子供たちが通う場所)、人権教育課、子育て支援課、社会福祉課、商工観光労政課が結んでいる。また市専門家チームメンバーの巡回相談員と情報交換ができる仕組みとなっている。KIDSの特徴は、関係者間の連絡調整や会議録の共有が簡単にできること、保護者の了承のもとに子どもの状況や指導記録が蓄積できることにある。機能は大きく二つあり、一つは参加者にオープンな会議室での、各機関へのメッセージ返信と送信、個別の指導計画様式等のダウンロード、研修に関する情報共有等である。もう一つはクローズドな会議室での子どもに関する指導情報の蓄積と共有である。このネットワークの利用にあたっては、KIDSネットワークガイドラインを規定し、セキュリティとプライバシー保護をはかる。

5-4 実際の事例

  • Dさん(女子) 小学校通常学級2年生
    課題:文字や文章の読み書きの困難さ
    診断:不注意タイプADHD
    学校での支援と指導:個別の指導計画の作成と実施・担任による配慮と支援
    サポート等:校内委員会による把握と支援の検討、市巡回相談員による支援の在り方の相談、通級指導教室(ことばの教室)への通級

  • Eさん(男子) 中学校特別支援学級1年生
    診断:知的障害 ダウン症
    課題:基本的生活習慣の獲得
    学校での支援と指導:個別の指導計画の作成と実施、日常生活の指導や生活単元学習による生活に必要な力やことば、数の能力の向上
    サポート等:れがーとによる夕方までの一時預かり、保健士による家庭からの相談対応、社会福祉課を通しての療育手帳の申請、特別支援学校のセンター的機能による特別支援学級へのサポート

  • Aさん(男子):D(株)会社に就労・(高機能)広汎性発達障害・療育手帳B取得

    <就職後の関係機関とその役割>
    @ハローワーク:職業の紹介と企業への助成金や企業への指導、職業センターへの依頼を行う
    A障害者職業センター:職業評価を基にジョブコーチ支援を計画し実施。会社での作業技術の理解・習得、人間関係の調整は職業センターからジョブコーチを派遣。定期的な訪問を行いながら、職業の安定を図る
    B障害者雇用・生活センター:@Aの機関と連携し、また生活支援の期間との橋渡しをする。A君のケースでは、本人への支援、家族への支援、会社への支援をどのように組み合わせていけば、うまく支えて行けるか考えて調整している。職業センターのジョブコーチ支援が終了すると、就労支援の第一機関となる
    C地域ネット相談サポートセンター:生活支援の中心になり、本人の安定した生活を支える。A君については、本人の考えや思いを聞き、将来自立生活ができるようにグループホームへの実習調整や通勤確認を行っている
    D市福祉事務所と発達支援室:民生委員や警察など地域の資源に働きかけ、安心して生活できるように間接的な支援機関の依頼や調整を行っている
    E発達障害支援センター:発達障害を専門に支援する機関。地域で支え育関係機関に対してスーパーバイザーの役割
    F特別支援学校:卒業生にとっても家族にとっても身近で相談しやすい最初の期間。BやCが本人や家族にとって利用しやすい関係になるまでの橋渡しは特に重要
    G医療(精神科医):A君については、精神科に定期的なカウンセリングを受けている。Eと同じく支援機関にとっては専門家としてのアドバイスを求めている


    第6章 まとめ

     発達障害と一口に言ってもその特性や得意不得意は人によって異なる。そのため、学校での対応に困る教師が半数以上いるのが現実である。学校だけで支援を行うのではなく、行政や医療といった専門的な知識のある機関と連携をはかることで、適切な支援を提供できるのではないか。また、特別支援教育を行うで欠かせないのがインクルーシブ教育だ。ただ、フル・インクルージョンになれば、「みんなと同じ教育を受けることが良いこと」だという価値観を押し付けられ、子どもの障害の特性を無視した不適切な教育をしてしまう恐れがある。部分的なインクルーシブ教育であるパーシャル・インクルージョンにより、個別に必要な支援と集団での生活や教育を両立できれば、個性を尊重しつつ社会参加に少しずつ慣れることができるだろう。支えるだけでなく、自立を促し社会を支えられる人間に育てることも特別支援教育の役割だと考えている。

    参考文献

  • 是枝喜代治「イギリスにおけるインクルーシブ教育の実際ーEducation Village の視察からー 東洋大学学術院情報ポジトリ ライフデザイン学研究」P.265-282 2014年 http://id.nii.ac.jp/1060/00010064/(最終アクセス日:2022年1月8日)
  • 平成23年度中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会「滋賀県湖南市発達支援システムに基づく特別支援教育の推進」 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/__icsFiles/afieldfile/2011/08/24/1310138_1.pdf ,p2(最終アクセス日:2023年1月14日)
  • 甲賀地域障害児・者サービス調整会議特別支援教育部会甲賀福祉の地域づくり推進委員会「特別支援教育に携わる方たちへ」 https://www.city.shiga-konan.lg.jp/material/files/group/14/pamphlet.pdf ,p6-9(最終アクセス日:2023年1月14日)
  • 滋賀県湖南市健康福祉部社会福祉課発達支援室「滋賀県湖南市発達支援システムにおける障がい児支援の在り方ー早期発見・早期対応をキーワードにしてー」 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000039369.pdf ,p15-16(最終アクセス日:2023年1月14日)
  • 令和2年湖南市教育委員会「湖南市発達支援システムハンドブックVer2.2」,p21(最終アクセス日:2023年1月27日)
  • 2016年湖南市教育委員会「湖南市特別支援教育ハンドブックVer3.0」,p2-3,8(最終アクセス日:2023年1月27日)

    Last Update:2023/1/29
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