本稿筆者は、結婚して子供を持つというビジョンを持てない。その理由には、現在の日本の子育て支援への不満や、家庭環境からの影響など様々あるが、その中でも一番大きい理由は、日本社会のジェンダー観による女性への負担である。結婚に伴う改姓、妊娠・出産によるキャリアの中断、子育てと仕事の両立、夫の両親の介護などが挙げられる。
『女性が多い会議は時間がかかる』そんな言葉で日本人女性は仕事ができないと揶揄し、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会長が辞任に追い込まれたことも記憶に新しい。様々な負担を背負いながら懸命に働き、重要なポストに就いてもなお、女性というだけの理由で『仕事ができない』とレッテルを貼られてしまうこともあるのだ。
そんな日本とは真逆に、男女関係なくあらゆる場で活躍できる国もたくさんある。日本はどうしたら、先進国の名に恥じないような男女平等を実現できるのだろうか。ここでは、女性にかかる負担の中でも特に顕著な、無報酬労働の偏りに着目しながら「南米のスイス」とも呼ばれるウルグアイの事例を参考に、家庭・キャリアどちらも、性別関係なく能力を持つ人が活躍できる日本の未来を考察していきたい。
まず、無報酬労働について定義付けをする。無報酬労働とは、育児や家事、介護などの家事労働や、自営業・農作業などと無償で手伝う家族労働、ボランティアなどがそれに当たる。これらは対価が支払われることはない。アンペイドワークとも呼ばれる。(ELEMINIST 「「アンペイドイワーク(無報酬労働)」とは? ジェンダー格差とその問題点」参照)
OECD加盟国内において、有償労働は男女ともほとんどどの国も同じ割合なのに対して、日本は最も女性の無償労働率が高い。(図表1)ここから日本の生活時間におけるアンバランスさが見て取れる。
また、諸国と比較すると、
・以前は短かった女性の有償労働時間が伸び、男性も女性も有償労働時間が長いが、特に男性の有償労働時間は極端に長い。
・無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い。
・男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長く、時間的にはすでに限界まで労働している。
といった点が挙げられる。ここから、極端に長い男性の労働時間を短縮し、関連サービスの充実により総労働時間を短縮し、女性に偏った無報酬労働を男女間で再分配する必要があるとわかる。

次に、6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間の推移を見ていく。 1996年は1日当たり38分だったものが、2016年には倍以上の83分にまで増えている。その内訳を見ると、主に家事・育児が増えているのに対して、介護・看護や買い物はほとんど増えていないことがわかる。(図表2−1)ここから育児に対しては意識の改善が行われてきたが、介護に関してはまだ女性の役割という固定概念があるとわかる。

次に、日本の男女不平等の緩和のヒントとなるウルグアイについて考察していきたい。ウルグアイでは、1で挙げられた問題点がほとんど解決されている。つまり、男女格差の是正には、女性のエンパワメントを推し進めるだけでなく、男性側の働き方も見直す必要があるということだ。世界の男女格差の現状と、ウルグアイではどのようにして労働を見直し、男女が歩み寄っているのかを見ていくことにする。
世界男女平等ランキングとは、世界経済フォーラム(World Economic Forum:WEF)が公表する「The Global Gender Gap Report」の中で測られる、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)によるランキングのことである。この指数は、「経済」「政治」「教育」「健康」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示している。2022年の日本の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位であった。先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中で韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果となった。日本は、特に、「経済」及び「政治」における順位が低くなっており、「政治」の順位は156か国中なんと147位となっている。(男女共同参画局「共同参画」2021年5月号より要約)日本はこの順位を受け止め、ジェンダー平等において後進国であることをしっかり直視する必要があるだろう。

2-2-1.ウルグアイとは
ウルグアイとは、面積17.6万平方キロメートル、人口364万人の立憲共和制による小さな国である。(外務省「ウルグアイ基礎データ」より要約) ウルグアイと聞いて、男女格差の少ない国と知っている人は少ないかもしれない。ウルグアイは、20世紀にスイスをモデルとした社会福祉国家を目指し「南米のスイス」と呼ばれた。中南米で最も民主的で平等な国の一つであり、公教育は無料で、電力は約100%再生可能エネルギーである。そして、2013年には同性婚を、さらに大麻も世界で初めて合法化した、非常にリベラルな国でもある。(水野渚「南米一幸せな国ウルグアイに学ぶ、本当の先進国とは?」(IDEAS FOR GOOD)より要約)
2-2-2.包括的弱者ケア制度創設法(NICS)
鍵となった政策は、2016年成立の「包括的弱者ケア制度創設法(National Integrated Care System)」である。これは、0~12歳の子ども、障害者、65歳以上の高齢者、そしてケア活動に従事している者を対象に、他者の介助なしに日常生活を送ることが困難な弱者の保護、介護、看護をより拡大し充実させることを目的としたものである。(在ウルグアイ日本大使館「定期報告(ウルグアイ内政・外交:2015年12月)」より要約)この法律は、ウルグアイのケア危機を回避するために導入され、またケア提供者に広く見られる性的分業を変えることを目指している。家事労働の規制、公式化、再評価を促進する労働政策の実施ににより、ウルグアイは南米の先駆者としての地位を確立した。2018年に出されたILOの報告書によると、「政府はジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関であるUN Women、国連人口基金(UNFPA)、その他のウルグアイの開発機関が行った調査結果を支持しています。この調査は女性は週の3分の2を無償労働に費やし、有償労働は3分の1に過ぎないのに対し、男性はその逆であることを示しています。このデータがきっかけとなってケアに関する政策は抜本的に変更されました。ウルグアイの市民社会と学界から、ケアを家族の私的な領域から取り出して集団的・社会的問題としてとらえ、人権問題に位置づけるというケア概念の再形成が提案されたのです。世界的な調査もこのウルグアイの調査結果を支持しており、世界中で女性が子どもや年老いた両親の面倒を見、家事を担うために有償労働を辞めてケア労働を助成していることが示されています。」という。(国際労働機関(ILO)「男女の役割に関する固定観念を打破しつつケアサービスを後押しするウルグアイの新法」より引用) ウルグアイでは女性に偏った無報酬労働がキャリア形成の阻害をしていると社会全体が認め、それを政府主導で改善した結果、37位まで飛躍できたのだろう。以下でNICSの中身を見ていく。
<「3つのR」アプローチ>
「3つのR」アプローチとは、ウルグアイが女性のエンパワーメントのためのジェンダー制限克服の進捗状況を分析するために推進している、認識(Recognition)・軽減(Reduction)・アンペイドケアワークの再分配(Redistribution of care)のアプローチを考慮し、これらを展開していく活動のことである。また、ウルグアイでは家事労働(有償・無償を問わず)が非常に重要であることが明らかであるため、間接的なケア(家事労働とも呼ばれる)をケアの概念に組み込んでいる。
- アンペイドケアワークの認識
最も所得の低い女性の層(図表4 オレンジ破線)はより多くの時間をこの種の仕事に割かなければならず、その開始時間も早い。高所得層の女性(図表4 薄オレンジ破線)でさえ、小さな子供の世話と高齢者の世話の2つの局面で多くの時間を割いている。
図表4 無償労働に費やす1日あたりの平均時間:性・年齢・世帯当たりの所得
出典:THE NATIONAL INTEGRATED CARE SYSTEM IN URUGUAY: AN OPPORTUNITY FOR THE ECONOMIC EMPOWERMENT OF WOMEN
2013年ウルグアイのアンペイドケアワークの推定価値は12,729百万ドルで、GDPの22.9%を占めている。その内16.3%は女性が生産したものであり、政府機関(図表6のL)や介護関連サービス市場(図表6のO+N+P)に近い割合を占め、運輸・倉庫・通信(図表6のI)や電気・ガス・水道(図表6のE)を上回る数字である。
図表5 無償労働の価値とGDPに占める割合(男女別)
出典:THE NATIONAL INTEGRATED CARE SYSTEM IN URUGUAY: AN OPPORTUNITY FOR THE ECONOMIC EMPOWERMENT OF WOMEN
図表6 経済活動別の国内総生産(GDP)の構造と、GDPに対するアンペイドケアワークの寄与度
出典:THE NATIONAL INTEGRATED CARE SYSTEM IN URUGUAY: AN OPPORTUNITY FOR THE ECONOMIC EMPOWERMENT OF WOMEN
ウルグアイはアンペイドケアワークの社会的認知を拡大するために、人々のコミュニケーションに着目した。アンペイドワークの特定の性別への依存と、自立の概念を変えるためいくつかの戦略が開発され、様々な広報キャンペーンが打ち上げられた。例えば、パブリシティ戦略の一つとして展開された「A reality-changing reality」での目的は、質の高い平等な条件でケアをしたりされたりする全ての人の権利を人々に認識してもらうことであった。このキャンペーンでは、一連の視聴覚スポットを使って人々の証言を集め、オープンテレビ、内陸部のテレビネットワーク、デジタルメディア、首都モンテビデオの街頭広告スクリーンなどで放映した。さらに、ニュースクリップがウェブに掲載され、ソーシャルメディアを通じて拡散され、ケアシステムに関わる人々のストーリーがより多く語られた。また、男性のケア提供への関与だけでなく、企業やコミュニティなど、ケアにおける社会的共同責任に貢献する他のステークホルダーの関与も含めた、広い意味での共同責任を促進するために、3つのアニメーションスポットを制作した。ビデオは、教育機関やコミュニティの場で効果を発揮した。(UN WOMEN「THE NATIONAL INTEGRATED CARE SYSTEM IN URUGUAY:AN OPPORTUNITY FOR THE ECONOMIC EMPOWERMENT OF WOMEN」参考)- アンペイドケアワークの軽減
家計のアンペイドワークの負担を軽減するには政府、企業、機関、またはコミュニティの取り決めによるサービスの開発が必要である。ウルグアイにおけるNICSの最初の実施段階では、サービスが最も不足している0歳から3歳までの子どものケアのためのサービスや、重度の依存症患者のためのサービスが不足していることから、重度の依存症患者のホームケアのためのサービスの創設が優先された。3歳未満の子どもたちへのサービス提供については、NICSは、3歳児への教育的ケアの普遍化(特に学校や保育園が提供するサービスの拡大)、2歳未満の子どもたちへのサービスの拡大(提供数と方法の両方)を目標とした。これらの目標は、サービスの構造的な側面だけでなく、提供される専門的なトレーニングの拡大や、すべての部門に等しく適用される品質基準の開発に基づいた厳格な品質基準を特に強調していた。特に、2歳未満の子どもに対するサービスの数と範囲が増えたのは、政府が資金を提供し、政府以外の精神的な組織が運営するCAIF(児童・家族ケア)センターが新設されたことによるものである。NICSの下で、CAIFセンターは1歳児に毎日のケアを提供するようになった。現在までに、この介入により56の新しいCAIFセンターが開設され、96の既存のセンターの容量が拡大され、さらに84のセンターの建設が入札にかけられている。また、国家女性庁(INMUJERES)では、SCI(Caring with Equality Seal)に取り組んでいる。SCIは、幼児センターにおける男女平等の実践を認証するツールで、平等を示す(あるいは平等でない原因となる)特定の側面においてセンターがどのように活動しているかを特定し、実践を見直して変更することにより、ジェンダーの視点を徐々に組織的な計画に組み込んでいくことを目的としている。これは、幼児教育ケアセンターに男女平等のアプローチを取り入れることを促進しようとするものである。これに加えて、8時間労働の母親のケアニーズを満たすために、コミュニティ・ケア・ホーム(CCH)というケア方法も導入された。CCHは、8時間労働の母親のケアニーズを満たすことを目的としており、ケアギバーまたはそのために用意されたコミュニティ施設でサービスが提供される。現在、5つのCCHが介護者の自宅で4つのCCHが地域のスペースで運営されており2019年末までに合計22のCCHを設置する予定である。現在行われているもう1つの取り組みは、「So cio Educational Inclusion Scholarships(BIS)」というシステムで、公共施設がない地域で2歳までの子ども(例外的に3歳の子ども)を民間の保育園に預けることを目的としている。現在、9つのセンターが運営されており、さらに3つのセンターが間もなくオープンする予定だ。このセンターでは親が仕事をしている間、12歳以下の子どもたちを預かっている。サービスは1日12時間まで(1日8時間以上は預からないようにしている)で、会社や組合は、サービスの実施に必要なインフラ、メンテナンス、初期設備を提供している。国は、サービスを提供するために必要なスタッフに給料を支払う。今のところ、すでに開設されている9つのセンターに子どもたちが通っている。これらのサービスにより、3歳未満の子どもに対する公的保障は2014年の33%から2017年には40%に上昇した。しかし、民間センターでケアを受けていた子どもたちが公的部門にシフトしたため、全体のカバー率は鈍化している。2016年、全体のカバー率は52%だったが、提案されている目標はその世界の子どもたちの65%、ただし3歳児は100%含まれるようにすることだ。アンペイドワークの軽減に関しては、ウルグアイもまだ模索途中である。- アンペイドケアワークの再配分
無償のケアワークや家事の責任、責任ある子育ての実行を、男女間でより公平でバランスよく配分する方法を導入している。男女のケアの役割と責任を変革するための最も広範囲な政策は、「新生児のケアのための休暇と補助に関する法律」に定められている。また、労働協約にケア共同責任条項を盛り込むことも推進している。ケアシステム導入に先立ち、育休明けから6ヶ月目までの新生児の世話をするために、労働時間を50%短縮しその分半額の手当を取り入れられるようにした。この手当は母親と父親の両方に適用されるが、両方が同時に享受することはできない。民間企業では社会保障制度により支給され、公共企業では各政府機関が労働者の福利厚生のために負担しなければならない。受益者の97%が出産手当を使い切り、男性の83%が出産休暇を利用している。70%の女性が新生児の世話をするために半日休の期間を要求しているが、この手当を要求する男性は非常に少ない。社会保障銀行(BPS)の統計によると、半休を申請している人のうち男性はわずか3%であるため、この権利の取得と行使を促進するためにはさらなる努力が必要である。男性が育児休業を取得しない理由としては、性別の役割に関連するものがある。女性の場合は、労働市場による収入減や、欠勤が仕事に悪影響を与えることなどが理由として挙げられている。ナショナル・ケア・セクレタリーは、男性の半日勤務手当の利用を促すキャンペーンの準備として、15回のインタビュー調査を行い、30日を超えて手当を求めている親がいる理由を探った。これをもとに、育児している男性に登場してもらい、体験談や感想を語ってもらう「パパの長時間労働」というキャンペーンを実施した。なお、男性がこの恩恵を受けるためには、パートナーが雇用されていること、両者が同じ労働体制であることなど一定の要件を満たす必要がある。そこでナショナル・ケア・セクレタリー(National Care Secretariat)は、そのための現行法制度の改革に取り組んでいる。当初の提案では、夫婦の雇用形態に関する制限はなく、交代で仕事中に赤ちゃんの世話をすることを前提に、両親が同時にハーフタイムを楽しむことができることを提案した。ILO条約の勧告では、雇用されている人だけでなく、労働市場に従事するために訓練を受けている人も対象として、ケアの共同責任を促進するために実施すべき多くの措置を定めている。これらの措置は次のとおりである。母親と父親のための育児休暇・息子や娘などの直系家族の病気の際の休暇・人々のニーズに合った保育、ファミリーアシスタンス、その他のコミュニティサービスを、公的または私的に開発または進すること・適切に規制、監督された在宅援助、在宅介護サービスは、必要に応じて家族に責任を持つ労働者にその経済的可能性に見合った合理的なコストで資格のある援助を提供できること・徐々に労働時間を短縮し、残業を減らしていくこと・国やさまざまな活動分野の発展と固有のニーズを考慮して、労働時間、休息間、休日の構成に、より柔軟性を導入すること・可能かつ適切な場合には、シフトを組む際や夜勤を割り当てる際に、家族の責任に関連するものを含む労働者の特別なニーズが考慮されるべきであること・転勤させる際には、労働者の家族の責任と配偶者の勤務先や子供の教育の可能性などの要因を考慮する必要があること。一般的に、進歩は遅いものの、扶養している子どもや家族の世話をするための休暇を何日または何時間か付与することは前向きなものであると結論づけている。ウルグアイの事例に関する最近の論文(Salvador and Alles、2018)では、こうした措置が、介護が仕事の責任と重なる場合に労働者にもたらされるストレスの軽減に寄与することが示されている。状況を率直に話し両方の責任を調整するための許可を得ることは、労働者の生産性を向上させるだけでなく、会社の職場の雰囲気も良くする。むしろ意外なことに、男性化の進んだ分野(冶金、飲料、米など)で大きな進展が見られた。これらの分野では、学校のない時間帯をカバーしたり、幼い子供を預かる子供向けのケアサービスを設置する取り組みも進展している。この取り組みにより、これまで比較的コストがかかるという理由で企業が強く抵抗していたこの問題を取り入れることができた。
NICSが導入される以前から、ウルグアイは女性の家庭内の無給での労働を明確に認めていた。NICSでは、退職金や老年年金の保険料を計算する際に、生まれた子供や養子1人につき1年追加して最大5年まで加算が認められていた。この手当ては、女性が退職金を受け取るために必要な勤続年数を達成することを助けている。この新しい制度は、女性が労働活動を全面的または部分的に中断しなければならない育児期間を認めることで、労働市場における男女の不平等を補い、是正することに貢献した。一方、退職所得は男女共に増加しているが、その変化には差がある。年々、女性の退職所得が男性よりも増加しており、男女の間の退職所得格差は着実に縮小している。2009年には男性の平均退職所得は女性よりも34%高かったが、2015年にはその差は20%となった。
2020年12月25日に第5次男女共同参画基本計画が閣議決定された。第5次男女共同参画基本計画は、男女共同参画社会基本法に基づき、施策の総合的かつ計画的推進を図るため、令和12年度末までの「基本認識」並びに令和7年度末までを見通した「施策の基本的方向」及び「具体的な取組」を定めるものである。(男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~(令和2年12月25日閣議決定)」より引用)その中で基本的な視点及び取り組むべき事項を10項目設定している。その中でも本稿に直接関係する項目をいくつかピックアップする。「②指導的地位に占める女性の割合が2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目指して取組を進める。さらに、その水準を通過点として、指導的地位に占める女性の割合が30%を超えて更に上昇し、2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す。そのため、国際的水準も意識しつつ、男女共同参画社会基本法第2条第2号に定められている積極的改善措置(ポジティブ・アクション)も含め、人材登用・育成や政治分野における取組を強化する必要がある。 ③ 男女共同参画は、男性にとっても重要であり、男女が共に進めていくものである。特に、男女共同参画や女性活躍の視点を企業組織のみならず、家庭や地域など生活の場全体に広げることが重要となる。その際、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が男女どちらかに不利に働かないよう、メディアとも連携しながら幼少期から大人までを対象に広報啓発等に取り組む必要がある。 ④ 人生100年時代を見据えて、男女が健康な生活を実現し、学び続け活躍し続けられる環境の整備、仕事と家事・育児・介護などが両立できる環境の整備に取り組む必要がある。 」以上を踏まえ、取り組まれている政策を以下に紹介する。
3-2-1.クォータ制導入への足踏み
クォータ制とは、人種、民族、宗教、性別などを基準として、議員や閣僚などの一定数を、社会的・構造的に現在不利益を受けている者に割り当てる制度をいい、ポジティブ・アクション(積極的改善措置)の一手法として実施されるものである。クォータ制発祥国はノルウェーであり、1974年に政党で初めてクォータ制が導入された。これをきっかけに1978年に制定された男女平等法において、公的機関における男女割合を一定比率で割り当てるよう明記され、北欧諸国へ広まった。(株式会社クオリア「働き方改革とダイバーシティに関する用語集」より要約) 2000年以降、女性の雇用率は日本の50%以下に対してノルウェーは60%以上の高水準を保っている。しかし、1992年時点では日本とほぼ同水準であったことから、クォータ制導入により目覚ましい発展を遂げたことが見て取れる。日本社会でもクォータ制導入を求める声も大きい中、未だ導入には至っていない。例えば、3-1で取り上げた「輝く女性の活躍を加速する男性リーダーの会」はSNS上で相当数のバッシングを受けたのを筆者は確認した。「輝く女性の活躍」を「男のみ」で議論する違和感は筆者も猛烈に感じた。実際の女性の働きやすさは生の女性の声が欠かせないにもかかわらず(これはクォータ制を求める原理である)、男性のみで議論しようという企画が通るまでに誰も疑問を抱かなかったのか、そういった疑問が浮かばない時点で、国でクォータ制導入が未だできないことに納得してしまうのであった。
また、韓国ではクォータ制導入により、女性の視点や利益への関心が高まり、政治分野が活発化したとわかっている。韓国は日本と同様に男女間の不平等が大きい国である。2022年時点で韓国の世界男女平等ランキングは99位であり、特に経済は0.592で112位であった。日本は0.564で121位と非常に似通った数値となっている。日本と似たランキング順位であるが、韓国では、政党法、公職選挙法、政治資金法の三法でクォータ制が規定されており、その効果も現れている。岡山大学グローバル人材育成院准教授の大澤貴美子によれば、その効果は記述的評価と実質的評価の二側面から評価できるという。記述的評価とは、「女性議員の数あるいは比率の変化を問うもの」であるが、クォータ制導入の結果、女性議員の数・比率が増えているのは明らかである。とくに比例代表選出部分において女性議員の増加がめざましく、その女性割合は、2004年以降50%を超え続けている。マイナスの記述的評価としては、いかに比例代表において女性の政界進出が進もうとも、比例選出の議席が議会全体に占める割合は18%に過ぎないため、議会全体における女性の割合はいまだ低いままであるという点を指摘できる。男性現職議員の既得権の根強い小選挙区では政党の自発性に依存したクォータ制を実施することは難しく、小選挙区から女性が出馬することの難しさは依然として存在している。しかし、比例代表から小選挙区への「波及効果」が見られるとの指摘もある。クォータ制の助けを借りて比例代表で当選した女性議員たちが、4年間の議員生活の中で政治経験と自信、知名度を得て、比例代表での任期が終わった後に小選挙区から出馬をするという流れが観察されている。しかも、2008年と2012年に小選挙区で当選した女性議員はいずれも競争力があり、平均当選率と得票率が男性候補者より高く、女性当選者の個人的な得票は、所属政党が比例代表枠で集めた票より多いことも判明しており、女性が政党の公認さえ受ければ、当選の可能性は高く、小選挙区で競争力があることが明らかにされている。次に、クォータ制を評価する際のもう1つの側面、実質的評価についてみていきたい。実質的評価とは、「女性議員の増加によって政治過程や政策決定にいかなる変化が起き、女性や社会全体にどのようなメリットをもたらしたのか、クォータによって増加した女性議員の政治活動に注目するもの」である。まず、プラス面としては、女性関連法案の数の増加を上げられる。例えば、2000年から2004年の間に女性政治家の数は15人から39人に増加したが、その間に提出された女性関連法案は24から149に増加しており、女性議員数の増加が女性の利益や視点のさらなる政治的代表を生み出したと考えることができる。同時に、女性議員の増加に伴い委員会の委員長などの要職に就任する女性議員も増えてきており、委員会を通した議会における女性議員の影響力の増加も見ることができる。基本的に、女性議員は男性議員に比べて活発な立法者であることが指摘されている。例えば、2004年4月から2006年9月の間、また2004年から2008年の第17回国会において、女性議員の議案発案数は男性議員を上回っており、議員としての女性の有効性が示唆されている。すなわち、女性議員の増加によって、議会における女性の視点や利益への関心が高まったのみならず、立法活動そのものの活性化にもつながっている。(大澤 2016:pp.203-211 参考)
このように、実際にクォータ制導入による効果も確認され、ウルグアイや韓国はもちろん、世界の国と地域のうち129がクォータ制を導入している中、日本はいまだ国として公的なクォータ制導入には至っていない。
3-2-2.逆差別意識
上記したクォータ制のような制度や取り組みのことをポジティブ・アクションと呼ぶ。ポジティブ・アクションとは「一義的に定義することは困難ですが、一般的には、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」のことをいう。(内閣府男女共同参画局「ポジティブ・アクション」より引用) 今日では、特にSNS上で、そのポジティブ・アクションに対して「逆差別である」との声が挙がることも少なくない。逆差別とは「社会的弱者などの優遇措置をとることにより、それ以外の人々への処遇が相対的に悪化すること」である。(コトバンク「逆差別」より引用)内閣府男女共同参画局が行った調査では、日本でポジティブアクションに反対する理由として「男女の平等は、社会の意識や慣習が変化し、女性が能力を十分に発揮できるようになれば自然に達成されるから」を挙げた者が多い(51.7%)と発表している。(内閣府男女共同参画局「5.ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)に対する意識」参考)このような「逆差別」の意識は男女格差の問題の議論の際に男性側に強く表出する。クォータ制をはじめとしたポジティブアクション導入の提案があっても、この意識により実現が阻害されてしまうことも少なくない。この「逆差別」の意識とどう向き合っていくかも重要となってくるだろう。
実際に若い世代では意識や慣習は変わりつつあるが、女性が実力を発揮できる社会とはいえない状況が続いてきているのが現実であり、制度から変えない限り"自然に"は達成し得ないのである。このような「逆差別」意識ついて、人権問題に関する府民意識調査検討会委員の西田は人権問題の1つである同和問題を交えて次のように述べ、被差別者への敵愾心の高まりを危惧している。
図表 ポジティブ・アクションに反対する理由
出典:内閣府男女共同参画局 5.ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)に対する意識そこで、「逆差別」意識の構造を以下のように整理できるのではないだろうか。まず、部落差別の歴史、これまでの同和対策の経緯・内容と現在の同和問題の解決に向けた取組み、今日の差別の状況について知られておらず、同和地区とその住民、行政の姿勢についての伝聞・見聞情報(表面的、断片的で否定的な情報であることが多い)、さらには自身の生活苦、不満や不安の高まりが背景要因となって、同和地区とそこへの施策が非難の対象とされてしまっている。伝えられるべき情報が届いておらず(これは現状の教育と啓発活動の問題点である)、伝えられる情報の歪みがあり(日常的に流される情報の影響力は大きい)、これに生活上の困難が加わることで、「逆差別」意識が浸透していくことは当然の帰結というべきかもしれない。〔中略〕日常的な経路を通してやり取りされる否定的な情報の流れを断ち切る、誤解を解く働きかけがなされない限り、同和地区に対する否定的な意識、まなざしはそのままに引き継がれることになる。今日の「逆差別」意識と過去から継承された差別意識をともに断ち切る働きかけが不可欠であり、〔中略〕今後の社会情勢の動きにより生活の不安定化がさらに強まっていけば、同和地区だけではない、様々な形で不利な状況(被差別の立場)に置かれた人々に対する敵愾心(差別意識)が高まることも危惧されるのである。(西田 2012:pp.142-143)この考えにに性差別の概念を当てはめると、ポジティブ・アクションを取り入れるために必要なことが以下のように整理できる。これらの内容は、ウルグアイでも既に取り組まれており、逆差別意識の解消も十分に意識されていると言える。日本でも、このような「逆差別」意識に対して細かな働きかけが重要になってくるだろう。
- 女性差別の歴史、これまでの無報酬家事労働の偏りの経緯・内容と現在の解決に向けた取組み、今日の差別の状況の伝達
- 伝聞ではない、取り組みに関する確実な教育・広報・啓蒙活動
- 現在広まっている誤解を解く働きかけ
政策を考える上で、まずは一部の地域・自治体に絞ってモデルの構築をしたい。十分な財力と他の自治体への影響力、企業やNPOの多さ、現在の周辺環境の整備具合を考慮する。そこで筆者は、小国程度の財力と影響力を持つ東京都でなら、クォータ制導入・拡大を実現し、無報酬労働の偏りを緩和し男女ともに働き生活しやすい環境づくりが可能と考えた。
2022年4月1日、東京都男女平等参画推進総合計画が改定され、取り組みの一つに東京版「クォータ制」が明記された。都の審議会等に「男女いずれの性も40%以上」とするクオータ制を導入し、男女平等参画基本条例において規定される。これは同年10月7日付で実現され、日本で初の公的かつ法的なクォータ制導入達成となった。
また、同年の6月29日、東京都は「育休」の愛称を「育業」に決定する発表を行った。この狙いは、社会全体で子供を大切にする気運を醸成し、安心して働き、子育てができる環境づくりを目指す取組の一環として、「育休」を「仕事を休む期間」ではなく「社会の宝である子供を育む期間」と考える社会のマインドチェンジである。これは前章で挙げた「現在広まっている誤解を解くきっかけ」に当てはまる。育休は「休暇」という名前がつくが、実際真剣に育児に取り組めば休む暇など無いのが
事実である。しかし、企業の上層部に多い、一家の大黒柱としてしゃかりきに働き家事育児は全て妻に任せてきた男性は育休を取得する人に対し「休みを与えている」という感覚になるのだろう。そういった層や育休を取ることを悩む男性に対して「育業」という愛称は、活躍する場が変わるだけで仕事の続きであるという認識を普及することができる。また、20212年7月現在、愛称決定と同時にこの愛称の趣旨に賛同し育休取得促進に取り組む企業・団体や、愛称を活用したキャンペーンを行う企業・団体を募集している。さらに、有名インフルエンサーとコラボして育業についての動画をアップするなど、若者や子育て世代に向けた広報にも熱心である。(東京都「育休の愛称決定と応援企業・団体募集」参考)
このように、東京都は男女共に働き休みやすい環境づくりに積極的であり、ウルグアイのような比較的リベラルな政策・法令を実現しやすい環境が醸成されつつある。そこで筆者は、東京都モデルの構築を提案したい。
Last Update:2023/1/28
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