統合型リゾートについて

−副題−

早稲田大学社会科学部3年
上沼ゼミU 山内翔



「ラスベガスのカジノ」出所:https://allabout.co.jp/gm/gc/20640/


はじめに

 現在日本では、統合型リゾート設立に関する法律の整備やそれに対する議論がなされている。統合型リゾート設立に関する法律、通称カジノ法案に対しては、賛成、反対さまざまな意見が存在する。メディアを見ると、カジノ法案に対し懐疑的な意見が多く存在するようにも見えるが、統合型リゾートは大きな経済的効果を秘めている。諸外国の成功・失敗事例から、統合型リゾート設立に伴う社会課題に対して政策提言をし、効用を最大限得ることを本研究の目的とする。

章立て

  1. 研究動機
  2. IRの概要と社会的意義
  3. 問題点
  4. 今後の方針


1.研究動機

 まず私は、ギャンブル経験者である。世間一般的に、ギャンブルに対して良い印象を持つものは少ないであろう。例えば、ギャンブルの代表例にパチンコ店がある。パチンコ店といえば、たばこで空気が汚く、治安が悪く、ガラの悪い人たちがいる印象がないだろうか。実際私も、そのような印象を持っていた。しかしそれは全くの偏見である。現在パチンコ店は健康増進法による禁煙化が進み、空気はかなりクリーンなものとなっている。実際に、コロナ騒動を受け、パチンコ店の換気システムについての実験があった。愛知医科大学感染症科の三鴨廣繁教授監修のもとで行われたその実験の結果は、メディアの報道による印象(コロナ禍初期、パチンコ店は感染のリスクが高いという印象でメディアに晒上げられていた)とは大きく異なり、その実験を取り上げた記事では、「噴射後、ホール内を白く覆ったスモークは徐々に排気口へ吸い込まれ、開始から10分後、客席付近のスモークはほぼ排出。パチンコホール内ではしっかり換気されていることが立証され」、と紹介があり、教授から「素晴らしい」と評価を受けたほどである(「パチンコホール空気の流れ「見える化」実証実験を公開。感染症科の教授「素晴らしいシステム」と評価」『パチマックス!』)。パチンコ店は空気が悪いという印象とは違う研究結果出ていることに、驚いたのではないだろうか。
 統合型リゾートは、大きな経済効果を持つ。それゆえにその大きな可能性を印象・世論のみで無駄にしてほしくないというのが本筆者の研究動機である。カジノが持つ問題点の妥当性を検証し、政策提言を行うことを本研究の研究目的とする。


2.IRの概要と社会的意義

2-1.概要

 統合型リゾート施設(以下IR)とは、国際会議場をはじめとするMICE施設(※1)、ホテル、レストラン、ショッピング施設、劇場、映画館、カジノなどが一体となった複合的な観光施設のことである。
以下、Wikipediaの概要を引用する。

マカオやシンガポールなど、近年に統合型リゾートを設置した外国都市が国際的な観光拠点として多数の観光客を進める中で、訪日外国人観光客(インバウンド)を集めるプロジェクトの一つとして、日本国内への統合型リゾート設置が注目されている。しかし現行の日本の法制度ではカジノが違法であるため、統合型リゾートの推進にあたっては、カジノの法制度化が大前提とされていた。(引用:Wikipedia)

IRは観光産業をけん引する大きなプロジェクトとして期待される一方、IR施設の一つであるカジノが日本の法律で禁止されており、それに伴う法整備や、カジノが合法化されることで起きうる社会問題などが現在問題となっているのである。

※1.企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称(参考:統合型リゾート(IR)とは 訪日ラボ) )

2-2.IRの経済効果

 IR設立に期待される効果について深く言及していく。一般的にIRには、観光による経済効果、雇用の創出・促進、インフラの整備といったような経済効果が期待されると言われるが、もう少し詳細に見ていく。IRに期待されることは、大きく@建設による経済効果(建設段階でのみ発生)、A運営による経済効果(毎年継続的に発生)と分類され(参考:首相官邸資料)、そこからさらに、それぞれに直接効果、間接効果と分類することができる。@建設による経済効果の直接の効果としては、土地造成・建設にかかる投資、間接効果としては建設に必要な資材の生産運搬・雇用促進・創出などが期待される。A運営による直接の効果としては、IRの施設に含まれるホテルや飲食店、カジノ等の施設の雇用創出や消費拡大などが挙げられ、間接効果としては、来訪者の交通需要によるインフラ整備、各施設の運営費用による波及効果といったものが期待される。
 具体的な数値にしてどれほどか。IRの経済効果に関する民間調査の例では、IRが3か所(北海道、横浜、大阪)に設置された場合、建設による経済波及効果は3か所合計で5兆500億円、IR運営による経済波及効果は年間約1兆9,800億円という算出結果が出ている(参考:大和総研)。
 また、下の図は大阪にIRが誘致された場合の経済効果を算出したものである


出所:大阪府・大阪市IR推進局「大阪IR実現に向けて」www.pref.osaka.lg.jp/attach/34198/00000000/kouen1siryou.pdf

集客人口や、雇用創出効果についても算出されている。大阪市IR推進局の発表によると、夢州における経済的効果として、集客人口が年間約1,500万人、雇用創出効果も、建設投資で5.1万人、運営で年間8.3万人との数値が出されている。調査機関の算出結果からも、大きな経済効果が期待されているのである。
 また、その他にも、税収増加による財政健全化も期待される。2018年に成立した「IR整備法」では、事業者がカジノにより得た収入の30%をカジノ税として国や自治体に収めることが盛り込まれている(参考:「カジノ事業者に係る公租公課」)。カジノによる売上の見込みは大きなものであり、それが国や自治体の新たな収入源となることで財政健全化が見込まれるのである。


3.問題点

3-1.問題点

 IRは大きな経済効果が期待される一方、問題点も存在する。一般的には、@ギャンブル依存症の増加、A治安の悪化、Bマネーロンダリングの可能性、といったような問題が指摘される。例えば、2017年に日本リサーチセンターが行った意識調査では、IR設立に対する印象について、61%が「依存症が増える」、45.4%が「治安が悪化する」、43.6%が「犯罪が増加する」と回答(出典:NRCレポート)している。また、2019年に横浜市民を対象に朝日新聞社が行った世論調査では、IR誘致に対し64%が反対し、その理由を3択で、「治安が悪化する」が57%、「依存症が増える」が26%を占めている(参考:「横浜のカジノ誘致、64%が反対」朝日新聞)。世論では、前述の問題点として挙げた依存症増加、治安の悪化を懸念する声が数多くあり、それが問題点として挙げられるのは妥当であると考えることができるであろう。

3-2.韓国の事例

 問題点について、韓国の事例から考察をする。2000年、韓国で自国民が入場可能なカジノであるカンウォンランドが国内で初めてオープンした。しかし、カンウォンランドは華々しくオープンしたものの、次第に問題点が明らかになっていくのであった。その問題点とは、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化である。結果、その街では質屋や消費者金融、風俗店が多く立ち並び、自殺者が増え、建設前には15万人以上いた人口は現在3万人程まで落ち込んでいるのである(参考:カジノワールド)。
 過去にこの韓国の事例があることからも、現在IRに指摘されている問題は無視できない。

3-3.シンガポールの事例

 一方シンガポールでは、全く異なった結果が出ている。依存者数は、カジノ開業前(2008年)の2.9%から2014年には、0.7%に減少しているのである(参考:ベイカレントコンサルティング)。また、下の図はシンガポールの犯罪認知率を示すグラフである。


出所:諸外国におけIRについて」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/dai1/siryou4.pdf (kantei.go.jp)

IR設立前後で、犯罪認知率に大きな変化は見られず、犯罪類型についても大きな変化は見られない。つまり、シンガポールの事例では。前述のIRに懸念される問題点が全く見られないのである。
 なぜ韓国とシンガポールとでは、結果にこのように大きな差があるのだろうか。次章以降で議論を深めていくことする。


4.今後の方針

・韓国の失敗事例とシンガポールの成功事例の研究を深め、それぞれの結果の要因を分析 ・横浜の市長選に着目し、日本で特に問題とされる事項や、議論の中心となる点を考察する。


参考文献

・「パチンコホール空気の流れ「見える化」実証実験を公開。感染症科の教授「素晴らしいシステム」と評価」,『パチマックス!』 https://biz-journal.jp/gj/2020/11/post_188901.html (2021/01/31最終閲覧).
・「統合型リゾート」ウィキペディアhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%9E%8B%E3%83%AA%E3%82%BE%E3%83%BC%E3%83%88(2021/8/2最終アクセス)
・「統合型リゾート(IR)とは」訪日ラボ https://honichi.com/news/2021/03/18/japanir/(2021/8/2最終アクセス)
・「諸外国におけるIRについて」首相官邸 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ir_promotion/ir_kaigi/dai1/siryou4.pdf(2021/8/2最終アクセス)
・「『カジノを含む統合型リゾート』についての世論調査」日本リサーチセンターhttps://www.nrc.co.jp/report/pdf/f7f9d7b3dcbbe614fbb3f72bd7a14ef147ff1b2e.pdf(2021/8/2最終アクセス)
・武井宏之「横浜のカジノ誘致、64%が反対」朝日新聞https://www.asahi.com/articles/ASM9Z3S9VM9ZUZPS002.html(2021/8/2最終アクセス)
・「江原ランド(カンウォンランド)は失敗?アクセスや入場料は?」カジノワールドhttps://www.casinoworld.jp/casino-world/korea/kangwonland(2021/8/2最終アクセス)
・「カジノ事業者に係る公租公課 〜我が国のIRビジネス参入における法制度上の留意点(3)〜」デロイト https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/real-estate/articles/re/ir-business-enter-the-business-serialization-3.html(2021/8/2最終アクセス)


Last Update:2021/8/2
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