2-1.概要
統合型リゾート施設(以下IR)とは、国際会議場をはじめとするMICE施設(※1)、ホテル、レストラン、ショッピング施設、劇場、映画館、カジノなどが一体となった複合的な観光施設のことである。
以下、Wikipediaの概要を引用する。
マカオやシンガポールなど、近年に統合型リゾートを設置した外国都市が国際的な観光拠点として多数の観光客を進める中で、訪日外国人観光客(インバウンド)を集めるプロジェクトの一つとして、日本国内への統合型リゾート設置が注目されている。しかし現行の日本の法制度ではカジノが違法であるため、統合型リゾートの推進にあたっては、カジノの法制度化が大前提とされていた。(引用:Wikipedia)
IRは観光産業をけん引する大きなプロジェクトとして期待される一方、IR施設の一つであるカジノが日本の法律で禁止されており、それに伴う法整備や、カジノが合法化されることで起きうる社会問題などが現在問題となっているのである。
※1.企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称(参考:統合型リゾート(IR)とは 訪日ラボ) )
2-2.IRの経済効果
IR設立に期待される効果について深く言及していく。一般的にIRには、観光による経済効果、雇用の創出・促進、インフラの整備といったような経済効果が期待されると言われるが、もう少し詳細に見ていく。IRに期待されることは、大きく@建設による経済効果(建設段階でのみ発生)、A運営による経済効果(毎年継続的に発生)と分類され(参考:首相官邸資料)、そこからさらに、それぞれに直接効果、間接効果と分類することができる。@建設による経済効果の直接の効果としては、土地造成・建設にかかる投資、間接効果としては建設に必要な資材の生産運搬・雇用促進・創出などが期待される。A運営による直接の効果としては、IRの施設に含まれるホテルや飲食店、カジノ等の施設の雇用創出や消費拡大などが挙げられ、間接効果としては、来訪者の交通需要によるインフラ整備、各施設の運営費用による波及効果といったものが期待される。
具体的な数値にしてどれほどか。IRの経済効果に関する民間調査の例では、IRが3か所(北海道、横浜、大阪)に設置された場合、建設による経済波及効果は3か所合計で5兆500億円、IR運営による経済波及効果は年間約1兆9,800億円という算出結果が出ている(参考:大和総研)。
また、下の図は大阪にIRが誘致された場合の経済効果を算出したものである
集客人口や、雇用創出効果についても算出されている。大阪市IR推進局の発表によると、夢州における経済的効果として、集客人口が年間約1,500万人、雇用創出効果も、建設投資で5.1万人、運営で年間8.3万人との数値が出されている。調査機関の算出結果からも、大きな経済効果が期待されているのである。
また、その他にも、税収増加による財政健全化も期待される。2018年に成立した「IR整備法」では、事業者がカジノにより得た収入の30%をカジノ税として国や自治体に収めることが盛り込まれている(参考:「カジノ事業者に係る公租公課」)。カジノによる売上の見込みは大きなものであり、それが国や自治体の新たな収入源となることで財政健全化が見込まれるのである。
3-1.問題点
IRは大きな経済効果が期待される一方、問題点も存在する。一般的には、@ギャンブル依存症の増加、A治安の悪化、Bマネーロンダリングの可能性、といったような問題が指摘される。例えば、2017年に日本リサーチセンターが行った意識調査では、IR設立に対する印象について、61%が「依存症が増える」、45.4%が「治安が悪化する」、43.6%が「犯罪が増加する」と回答(出典:NRCレポート)している。また、2019年に横浜市民を対象に朝日新聞社が行った世論調査では、IR誘致に対し64%が反対し、その理由を3択で、「治安が悪化する」が57%、「依存症が増える」が26%を占めている(参考:「横浜のカジノ誘致、64%が反対」朝日新聞)。世論では、前述の問題点として挙げた依存症増加、治安の悪化を懸念する声が数多くあり、それが問題点として挙げられるのは妥当であると考えることができるであろう。
3-2.韓国の事例
問題点について、韓国の事例から考察をする。2000年、韓国で自国民が入場可能なカジノであるカンウォンランドが国内で初めてオープンした。しかし、カンウォンランドは華々しくオープンしたものの、次第に問題点が明らかになっていくのであった。その問題点とは、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化である。結果、その街では質屋や消費者金融、風俗店が多く立ち並び、自殺者が増え、建設前には15万人以上いた人口は現在3万人程まで落ち込んでいるのである(参考:カジノワールド)。
過去にこの韓国の事例があることからも、現在IRに指摘されている問題は無視できない。
3-3.シンガポールの事例
一方シンガポールでは、全く異なった結果が出ている。依存者数は、カジノ開業前(2008年)の2.9%から2014年には、0.7%に減少しているのである(参考:ベイカレントコンサルティング)。また、下の図はシンガポールの犯罪認知率を示すグラフである。
IR設立前後で、犯罪認知率に大きな変化は見られず、犯罪類型についても大きな変化は見られない。つまり、シンガポールの事例では。前述のIRに懸念される問題点が全く見られないのである。
なぜ韓国とシンガポールとでは、結果にこのように大きな差があるのだろうか。次章以降で議論を深めていくことする。
・韓国の失敗事例とシンガポールの成功事例の研究を深め、それぞれの結果の要因を分析
・横浜の市長選に着目し、日本で特に問題とされる事項や、議論の中心となる点を考察する。
Last Update:2021/8/2
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