チケット不正転売の抑制

−マイナンバーカードの活用−

早稲田大学社会科学部4年
上沼ゼミV 金子 碩


「転売のイラスト」出典:いらすとや

章立て


第1章 はじめに

 この研究をしようと思った動機は、本稿筆者自身の体験からである。本来需要がある顧客に販売をするものを、「転売ヤー」と呼ばれる大量購入、高額転売をする人たちが多く発生し、メーカーの小売り希望価格よりも高い値段で売るという行為が多くなった。
 本研究の意義は、このような、大量購入、大量転売で利益を得る「転売ヤー」に対する対策、解決策を見出すことにある。
 また、価格や価値が変動するものは、投資の対象となり、一概に転売行為に対して不当性を見いだすことが困難であるため、本研究の対象を使用日時が限定されているスポーツやコンサートなどの興行チケットに限定する。
 この研究を行うことで、本来ほしい層に、公式の販売ルートにて適切に買える人を増やし、また、不正な高額転売を減らすことにある。

第2章 現在制定されている法律

現在、制定されている法律として、チケット不正転売禁止法がある。
第一条
 「興行入場券の適正な流通を確保し、もって興行の振興を通じた文化及びスポーツの振興並びに国民の消費生活の安定に寄与するとともに、心豊かな国民生活の実現に資することを目的とする。」
第五条1項
「興行主等は、特定興行入場券の不正転売を防止するため、興行を行う場所に入場しようとする者が入場資格者と同一の者であることを確認するための措置その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。」
このように、努力義務が制定されているが、根本的な解決に至っていないことが問題である。

第3章 転売によって起こる被害

 転売が違法とされていない限り、転売を法的に取り締まるということが困難な状況である。しかし、品薄商品の高額転売による批判が相次ぎ、ニュースなどに取り上げられている。
転売によって起こるデメリットとして以下のものが挙げられる。

3-1 企業のイメージダウン

 流行の波に乗る商品に「転売ヤー」は目をつけ、高額転売を繰り返す傾向がある。転売による売り上げは、運営側に還元されることはない。そして、増産するうちに、流行の波が止まり、商品の供給が行き届くようになると「転売ヤー」は価格を下げて販売するようになる。
 よって、一般ユーザーに流行が終わったという認識を与え、市場が一気に縮小するのである。

3-2 一般購入者が高い値段での購入を強いられる。

 本来一般購入者が購入するはずであった人気チケットが、大量購入大量転売を「転売ヤー」が行うことによって、一般購入者がその「転売ヤー」から購入せざるを得なくなり、結果的に高値で取引されるという状態となる。人気チケットの需要が高いということはその チケットにそれだけの価値があるということになるが、本来需要がある層の手元に届くのが「転売ヤー」経由という状態になり、人気チケットの価値を生み出した企業側に還元されるのではなく、「転売ヤー」に還元されるということが問題である。そしてそのチケット を「転売ヤー」から購入するという行為を一般消費者が辞めたとしても、「転売ヤー」は別の転売商材に移るのみで、気象側が損をするという形となる。また、中には、「転売ヤー」の大量購入によって希少性が高まり、転売価格を吊り上げる事例もある。

第3章 現状の対策事例

 上記のチケット不正転売禁止法により、各社、各団体における転売対策を記載する。

3-1 公認チケット転売サイト

 北海道日本ハムファイターズでは、購入したチケットを転売できる公認サイトを設けている。また、高額転売を防ぐため、価格の上限が 定められており、購入者も過度に高い値段での転売ができないようになっている。これにより、転売目的での購入を抑制するとともに、転売後の利益が 出ないような取り組みをすることで、本当に行きたい人にチケットが渡るように工夫されている。
 

「公認チケットサイト」出典:チケット流通センター

3-2 当日発券システム

事前にインターネット上で購入した際には座席が判明しておらず、ライブ当日に発見することで座席の位置がわかるようになるという仕組みである。これにより、 ステージから近い座席などの価値の高騰を抑え、高額転売を抑制するシステムとなっている。

「当日発券システム」出典:SPITZ JAMBOREE TOUR '23-'24

第4章 海外事例

 アメリカにおいてチケットは、行きたい人が払いたい額で行くという認識となっている。そのため、人気のあるイベントはプレミアチケット化し、価格が高騰する仕組みとなっている。 そのため、イベントの日程が近くてもお金さえあればチケットを購入できる点から、富裕層の観点からいえば利便性が高まっているといえる。

アメリカのチケット売り場
出典:ライトハウス

参照:ライトハウス

第6章 先行研究

 上沼ゼミの卒業された先輩方のゼミ論の中に、チケット転売に関する対策が記されていた。
 転売運営会社が、興行主へ転売価格に応じた利益を還元させるという方法が一つ記されていたが、チケットと商品で違うところは、期限があるかどうかである。チケットは、期限内に使用することができなければ、価値のないものとなるが、商品に関しては価値があまり下がらない、あるいは時間の経過とともに価値が増加するものもある。
 また、「MOALA QR」という制度に関しては、入場する際の対策である。購入時に顔認証の登録を済ませ、入場時に顔認証とチケットのQRコードを柳雄法提示することで認証される。 ダブルセキュリティであるため、精度が高い。ただし、採用数に限りがあるため、すべてのイベント、コンサートにおける汎用性が少ないのが難点である。

moalaQR
出典:MOALA


第7章 政策提言 「マイナンバーカードの活用」

 現在実証実験も行われている、マイナンバーカードの活用による転売抑制対策を提言する。

7-1 実証実験事例

2024年1月11日にデジタル庁が発表した、「Tokyo Girls Collection」にて、マイナンバーカード登録によるチケット先行販売を発表した。
ドリームインキュベータ社との共同での実験となり、事前に登録したマイナンバーカードの顔写真により入場時の本人確認の精度も上昇すると考えられる。 また、運転免許証などの他の身分証明書との違いは、購入回数、入場回数等をデータとしてとれることにある。現時点で、転売サイトとの紐づけがなされていないため、今後に期待される。

Tokyo Girls Collection
出典:デジタル庁

7-2 マイナンバーカードと各主対策の併用

マイナンバーカード活用のデメリットとして、本人確認が厳重となりすぎて、本当に急遽いけなくなってしまった人への救済措置を取ることが困難であることだ。
そこで、先ほどの公認転売サイトにマイナンバーカードの紐づけをし、これまでの通常購入回数、転売回数、入場回数等をデータ化することで、意図的な転売かどうかを判断できる。 また、moalaQRのような顔認証システムと紐づけることで、マイナンバーカードの顔写真でスムーズ入場することも可能になると考える。
「転売ヤー」と呼ばれる人物のあぶり出し野たmrに、毎回転売している人の購入を制限するなどの措置を置くこともできる。

第8章 この提言の課題

データを一括管理する組織が日露尾であり、個人情報も含まれている関係から、漏洩が許されないという課題がある。また、マイナンバーカードを普及させるための一環である政策とも 考えられるため、全国民の利便性の向上にはつながらないのである。マイナンバーカードの発行が任意となっている以上、制度として成立するかは検討が必要な政策提言である。

参考文献・リンクページ


Last Update: 2024/01/30
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