エッセンシャルワーカー不足解消に向けて
−副題?
社会科学部3年
上沼ゼミU 熊野遥香
章立て
- 第1章 エッセンシャルワーカーとは
- 第2章 研究契機
- 第3章 現状分析 -不足に関するデータ、影響、原因について-
- 第4章 行われている取り組み
- 第5章 研究方針
- 参考文献
第1章 エッセンシャルワーカーとは
エッセンシャルワーカー不足が社会課題として問題視されているのを近年ニュースで見かける。そもそもこのエッセンシャルワーカーとはなんなのだろうか。エッセンシャルは不可欠な、ワーカーは労働者、つまり、この言葉は人々の生活にとって必要不可欠な労働者を指す。具体的には、看護師、介護士、保育士、交通機関の運転手、そして小売店の店員など、幅広い業界に存在している。
これらの労働者は、低賃金・劣悪な労働環境・精神負荷のかかる人間関係の元で働かされていることが多い。これによって、離職率が高く、そもそもエッセンシャルワーカーを目指す人も増えない。本論文では、この深刻な課題を解決するために、現状分析を通した原因特定と既存政策の分析を行う。
第2章 研究契機
そもそもこの研究を行おうとした契機は、私の知人にある。この知人は私の姉の友人にあたる人物で、昔はよく遊んでいた。この頃から子供が好きで、私のお世話もしてくれていた。夢は保育士になることで、大学を卒業してこの夢を実現させた。しかし、保育士になって間も無く心を病んで退職した。原因は、職場の人間関係の悪さや労働時間の長さ、そしてそれに見合わぬ低賃金などの複合的なものだった。
このような原因の元で本当にやりたいことができなくなってしまう人々を、少しでも減らしたいという思いがあり、今回本研究テーマを選択した。
第3章 現状分析 -不足に関するデータ、影響、原因について-
次に現状分析を行う。まずどの程度、そして特にどの領域でエッセンシャルワーカーが不足しているのかを知るために厚生労働省の資料を読み解く。
「イメージ画像」:出所人手の過不足感の状況厚生労働省(2022/03/09)より
以上の表では、各業種ごとに人員の不足感を「不足」-「過剰」のポイント数で表している。「正社員等」では、医療、福祉領域の人材が最も不足している。その次に、運輸業、郵便業の人々が不足していることが表から見て取れる。医療、福祉、運輸、そして郵便はいずれもエッセンシャルワーカーに該当し、この順番に深刻さが大きいことがわかる。
次に、エッセンシャルワーカーの不足がどのような社会的悪影響を生んでいるかを分析する。主に2つある。
1つ目は、社会活動に支障をきたすことだ。2022年1月14日発刊の朝日新聞digitalには、エッセンシャルワーカーが不足することによって、社会が成り立たなくなることが示されている。当時コロナ禍の影響によって、濃厚接触者は待機を義務付けられていた。しかしエッセンシャルワーカーであれば待機を短縮する、ということが取り決められた。背景として、エッセンシャルワーカーの数が不足することによって、人々の社会活動が停滞することがある。
2つ目に、労働力不足が過酷な労働を生むという悪循環があることだ。エッセンシャルワーカー不足の背景の1つに労働環境が劣悪であることがあったが、これは労働力不足によって引き起こされる長時間労働が占める部分が大きい。現在、2,725万人のエッセンシャルワーカーがこの世に存在していることから、彼らの大多数が長時間労働に苦しめられている現状は社会課題と言って差し支えない。
最後に人手不足の要因について分析する。原因は主に3つある。1つ目が低賃金であること。2つ目が過酷な労働環境にあること。3つ目がイメージの悪さだ。
低賃金に関して、公的価格評検討委員会中間整理によると、介護分野職員は平均して29.3万円、保育士は30.3万円、幼稚園教諭は29.8万円しか月あたり稼いでいない。これは、全職種平均の35.2万円と比べると非常に低い数値であることがわかる。
過酷な労働環境について、これは長時間労働と精神的な負担に分けられる。
イメージの悪さについて、エッセンシャルワーカーは俗に3K労働ともかつて呼ばれていた。これは、「きつい・汚い・危険」の略で、いまだにこのイメージが払拭されていない業種も中にはある。
私は中でも、1つ目の低賃金の部分に着目している。なぜなら、医師などのエッセンシャルワーカーは看護師などと長時間労働であることなどが共通しているのに離職率が看護師よりも低いからだ。これには背景として、医師の方が看護師よりも賃金が高いからであると判断できる。
第4章 行われている取り組み
- 政府による賃上げ
政府は、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に収入を約3%(月額9,000円)、看護職員を対象に収入を約1%(月額4,000円)それぞれ引き上げした。
- 公的価格評価検討委員会の発足
本委員会では、エッセンシャルワーカーの更なる給与引き上げに必要な経費を計上している。計上が終わり準備が整えば、エッセンシャルワーカーの賃金引き上げが始まると予想される。
- 国民春闘共闘委員会による政府への交渉
上記2つと異なり、本団体は私的団体である。政府に対して、エッセンシャルワーカー賃金の月額2万5,000円以上の引き上げを要求している。
第5章 研究方針
- 賃上げの目標ラインの設定
賃上げの目標ラインの候補は2通りある。全業種の平均賃金と同レベルにするか、仕事内容に見合った賃金を推定するかだ。前者の場合には目標ラインの設定は容易だが、真の意味での公平性が保たれていないという議論が生まれる。逆に後者の場合には公平性は担保されるが、推定に時間がかかってしまうというデメリットがある。
- 賃上げのエッセンシャルワーカー不足解消の貢献度を判断
賃上げによってどれほどの新規従業員が増加するか、そしてどれほど離職率が低下するかをそれぞれ定量的に算出することによって、エッセンシャルワーカー不足解消の社会的意義が明らかになる。それによって、政府やその他団体が本問題を解決するための説得材料となる。
- 現実的な実行手段の検討
短期施策と長期施策に分けられる。短期施策は、小回りの聞く地方自治体が主体となってエッセンシャルワーカーに一時的に補助金を上げるというものだ。長期施策は、中央政府が全国一律で賃上げを行うというものだ。以上2つを並行して行うことにより、次第にエッセンシャルワーカー不足が解消されることが予想される。
参考文献
Last Update: 2023/03/09
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