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関根 恵
【Sekine Kei 】2004年、早稲田大学社会科学部入学。
社会科学部の特徴といえる、二年生から始まるゼミ選び。悩み抜いた末、政策科学研究ゼミに加わる。
現在、上沼教授のご指導の下、ゼミ19期生として研究中。2008年卒業予定。
研究テーマは「不妊治療の保険適用化について」。
◊ 研究テーマ |
今、世界中で体外受精により誕生する子供は、なんと100人に1人。不妊症に苦しむ人は年々増加し、日本の不妊症患者数は46万人にもなる。肉体的精神的にも、負担の多い不妊症患者。せめて経済的負担を軽くしてほしい、そう願う患者は多くいる。保険適用化を求める声も少なくない。助成金制度に対する不満の声もある。
そんな現実の中、不妊治療支援はこれからどのような方向に進んでゆくのが良いのだろう。それを見極めようと思う。
◊ 序章 研究動機 |
『100人に1人が体外受精によって誕生している』
このことに衝撃を受けたのが、今の研究テーマを設定した一番の理由です。当時私は、生殖補助医療がそこまで身近なものだとは思っていませんでした。少子化問題に興味を持ち、たまたま目にとまったのが「不妊治療の助成金制度」に関する新聞記事。 そのとき初めて、不妊治療が保険適用外だということを知ったのです。
少子化が騒がれている今、なぜ保険適用化にしないのか。 子供を欲しがっている夫婦を支援すべきではないか…、そのような疑問が募っていきました。 当時詳しいことを知らなかった私は「患者さんは皆、保険適用化を望み、一刻も早く制度が整うことを願っているはずだ」と、そう思っていました。そして、保険適用化を後押しするような研究論文を書きたいと思ったのです。
私はまだ学生です。いつか私も結婚して、子供が欲しいと思っています。今は想像でしかありませんが、もし、私が不妊症に悩み、なかなか子供を授からないという状況になったとしたら、どれだけ苦しいだろう…、そう考えます。 夫にも両親にも、ただただ申し訳なく、いつも小さくなって、自分の心も体もぼろぼろになりながら、愛しい子供が産まれる日を待ち望む。そんな境遇を考えるだけで、辛い気持ちになります。 病名やさまざまな原因によって状況は変わってくるとは思いますが、おそらく、不妊症患者さんに共通しているのは「心も、体も、そしてお金も、すべてにおいて負担が大きい」ということでしょう。
苦しい状況の中にいる患者さんが、ほんの少しでも笑顔になってくれるよう、私はこの研究を進めていきたいです。社会科学部の特性を生かし、物事を多面的に捉える視点を持ち、何より患者さんの気持ちを少しでも理解できるように、自己本位でない研究を心がけたいと思います。
これから先、不妊治療の問題がよい方向へと向かうことを願っています。
◊ 第二章 不妊治療の現状と問題点 |
平成17年度版国民生活白書によると、不妊に悩むカップルは年々増加傾向にあります。実際、不妊治療を受けている人は、1999年に28万4800人でしたが、2003年には推計46万69000人と、この4年間でその数は1.6倍にも膨らんでいます。現在10組に1組といわれる不妊症ですが、晩婚化が進む中、不妊症に悩む夫婦はますます増えることが予想されます。
日本産婦人科学会の用語委員会では、不妊の定義を『生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間性生活を行っているにもかかわらず、妊娠の成立をみない状態』としています。この定義にある「一定期間」については、1年から3年までの論説があり、国によりさまざまです。アメリカ生殖医学会ではその期間を1年とし、世界保健機関(WHO)や国際産科婦人科連合(FIGO)では2年としています。日本においては、2年以上経過しても妊娠が成立しない夫婦を不妊症と診断するのが一般的です。通常、避妊せず普通に性生活を営めば、2〜3年で90%が妊娠するというデータをもとにすれば、日本の2年以上という期間は妥当かと思われます。
また、世間では不妊症といえば女性の病気と思われがちですが、不妊症は女性の病気ではありません。不妊の原因は、排卵がない、卵管が詰まっている、子宮の形が異常である、精子の数が少ないまたは動きが悪い、子宮の入り口の粘液が精子と適合しない、子宮内膜症、原因不明など様々で、その原因の割合をみてみると、なんと男性と女性で同じ割合なのです。
さて、この章では、不妊治療の現状と問題点についてです。不妊の種類や費用だけでなく、それに関わる制度についても述べたいと思います。
1、不妊治療の種類
現在、日本で行われている不妊治療には、保険適用されているものと保険適用外のものがあります。
卵巣機能不全による無排卵などの排卵障害や、排卵を抑えるホルモンの血中濃度が高くなる高プロラクチン血症、子宮や卵管、精管の異常などは「疾患」として扱われ、検査、投薬、注射、手術などの際に保険が適用されます。
一方、保険適用外の治療は、大きく分けて3つあります。人工授精、体外受精、代理懐胎です。このうち、代理母や借り腹といった代理懐胎や、配偶者間以外の体外受精は、今のところ日本では行われていません。
日本において、一般的に不妊治療と呼ばれている主なものは「人工授精」「体外受精(体外受精-胚移植)」「顕微授精」の3つです。これらはすべて保険適用外ですが、平成16年度より国の特定不妊治療費助成事業のもと、この3つのうち「体外受精」と「顕微授精」について、治療費の一部に助成金が支給されることになりました。この助成事業に関しては、この章の第4項で詳しく述べたいと思います。
■ 一般的な不妊治療・・・保険適用されている
○ 排卵誘発剤などの薬物療法
○ 卵管疎通障害に対する卵管通気法、卵管形成術
○ 精管機能障害に対する精管形成術
※ これらの治療は、疾病に対する有効性、安全性等が確立した治療であると認められているため、保険適用とされている。
■ 生殖補助医療・・・保険適用されていない
1、人工授精
精液を注入器を用いて直接子宮膣に注入し、妊娠を図る方法。乏精子症、無精子症、精子無力症などの夫側の精液の異常、性交障害等の場合に用いられる。
精子提供者の種類によって、以下のように分類される。
● 配偶子間人工授精 (AIH:Artificial insemination with husband's semen)
● 非配偶者間人工授精(AID:Artificial insemination with donor semen)
2、体外受精・・・特定不妊治療費助成事業の対象となり、助成金支給
体外受精には次のような方法があり、日本では配偶者間においてのみ行われている。
● IVF-ET(体外受精−胚移植)
人為的に卵巣から取り出した卵子を培養器の中で精子と受精させて培養し、子宮内に戻して(胚移殖)妊娠を期待する方法。
● GIFT(配偶子卵管内移植)
培養器内で精子卵子を混ぜ合わせ、受精前に女性の卵管に戻す。受精は自然の場合と同じく卵管内で起こる。
● ICSI(顕微授精、卵細胞質内精子注入法)
顕微鏡下において精子を直接卵子に注入して授精させる。
3、代理懐胎
● 代理母
夫婦のうち、妻が卵巣と子宮を摘出したこと等により、妻の卵子が使用できずかつ、妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の子宮に医学的な方法で注入し、妊娠・出産してもらい、その子どもを依頼者夫婦の子どもにすること。
● 借り腹
夫婦のうち、夫の精子と妻の卵子が使用できるが、子宮を摘出したこと等により、妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精してできた受精卵を妻以外の女性の子宮に入れて、妊娠・出産してもらい、その子どもを依頼者夫婦の子どもにすること。
2、不妊治療の患者数
@ 不妊治療患者数(全体)・・・466,900人(推計)
A 人工授精・・・66,000人(推計)
B 体外受精・・・48,944人(実数)
C 顕微授精・・・29,582人(実数)
※ @、Aは平成14年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究「生殖補助医療技術に対する国民の意識に関する研究」(主任研究者:山縣然太郎)において推計された調査時点における患者数。■ 体外受精・顕微授精の患者数の推移
※ B、Cは平成16年の1年間に治療が実施され、日本産婦人科学会に登録施設から報告された実数。
※ 日本産婦人科学会 倫理委員会登録・調査小委員会報告より
不妊症患者数は、上記のとおり平成14年当時で、約46万7千人にもなります。右肩上がりのグラフから予想すると、平成20年現在の患者数は、当時より一層増えていると考えられます。
3、不妊治療の費用
■ 生殖補助医療(保険適用外)の1回あたりの平均治療費
@ 人工授精・・・1回あたり平均治療費 1万円
A 体外受精・・・1回あたり平均治療費 30万円
B 顕微授精・・・1回あたり平均治療費 40万円
上に挙げたのは、治療一回あたりの平均費用です。たった1回でも数十万というお金がかかるのです。そしてまた、保険適用外の不妊治療費は、自由診療であるため価格も請求費用も医療施設によりまちまちです。1999年、日本産婦人科学会の社会保険学術委員会は学会に登録している施設を対象に、治療費についての調査を実施しました。それによれば、人工授精の技術料は、5,000円以下が全登録施設の31%、5,001円から10,000円が38%、10,001円から15,000円が17%、15,001円異常が12%となっていました。このように、人工授精の費用だけをみても、施設により値段が3倍も違ってくるのです。これは人工授精だけでなく、さらに高額な体外受精、顕微授精についても、同じことがいえます。
また、治療の成功率が高くないため、1回で成功するケースはごくまれであり、多い人だと20回以上も体外受精を受けています。つまり、1回では数十万円でも、治療回数を重ねるごとに費用がかさむということです。以下のデータは、不妊当事者が中心となって活動しているフィンレージの会の会員を対象として行われた、治療費の総額に関するアンケート結果です。
■ 不妊の検査・治療費の総額 n=798(人)
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※ 厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)より
上記のデータにおける回答者の平均年齢は35.1歳で、家庭の年間収入も700万前後であり、日本の平均的な世帯です。 回答者が不妊の検査や治療のために関わった医療機関の数は通算平均2.8施設、通院期間は4.6ヶ月。この期間にかかった検査・治療費の総額は、100万円以下の人が全体の58.3%で半数を超え、100〜200万円が21.7%、200〜300万円以上が8.1%でした。今後治療を継続していけば、さらに費用がかかることが予想されますが、回答者の約7割はすでに治療を休止しています。
一方、日本の統計局の調査では、平成10年、勤労世帯での保険医療費は世帯あたり年間10,585円。これを先ほどの回答者の通院期間約5年間に換算すると、53,000円程度。この金額と比較すると、不妊患者さんの家庭における保険医療費が、いかに家計を圧迫しているかがわかります。
また、このデータにおいて、回答者のうち5人に1人が、200万円以上を治療に費やしています。しかも、500万円というかなり高額な費用を治療にあてている人が、798人中18人もいるということは決して看過できません。
これらの高額な費用を捻出するために、患者さんたちは、毎月の生活費はもちろん、ボーナスや貯金を使ったり、新たに仕事を始めたりしているのです。さらに、所帯も持ってもなお「自分の親から」や「相手の親から」負担してもらっている例も数多くあり(回答者812人中73人)、いかに不妊治療費の負担が困難であるかがわかります。
4、特定不妊治療費助成事業について
特定不妊治療費助成事業は、体外受精と顕微授精の治療費の一部を「年間10万円、通算2年」助成するものとして、2004年にスタートしました。助成は国と自治体が折半して負担し、厚労省では5万人分の治療費約25億円を予算計上して、少子化対策の一環として導入しました。子どもが欲しいと望んでいるにもかかわらず子どもに恵まれず、不妊に悩み、実際に不妊治療を受ける夫婦に対し、経済的負担を軽減しようというのが、この制度の目的です。
2006年には支給期間が「通算5年」に延長され、さらに昨年2007年には給付額が「1回上限10万円が年2回まで」に上がりました。また同年に所得制限も緩和され、前年の所得が夫婦合算で730万円未満の世帯が対象となり、2004年にスタートしてから現在まで、より充実した制度化が進んでいます。
■ 対象となる治療 対象となる治療は、体外受精及び顕微授精(以下「特定不妊治療」という。)のみ。
夫婦以外の第三者から提供を受けた精子・卵子・胚による不妊治療や、代理母、借り腹によるものは対象とならない。■ 対象者
体外受精及び顕微授精以外の治療法によっては妊娠の見込みがないか、または極めて少ないと医師に診断された、法律上の婚姻をしている夫婦
■ 給付額1年度あたり 上限額10万円→ 平成19年度より1回上限10万円、年2回まで
■ 支給期間通算5年
■ 所得制限夫婦合算 650万円 → 平成19年度より730万円(いずれも税控除後)
■ 実施主体都道府県・指定都市・中核市(指定都市・中核市に住む人は、その市から助成が受けられる。指定都市・中核市以外の市町村に住む人は、居住する都道府県から助成が受けられる。)
■ 医療機関事業実施主体が指定した医療機関
国が行っている助成事業の概要は、上記のとおりです。これに加え、各自治体では、独自に助成事業を行っています。つまり、患者さんは、都道府県の助成金プラス市町村の助成金をもらえることになります。
助成金制度は、2004年にスタートしてから現在に至るまで、充実しつつありますが、まだまだ問題が山積しています。その問題点は、大きく4つあります。@自治体によって条件が異なるということ、A制度の認知度が低く、十分に宣伝されていないこと、B申請手続きが面倒であること、C自治体の規模が小さい場合、役所職員に知り合いがおり、不妊を知られることを懸念し、申請しづらいこと、の4つです。
@自治体によって条件が異なる点について詳しく述べると、1)自治体への居住年数が助成金の給付条件に含まれる場合、転勤の多い夫婦は該当から外される。(例:東京都品川区、神奈川県厚木市、神奈川県藤沢市、埼玉県横瀬町、栃木県那須塩原市、群馬県沼田市など多数)2)婚姻期間については、法的な婚姻の期間が条件のため、事実婚の期間が長い夫婦は、制度の対象外となる。さらに婚姻年齢が高いために、結婚してすぐに治療を希望しても、対象外となる。(例:岡山県真庭市など)3)対象者を「子どものいない夫婦」に限定した場合、2子以降の子どもを望み不妊治療を受ける人は対象外となる。(例:岡山県新見市など)といった問題があり、自治体の条件により、様々な問題があるのです。
自治体の差があるといっても、具体的にどの程度差があるのか、愛知県東海市、島根県松江市、岡山県真庭市の3自治体を例にとって見てみることにします。まず、愛知県東海市では助成金の治療対象の範囲が広く、体外受精・顕微授精には、医療費のうち自費として負担した額から10万円を控除した額を上限10万円まで補助し、それ以外の人工授精や不妊検査などの一般不妊治療は、治療費の全額を補助という大きな不妊治療支援をおこなっています。それに対し、島根県の松江市では、保険適用の一般不妊治療(診断のための検査等治療の一環として実施される検査を含む)及び人工授精に限って、上限3万円を補助しています。また、岡山県真庭市では、保険適用外の治療のみに限り上限10万円の助成金を給付しています。この真庭市では、対象者の条件が厳しく、申請日において、いずれか一方または両者が真庭市に2年以上住所を有し、かつ結婚後2年以上経過して子どものいない夫婦という要件を設けています。
このように、各自治体によって、これほどの差があるのです。
愛知県東海市 島根県松江市 岡山県真庭市 体外受精
顕微授精1回10万円限度
(年間2回まで)補助金なし 年間10万円限度 人工授精 全額補助 年間3万円限度 一般不妊治療 補助金なし 居住期間要件 なし なし 真庭市に2年以上居住 婚姻期間要件 なし なし 結婚後2年以上経過 子どもの有無 なし なし 子どものいない夫婦に限定
とはいえ、この自治体の差は、埋めるべきなのかという疑問もあります。この差は、各自治体の特色であり、地域に住民を集めるための、ひとつの“売り”です。居住地を決める際、もちろん地域の自然環境や、交通の利便性、治安の良さなどで決めますが、それだけではありません。その自治体独自の市民政策も重要な要因になってきます。その意味で、不妊治療の助成金制度に差があることも、各自治体の“売り”と考えられるのではないでしょうか。つまり、子供の医療費補助などで各自治体ごとに差があることと同様に、助成金制度にも自治体の特色を出してよいのかもしれません。
5、不妊治療に関する情報量の変化
従来、不妊そのものは公に口外するものではありませんでした。そのためか、不妊治療に関する情報は少なく、知り合いを通じて口コミで情報を得ることしかできませんでした。情報収集手段が極端に少なかったのです。
しかし今日、不妊に関する情報は、テレビ、雑誌、広告看板、インターネットなどにより容易に入手可能であり、溢れている状況といえるでしょう。インターネットにおける不妊関連用語のヒット件数も近年、急速に増えています。
人気ポータルサイトのyahoo!で、「体外受精 施設」の2語による検索を行ったところ、過去2003年10月時点で5820件だったものが、2007年10月には約220,000件、さらにその3ヵ月後の2008年1月現在では、159,000件増えてヒット数約379,000件になりました。
● インターネットのヒット件数( yahoo!調べ )
「体外受精」「施設」の2語による検索結果
2003年10月時点 5,820件
2007年10月時点 約220,000件
2008年 1月現在 約379,000件
このように、近年IT化が進み、情報量が急速に増えている中、不妊に関する情報を得やすくなったというメリットがありますが、一方、この情報化による弊害も生まれています。それは、情報の信憑性が危ういということです。
現在、日本全国で600余りの高度生殖医療施設があると言われています。その中で約550の施設が、日々、不妊治療を行っています。しかし、こうした多くの施設の中から、自分にあった医療施設を選ぶのは難しいです。なぜなら不妊治療施設は、その技術、費用、ロケーション(アクセス)、サポート体制、医師との相性など、様々な条件に優先順位をつけて、自分の価値基準と照らし合わせていかなければいけないからです。
その選択の際に使う情報源は、本であったり、友人や知人のクチコミであったり、テレビやラジオであったりするわけですが、中でも現在、最も活用されており、情報量が多いのはWEBサイトでしょう。それは、先ほどのヒット件数の多さからも想定できます。それだけ情報を見る需要が高いのです。WEBサイトには、不妊関連の情報サイトからクリニックが運営しているサイトまでその種類は様々です。しかし、そこに載っている情報を全て信じることは危険であると考えられています。特に、通院しようと決める際、その決め手になる医療施設の「妊娠率」については注意が必要です。
以前、高い妊娠率を売りにしているクリニックに通う患者さんが「全然妊娠しないのはおかしい」と思い、ネットで「私は全然妊娠しないのですけど、皆さんはいかがですか?」と問いかけたところ、私も私も…という人が続出し、そのクリニックの掲示板が炎上したというケースもあります。
つまり、WEBサイトは情報量が多く、利便性に優れているというメリットだけで利用するのは、危険だということです。情報を利用する際には、正しい情報かどうか判断することが必要不可欠になるでしょう。今後、WEBサイトに掲載する情報が、信憑性のある情報か否か審査される時代がやってくると考えられます。
実際、平成13年度厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)の「インターネットを活用した医療施設情報の提供と利用の促進及び安全な医療情報流通促進のための個人情報の取り扱いに関する調査研究」が実施され、WEBサイトの信憑性について述べています。
その研究の結果では、情報内容の信頼性のひとつの基準として、情報提供者の立場による信頼性については、「実在する医療機関が提供する情報である」、「公的な機関が提供する情報である」、「医師または医師団体が提供する情報である」、「患者(団体)が提供する情報である」の順で、信頼性が高いことが示されています。また、情報の信頼性を損ねる要因については、「誰が情報提供者かよくわからない」「情報が一方的で偏っている」、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」、「情報の作成日が古い」、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」、「営利企業が提供している」、「情報に科学性、客観性がない」、「専門家の監修を経ていない」、「情報の作成日が不明である」などがあげられました。これらはいずれも、一般的に情報の確実性、信頼性を裏付ける重要な指標であると考えられることから、こうした情報の信頼性を損ねる要因を個別に取り除いていくことにより、インターネット上で医療(健康)情報を提供していく際の信頼性の向上につなげられるものと期待されると、この研究では結論づけられています。
将来的には、今よりもWEBサイトの情報は信頼性を増し、より一層安全で使いやすいものになると考えられます。その意味で、不妊症患者さんにとってもより良い環境が整うでしょう。ただ、今よりも情報の信憑性が高くなるとはいえ、いつの時代も、情報を見極める確かな判断力は欠かせないものかもしれません。
◊ 第三章 不妊治療の保険適用をめぐる声 |
子どもができないという精神的な負担を抱えながら、高額な費用のために、経済的にも大きな負担を負っている患者さんたちは、不妊治療の保険適用化に対してどのような考えを持っているのでしょうか。また、現在行われている特定不妊治療費助成事業に対する考えはどうでしょうか。この章では、患者さんの声に注目したいと思います。
2005年5月、NPO法人のFineがインターネットを用いて、不妊治療に関するアンケートを実施しました。このアンケートを参考にする上で、まずはこの実施団体であるFineの紹介をしたいと思います。
■ NPO法人 Fine ![]()
Fine(=Fertility Information Network)
不妊体験をもつ当事者によるセルフ・サポートグループ。
【会員数】 約600名(2007年7月現在)
不妊治療患者が正しい情報に基づき、自分自身で納得して選択した治療を安心して受けられる環境を整えること等を目的として、 主にインターネットを通して情報を提供し、不妊当事者同士、また当事者とその周囲の方々のネットワークを構築するべく活動している。 さらに、公的機関への働きかけ等を行うことによって不妊に関する啓発活動、意識変革活動も行っている。
過去には、「GnRHアンタゴニスト発売承認の要望書」や「遺伝子組換え卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤の排卵誘発への効能追加および保険適用の要望書」を厚生労働省に提出し、両要望書とも、提出から1年前後という早期承認を成果を挙げている。
【 Fineの使命 】
1) 不妊治療患者の支援
・情報提供
・精神的サポート
・仲間づくり
2) 不妊(治療)の啓発活動
3) 患者と医療機関や公的機関の橋渡し
4) 患者の意識と知識向上
5) 治療環境の向上
→ 詳しくはホームページをご覧ください。 ◆ NPO法人 Fine homepage
この団体が行った「不妊治療環境向上アンケート」の中からその一部についてご紹介します。
●アンケート実施時期:2005年5月
●アンケート回答者数:246人
・25歳以下 3人 (1%)
・26歳〜30歳 49人(20%)
・31歳〜35歳 89人(37%)
・36歳〜40歳 71人(29%)
・41歳〜45歳 27人(11%)
・46歳以上 1人 (0.4%)
・その他(無回答)6人 (2.5%)
※ 30代が全体の約66%を占めている。
●回答者における不妊治療の有無について
・「現在も治療中」 183人(74.4%)
・「現在休憩中」 28人 (11.4%)
・「以前治療していた」33人 (13.4%)
・「したことがない」 2人 (0.8%)
※ ほぼ全員が治療を経験しているため、患者の切実な声が反映されている。
以下は、Fineによるアンケート結果の一部です。
1、不妊治療に保険を適応して欲しいと思うか?
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※ 約9割の人が保険適用を願っている
■ 保険適用化に条件付で賛成
・IVF(体外受精)が絶対に必要な人だけ(卵管閉塞等)の保険適用でいいのではないかと思う。誰も彼もとなると、自然妊娠が可能な人まで、1年ぐらいで焦って治療を始めるのではないかと思う。
・注射代や薬代、エコー代、検査代のみ保険を適用させてほしい。■ 保険適用化には反対
・保険が適用されることによって、「授からなければ治療するのが当たり前」というような風潮になってしまうのが怖い。
・保険適用になることで、技術力の低下が心配。(現在、治療費が高い施設は、技術もそれなりに高い。
・保険適用になることで、治療=妊娠(できる)と思われることが怖い。
この結果からわかることは、すべての患者さんが保険適用を望んでいるわけではないということです。私は、この結果に驚きました。研究動機にも書いたとおり、患者さんは一刻も早く保険適用になることを望んでいるのだとばかり思っていました。ですが、保険適用化に賛成といえども条件付きであったり、保険適用化に反対の人もいるのです。保険適用化による弊害を心配する声も多数あり、そのようなことを考慮すると、患者さんの側から見て、保険適用化が一番良い道だとは考えにくいということがわかります。
2、経済的理由により治療を中断した、またはしたいと思ったことがある?
※ 約6割の人が経済的理由により、子供を諦めた。お金が続かなくて治療をやめる人が大勢いる!
■ 回答者の意見
・少子化政策というのなら、産みたい人たちを助けてくれる政策も作って欲しい!
・お金がないからこれ以上治療を続けられない。
・次の治療の費用がたまるまで、治療を休憩しています。
・今は、人工授精ですが、体外受精となるとお金がかかるので、治療を受けられません。
3、特定不妊治療助成金制度についてどう思いますか?
※ 約8割の人が不満を感じている。
■ 「不満」と答えた人の意見
・治療内容、指定病院などの制限があり、助成金の金額も、経済的負担を考えるともっと高いほうがありがたい。
・治療にお金がかかるので仕事が辞められないでいるのに、年収が夫婦2人合わせると対象金額を上回ってしまうので、助成が受けられない。
・地域差が不公平。デリケートな治療内容に対してプライバシー問題への配慮の薄さなど、とても使いにくい制度。
4、不妊治療目的の治療、検査に保険が適用されるとしたら?