第3章 他の地域の文化産業



【1】なぜアニメなのか?〜箱モノ行政の限界、そして住民参加へ〜

ここで、なぜ練馬区においての街づくりが「アニメ」を中心とするのかが問題となる。
また、そもそもアニメと地域振興はそこまで関係あるのかとかいった疑問にあたるかもしれない。
まず、東京都23区に限らず、どの自治体においても、財政的に困難な状況があり、余裕のある行政活動が行えないことが前提となっているという現状がある。
これは練馬区においても例外ではなく、もはや従来のやり方では産業振興や都市再生を推し進めていくことが難しくなってきているといえる。
そのため、いかに行政が多額の資金を出すことなく、多くの市民に認知され、多くの市民が参加できる事業を進めていけるかが重要だといえる。
また、箱モノ行政においては、市民はただ施設などの完成を待つだけの存在であった。しかし、文化イベントなどにおいては、自ら参加する市民が出てくること も期待できる。

【2】アニメによるまちおこしの例

アニメ制作による地域活性化の事例として、以下の3つの地域のアニメ政策を取り上げる。

@「ゲゲゲの鬼太郎」水木しげるロード(鳥取県 境港市)
A「らき☆すた」(埼玉県 久喜市)
B「サマーウォーズ」(長野県 上田市)

@水木しげるロード 「ゲゲゲの鬼太郎」(鳥取県 境港市)


【水木しげるロード:境港市HP出典】© 水木プロ


アニメによるまちおこしとしてまっさきに上がる成功例といわれるのが、鳥取県境港市の水木しげるロードだ。
800メートルの商店街沿いに139体の妖怪の像が立ち並ぶ。
1980年ころをピークに、ほかの多くの商店街と同じく、境港市も衰退し始めた。
こうした中、1989年から商店街活性化策の一つとして行われた。
いまではスタンプラリー参加者が300万人を突破し、経済効果およそ120億円といわれる。
この特徴としては、地元行政や民間企業によって関連施設の整備やコンテンツの積極的な活用が行われた点があげられる。
これは、JRの鬼太郎列車などを例にあげられる。
また20年間におよぶ継続的なイベントや、地域住民の参加など、アニメツーリズムのモデルとなりうるものとなった。


A鷲宮神社 「らき☆すた」(埼玉県 久喜市)


【鷲宮神社 wikipedia:鷲宮神社ページ出典】


【「らき☆すた」 絵柄の記念乗車券券面イメージ(東武鉄道発売)鷲宮街商工会HP出典】
© 美水かがみ/角川書店 © 美水かがみ/らっきー☆ぱらだいす

一方で、埼玉県の鷲宮での事例は、ゲゲゲの鬼太郎ほどメジャーではない作品の成功例といえる。
「らきすた」という作品の舞台となった鷲宮神社から、地域の活性化につながった。
この事例では、ファンと地域社会が一緒になって盛り上げた点が画期的であった。
マスコミの報道もあり、知名度は上昇し、3年間で鷲宮神社の参拝客は約5倍になった。
アニメファンが地域のファンとなり、そして地域とファンが一体となりうることを広く示した事例となった。

B上田 「サマーウォーズ」長野県上田市


【信州上田こいこいマップ:上田観光コンベンション協会HP出典】
©


【サマーウォーズ聖地巡礼ノート:上田観光コンベンション協会HP出典】

「サマーウォーズ」というアニメ映画のロケ地になった長野県上田市では、地域側も一緒に映画のプロモーション活動に加わった。
また、映画の公開後も、映画に登場する地を示した地図(信州上田こいこいマップ)の作成や、ロケ地をめぐるファンのための記帳ノート(サマーウォーズ聖地巡礼ノート)の作成など、 地域の観光事業の一環として取り組んでいる。
さらに、市民の有志による「リアルサマーウォーズ」というイベントが行われた。

これらの事例では、アニメのコンテンツも、ほかの観光コンテンツと同様、地域に大きな経済効果を及ぼしうることが示された。


【3】豊島区の事例

@豊島区の概要

【豊島区地図:豊島区HP出典】

以下、豊島区HPより引用

【位置】  豊島区は東京23区の西北部に位置し、東は文京区、南は新宿区、西は中野区・練馬区、北は板橋区・北区に隣接しています。区の中央部は、東経139度43分、北緯35度44分にあたっています。
【地勢】  東西に6,720メートル、南北に3,660メートルと「鳥が羽を広げたかたち」をしており、東京湾の平均海面を水準として、高地が36メートル、低地が8メートルとおおむね台地状をなしています。
【面積】 面積は13.01平方キロメートルで、23区中18番目の広さです。  これは、東京都総面積の0.595%、区部面積の2.1%にあたります。

また、豊島区は池袋を中心として、それぞれ駅ごとに異なる特徴を持つ地域がある。
豊島区では、ぞの地域の特徴に対応した政策を行っている。

土地利用区分を立地条件や集積している機能などを考えて類型に区分し、それぞれに対応した地区レベルでまちづくりを進めていきます。
住宅地 ・ 商業業務地・都市型混在地の3つの類型に区分します。
さらに、商業業務地は以下の3つに分類できます。
(ア)副都心商業業務地
  池袋駅周辺、サンシャインシティ及びその周辺で、広域的な商業・業務機能と副都心機能の拡充をはかる区域
(イ)地域中心商業業務地
  目白、大塚、巣鴨、駒込の駅周辺で、商業・業務機能等の充実をはかる区域
(ウ)地区中心商業地
  私鉄及び地下鉄の駅周辺で、住民の日常生活を支える商業・地域サービス機能の充実をはかる区域


A東京都で初めて、「文化芸術創造都市」に

豊島区以外では、神奈川県横浜市、北海道札幌市、沖縄県沖縄市、石川県金沢市などが、文化芸術創造都市に指定されている。
歴史ある都市と豊島区が並ぶ 違和感覚えるかもしれないが、これは豊島区の今までの取り組みに対しての表彰であった。
つまり、豊島区の「文化によるまちづくり」への取り組みが、文化芸術の持つ創造性を生かした自治体の産業振興や都市再生の取り組みとして認められた。

文化政策を打ち出した平成11年当時は、豊島区は東京都23区の中でワーストの財政難だった。
借金が当時予算の約88パーセント。自由に使えるお金は、当時の住民一人当たり年間たったの6千円だった。

少子高齢化の時代で、経済全体の規模が縮小さえする中でいかにまちづくりをしていくのか。これは、従来の箱モノ行政からの転換が必要だという発想につながった。
また、従来の箱モノ行政では、出来上がるのを待っているだけの立場だった住民も参加できるまちづくりであった。
そのため、豊島区の中心である池袋地域に文化的要素を根付かせたい、という考えとも結びつく「文化によるまちづくり」ならば、
財政再建が必要とされる豊島区の目標と矛盾せずに実現できるまちづくりの方法だと考えられた。

B豊島区の文化政策の歩み

(1)わずかな予算でできることから

厳しい財政状況から、豊島区ではお金で解決するといった安易な発想では解決することができなくなっていた。
そこで、今ここにあるものを利用して、既存の環境と設備で「人に何ができるか」「いかに楽しめるか」を考えることが重要となった。
実際に、豊島区の文化事業において、行政が多額の投資をしたプロジェクトは、「あうるすぽっと」と「新中央図書館」という事業だけ。
残りの事業は、廃校の跡地とその校舎を利用したり、もともと公園や道路を利用して区民が自主的に行うもの、また、民間の企業や公共の建物の展示スペースを利用するなど、民間主導の事業。公園や道路などオープンな場所を活用し、区民の力を借りてイベントを行った。

(2)都会ならではのまちづくり 「ゆるい」つながりの形成

豊島区のような都会においての街づくりは、地方においての場合とは住民の意識が異なることが多い。
自分にとっての地元という意識が弱かったり、その地域の人と人のつながりが弱かったりするために、地域とのつながりが薄い場合が多い。
しかし、こうした都会において、興味の向くイベントに参加してくれる住民たちこそが街づくりに必要だともいえる。
そこで、町内会などのつながりではなく、もっとゆるい形でつながることができる、新しい形の地域のイベントとして、文化イベントがその役割を果たしたといえる。

(@)音楽祭
「おおつか音楽祭」や、「目白バロック音楽祭」といったもので、地域のホールでのコンサートや立教大学でのコンサートが、個人の手によって4回も企画運営され、住民に圧倒的な支持をもって歓迎された。

(A)演劇祭
廃校となった中学校の敷地と校舎をそのまま利用して文化イベントの拠点としたもの。
財政難に苦しむ豊島区においては、逆に、これだけの都市部において学校用地のようなまとまった土地を生かせるというのはとても大きなチャンスであった。
こうしてスタートした「フェスティバルトーキョー」という演劇祭は、区民や芸術団体と行政が連携を図るという目標を実現するものとなった。
また、教室や工程の一部を畑にして、子供たちのワークショップや地域住民との交流事業も行われ、都内の廃校利用の先駆的なモデルともなった。

(B)あうるすぽっとと、新中央図書館は、前述の通り行政が投資をした例外的な事業。
これは図書館と劇場が一つの建物の上下にある珍しいケースで、連携活動により相乗効果を上げた。
中央図書館は夜遅くまでの開館や便利な場所にあることから大勢の利用客でにぎわった。
あうるすぽっとは、劇場事態の設備と立地に恵まれて、すぐに都内有数の人気劇場となった。


【あうるすぽっとのロゴマーク:著者撮影】


【あうるすぽっと入口:著者撮影】


【あうるすぽっと2階 劇場:豊島区立舞台芸術交流センターあうるすぽっとHP出典】



【豊島区立 新中央図書館利用者数推移:豊島区HPデータより著者作成】

新中央図書館は、あうるすぽっとと同じ建物の4・5階に位置する。
IT化の拡大の目的で自動検索機やパソコンを増加するなど、新たな試みが図られた。
また、東池袋というアクセスのよい立地でもあり、利用客は年々増加している。


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